回復する人間 の商品レビュー
訳者解説によると、傷と回復をテーマにした短編集。ハン・ガンの邦訳のなかでも、著者の考えていることが理解しやすいほうだと思う。希望の見える明るいものもあり、希望の見えない暗いものもある。しかし、これだけは言えるのは、ハン・ガンのかんがえる回復は、元どおりの健康な状態に戻ることではな...
訳者解説によると、傷と回復をテーマにした短編集。ハン・ガンの邦訳のなかでも、著者の考えていることが理解しやすいほうだと思う。希望の見える明るいものもあり、希望の見えない暗いものもある。しかし、これだけは言えるのは、ハン・ガンのかんがえる回復は、元どおりの健康な状態に戻ることではなく、元には戻れないけれど、以前とは異なる感受性を受け入れながら、自殺せずになんとか生きていくことだ。うわべだけの幸福を生きるよりも痛い真実を受け入れることのほうが貴いのだ。いちばん長い最後の「火とがけ」がすばらしかった。
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4冊目のハン・ガン。繊細な心の持ち主だなあ。「生きる」ことを、その内面をとても大事にしているのに感化される。写真で見る通りのやさしい人なのだと思う。
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特に「火とかげ」が印象に残った。私も去年は茶碗を持つのもきついくらい両手が痛くて使えなかったから投影して読んでしまった(ハンガンさんもこれを執筆していたころ手が痛くてタイピングが出来なかったらしい)。画家の主人公は、事故で手に痛みが残り絵も描けなくなるし夫との関係もうまくいかなく...
特に「火とかげ」が印象に残った。私も去年は茶碗を持つのもきついくらい両手が痛くて使えなかったから投影して読んでしまった(ハンガンさんもこれを執筆していたころ手が痛くてタイピングが出来なかったらしい)。画家の主人公は、事故で手に痛みが残り絵も描けなくなるし夫との関係もうまくいかなくなる。そんな彼女を支えてくれるものは、昔登山をした時偶然あった男性との記憶とQという画家の絵。記憶だけで残る男性と友人ソジンが繋がって、ソジンの子供が飼ってる前足を切断したトカゲからまた足が再生されていく描写で主人公に細い光が差し込みだすのがわかる。 トカゲの手が再生するように、最後、主人公は以前と違う手法で絵を描いてみる。闇の中でもがき続けている時間も無駄ではない。それが新しい生を支えている。回復するということは新しい生を生きなおすことであると改めて感じた。
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回復する人間とフンザがよかった。次点で明るくなる前に。 想像をしすぎてどこにもないどこかになってしまった理想郷。理解し合えないことがだからといって愛していないことにはならない。 いまのところ彼女の作品の中でどれかひとつだけ読み返すならこの短編集。
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私にとって、なんとも言えないくらい、とても衝撃を受けた本でした。落ち着いた場所で、静かに読むべき本のように思いました。じっくりと読んでも1度では足りないようにも思いました。 自分の目の前でその情景を見ているような感じがしました。登場人物の心の中の細かい描写に吸い込まれそうな感じ...
私にとって、なんとも言えないくらい、とても衝撃を受けた本でした。落ち着いた場所で、静かに読むべき本のように思いました。じっくりと読んでも1度では足りないようにも思いました。 自分の目の前でその情景を見ているような感じがしました。登場人物の心の中の細かい描写に吸い込まれそうな感じを受けたときもありました。人の繊細な部分の表現の仕方が秀逸に思えました。身体の傷、心の傷、両方とも回復を願うだけではないときがあることを知りました。ハン・ガンさんがどういう思いでこの本を書いたのか、知りたいと思いました。(あとがきに訳者の説明がありました。) 今は、私よりもきちんとこの本を理解した方のレビューが読みたいと思っています。
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韓国語は会話文に括弧を使わないのかなと思っていたら、ごく稀に出てくる。どういう基準なんだろう。 「左手」がこの並びだとちょっと浮いてるし、なんか怖かった。それ以外は静謐で、ひたすら生きるとは、死ぬとはに向き合おうとしているような作品群。
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受賞後に読み始め、3冊目。 左手、が特に印象的だった。 自分が無意識に抑圧してきたことや 傷ついてきたこと それらを無かったことにしないで、自分の一部として大切にして良いのだと感じつつある。 影が深まることで、光がより明瞭に感じられて。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ハン・ガンの短編集。気になっていた白水社のエクス・リブリスシリーズを初購入。 訳者のあとがきにあるように、傷口が回復する前には痛むもの。人の心も同じで、様々な挫折、諦め、苦悩の果てに、回復の兆しが見えてくる。そんな作品が多い短編集だった。 相変わらず文体や情景が綺麗で、読んでいるだけで心が洗われた。以下、作品毎の感想。 ◎明るくなる前に ★おすすめ 弟を亡くした姉。自分がもっと気にかければと後悔し、以後、自身を罰するように生きる。“そんなふうに生きないで”。この祈りが刺さる。 ◎回復する人間 誰かの視点で語られる、決して分かりあうことのできなかった姉に先立たれた“あなた”の話。回復するためには痛みが伴う。心の声が、もう本当に切実で良い。 ◎エウロパ 女性になりたかった、でも心から愛する人は女性だった男の話。路地裏に響く歌の情景が良い。決して手の届かない女性をエウロパに例えることも綺麗。永遠には続かない関係だと予感させる終わり方も切ない。 ◎フンザ 自分の思い描く桃源郷に逃げながら、子育てと大黒柱を担う生きることに疲れた女性の話。少し暗い話。いつか破滅するか、破滅することを選ぶであろう終わり方か。 ◎青い石 ★おすすめ 友達の叔父に恋した女性の話。綺麗な恋愛小説。凄く映像化してほしい作品。 ◎左手 まさかの凄く暗い話。この短編集の中ではかなり異色作。勝手に動くようになった左手のせいで、守りたかったものも守れず自滅する男の話。夜、店でライトに照らされて影が壁に伸びる情景が本当に良い。 ◎火とかげ 事故の影響で両手が使えなくなってしまった画家の話。絵を描く事にしか生き甲斐がなく、両手がほとんど動かなくなったため生きているだけの屍となってしまい、夫とも不仲になってしまう。生き甲斐を失っても、そこからどうやって希望を見出すのか。この本のテーマである、喪失と回復が描かれた作品。
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痛みがあってこそ回復がある。大切な人の死や自らの病、家族との不和など、痛みを抱え絶望の淵でうずくまる人間が一筋の光を見出し、ふたたび静かに歩みだす姿を描く。 生きる上での痛みや傷は、抱えたまま共に生きることでしか前に進めないのかもしれない。絶望の中でもいつか小さな光に辿り着ける...
痛みがあってこそ回復がある。大切な人の死や自らの病、家族との不和など、痛みを抱え絶望の淵でうずくまる人間が一筋の光を見出し、ふたたび静かに歩みだす姿を描く。 生きる上での痛みや傷は、抱えたまま共に生きることでしか前に進めないのかもしれない。絶望の中でもいつか小さな光に辿り着ける人間は悲しく強いなと思う。
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人の死や、告げられた余命によって、周囲の人間は変化する。自分の生をありがたく思ったり、悩みがちっぽけに見えたり、本当に大切なものに気づいたり。また、生きることの生々しさを痛感して辛くなったり。 安全圏から『死』を見ることにより、自分の『生』が明確化される感覚があった。
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