回復する人間 の商品レビュー
韓国文学というのは恐れ多くも初めて手にとりました。 文章の詩情の豊かさや構成の巧みさに圧倒されあっという間に読んでしまいました。 小説ってとっても面白い。 何かを鎮められるような文体に読書中ずっと救われていたように思います。 特に印象に残ったのは最初と最後の作品「明るくな...
韓国文学というのは恐れ多くも初めて手にとりました。 文章の詩情の豊かさや構成の巧みさに圧倒されあっという間に読んでしまいました。 小説ってとっても面白い。 何かを鎮められるような文体に読書中ずっと救われていたように思います。 特に印象に残ったのは最初と最後の作品「明るくなる前に」と「火とかげ」でした。 なにかを失うという経験、とくに大きなものを自分は経験しているところがあるので、繰り返し描かれる傷を負った人間というものには心当たりが、覚えがあることを前提で読んでしまうので、それでも立ち上がったときの、もう元には戻れなさや絶望のなかから光を見出す切実さには胸を揺さぶられ、そのひとつひとつに愛おしさを感じます。 大なり小なり、さまざまな社会環境、条件下で人生を生きて、失ったり傷を負う経験は誰にでもあり、それをまるごと引き受けて生きる人生を愛おしく思いますが、渦中にいる人間にとっては、逃げ、もがき、回復する真っ最中、そんな生易しいものではなくひりひりし切実です。それをほんとうに豊かな詩情を湛え描き出しているところに素晴らしさが尽きるように感じていました。 それぞれの多様な人生があり、そして本書に出てくるような傷ついた人間たちが否応なく回復していく、この世にあるものの運命、生への希求、その絶望と希望に胸を揺さぶられました。
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短編集。「痛みがあってこそ回復がある」というテーマの通り、絶望的な状況にあった主人公が、さらに絶望的な出来事を通してやがて浮上に向かっていくという、人間のリアルな矛盾や不可思議さに焦点をあてた作品が多い。異色なのは「左手」という小説で、ストレスを抱え込んだ主人公の左手だけが本能の...
短編集。「痛みがあってこそ回復がある」というテーマの通り、絶望的な状況にあった主人公が、さらに絶望的な出来事を通してやがて浮上に向かっていくという、人間のリアルな矛盾や不可思議さに焦点をあてた作品が多い。異色なのは「左手」という小説で、ストレスを抱え込んだ主人公の左手だけが本能のままに行動しようとするという不条理劇みたいな感じで、日本の小説にもこういうのあったような。「フンザ」も良かった。行ったこともない場所に思いを馳せて自分の拠り所にしていくような心理にどこか共感できてしまう自分がいる。
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ハン・ガンの短編集。 彼女の小説は凄く痛い。 痛いけれど美しい。 もしくは、痛いから美しい。
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人間として存在する限り持たざるを得ない生の条件としての身体。「傷」はただ物質的な痛みを与えるだけではなく、登場人物たちの心の在り様にも大きく影響を与えるが、その苦しみや傷の中に彼らの実存が逆説的に浮かびあがってくる。特に最後に収録されている「火とかげ」は、様々な人生におけるモチー...
人間として存在する限り持たざるを得ない生の条件としての身体。「傷」はただ物質的な痛みを与えるだけではなく、登場人物たちの心の在り様にも大きく影響を与えるが、その苦しみや傷の中に彼らの実存が逆説的に浮かびあがってくる。特に最後に収録されている「火とかげ」は、様々な人生におけるモチーフたちの偶然の符合やその解釈、レミニッサンスを思わせる記憶と想起、身体に依拠しなければならない悲しい精神という現代的な問題系が多く見出せる濃縮された一編である。芸術という意志、意欲が人間を救いうるという祈りのような短編だった。
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