回復する人間 の商品レビュー
自分の語彙力の無さを露呈するようだが、まじでサイコー。 出逢えてよかった作家、作品。 ハン・ガンは3冊目。彼女の作品を読むことができる時代に生まれてよかった。 今作は、「痛みがあってこそ回復がある」がテーマの短編集。全7編とも、全部いい。 死のにおいを感じながらの生を感じる。集...
自分の語彙力の無さを露呈するようだが、まじでサイコー。 出逢えてよかった作家、作品。 ハン・ガンは3冊目。彼女の作品を読むことができる時代に生まれてよかった。 今作は、「痛みがあってこそ回復がある」がテーマの短編集。全7編とも、全部いい。 死のにおいを感じながらの生を感じる。集中して、静かな部屋で読むのがおすすめです。わたしは冬の夜、テントの中でランプの灯りで楽しみました。 明るくなる前に…かつての職場の同僚であったウニ姉さんは、弟の死をきっかけにバックパッカーになる。ウニ姉さんとの関係、自分の闘病、作家としての社会復帰をする矢先の出来事。 回復する人間…姉の葬儀で足をくじき、お灸でのやけどから感染症をおこしてしまった足。関係をうまく築くことができなかった姉との関係。回復を望んでいない私、痛みとともに回復する(であろう)足。独特な語り口で、未来から今を語っている。日本語版での表題作。 エウロパ…自分のジェンダーと、好きだった彼女の歌声。彼女と過ごした、二度とは戻れない夜を思いす。 フンザ…うまく人間関係を築けない夫、子育て、仕事を抱える私は、フンザというとある地に憧れを感じている。紛争地帯で、容易にはいくことができない土地に思いをはせながら、生活は続く…。 青い石…友人のおじさんは、一日中家で作品を作っているアーティスト。彼は、幼少期から病気を患っていて(たぶん血友病)、常に生活に制限がある。アトリエに通うようになった私は、彼に惹かれていく。 この作品超よかった…。発展した長編『風が吹く、行け』もあるようなので、翻訳お願いします。(でもこの短編だけで完結してもいい…悩む。) 左手…ある日、左手が思うように動かなくなった男性。気に食わない上司に手を挙げ、憧れの先輩の腰に手を回す 火とかげ…黄色い模様の永遠という現代で、韓国版の表題作。事故で左手が使えなくなった画家である主人公。早期回復を望むあまり、右手も使えなくなってしまった。夫のサポートなしでは生きられなくなり、夫もいらだちを隠そうともしない。画家としての再起を考えたとき、友人と再会し、思い出す10年前の登山の思い出。太陽の黄色を感じながら読みました。
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ハン・ガン5冊め。ほぼ一年前に『すべての、白いものたちの』を読んだのが最初なので、よいペースだと思う。 彼女の作品に共通して感じるのが「何かを失った人の孤独」。『回復する人間』はまさに「喪失と回復」がテーマの短編集。しかし、再生の物語にありがちな生やさしさはなく、永遠に失ってし...
ハン・ガン5冊め。ほぼ一年前に『すべての、白いものたちの』を読んだのが最初なので、よいペースだと思う。 彼女の作品に共通して感じるのが「何かを失った人の孤独」。『回復する人間』はまさに「喪失と回復」がテーマの短編集。しかし、再生の物語にありがちな生やさしさはなく、永遠に失ってしまったものへの諦念、必死になって立ち上がろうとする壮絶さ、ギリギリのところで生きていくことを選択する人の強さを感じます。 木に対するシンパシー、夜明けに綱をもって家を出る話は『菜食主義者』にもでてきます。 『青い石』のガラスのように壊れそうな2人の物語がよかったので、これをもとにした長編『風が吹く、行け』も読んでみたい。 コロナを言い訳にいろいろ停滞してしまっている私ですが、そろそろゆっくりでも前に進まなくてはという気分になりました。 以下、引用。 空は青く、冷たい陽射しが梢の輪郭を包んでいる。しばらく頭をそらして見上げているうちに、自分がそれらを美しいと感じていることに気づく。冷酷なほど完全に、ウニ姉さんのことを忘れていたと気づく。 地下道の出口で彼女が出社する後ろ姿を見たことがあったが、忙しく行き交う人々のあいだで、彼女はまるで散歩に出てきた人みたいにゆっくりと、壊れやすい沈黙を保護しているかのような慎重な足取りで階段を上っていた。 人を燃やすときいちばん最後まで燃えるのが何かわかる? 心臓だよ。夜に火をつけた体は一晩じゅう燃えてるんだ。明け方に行ってみたら、心臓だけが残ってて、じりじり、煮えてたの。 その瞬間気づいた。何気なく打ち明けたその夢が、どんなに赤裸々な告白だったかということに。今私がいる地点が、午後三時だということに。もう時間が残されていないということに。一度しかない一日をぎゅっと握りしめたまま、どうしたらいいのかわからず、握りつぶしてきてしまったのだということに。 イナは二十三歳の冬から約六年間結婚生活をしていたが、二千日を越えるその期間中ほとんど毎日料理をしたので、残りの人生は最小限の料理だけで生きていくと決めていた。 あたしさ、最近、フラクタルに関する本、読んでるんだけどね。もうびっくりしちゃった。あたしたちの体の中で血管が広がっていくときの線も、川に支流ができて広がっていくときの線も、木が空に向かって枝を伸ばしていくときの線もみんな似てるっていうんだもん。地下鉄の出口から人波が広がっていくときも、同じような線を描くんだってよ。だったら、もしかして人の人生もそうなのかな? 空間じゃなくてさ、時間の中でよ、あたしたちの人生が、何らかの数学的な線……幾何学的に推測可能な線に沿って、進んでるのかな? って、地下鉄の出口から出るたびにそんなことを考えるようになったんだ。 十六歳の冬、私が初めて墨で描いた木のことを覚えていますか。その木は君に似ているね、とあなたが言ったのを私は覚えています。そしてあなたは、君が描く何もかもが実は君の自画像なんだとつけ加えましたね。あの日の午後ずっと、あなたの本棚を探して木の絵を見ていました。エゴン・シーレが描いたひ弱そうな若木の絵を見つけたとき、あなたの言葉をおぼろげに理解しました。すべての絵が自画像なら、木の絵は人間が描きうるいちばん静かな自画像だという思いも、そのときちらりとよぎりました。 戦って、勝たなくちゃ。それでこそ絵が描ける。 女の人に月経があるということ、血を流して子どもを産むということって、考えてみると驚異的だ。つまり、生命はいつも血の中から始まるってことなんだろうね。 私、たぶん、逆方向に年を取ってるんだと思う。二十代のころは、職場とか貯金とか、家とか家族とか、年齢に応じて何を持ってなきゃいけないかって、そんなことで頭の中がいっぱいだったの。だけど今はむしろ、自分のものなんてないんだと思うわ。時間もお金も人生も……みんな誰かからしばらく借りて使っているんじゃないのかな。 あの人はこんな人ではなかった。基本的に繊細で優しい人だった。だが、すり減った。タイヤがすり減るように、あれやこれやを体で受け止めつづけるうちに。彼と私だけがそうなのではないだろう。誰もがそのようにして少しずつ、すり減っているとは意識しないままに少しずつすり減り、車輪が滑りやすくなっていく。滑って、滑って、ある朝突然ブレーキがきかなくなる。 「私という人間がときにはよちよち歩きで、ときにはひるまず強く、ときには闇の中をようやく手探りで歩いて生きてきた記録」 痛みがあってこそ回復がある。これこそが、本書を貫く大きなテーマである。 文芸評論家シン・ヒョンチョルの言葉を借りれば「この本の関心事は、ほかの読み方をすることが困難なほどはっきりしている。それは〈傷と回復〉だ」ということになる。
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人の死、桃源郷を夢見ていた場所の崩壊、二度と戻らない才能、行ってしまった人。 絶えず喪失に直面している。絶えず過去を思い、記憶を辿り、けれどその行為が埋められない喪失の傷を塞いでいく。 絶えず回復している。体に備わった回復という機能。生きる限り時を刻む私たちの回復。 ハン・ガ...
人の死、桃源郷を夢見ていた場所の崩壊、二度と戻らない才能、行ってしまった人。 絶えず喪失に直面している。絶えず過去を思い、記憶を辿り、けれどその行為が埋められない喪失の傷を塞いでいく。 絶えず回復している。体に備わった回復という機能。生きる限り時を刻む私たちの回復。 ハン・ガンの文章にはすべてが「これだ」という思いがする。 慎重に慎重に削がれ磨かれ、浸透圧の差がそうさせるような染み込んでくる文章。悲しみにも虚しさにも、透明でしんとした文章。小説でありながら詩であり、手紙。 中でも「火とかげ」を忘れないと思う。「黄色い模様の永遠」なんて美しい言葉。
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“私だって前が見えない。いつだって見えなかった。がんばってきただけ。いっときでもがんばらなかったら不安だから、それで必死にやってきただけなのよ。”(p.56) “ときどき、自分はひそかに狂っていくのか、ほかならぬ自分自身がむしろ子どもに致命的な悪影響を与えているのではないかと...
“私だって前が見えない。いつだって見えなかった。がんばってきただけ。いっときでもがんばらなかったら不安だから、それで必死にやってきただけなのよ。”(p.56) “ときどき、自分はひそかに狂っていくのか、ほかならぬ自分自身がむしろ子どもに致命的な悪影響を与えているのではないかと、こんこんと自問した。”(p.109) “大変だって言ってみたところで、やったことない人にはわからないし、やったことある人はわかりすぎてるから、そういう話は誰にもしなくなるんだよね。”(p.254)
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韓国文学というのは恐れ多くも初めて手にとりました。 文章の詩情の豊かさや構成の巧みさに圧倒されあっという間に読んでしまいました。 小説ってとっても面白い。 何かを鎮められるような文体に読書中ずっと救われていたように思います。 特に印象に残ったのは最初と最後の作品「明るくな...
韓国文学というのは恐れ多くも初めて手にとりました。 文章の詩情の豊かさや構成の巧みさに圧倒されあっという間に読んでしまいました。 小説ってとっても面白い。 何かを鎮められるような文体に読書中ずっと救われていたように思います。 特に印象に残ったのは最初と最後の作品「明るくなる前に」と「火とかげ」でした。 なにかを失うという経験、とくに大きなものを自分は経験しているところがあるので、繰り返し描かれる傷を負った人間というものには心当たりが、覚えがあることを前提で読んでしまうので、それでも立ち上がったときの、もう元には戻れなさや絶望のなかから光を見出す切実さには胸を揺さぶられ、そのひとつひとつに愛おしさを感じます。 大なり小なり、さまざまな社会環境、条件下で人生を生きて、失ったり傷を負う経験は誰にでもあり、それをまるごと引き受けて生きる人生を愛おしく思いますが、渦中にいる人間にとっては、逃げ、もがき、回復する真っ最中、そんな生易しいものではなくひりひりし切実です。それをほんとうに豊かな詩情を湛え描き出しているところに素晴らしさが尽きるように感じていました。 それぞれの多様な人生があり、そして本書に出てくるような傷ついた人間たちが否応なく回復していく、この世にあるものの運命、生への希求、その絶望と希望に胸を揺さぶられました。
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短編集。「痛みがあってこそ回復がある」というテーマの通り、絶望的な状況にあった主人公が、さらに絶望的な出来事を通してやがて浮上に向かっていくという、人間のリアルな矛盾や不可思議さに焦点をあてた作品が多い。異色なのは「左手」という小説で、ストレスを抱え込んだ主人公の左手だけが本能の...
短編集。「痛みがあってこそ回復がある」というテーマの通り、絶望的な状況にあった主人公が、さらに絶望的な出来事を通してやがて浮上に向かっていくという、人間のリアルな矛盾や不可思議さに焦点をあてた作品が多い。異色なのは「左手」という小説で、ストレスを抱え込んだ主人公の左手だけが本能のままに行動しようとするという不条理劇みたいな感じで、日本の小説にもこういうのあったような。「フンザ」も良かった。行ったこともない場所に思いを馳せて自分の拠り所にしていくような心理にどこか共感できてしまう自分がいる。
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ハン・ガンの短編集。 彼女の小説は凄く痛い。 痛いけれど美しい。 もしくは、痛いから美しい。
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人間として存在する限り持たざるを得ない生の条件としての身体。「傷」はただ物質的な痛みを与えるだけではなく、登場人物たちの心の在り様にも大きく影響を与えるが、その苦しみや傷の中に彼らの実存が逆説的に浮かびあがってくる。特に最後に収録されている「火とかげ」は、様々な人生におけるモチー...
人間として存在する限り持たざるを得ない生の条件としての身体。「傷」はただ物質的な痛みを与えるだけではなく、登場人物たちの心の在り様にも大きく影響を与えるが、その苦しみや傷の中に彼らの実存が逆説的に浮かびあがってくる。特に最後に収録されている「火とかげ」は、様々な人生におけるモチーフたちの偶然の符合やその解釈、レミニッサンスを思わせる記憶と想起、身体に依拠しなければならない悲しい精神という現代的な問題系が多く見出せる濃縮された一編である。芸術という意志、意欲が人間を救いうるという祈りのような短編だった。
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