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歴史戦と思想戦 の商品レビュー

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33件のお客様レビュー

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2019/07/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「主戦場」という映画を観た。日系アメリカ人が慰安婦問題をドキュメンタリーで撮った映画だ。題名の「主戦場」に違和感を持っていたが、この本を読んでガッテンした。 産経新聞社が「『主戦場』は米国、『主敵』は中国というキャンペーンを張っていたからだ」。アメリカ人がこの主張に対して関係者から聞き取りをして映画にした。 大阪人の僕としては、60年も続いたサンフランシスコ市と の姉妹都市提携を解消したのは残念だと思っている。一人の市長により一方的に終わらせる事がい事なのか? 軍国主義復活を目論んでいる人の文章を読んで、いつもモヤモヤした思いが残っていたが、この本を読んではっきりと理解できた。つまり、彼らのいう日本とは「大日本帝国」のことで戦後の平和憲法を選んだ日本国ではないということだ。つまり、賛美は「大日本帝国」自虐は「日本国」となる。そういう文脈からは当然「戦争放棄」「軍隊禁止」の日本国を擁護する人間は非国民となる思想なのだ。

Posted byブクログ

2019/07/01

本書の特徴と意義は著者が「おわりに」で書いています。 「・・・大日本帝国時代の『負の歴史』を否認する言説の論理構造や、そこで多用される論理のトリック、認識の誘導などのテクニックをわかりやすく読み解くこと・・・」(p289)。 例えば、よく使われるトリックで南京事件の虐殺数が30...

本書の特徴と意義は著者が「おわりに」で書いています。 「・・・大日本帝国時代の『負の歴史』を否認する言説の論理構造や、そこで多用される論理のトリック、認識の誘導などのテクニックをわかりやすく読み解くこと・・・」(p289)。 例えば、よく使われるトリックで南京事件の虐殺数が30万人というのはありえない、故に虐殺はなかったと論理が飛躍する点です。 また、基本的事項として気づかされた事は「日本」の具体的な概念とは?という事です。「日本」は現代の日本と戦前の大日本帝国の両方を含んでおり、どの日本を意識して語るかが重要です。 全体を通じて、著書は産経新聞が主張する歴史戦を起点に、歴史戦の主要著書に対して具体的かつ論理的に反証を提示していきます。 歴史を専門とするプロの研究家たちが積み上げてきた研究成果を、素人たちが見て見ぬ振りをして、自分たちの言いたいことを言っています。故に敢えて素人にもわかるように再度わかりやすく説明している構図に見えます。おまけにこの素人たちは、産経新聞を始めとして、いくつかの発表の媒体も持っており、それなりに影響力もあるので始末が悪いです。 プロ対素人の関係性の中で語られる言説であり、プロ側から見れば何の知見も得られない、何の生産性もない不毛な議論(というのもおこがましいですが)という事です。 逆に素人がプロに喧嘩を吹っかけているわけです。 プロである歴史学者は、意見の違いはあれど、新たに発見された歴史の事実を基準にそこから何かを学び、未来へつなげていく志向は同じです。故に、同じ土俵での議論が可能となり、その場から多くの知見を得ることができます。 「・・・歴史研究が尊重するのは個々の『事実』であって、最終的に導き出される『結論』ではありません。まず『事実』があって、それを適切に配列した結果として導き出されるのが『結論』です」(p70)。 一方で歴史戦を謳う方々は、 「・・・まず『日本は悪くない』という『結論』を立て、それに合う『事実』だけを集めたり、それに合うように『事実』を歪曲する手法をとっています」(p70)。 著者は最後にこう述べています。 「・・・専門家が傍観すれば、一般の人々は『専門家が批判も否定もしないということは一定の信憑性がある事実なのか』と思い、結果としてそれを信じる人の数が徐々に増加していくことになります」(p295) 著者には面倒臭いことだとは思いますが、 「社会の健全さを維持するための分担作業」(p296)と捉えて本書を上梓しています。非常に成熟した大人の振舞と感心しました。 昨今の歴史修正主義者の言説は子どもの戯れ言かもしれません。大人と子どもの間には議論は噛み合わないです。噛み合わないどころか「議論」という表現自体が不適切です。通常大人達の話の中には子供は入ってはいけません。間違って入っても相手にされないか、子供がわかるように諭されるだけです。一言でいうと対等ではないんです。故に、大人と子どもの言説が両論併記される事はあり得ないのです。 その異常さを暴露したのが、映画『主戦場』ではなかったでしょうか。本著書を読んで、構図が同じことに気づかされました。 最後に。エーリッヒ・フロム『自由からの闘争』を題材にして、歴史戦の言説に傾倒していき、権威へ服従していくプロセスを、わかりやすく解説しています。まだ読んでいないので、早速買って読んでみます。

Posted byブクログ

2019/06/18

”あれ、おかしいな?”がキーワード。副題にしても良いくらい繰り返されるけど、実際、終戦後の大戦論に関する詭弁たる諸々を、一見勇壮に見える中に垣間見える矛盾から、丁寧に解き明かしていくという内容。戦後の”日本国”と”大日本帝国”を、十把一絡げに”日本”と表記するレトリックを知るだけ...

”あれ、おかしいな?”がキーワード。副題にしても良いくらい繰り返されるけど、実際、終戦後の大戦論に関する詭弁たる諸々を、一見勇壮に見える中に垣間見える矛盾から、丁寧に解き明かしていくという内容。戦後の”日本国”と”大日本帝国”を、十把一絡げに”日本”と表記するレトリックを知るだけでも、随分と選別眼が鍛えられると思う。ここでも痛感されたのは、先日読んだ『病理医ヤンデル』でも触れられていたけど、声高な意見の頑迷さ・強大さ。ただ、その差は文章のうまさとかじゃなく、論者の誠実さにあるのではないか、と。かたやピンポイントを誇張して、あたかもそれが全てを表すかのように、断定的に声高に叫ばれる意見。かたや多方面からそれぞれの立場に立って検討しつつ、留保すべきところは留保しながら、じっくりと語られる意見。きっと、ぱっと聞きの心地よさは前者有利。しかも圧倒的に。だって素人からすれば、玄人に考えてもらって、”こうですよ”って決めてもらう方が楽だもの。そこをもう一歩踏み込んで、自力で答えを出そうとする向きがもう少し増えれば、本書における歴史問題も然り、件の書における医療問題然り、良い方向にいくはず。やっぱり、あきらめちゃダメですな。

Posted byブクログ