暴君 の商品レビュー
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暴君 新左翼・松崎明に支配されたJR秘史 著者:牧 久 発行:2019年4月28日 小学館 松崎明という人物は、その世界では有名人というかかなりの“大物”だそうだ。僕は名前ぐらいしか知らなかった。 国鉄の労働組合と言えば、最大組織の国労(社会党)、鉄労(民社党)、動労(革マル派)、千葉動労(中核派)に大別され、JRへの分割民営化に際し、「闘う動労」を標榜していた動労が、もともと労使協調路線だった鉄労とともに賛成に回ったという知識ぐらいはあった。なぜ急にマスメディアが「過激派」と紹介し、警察が「極左暴力集団」と呼ぶ革マル系の動労が賛成に回ったのか、僕には理解できていなかった。その裏事情が450ページ以上にわたって詳しく紹介されている。著者は日経新聞出身のフリージャーナリスト。松崎明が死ぬまで、彼に関する報道はタブーとされ、あの週刊文春でさえもキオスクで販売拒否されるなど容易に手が出せなかったという。 動労の大転換は、松崎の方針によりなされた。労働争議で国鉄を解雇された彼は、動労の専従となり、委員長にまでのし上がっていたが、国鉄民営化前年に敵対してきた鉄労の全国大会に招かれ、解体を叫んでいた鉄労とともに民営化に際して「労使共同」を訴えた “コペルニクス転換”の演説を行った。彼は哲学者・黒田寛一とともに革マル派を創設したメンバーで、いうまでもなく共産主義革命を掲げる。それなのに、この頃には自民党機関誌「自由新報」や反共団体統一教会の「世界日報」などにもしばしば登場して、共産党や国労の批判を繰り広げた。 なぜコペ転をしたのか? それは黒田寛一が説く「形勢不利な時には敵の組織に潜り込む」という戦略を踏襲したのだと著者は分析している。 国鉄改革において、改革3人組と呼ばれた者がいた。後のJR東海社長となる葛西、JR西日本社長となる井出(福知山線脱線事故で全国的な有名人となった)、そして、JR東日本社長となる松田。葛西と井出は松崎とは袂を分かったが、松田は以後もべったり。上司の住田とともに、住田―松田体制(JR東日本)と松崎との癒着が始まる。松崎は気に入らない幹部社員がいると、住田―松田ルートで平気で左遷させる、あるいは辞めざるを得なくしてしまう、そんな経営者をもあやつるドンとなった。 車はボルボやベンツ。ボディーガードをつかせ、ハワイに別荘2軒、国内にもマンション、別荘、別宅を持つ。しかし、体が弱まるとともに、徐々にその勢いは衰え、JR東日本側も彼を切りにかかる。そして、その死とともに彼の力は影も形も消え失せる。 北朝鮮の金正恩はちょっと別として、シリアのアサドや以前のスペインのフランコなど、やればできるのにどうしてずっと独裁させたままにするのか?やってみれば意外と簡単なのに、という気もするが、どうなんだろう。ましてや松崎明という軍事力を持たない独裁者。なぜ彼の死を待たなければ終わりにならなかったのか。ちょっと不思議でもある。
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東日本旅客鉄道株式会社。 日本国有鉄道から分割民営化され、会社名の通り東日本一帯を管轄する巨大企業だ。 子会社は70社あり、事業の中身は多岐に渡る。 これだけの大きな会社なので、当然従業員も多くなる。 しかし組合は一枚岩ではなく、いくつも分裂して増えていった。 その組合を仕切っ...
東日本旅客鉄道株式会社。 日本国有鉄道から分割民営化され、会社名の通り東日本一帯を管轄する巨大企業だ。 子会社は70社あり、事業の中身は多岐に渡る。 これだけの大きな会社なので、当然従業員も多くなる。 しかし組合は一枚岩ではなく、いくつも分裂して増えていった。 その組合を仕切っていたのが、本書で書かれた松崎明氏である。 若い世代にはピンとこないだろう。 そもそも、ストライキ、だの革マル派・中核派、セクト・アジトなどと言う言葉からしてもはや歴史教科書の「現代史」に出てきた単語だけれども、ほんの30年前まではリアルな言葉として、企業や上層部には響いていた。 しかし数年前にJR東日本の最大労組から一斉に3万人以上もの組合員が抜けた。 理由は様々だが、組合が言うように、「脱退工作」が行われただけでは人は動かないだろう。 新たな労組が生まれたし、これまでの労組も残っているが、多くの元組合員たちは戻っていない。 なぜだろう? 労組そのものは悪ではない。使用者に対抗する正当な手段であり、それによって守られるべき労働者がいるのも理解しているつもりだ。 だが、入らなければ昇進に響き、政治運動が行われ、使用目的が不明瞭な高い組合費を収めなければならず、レクへの参加が必須の労組が果たして現代に賛同を得られるか?無理だろう。 本書で描かれた松崎氏によって確かにできたばかりの企業が安定した面もあるだろうし、会社もそれを利用していたのだろう。 けれども、彼のやり方は、正しくなかった。 力をちらつかせ、意に沿わなければ潰すやり方は正しくない。 そして、力で支配する相手を利用した会社も、やはり正しくはなかった。 私は暴力と恐怖で支配するやり方は間違っていると思う。 それは誰に対しても同じだ。 単純に会社が、労組が良い悪いではなく、どんな場合であっても、恐怖で人を支配する事はあってはならない。 JR東日本が、これからも継続していくためにも、より多様性と柔軟性を大切にする企業であってほしいと思う。
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マングローブ枯れたり。という一言に尽きる。 思い返せば松崎氏死後のこの手の文献に触れたことはなかった気がするけれど、大塚社長以来、着実に革マルの「牙を抜く」労政が実行されていたのだなあと認識。他方で共産革命にはスリーパーが不可欠なのかしら、とも思ったり。 思想の是非はともかくとし...
マングローブ枯れたり。という一言に尽きる。 思い返せば松崎氏死後のこの手の文献に触れたことはなかった気がするけれど、大塚社長以来、着実に革マルの「牙を抜く」労政が実行されていたのだなあと認識。他方で共産革命にはスリーパーが不可欠なのかしら、とも思ったり。 思想の是非はともかくとして、松崎氏は個人として相当魅力的な人物だったのでしょう。これを歴史として捉える時代に生きているのが幸運なのかどうなのか。 かつて駒場の学友会に切り込もうと冗談交じりで語りながら結局果たせなかったアマチュアジャーナリストとしては、嫉妬とともに最大限の敬意を表する次第です。
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国鉄、そしてJRの労働組合の指導者であり、革マル派の中心人物である松崎明。本書はその人物伝であったが、民営化後のJRの実像というところに興味が向く。国鉄分割民営化はかなりの荒療治。当然、大きな副作用が出るはず。そう思っていたが、実際にそれが何なのか長らく知ることはなかった。「国鉄...
国鉄、そしてJRの労働組合の指導者であり、革マル派の中心人物である松崎明。本書はその人物伝であったが、民営化後のJRの実像というところに興味が向く。国鉄分割民営化はかなりの荒療治。当然、大きな副作用が出るはず。そう思っていたが、実際にそれが何なのか長らく知ることはなかった。「国鉄の現況は態度の悪い国労であり、その組合員さえ切ってしまえば、真面目な職員だけになる。民営化後は競争原理も働きすべてがうまくいく」そんなイメージ世間に抱かせ、分割民営化を成功と思わせる演出。もちろん実態はそんな単純ではない。そこに当局側、経営側に弱みができる。 それをうまく利用したのが松崎であり、結果的に革マル派という前時代的な思想も延命させてしまう。国鉄分割民営化ははっきり失敗だとわかる。ただ、ではどうすればよかったのかという答えは謎である。
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松崎明は、勝てない敵に対して、その内部に侵入し、活動家を洗脳して味方とし、敵の内部から破壊する手法を採る。
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「いいぞ!」 「団結用意!」 「ナンセンス!」 今では思い出したように、同僚とふざけあって使うこれらの言葉も、かつて存在した労働組合の用語である。 本書とほぼ同時に発売された西岡研介「トラジャ」に続いて読み終えた。 今でこそ、労働組合なんてものもあったよね、と笑...
「いいぞ!」 「団結用意!」 「ナンセンス!」 今では思い出したように、同僚とふざけあって使うこれらの言葉も、かつて存在した労働組合の用語である。 本書とほぼ同時に発売された西岡研介「トラジャ」に続いて読み終えた。 今でこそ、労働組合なんてものもあったよね、と笑って言えるけど、昔は組合のことなんて喋れる雰囲気の会社ではなかった。 2018年初の三万五千人の大量脱退(俺もその一人だけど)でようやく、この労働組合に関する話がタブーではなくなり、相次いで出版されるようになったんだろう。 先に読んだ「トラジャ」では、前半をJR東労組と革マルの関係について、後半では未だに労使関係が続くJR北海道とJR貨物の現状について書かれている。 本書「暴君」では、全学連まで時代を遡り、革マル派の成り立ちから、松崎明の生涯を追っている。 両書を読み終えて、ようやくあの組織の息苦しさ、横柄さが理解できてきた。 「統一と団結の否定」「積極攻撃型組織防衛論」を軸に、変革か打倒かの二択を迫る。 そこに組織の本質があった。 今では労働組合に属していない宙ぶらりんの状態が続く。 賃上げは政府が企業に対して指導しているし、ブラック企業はSNSで晒されるこの世の中。 労働組合不要論が起きている。 翻って、ギグワーカーによる新たに労働組合を組織する動きもある。 昭和型の労働組合から、新時代の労働組合へ。 労働組合に対する、新たな定義が必要なのではとも思う。
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2019年12月4日図書館から借り出し。冒頭100頁ほどで、かなり事実を誇張・歪曲した悪意に満ちた本とわかる。自民党御用新聞の日経の人間が書いたものとわかり納得。 これを真に受ける人がいるのかな?いたら怖い。 一応最後まで読み終えたが、事実(ファクト)と妄想(ファンタジー)とが...
2019年12月4日図書館から借り出し。冒頭100頁ほどで、かなり事実を誇張・歪曲した悪意に満ちた本とわかる。自民党御用新聞の日経の人間が書いたものとわかり納得。 これを真に受ける人がいるのかな?いたら怖い。 一応最後まで読み終えたが、事実(ファクト)と妄想(ファンタジー)とが入り混じった奇妙な本であることは間違いない。引用等も出典を明らかにしない、しかも「要約」とか「概略」がやたら多くて原文ではないから、信用度が著しく低い。ノンフィクションとしての生命線を維持できていないところを、小学館の編集者は何故手を入れなかったのだろう。 いずれにせよ、この本の政治的立場は明確で、組合運動や旧民主党(現立憲民主党)攻撃、自民党礼賛であることは第9章以降で鮮明になっている。当初の「やはり御用新聞日経」という直観は大当たりだった。笑いながら読むには最適かな。図書館の本に、所々鉛筆で揶揄する書き込みがあったが、書いた人の気持ちはわかるものの、その都度消しゴムで消しておいた。的を射ているので、これも笑えた。
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国鉄からJRへの分割民営化をものともせず、昭和から平成にかけてJR東日本の労働組合と会社を牛耳った暴君の一代記。JRの労組の一部を極左・革マルが支配していた、あるいはしているとは寡聞にして知らなかった。近年社長経験者が立て続けに自死したJR北海道の様々な問題もどうも関係しているようだ。イデオロギーとは関係なく、どんな組織でも権力を持ちすぎると時間とともに腐敗するということか。権力を持ったら自戒して短期間で引くべきなんだろうけど、権力の魔力はそうさせないんだろう。
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長らく日経新聞において、国鉄及びJRを担当する社会部記者として前作「昭和解体ー国鉄分割・民営化30年目の真実」で国鉄民営化の歴史をまとめあげた著者が次に選んだ対象は、JR東日本の労働組合を長年実行支配し、かつ自らも核マル派のイデオローグであった松崎明である。 本書は、平成最大の...
長らく日経新聞において、国鉄及びJRを担当する社会部記者として前作「昭和解体ー国鉄分割・民営化30年目の真実」で国鉄民営化の歴史をまとめあげた著者が次に選んだ対象は、JR東日本の労働組合を長年実行支配し、かつ自らも核マル派のイデオローグであった松崎明である。 本書は、平成最大のタブーとも呼べるJR東日本と核マル派の悪しき蜜月を首謀した松崎明という人間にスポットを当て、どのようにその支配が完成し、ついには破綻に至ったのかが丹念に描かれる。 松崎明の死により労組の力が弱体化し、ついには3.5万人の組合員脱退によりJR東日本は核マル派の呪縛から逃れられるわけだが、一方ではJR東日本はまだその影響下にあるとされる。こうした事実が本書によって明らかにされ、JR北海道という会社が、真っ当な経営に戻ることを切に願う。
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【255冊目】JR東日本の労働組合であるJR東労組、そしてJR各社にまたがる労働組合であるJR総連の専制君主として君臨した松崎明氏の評伝。筆者は日経新聞社会部長まで務めた方。 国鉄からJRへの民営化。そのときに労働者側の反発を最小限に抑え、JRへのスムーズな移行の助けとなったのは、「コペルニクス的転回」を見せて民営化への協力を表明した松崎氏の存在だった。しかし、松崎氏は革マル派の副議長であり、敵の懐に飛び込んで内部から食い破るやり方は、革マルの手法そのものだったと言ってよい。そして、松崎氏は、労組を私物化して私腹を肥やし、JR東日本に労使共同宣言をさせて経営にまで容喙し、敵とみなした人物には革マルの秘密部隊を動員して攻撃していく、という話。 久しぶりに読み応えのある作品に出会えた感じ。他のことを差し置いて読みたくなるような作品は久しぶり。 まず、戦後の新左翼・極左の動きを勉強できたこと。革マル派とか中核派とか、聞いたことはあったけどきちんと整理したものは読んだことがなかった。この整理学は本書では傍論に過ぎないけど、だからこそ概要を大まかにつかむにはぴったりだった。 次に労働運動や労組というものの一端が垣間見えたこと。JRは極端な例かもしれないけれど、専従(会社には所属していないが、その会社の労組には籍があること)など色々な現象を学べた。その中で、JRが2000年代のある時期まで「労使共同宣言」の下、経営側が一方的に経営判断を下すことはできず、必ず労組側にお伺いを立てるというやり方で経営がされてきたことも知った。筆者はこれを、経営責任が問われることのない労組が経営に容喙できる体制はおかしいと非難している。 3つ目に、権力というとき、ついつい官に宿る「公権力」をイメージしがちだけど、企業や私人が持つ「私権力」もあるということを想像しないといけないという教訓。JR東労組は、ネットではなく紙面が言論に強い影響を持っていた90年代に、JR東労組を批判する記事を載せた記事をキオスクで販売しないという言論弾圧事件を起こしている。その他、組合員のための福祉厚生事業を行う団体を幹部が私物化したり、労組に批判的な組合員をリンチしたりと、「私権力」を使って人権を蹂躙する場合もあったとのこと。 本来は産業革命によって強くなりすぎた資本家の搾取から労働者を守るために観念されたはずの労働組合が、逆に搾取側に回る現象。こうしたこと、すなわち本来弱者や人権を守るために誕生したものが、逆に他者を搾取し攻撃する側に回るということには注意しないといけないと思う。おそらく、社会の至る場面で起こっているだろうことが想像されるから。だからこうやって現代史を読んで、教科書の知識をアップデートしないといけないし、「本来は良いはずのもの」を疑う力を身に着けないといけないと思う。 最後に1点。JR北海道では、着任間もない社長が自殺している。遺書には労組との関係に悩んでいたことを匂わせる記載もあったという。そして、闇は続く……という感じ。(2019.8.21.読了後しばらくしてから記載。)
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