眩 の商品レビュー
葛飾北斎の娘、葛飾應為ことお栄さんの話。 当時では女性絵師は珍しい。女性は家事というジェンダーロールが疑いなく信じられていた頃。 お栄は、描かずにいられない絵師の業が身体に備わっている。絵の才もある。父親の北斎と同じ。 しかし女性であるお栄の感覚は、母親や夫からは欠陥としか見做さ...
葛飾北斎の娘、葛飾應為ことお栄さんの話。 当時では女性絵師は珍しい。女性は家事というジェンダーロールが疑いなく信じられていた頃。 お栄は、描かずにいられない絵師の業が身体に備わっている。絵の才もある。父親の北斎と同じ。 しかし女性であるお栄の感覚は、母親や夫からは欠陥としか見做されない。 やりきれない夫婦生活が破綻したところから小説が始まる。 父であり師であり親方の北斎の工房で、お栄は絵筆を振るう。この辺りはワクワクするお仕事小説になる。 北斎を慕う渓斎英泉との交流も読みどころ。 渓斎英泉がとても良い。色っぽい男だなあと思った。 女性だから、元夫よりも、絵への情熱も才気もあるのに、独り立ちの仕事をさせてもらえない状況は、何とも息苦しい。 表紙絵もお栄さんの作品で、現代の目で見ても、上手いと思える。これを浮世絵の時代に描いたお栄さんは、北斎の娘というだけではない、絵の才と技術、探究心のあるすごい絵師。しかし、家事も苦手で子も産まない、当時の女性の常識としては欠陥だらけ。夫に勝る才能があることも、当時の感覚としては生意気で欠点扱いになる。 早く亡くなった姉の子を北斎一家で面倒を見るが、この甥がまあとんでもないクズ。後半はこの甥に北斎とお栄さんは苦しめられ続ける。 窮屈な価値観の中で、絵師としてしっかり自分を確立していこうとするお栄さんの人生。 とても読み応えのある小説だった。
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自分自身もそうなのですが、浮世絵だったり、北斎に興味を持ち始めた人が読むのに、おすすめしたい作品です。娘の眼を通して、葛飾北斎を取り巻く暮らしぶりがよくわかります。富嶽三十六景を出版したきっかけや、ゴッホが作品を模写した渓斎英泉が登場することも興味深かったです。
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北斎の娘、葛飾應爲(お栄)の一生。8割が北斎の晩年の足跡とお栄の関係ということで物足りない感じが続く中、友であり懸想相手の英泉(善治郎)の死や北斎の死を挟んで自ら絵師として大きく一歩を踏み出す姿に最終的には引き込まれた。 言い方は難しいが、愛する父北斎が彼女の重石になっていたの...
北斎の娘、葛飾應爲(お栄)の一生。8割が北斎の晩年の足跡とお栄の関係ということで物足りない感じが続く中、友であり懸想相手の英泉(善治郎)の死や北斎の死を挟んで自ら絵師として大きく一歩を踏み出す姿に最終的には引き込まれた。 言い方は難しいが、愛する父北斎が彼女の重石になっていたのかと感じた。北斎が長生きでなかったら、應爲ももっと多くの名作を残していたのだろうか。 本作では甥の時次郎がキーとなっている。読み手としては何ともムカつく出来損ないの甥で厄病神である一方で、最後に見せたお栄と時次郎の互いへの親族愛のようなものを見ると血の繋がりの良さと厄介さをより感じた。また、今読んでいる北斎にまつわる作品で「北斎は本当に貧乏だったのか」という謎が出てくるが、本作の設定、つまり甥の借金の肩代わりをし、そのために引っ越しを繰り返していたというのは小説ならではであるが面白いと思った。
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四月から続いた大きな仕事が一区切りした。 ようやく楽しみのために本が読めるようになった。 というわけで、お盆休みのおともの一冊に本書を選ぶ。 葛飾北斎の娘で、絵師となった栄の物語。 偉大な父であり師を持ったお栄。 現代なら、プレッシャーに押しつぶされそうな環境だ。 ところが、...
四月から続いた大きな仕事が一区切りした。 ようやく楽しみのために本が読めるようになった。 というわけで、お盆休みのおともの一冊に本書を選ぶ。 葛飾北斎の娘で、絵師となった栄の物語。 偉大な父であり師を持ったお栄。 現代なら、プレッシャーに押しつぶされそうな環境だ。 ところが、彼女はただ、絵の上達に励む。 いわゆる朝ドラ的な前向きさとは違う。 自分が自分になるために、どんなに苦しくても、そうするのだ。 そのためには、女性としての生き方の規範などに拘泥しない。 その振り切り方には、羨望をこめて、かっこいいという言葉しか出てこない。 彼女がそのような人生を歩めるのは、父北斎自身、晩年に至るまで、もっとうまくなりたいともがき続けたからだろう。 親子の葛藤は、意外なほどない。 そのあたりが、若干不思議。 親方の名前で世に出る作品を、工房の弟子たちで作っていくような関係がベースにあるからか? むしろ、家族の葛藤は、甥の時次郎をめぐって展開される。 何年か前のお正月、NHKのドラマになった本だと思う。 主演は宮崎あおいさん。 映像として美しいドラマだったと思う。 でも、善次郎役は誰だっけ? ちっとも記憶に残っていないが、こんなに物語にとって重要な役回りを担っていたとは…。
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葛飾北斎の娘、葛飾応為(應爲)(かつしかおうい)のお話。 小さい頃から絵を描くことが大好きだった彼女、大きくなれば当然のように父の仕事を手伝い始め、自らも絵師としてのキャリアを積んでいく。絵にばかり夢中で母小兎(こと)からは結婚できないのではないかと心配される始末。なんとか結婚...
葛飾北斎の娘、葛飾応為(應爲)(かつしかおうい)のお話。 小さい頃から絵を描くことが大好きだった彼女、大きくなれば当然のように父の仕事を手伝い始め、自らも絵師としてのキャリアを積んでいく。絵にばかり夢中で母小兎(こと)からは結婚できないのではないかと心配される始末。なんとか結婚することができても家事もできない、絵にばかり夢中で結婚生活は破綻、早々に離縁して父の工房に舞い戻る。 ある日オランダのシーボルトから北斎へ依頼が舞い込む。非常においしい仕事なのだが条件が「西画でお願いします」つまり、西洋の画法を取り入れよ。と...この難題に北斎、応為は挑む。この辺りの北斎のプロフェッショナルな考え方が最高にかっこいい。 そして北斎の突然の中気(脳卒中)、右半身がやられて絵筆も握れずこれまでかと思われたがその後の奇跡的な復活。その後も母の死、己丑の大火、甥の借金問題、天保の大飢饉、その後の改革で絵などの規制が厳しくなるなどの凶事が重なるもなんとか切り抜けていく北斎親子。そして北斎の死。 北斎の出来事に寄り添いがちだが、応為自身の物語、心理描写もたくさんあるのでそこは問題なし。とりわけ浮世絵師、渓斎英泉こと善次郎とのライバル心、秘密の恋という不思議な距離感は良かった。ろくでなしの甥に対する複雑な心境なども味わい深い。絵師として「もっと良い絵を...」と懊悩する様は共感できるところ多々あり。 ストーリーを追いながらどんな作品が作られたかにももちろん触れられているので読んだ後画像を調べたりしてその絵と物語に想いを馳せたりすることで2倍楽しめた。となるとできれば本物を見に行きたい欲がばんばんでてくるわけで...笑 本物を見に行けたら3倍は楽しめるだろう。非常におすすめな作品でした。
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お栄がかっこいい。 この時代に女性がこういう風に活躍するのはむしろ稀だったんだろうなと思うから、誰もやっていないことを先駆けてやる女性はやっぱりかっこいい。 ドラマで演じた宮崎あおいさんもかっこよかったです。
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葛飾北斎の娘、葛飾応為の生涯を描いた歴史小説。 朝井まかてさんの小説って近作を読めば読むほどに、名人芸の域に達してるような気がします。葛飾応為のことは全く知らなかったのですが、鮮やかに彼女の生き様が思い浮かんでくる。 天才葛飾北斎を父に持ち、幼いころから絵に親しみ、父の元で腕...
葛飾北斎の娘、葛飾応為の生涯を描いた歴史小説。 朝井まかてさんの小説って近作を読めば読むほどに、名人芸の域に達してるような気がします。葛飾応為のことは全く知らなかったのですが、鮮やかに彼女の生き様が思い浮かんでくる。 天才葛飾北斎を父に持ち、幼いころから絵に親しみ、父の元で腕を磨いてきた応為ことお栄。口うるさい母親、つかみどころのない甥、気まぐれな兄弟子、そして偉大ではあるけれど、人間味のある父の北斎。そうした周りの人々の姿を生き生きと描き、そしてお栄自身の描写もとても生き生きと、それでいて心理は丁寧に描かれる。 父や兄弟子と比べての自分の絵の腕に対する葛藤、絵ではその兄弟子にライバル心を燃やしつつも、一方で想いを寄せる複雑な女心。結婚や女性としての生き方を口が酸っぱくなるほど説教する母に対する反発心。トラブルばかり起こす甥に対する苛立ち。 ちゃきちゃきで歯切れのよい江戸弁の中で描かれる、お栄の心理描写。それはまさに応為の絵の陰影のように小説に光と影の陰影を作ります。 そして様々なトラブルに遭いながらも、芸術に真摯に生きようとする人々の姿も素晴らしい。病気で体が不自由になった北斎に、滝沢馬琴が叱咤激励を言いに来る場面や、お栄の兄弟子の善次郎やその姉妹である芸者の妹たちの姿。 そして父の看病、母の死、甥の借金騒ぎ、火災にあったり想いを寄せた人との別れを経験し、徐々に自分の絵を極めていくお栄。 彼女の気づき、そして自分の生き方を見つける場面の爽やかさは特に素晴らしかった! 読み終えてから画像検索で応為の作品をいくつか見ました。彼女の作品の陰影の裏にあるドラマを勝手ながら想像し、勝手に胸を熱くしました。 第22回中山義秀文学賞
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北斎の娘、葛飾応為 お栄は小さい頃から絵が大好き。女好きの兄弟子善次郎、甥の時次郎に困らされたり、お栄らしさが少しづつわかった!北斎の偉大さや周りとの関わり方が面白い! 解説を数年前に亡くなった葉室麟が傑作ですと書いていた。
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朝井先生の本は面白いです。後半は、葛飾應為の絵を調べながら読み進めましたが、本物を見たくなりますね。小布施や太田浮世絵美術館を訪れてみたいです。後日、スイカの皮の絵など、ストーリーに纏わる絵に出会えるのはとても楽しいことでした。
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お栄がからっとした性格で、ひたむきに絵を描く。主人公にしては報われないぞと思ったら、実在する人物か!とわかってからは、ただ応援しながら読んだ。かっこいい人生だった。
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