ベルリンは晴れているか の商品レビュー
終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にしたミステリー。 主人公は、両親を失い、ソビエト赤軍兵士から市街戦のさなかに陵辱を受け、その兵士のライフルを奪って殺した経験のある17歳のドイツ人少女・アウグステ。 終戦後、英語ができたアウグステは占領軍である米軍の食堂施設でウエイトレスとして働...
終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にしたミステリー。 主人公は、両親を失い、ソビエト赤軍兵士から市街戦のさなかに陵辱を受け、その兵士のライフルを奪って殺した経験のある17歳のドイツ人少女・アウグステ。 終戦後、英語ができたアウグステは占領軍である米軍の食堂施設でウエイトレスとして働いていたが、戦時中、自分を匿ってくれた恩人が殺されたことを知る。アウグステは、ひょんなことから知り合いとなった元俳優のカフカと共にその恩人の死の真相を追っていく。 戦中と戦後の状況が交互に語られ、ヒトラーが台頭するドイツがいかにして戦争を繰り広げ、それが一国民の生活をどのように変えていったかも詳細に描かれる。 まさに、ミステリーの真骨頂。 特筆すべきは、日本人が書いたとは思えない筆者の圧倒的リアリティーのある戦時中、戦後のベルリンの描写。 筆者の『戦場のコックたち』もそうだが、小説の主人公の目を通して、読者はその時代のその日、その日を追体験させられる。まさに映画を見ているかのように脳裏に鮮明にその光景が映し出される。 終戦直後の東京ならば、空襲により焼け野原になった状況など、日本人ならいろいろなメディア(教科書や当時のニュースや今まで作成されたドラマや映画)によって知識を持っているが、同じような状況であったはずのドイツ・ベルリンのことはよく知らない。 ベルリンはソビエト軍、アメリカ軍、イギリス軍等によりそれぞれ部分的に占領された。 特に対ドイツ戦で最大の戦死者を出したソビエト軍人の「ドイツ人憎し」の感情は想像に余りある。 ヒトラーが台頭し、今までの日常が日常では無くなっていく、そのような異常な状況のなか、ユダヤ人へ迫害や障害者やポーランド等の被占領外国人への差別など、戦中のさまざまな狂気が淡々と描き出され、そして壊滅的な終戦を迎える。 娯楽エンターテイメント・歴史ミステリー!・・・としては読めないが、読者がこの小説を体験することは、いろいろな意味で価値あることだと思う。
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新聞の書評で気になっていたので、書店で手に取る。 舞台は第二次世界大戦直後のベルリン。 「ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ」(帯より)。 そこから始まるたった二日間の話だが、濃密な時間が流れる。 本書を読んでいると、この時代・場所にいるかのような錯覚、...
新聞の書評で気になっていたので、書店で手に取る。 舞台は第二次世界大戦直後のベルリン。 「ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンでひとりの男が死んだ」(帯より)。 そこから始まるたった二日間の話だが、濃密な時間が流れる。 本書を読んでいると、この時代・場所にいるかのような錯覚、あるいは翻訳物を読んでいるかのような気分になった。 なるほど、巻末にある筆者が読み込んだ参考文献の多さからもそれらが窺える。 じっくり読んだ1週間。そして、圧倒的な読後感。 問うても詮ないことかもしれないが、若い筆者がどうして、この時代・舞台を選んで、物語を紡ごうとしたかという動機を知りたい。 偉そうなことは言えませんが、この物語で描かれている、人々の日常やそれらを取り巻く大きな問題は、現代の日本にも通じる問題だ。そういう意味において、もっと多くの人に読まれてもいいと思う1冊です。
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『戦場のコックたち』は主人公が青年兵でしたが、今作の主人公は敗戦国ドイツの少女。 敗戦国民の物語という点では同時に候補になった『宝島』と似通った設定ではあるのですが、こちらはミステリの謎解きのほうにより比重が置かれている印象です。 なのですが、肝心のミステリに関しては色々と気に...
『戦場のコックたち』は主人公が青年兵でしたが、今作の主人公は敗戦国ドイツの少女。 敗戦国民の物語という点では同時に候補になった『宝島』と似通った設定ではあるのですが、こちらはミステリの謎解きのほうにより比重が置かれている印象です。 なのですが、肝心のミステリに関しては色々と気になるところが・・・ 前半部分の地の文は、真相を知った後で読み返すと違和感がありますし、アウグステがエーリヒを探し求める動機も弱い気がします。 歯磨き粉に青酸カリで殺人というのは、青酸カリの性質上成立しないのでは。もし疵を分かったうえでこの設定にしたのであればまだ分からなくもないのですが。 完全に個人の主観の問題ですが、『戦場のコックたち』はミステリが小粒な日常の謎系だったためか、前作の選評におけるミステリ部分の批判は個人的にはあんまり気にならなかったのですが、本作に関してはミステリを主軸に据えているがゆえに、粗が目立って読めてしまったのは残念でした。 とはいえ、総じてみればいい作品だと思います。 個人的には本筋よりも、徐々に戦争の影が忍び寄ってくる幕間部分の息苦しさのほうが印象に残りました。 また被害者であり加害者でもあるアウグステの罪の意識に代表されるような、善と悪をくっきりと色分けしない姿勢は、物語に深みと奥行きを与えているように感じました。 これだけのモノだったら3年かかっちゃうのも仕方ないかなと思いつつも、やっぱり次作はもう少し早くお願いします。
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本当にドイツ出身の人が書いているのではないかと思わせるくらい、描写が詳しかった。戦争の残酷さと悲惨さは十分に伝わって来た。ただ、翻訳物を読んでいるような読み進めにくい文章と、展開がもたもたしていてまどろっこしく感じた。ラストの謎解きも自分はそこまで面白いとは思えなかった。
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日本人作家が書いてるんだっけ!? と、思わず著者を見直してしまうほど綺麗に翻訳された外文の様な文章。 第二次世界大戦のドイツに自分も今そこにいる様な生々しい雰囲気に飲まれ、本を閉じた後もしばらくその生々しさが抜けない濃密さ。 恩人が毒殺された知らせを受け、敗戦者が課せられる軍隊か...
日本人作家が書いてるんだっけ!? と、思わず著者を見直してしまうほど綺麗に翻訳された外文の様な文章。 第二次世界大戦のドイツに自分も今そこにいる様な生々しい雰囲気に飲まれ、本を閉じた後もしばらくその生々しさが抜けない濃密さ。 恩人が毒殺された知らせを受け、敗戦者が課せられる軍隊からの理不尽な暴力と圧力の下、恩人の養子に訃報を知らせるために向かう。 過去と現在が混ざり合い、最終的な真相が明かされた後胸に広がるなんとも言えない複雑な気持ち。 戦争は何も生まない。 ベルリンは晴れているか。 今は曇っていてもらこれから胸に広がる黒雲も取っ払うほど晴れ渡ってほしい…そう願わずにはいられない。
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※このレビューにはネタバレを含みます
祖国が戦争に負けた。 それにより人々の運命は180度変わってしまった。 こんなにもあっさりと。 戦争というものは、領土や権力を争うことは、こんなにも人々の生き方を変えるのものなのか。 信じていた国や指導者に棄てられた上、他国に乗っ取られた人々の失望と怒り。 降伏の証として白い布を体に巻きつけなければならない屈辱。 それでも生きていく、底知れぬパワー。 「確かに色々ありました。でも今は、灰色の曇天がやっと晴れた心地でいます」 吹っ切れたように笑顔で語る主人公・アウグステ。 彼女の目に映るベルリンの空は、その後も爽やかな青空であることを祈る。 戦後を描いた『本編』と戦前戦中を描いた『幕間』のあまりの温度差に、遣りきれなくなる。 そしてこれら二つの物語が重なった時、ミステリの真実が明らかになりとても読みやすかった。 また、戦争に翻弄されるドイツについて具体的に知ることができた。 この時代を経験したかのようなリアルな文章にすっかり夢中になる。 直木賞候補作は3作品(本作と『熱帯』『宝島』)しか読んでいないけれど本作品が一番好き。
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1 2019年最初の読了。年始に読もうと思って積んでいたんだけど、大正解でした。 舞台は1945年、連合国軍に降伏して大混乱に陥っているドイツ。ミステリ仕立てでありながら、出会い、言葉を交わす人々から戦争とナチスがどれだけ惨たらしく奪っていったかを描く戦争小説でもあります。 戦争...
1 2019年最初の読了。年始に読もうと思って積んでいたんだけど、大正解でした。 舞台は1945年、連合国軍に降伏して大混乱に陥っているドイツ。ミステリ仕立てでありながら、出会い、言葉を交わす人々から戦争とナチスがどれだけ惨たらしく奪っていったかを描く戦争小説でもあります。 戦争については学校で習っただけの知識しかないのですが、戦争ものがとても苦手で、それでも最後のページまで連れて行ってもらえたのは、作者の祈りと物語の力だと思うのです。それは主人公アウグステがラストシーンで見た「光」からも明らかで、そのことをとてもとても心強く、頼もしく感じました。 両親を奪われたアウグステがイーダに託した希望もあっさりと踏みにじられる。それでも、失ったものの代わりに何かを守り、慈しもうとする心理がわかりすぎるほどにわかるからこそ、読者はアウグステと動揺に打ちのめされる。 怒り、絶望し、呪う。そんな激情を突き抜けた先の晴天のうつくしさに涙が止まりませんでした。
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直木賞候補作。 面白そうな本なのだが、テンポが好みに合わない。 一度は殺人犯の汚名を着せられたアウグステが真の犯人を探し出そうとする。 返却期限をオーバーしてしまったので結末は知らない…。 受賞したら186ページ辺りから読み直そう。
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アウグステ・ニッケルは17歳。米軍の兵員食堂で働く。彼女は英語ができたので、ドイツ敗戦後のこのベルリンで何とか生きている。一日の労働を終えて、疲れ切って集合住宅に帰ってきた。そんな彼女の部屋の扉を乱暴に叩いた者がいる。「合衆国陸軍憲兵隊だ。ここを開けろ!」憲兵にジープに乗せられて...
アウグステ・ニッケルは17歳。米軍の兵員食堂で働く。彼女は英語ができたので、ドイツ敗戦後のこのベルリンで何とか生きている。一日の労働を終えて、疲れ切って集合住宅に帰ってきた。そんな彼女の部屋の扉を乱暴に叩いた者がいる。「合衆国陸軍憲兵隊だ。ここを開けろ!」憲兵にジープに乗せられて連行された。アウグステは何をしたのかと戸惑っている。敗戦直後のベルリンの様子。疲れきったドイツ人たち。アメリカ人、イギリス人、ロシア人、フランス人が管理するベルリン。その中でアウグステは思いも知らない出来事に巻き込まれる。「幕間」で戦争初期の様子やユダヤ人が移住される様子、そしてアウグステの両親の様子などが描かれる。クラウス・コルドンの「ベルリン1945」で描かれた集合住宅の様子や町の様子が浮かんできた。
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ゆるゆると読んでいるうちに、今期の直木賞候補作となった。 納得の作品ではと思う。膨大な資料のもと、 戦時戦後のドイツを舞台にした、 日本作家が描かれたとは思えない素晴らしい作品。 まだ少女の面影を残すアウグステが落ち着きある冷めた目で、 時代に翻弄される人々を見つめる。 彼女が心...
ゆるゆると読んでいるうちに、今期の直木賞候補作となった。 納得の作品ではと思う。膨大な資料のもと、 戦時戦後のドイツを舞台にした、 日本作家が描かれたとは思えない素晴らしい作品。 まだ少女の面影を残すアウグステが落ち着きある冷めた目で、 時代に翻弄される人々を見つめる。 彼女が心から笑みを浮かべ、 澄み渡った空を見上げる日が来ることを願う。 ミステリー仕立てにもなっているが、 作品のほんの味付けになっているだけで、 それがこの物語の本質では無いのでは。 前回読んだ短編、 オーブランの少女を膨らました長編が読みたい。
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