ベルリンは晴れているか の商品レビュー
本作はミステリー小説であり、戦後小説であり、ドイツ小説でもある。 ミステリー的な部分は、クリストフというドイツ人男性が殺害されたことの端を発する。クリストフと関わりのあった本作の主人公のアウグステは、ユダヤ人男性のカフカとともに事件の真相に迫っていく。それはミステリーでもあるし...
本作はミステリー小説であり、戦後小説であり、ドイツ小説でもある。 ミステリー的な部分は、クリストフというドイツ人男性が殺害されたことの端を発する。クリストフと関わりのあった本作の主人公のアウグステは、ユダヤ人男性のカフカとともに事件の真相に迫っていく。それはミステリーでもあるし、ちょっとした冒険譚の様相も呈している。 そして戦後小説としては、終盤の1行がずっと心に残っている。 「(あとで引用する)」 自分から大切なものを奪った祖国の破滅すら願うという感情は、一体どれほどのものだったのか。 自分だったらその感情を乗り越えて、戦後の世界を生きていくことができるのだろうか。(実際に、終戦を受け入れることができずに自死を選択する人々が小説の中に登場する) だけど自分は間違いなく、それを経て生きてきた人たちの子孫なんだよなぁと思い至る。地続きなんだ。 そしてあれほど願った戦後の世界なのに、また違った形の不条理が溢れていたということが何よりも辛い。 ドイツ小説としては、日本との違いが浮き彫りになった。 アメリカ・イギリス・フランス・ソ連による分割統治。列強国のパワーの緊迫感は非常に良く描写されていると思った。小説の中ではお互いを罵りためのスラングがぼかされることなく出てくる。 そしてもちろん、ナチスによるユダヤ人の迫害や、同性愛への「治療」が行われていく様は、ゾッとした。 また、戦中と戦後を交互に描くような構成も良かった。2つの時間軸がラストへの収束していく様は、原田マハの「暗幕のゲルニカ」のようだった。 最後の場面は、アウグステは決して純粋な「自由」を手に入れたわけではなく、これからもずっと悩み考えていきていかなければ行けないということを表しているのかな?それは変な美談よりも、非常に現実的で、生きる活力さえもらえたような気がした。 また、作者がこの小説のために行った取材が note にまとめられているので、読んでいない方は是非。 『ベルリンは晴れているか』の取材写真: https://note.mu/fukamidorinowaki/n/nc95728cbcec8
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かなり厚みのある本 しかも内容が重い でも読むのをやめられない 著者はまだ若い日本人 すごい ただため息がでる 真実が明かされるラスト 1945年のベルリン どの民族国民にもあまりに残酷 ≪ 目を上げて 失った光 またみつめ ≫
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- ネタバレ
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一応、クリストフを殺した犯人は誰?ってミステリの体裁だけど、お世辞にも謎解きとは言い難く。まあ、「ただ訃報を知らせる為に」が、旅の動機として不自然…ってのが伏線ってことで。むしろ敗戦直後のドイツという舞台で、ドイツ人やソ連人やアメリカ人がどう過ごしていたのかが、すごくリアルに書き込まれているのに感心した。 「エーミールと探偵たち」、読みたくなった。
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ドイツ人少女アウグステ。戦争中大変世話になった男性が歯磨き粉に含まれる毒で死んでしまう。そのことでアウグステは犯人と疑われる中、元俳優の男性とともに、死んでしまった男性の甥に死を知らせようと旅立つ。 もうそこは戦後のベルリンでした。 ページをめくるとベルリンの世界が広がって、そ...
ドイツ人少女アウグステ。戦争中大変世話になった男性が歯磨き粉に含まれる毒で死んでしまう。そのことでアウグステは犯人と疑われる中、元俳優の男性とともに、死んでしまった男性の甥に死を知らせようと旅立つ。 もうそこは戦後のベルリンでした。 ページをめくるとベルリンの世界が広がって、その街を歩いているような感じになるくらい、しっかりとした空気で書かれていました。 誰が死に至らしめたかのか、なぜかだけではなく、その時代、戦後の米ソ英仏の占領下に置かれているベルリンの様子、いや、その前のナチスが筆頭になるまでの様子も人々の心理も詳細に書き上げられ、圧巻です。読んでて悲しくなる部分はたくさんです。「”戦争だったから”と自分に言い聞かせてきた」とかユダヤ人や障碍者への行為。私たちは歴史を振り返らねばなりませんね。「自由だ。もうどこにでもいける。なんでも読める。どんな言語でも」その言葉がとても重いです。 カフカが魅力的に書かれていました。手紙も良かったです。
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第2次世界大戦のヨーロッパ戦線にこだわる深緑野分さんの最新作。 直木賞の候補作にもなったので、注目されていましたね。 私は前作の「戦場のコックたち」がとても好きだったので、こちらの本も楽しみにしていました。 第2次世界大戦後、孤児として生きるアウグステのもとに、一人の男性の殺人事...
第2次世界大戦のヨーロッパ戦線にこだわる深緑野分さんの最新作。 直木賞の候補作にもなったので、注目されていましたね。 私は前作の「戦場のコックたち」がとても好きだったので、こちらの本も楽しみにしていました。 第2次世界大戦後、孤児として生きるアウグステのもとに、一人の男性の殺人事件をめぐる疑惑がもちあがる… とにかく重厚でテーマが暗く、明るい要素はありません! ただ、最後の謎解きには「ぎゃふん」という感じでした。 もう少しアウグステとカフカのキャラクター設定がはっきりしていると良かったかな…
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以前、この作者の「戦場のコックたち」を読んで すごい!と思った 作者はまだ若いのにナチス時代のドイツが まるで見てきたように描かれているのは 末尾の膨大な資料によるものだろう 前回は連合軍のアメリカの兵士が主役だったが 今回はドイツの少女が主役 ヒトラーが権力を握っていた時代は...
以前、この作者の「戦場のコックたち」を読んで すごい!と思った 作者はまだ若いのにナチス時代のドイツが まるで見てきたように描かれているのは 末尾の膨大な資料によるものだろう 前回は連合軍のアメリカの兵士が主役だったが 今回はドイツの少女が主役 ヒトラーが権力を握っていた時代は 迫害されたユダヤ人が注目されるが 一般のドイツ人もけして幸せではなかった 反ナチスの思想を持つ者は密告され処刑される そんな中、両親を殺され 自らも大変なめにあった少女が どう生きたのか 人が殺されたり死んだりするのが日常的な中で 殺人の意味を問う問題でもある ミステリーとしては 「戦場のコックたち」の方が衝撃が大きかった
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養伯父がアメリカ製の歯磨き粉で 何故殺されたのかという謎と 1945-46年頃のベルリンのロードノヴェルという 側面でリーダビリティはあるが いかんせん直視するのが痛々しいほどの 現実がそこに横たわる。 ただ読後感は希望が持てるようにはなっているので 私達に出来ることは 後ろか...
養伯父がアメリカ製の歯磨き粉で 何故殺されたのかという謎と 1945-46年頃のベルリンのロードノヴェルという 側面でリーダビリティはあるが いかんせん直視するのが痛々しいほどの 現実がそこに横たわる。 ただ読後感は希望が持てるようにはなっているので 私達に出来ることは 後ろから目を逸らさないで アウグステの一挙手一投足を見逃さないことぐらいだろう
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最後の10行を読み終えると、じわりと涙が流れ出した。涙はしばらく止まらない。余韻を胸に抱いたまま、しばらく涙を流れるままにしておいた。 読み始めてすぐに、終戦直後のベルリンの街が頭の中に立ち上がる。ドイツ人少女が人探しのミッションを受け、焦土となったベルリン近郊を歩く光景を...
最後の10行を読み終えると、じわりと涙が流れ出した。涙はしばらく止まらない。余韻を胸に抱いたまま、しばらく涙を流れるままにしておいた。 読み始めてすぐに、終戦直後のベルリンの街が頭の中に立ち上がる。ドイツ人少女が人探しのミッションを受け、焦土となったベルリン近郊を歩く光景を、まるで映画を見るかのように、頭の中では映像化されている。「ヒトラーの子供たち」というナチス時代のドキュメンタリーを見た直後なのでなおさらだ。現代日本の作家が、ここまで書ききれることに驚いてしまう。 主人公の独白をクライマックスに、暗転した舞台はしばらく静かな展開を見せる。少々説明口調が気になるところもあるが、静かに深く、想像力は深化する。最後の10行を読み終えると、感情の縁から涙があふれだす。そして、しばらくそのまま・・・。
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このミスベストに入ってるのを承知で推奨してます。なんでか~わたしほとんど海外ミステリーなんですよ。だけど、この本ホントに日本人が書いたの?翻訳ミステリー ちゅうか海外ミステリーですよ。この方の前作も読んでみようと思ってます。 洋食ばかりでなくたまに和食もとしかし、本が増えてかあち...
このミスベストに入ってるのを承知で推奨してます。なんでか~わたしほとんど海外ミステリーなんですよ。だけど、この本ホントに日本人が書いたの?翻訳ミステリー ちゅうか海外ミステリーですよ。この方の前作も読んでみようと思ってます。 洋食ばかりでなくたまに和食もとしかし、本が増えてかあちゃんにしかられてます。 置くところがないわよ。床がぬけるわよ。したがって本の選択と集中をはじました。 とまれ。中身はドイツ人作家が書いたようななかなかのミステリーです。
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- ネタバレ
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『戦場のコックたち』が良かったので似たような戦中・終戦直後のミステリーということで読んでみた。 戦時下・終戦直後のベルリンを舞台にしたというところが非常に興味深い。 巻末の参考文献一覧の数を見ただけでも、作家さんが相当この作品を描くために勉強・取材をされたことが分かるし、この作品を描くために相当の情熱を注がれたであろうことも分かる。 日本と同様、戦中の価値観が終戦後には180度変わってしまう。 だが日本と違うのはアメリカ軍だけではなく、ソビエト、イギリスと幾つもの国が入ってきてドイツの取り分について争っているところ。 個人的にはこのような状況に興味があったのでもう少し掘り下げてほしかったところだが、本筋はそこではないので仕方ない。 終戦直後の現在と戦時下の過去とが同時進行で描かれ、最後に双方がクロスするときにすべての謎が明かされる。 ミステリーでもありサスペンスでもあり、何か重いものを抱えてどこか諦めたような感すら見せる主人公とちょっとコミカルな相棒というキャラクターのバランスもあって、最後まで飽きさせずに読み手を引っ張ってくれた。 人の命など『国益』という名の権力の前では塵芥ほどの軽さしかなかった混乱期。 その中で起きた犯罪の重さは戦中と戦後では変わるものなのか。 もう一つのプロパガンダに加担した罪もどうなのか。こちらは何となく満州での李香蘭を思い起こさせた。それしか生きる道がなかったのだ、反抗すれば命がなかったという理由で許されるのか、だったら命を賭して反抗すれば良かったのか、それは誰にも答えは出せない。 絶望的な世界で次々起こる残酷な、事件とすら言えないほど日常的な出来事を淡々と描き、深刻なのに残酷になり過ぎず描いていく技量はさすがだと思った。 ドイツに限ったことではない、世界中で戦中・終戦後の混乱期に人々が抱えた傷は複雑で暗く深い。 戦争のことを語りたくない人が多いのも理解できる。
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