光の犬 の商品レビュー
p193 自分は光を放つわけではない。死んで灰になれば、なにも残らない。いやそうではないかもしれない。真で残るものがあるとすれば、それは言葉ではないか、と歩みは思う。わたしが父にむかって言ったことば、母にむかっていったことばはつかのまの空気をふるわせて、端から消えていく。それでも...
p193 自分は光を放つわけではない。死んで灰になれば、なにも残らない。いやそうではないかもしれない。真で残るものがあるとすれば、それは言葉ではないか、と歩みは思う。わたしが父にむかって言ったことば、母にむかっていったことばはつかのまの空気をふるわせて、端から消えていく。それでも父と母の記憶のなかに、いくつかのことばの断片は残るかもしれない。わたしの口からでたことばが、その人が死ぬまでのあいだ、耳の底にとどまる記憶として残ることがあるはずではないか。 p53 東方の賢人 3人からの贈り物 黄金、乳香、没薬(もつやく) p359 カトリックの典礼 最後の祈り 終油の秘蹟 3世代にわたる物語
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<poka> 歩が亡くなることはかなり最初ほのほうで示唆されていたが、亡くなる場面以降、冷静に読み進められなくなってしまった。落ち着いてから気を取り直して読み終えました。
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2020年に読了。静かによい。よいとつぶやいた。 読み終わりたくなくなる。年代記だからいつか終わる。でも終わってほしくない。 道場人物では、歩の動静に心惹かれた。面立ちが浮かんできそうで、すっと消えていく感じ。 また何年かしたら読む。読むはず。
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北海道の小さな町に生きた三世代の家族と、ともに生きた北海道犬の話。寒い土地を舞台にした静謐な物語。マクラウドの短編を思い出した。家族の分かり合えなさ。
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三代に渡る添島家の家族、そしてその周辺の人々の話。話の視点が複雑に入れ替わり、時間軸もあっちへ行ったりこっちへ行ったりでこちらも探りさぐりの読書を強いられる(そういう効果を意識してのことだろうが…)。 関係者を含め、みんな性格は違えどもどこか心の底で醒めているような節があり、お互いに踏み込んで関係を維持しようとか、変えていこうとはしない。そんな添島家はいつしか子供が途絶え、全員が老いてゆっくり欠けていくことになる。初老ながら一番若い始は一族の「消失点」を意識しながら田舎へ帰り、一人一人が自我を失い死んでいくのを看取る役割を引き受けるのだ。 いつもながら文章は非常にきれいで、文章がたんたんと進んでいく中にはっとするような表現がたくさんある。だけど登場人物たちの希薄な関係にともなう空虚さ、病気や老いの重苦しさが小説全体を覆っていて読んでいる私のほうも窒息しそうになってしまう。そしてその行き場がどこにもないまま終わる。 この人の小説の家族や恋人って常に関係が冷めきっているように思う。惹かれ合う段階の恋人でも、なんだか明日になれば別れていても不思議でないような雰囲気がある。最後の方にはその不安感が主人公のつかみ取る観念のようなものによって昇華し、吹き上がって抜けていく美しさを感じるんだけど、今回は重たさはあってもそういった昇華の実感がなかったような…。同じように一族を書いた話に角田光代のツリーハウスがあったけど、私はそちらの方が凄みを感じて好きかも。
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2017年。もとは「新潮」2015年9月~17年5月号連載。 23の章からなるが、連載時の回とは一致しないのだろう。後半の章は短め、たった2ページの章もある。 北海道北見に近い架空の町枝留、明治時代に信州から東京の里子にだされ、また実家に戻ったのち産婆となった主人公添島始の祖母...
2017年。もとは「新潮」2015年9月~17年5月号連載。 23の章からなるが、連載時の回とは一致しないのだろう。後半の章は短め、たった2ページの章もある。 北海道北見に近い架空の町枝留、明治時代に信州から東京の里子にだされ、また実家に戻ったのち産婆となった主人公添島始の祖母から、両親、叔母ら、早逝した姉、その幼馴染で近くの教会の牧師を継いだ男性、友人など。3代前からの家族や身近な人々の様子や思いを、松家らしく丁寧な筆致で描き出す。主人公は松家と、すなわち私とも同年代。子供時代があり、青春期があり、周囲の人を見送り、やがて自分も老いていく。「火山ふもとで」に似る構成と書きぶりでしみじみする。 タイトル「光の犬」というのは、3代飼い続けた北海道犬のことと、牧師の家の子の名前光、そして家に差し込む光を指してこれからの時間の流れを言うのだろう。が、もう少しなんかいいタイトルはつけらっれないのかと思う。
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文体がさほど難しいわけではなく読みやすいのだけれど、物語が一つの家族の何世代に渡った時代のエピソードをちりばめながら進んでいくので、サーと読み流すことができず、じっくりゆっくり読み進んでいきました。ここまで作者によって計算された事なのでしょうね。久しぶりに読み応えがある本、しっかりと満足感のある本です。 血族、親戚、家族間の複雑で細かいリアルな心理描写、作中に現れる様々な死の描写が、リアルで他人事ではなく、身につまされるというか、こんな家族が今現代の日本中のあちこちにありふれていて、日本の今の家族のリアルを突きつけ、嗤われているようで、ただ現実をしっかり客観的に俯瞰的にみさせてくれる、そんな助けにもなったような気がします。 ただ時代はどんどん進んでいき、近い将来にこの本も、昔の家族の在り方を教えてくれる貴重な資料の一つになるんだろうなぁと思いました。
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タイトルの犬(北海道犬)が中心、もしくはそれに沿った内容かと思っていたけど、そうではなく、代々北海道犬を飼っていた一家の生涯がたんたんと語られている内容だったので、期待は外れでした。ただ、後半以降は興味を持って読むことができましたが、相対的に物理や科学などの論理が入って、難しくつまらない場面も多かったです。
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約110年!の物語。場所も時間軸も前後左右、自在にwarpします。が、惹き付けられてどの細部も素晴らしい。『沈むフランシス』表紙写真の犬、参考までに。
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デビュー作「火山のふもとで」は格調高い文学作品で、ブルジョア臭がプンプンしつつもそこがまた悪くない佳作でした。デビュー作でこれかよと目を見張りましたが、そもそも編集者な上に大昔に一度文学賞受賞歴があったようです。 本作は4作目にあたるようですが、今作もまた重厚な作品で、面白いと...
デビュー作「火山のふもとで」は格調高い文学作品で、ブルジョア臭がプンプンしつつもそこがまた悪くない佳作でした。デビュー作でこれかよと目を見張りましたが、そもそも編集者な上に大昔に一度文学賞受賞歴があったようです。 本作は4作目にあたるようですが、今作もまた重厚な作品で、面白いとか楽しいとか、悲惨とか感動するというような分かりやすい要素がほぼ皆無にも関わらず、名作だと思いました。 4世代に渡る有る一家の物語で、色々な小さな波乱はありますが基本的に大きな波には至らず、皆時間経過と供にこの世から消え去っていきます。 人生ミルフィーユの一部を切り取ったという趣きの本で、誰かが主人公というわけでは無く綿々と続いてきた血脈が有る枝では栄え、ある枝では途絶えていく。その姿を一族の一人一人の視点で静かに見つめています。 年老いていく親族、若くして亡くなる兄弟。時間を行きつ戻りつして描くタペストリー、又は積み重なる地層は次第に厚みを増していきますが、読むうち気がつくのは各々の後ろに続く重厚で重みのある血の轍です。 読んでいると自分の一族の一人一人の顔が思い浮かびます。気持ちが沈み込んで静かになっていきます。悲しい訳ではないけれど心の中に小石がころりと転がっているのをじっと見ているような気持になります。 正直文学的な事に疎いのですが、紙面から立ち上る雰囲気に僕は文学を感じました。
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