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忘れられた巨人 の商品レビュー

4

137件のお客様レビュー

  1. 5つ

    27

  2. 4つ

    68

  3. 3つ

    17

  4. 2つ

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2024/05/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

難しい。でも好き。 文章力が半端なく素晴らしい。 アクセルの妻を呼ぶ時の「お姫様」に、いちいちキュンとするんだよね。 最後、どうなるんだろうか、、、島で再会して欲しいけど、ま、別れるってことなんだろうな、、この書き方は、、、 6~7世紀、イギリス、グレートブリテン島の架空の世界観でのお話。 アーサー王亡き後、ブリトン人とサクソン人の戦いの傷は、雌龍の作り出す記憶忘却の作用がある霧の存在により、平和を保っている。 息子に会いに旅に出る老夫婦、アーサー王の甥であり、いまは龍を守護している老騎士、その龍を倒すべくやってきた戦士、オオカミに傷つけられ生まれ故郷から脱出せざるを得なかった少年、それぞれの行きつく先がどうなるのかハラハラしながら読んだ。

Posted byブクログ

2024/05/04

当時のイギリスの風土・風習など私が知り得るはずもないけれど、ずっと靄のかかっている様な世界観。愛し合っているはずの老夫婦の噛み合わない会話、見ているものでさえ、本当に同じもの見ているのかさえ分からない、そしては更に記憶さえも靄がかかっていて、確かだと思われたものさえだんだん崩れて...

当時のイギリスの風土・風習など私が知り得るはずもないけれど、ずっと靄のかかっている様な世界観。愛し合っているはずの老夫婦の噛み合わない会話、見ているものでさえ、本当に同じもの見ているのかさえ分からない、そしては更に記憶さえも靄がかかっていて、確かだと思われたものさえだんだん崩れていく。年老いた夫が妻を「お姫様」と呼ぶところが好きでした。 上手く言えないけれど、人生というものは所詮勘違いでみんな靄の中をふらふら歩きながら進んでいるようなものだという示唆だったのかな。別れは突然やってくるけれど、それもまた現実を示唆している気がしました。

Posted byブクログ

2024/03/26

カズオ・イシグロのファンタジー小説。残りのページ数を考えると、読み終えるのがもったいないと思いながらの読書でした。 5世紀以降、グレートブリテン島の先住民族であるブリトン人の世界に、サクソン人が侵攻してくるようになります。ブリトン人は、アーサー王の下で侵入者と戦い、王亡き後も戦...

カズオ・イシグロのファンタジー小説。残りのページ数を考えると、読み終えるのがもったいないと思いながらの読書でした。 5世紀以降、グレートブリテン島の先住民族であるブリトン人の世界に、サクソン人が侵攻してくるようになります。ブリトン人は、アーサー王の下で侵入者と戦い、王亡き後も戦争もなく平和な日々を暮らしていました。 しかし、かつては血で血を争う戦いを繰り広げたブリトン人とサクソン人が、平和理に隣り合わせで暮らせているのは、人々の記憶が忘却の彼方に消え失せてしまう奇妙な現象が関係していました。それは遠い過去だけでなく、ごく最近に起きたことでさえ忘れられてしまいます。 ある時、記憶がなくなる異変に薄々気づき始めた老夫婦が、記憶の片隅を占めている遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村をあとにして旅立ちます。それは、2人にとって確かな記憶を取り戻し、夫婦の絆を深める旅でもありました。 そこは、鬼が跋扈し妖精が住む世界。途中、アーサー王ゆかりの竜退治を唱える老騎士、竜の呪いがかかった少年、若きサムソン人の戦士、高徳の修道僧など、さまざまな人たちと出会いや別れを経験し、老夫婦は旅して行きます。はたして二人の行く末は… 最終章だけ船頭が語り手になり、老夫婦と探し求めた息子のことが明らかになります。そこで、最後に老人の言った「霧にいろいろ奪われなかったら、わたしたちの愛はこの年月をかけてこれほど強くなれただろうか。」という言葉が印象的でした。忘れていたからこそ築けた愛と、忘れていた記憶が戻って振り返る過去を思うと、忘れたままの方がいいと自分なら思いますが、夫婦は自分たちの人生を最後に受け入れたところが感慨深かったです。 それにしても、『第二章』の雨宿りに入った廃屋での船頭の発言「そもそも、本来ならわたしたちは今日ここで出会ってはいけなかったんです。」や『ガウェインの追憶-その一』での後家の発言が重要だったんだなと、最後まで読んで気付かされました。 ところで船頭の名前はカロンかも知れないですね。読み終わった後、ロックバンドSTYX(スティクス:ギリシャ神話の三途の川という意味)の名盤Cornerstone 収録『Boat on The River』を聴きながら、いろんなシーンを回想したりしていました。

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2024/02/27

なぜか本棚で眠っていた文庫本 読み始めた 〈 ブッカー賞作家の静謐な長篇 遠方の息子に会うため老夫婦は村を出た。戦士、少年、老騎士……様々な人々に出会いながら、ふたりは謎の霧に満ちた大地を旅する 〉 4,5世紀のイギリス 今まで興味もなく、だから分かりにくかった 原題 &qu...

なぜか本棚で眠っていた文庫本 読み始めた 〈 ブッカー賞作家の静謐な長篇 遠方の息子に会うため老夫婦は村を出た。戦士、少年、老騎士……様々な人々に出会いながら、ふたりは謎の霧に満ちた大地を旅する 〉 4,5世紀のイギリス 今まで興味もなく、だから分かりにくかった 原題 "The Buried Giant" 直訳すれば「埋葬された巨大な何か」となるらしい イシグロの言葉 〈『忘れられた巨人』においてわたしが書きたかったテーマは、ある共同体、もしくは国家は、いかにして『何を忘れ、何を記憶するのか』を決定するのか、というものでした〉 平和のために土に埋めて隠した残酷な歴史の記憶 壮大なテーマ 情景描写が美しく苦労しながらも読み進めた 霧に覆われたように静かだった 私たち、何か、忘れさされているような…… ≪ 民族の 記憶と思考 霧の中 ≫  

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2023/12/22

愛の証明をなぜ「過去の記憶」に依拠させるのか?過ぎ去りし時間の記憶に証明の根拠など在るわけがない。それを指し示したいなら、示すべきは常に「今」だろう。今この瞬間に、二人が共にいること、もしくは同じような思いを共有していること以外に、何の証明の力もない。 と、思って読み始めていた...

愛の証明をなぜ「過去の記憶」に依拠させるのか?過ぎ去りし時間の記憶に証明の根拠など在るわけがない。それを指し示したいなら、示すべきは常に「今」だろう。今この瞬間に、二人が共にいること、もしくは同じような思いを共有していること以外に、何の証明の力もない。 と、思って読み始めていたが、その「今」に確信を得るために過去が必要になるのだろうと、最後まで読むと思う。それほどまでに「今」は脆く儚い。過去という積み上げた土台の上でしか存在し得ないものなのだな。 しかもそれを確信にするためには、対話の相手を必要とする。やはり我ら思うゆえに我ら在りなのだなと思う。自己も愛も己一人では、微妙に揺れ続けてしまう。その揺れが大きくなったとき、何らかの不調を起こすのだろう。 あとがきにあった、「忘却か対話か、戦争か」併記は面白い。対話と黙過を繋ぐ道筋、そしてそれに伴う怒りの道筋がそこに在る。 もう怒りたくないから考えない…と言った人がいる。共有されない思い=それを抱えた「私」は否定され、いずれ忘却を生むのか。

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2023/11/12

記憶は事実と異なり、同じかたちにとどまらない。消えたはずの記憶が戻ってくることもあるし、葬られたままの記憶もある。そんな記憶の覚束なさがベールとなって作品を覆っていた。国の記憶、個人の記憶。歴史の外縁には記憶の霧が立ちこめている。 尊敬すべき隣人も、異民族と知るや憎むべき相手に...

記憶は事実と異なり、同じかたちにとどまらない。消えたはずの記憶が戻ってくることもあるし、葬られたままの記憶もある。そんな記憶の覚束なさがベールとなって作品を覆っていた。国の記憶、個人の記憶。歴史の外縁には記憶の霧が立ちこめている。 尊敬すべき隣人も、異民族と知るや憎むべき相手に変える愚かな転換装置をもつ人間。なんのために争うのかもよくわからないまま、「相手を憎め」というメッセージだけ継承し人類は現在まで歩んできた。残酷さは記憶を失うことで影を潜めていたが、巨人として育っていた。 歴史や伝説は、実際そのとき精一杯生きた人間の記憶の部分を削ぎ落とされて形づくられている。アーサー王伝説はある一種の記憶の美化として遺ったが、記憶というものは本来、繁茂するヘザーのように絡み合い、霧のようにとらえどころがないものだ。そんなようなことが物語全体にとてもよく表されている。 (以下、雑記) 老夫婦と騎士と少年がそれぞれの思いを抱え竜退治に向かう。老夫婦は記憶が戻らないのは竜のせいだと聞いて竜は死すべきと考える。 竜を退治してから巨人が現れることになるだろうと書かれているのは、記憶(巨人)を匿っていたのが竜だから。ガウェイン卿は竜を護るため最後まで戦う。ガウェインはアーサー王に仕えるものとして、アーサー王の成し遂げたことが正しいとする信念を貫きたいがため竜を護った。しかし一方で彼は揺らいでいる。迷っている。老夫婦の夫アクセルとはアーサー王のもとで仲間であったかれは、迷える羊として描かれている。

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2023/08/02

人間て忘れることができる だからこそ前を向いて生きていけるのだとも思う しかし失ってしまったものを思い出してそれを励みに生きていくことも大切だし良いことも悪いことも胸に秘め反省しながら成長もできるのだと思う 最後の結末は解釈が難しいけどきっと良いことも悪いことも甦り少し時間を経て...

人間て忘れることができる だからこそ前を向いて生きていけるのだとも思う しかし失ってしまったものを思い出してそれを励みに生きていくことも大切だし良いことも悪いことも胸に秘め反省しながら成長もできるのだと思う 最後の結末は解釈が難しいけどきっと良いことも悪いことも甦り少し時間を経てやっぱりと言って戻ってくるのだと思う 現実をポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかだと思う

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2023/07/16

エンタメ小説のようにぐいぐいと読ませるものではない。 それは当然としても、この世界を堪能した先に何が見えてくるのかは大事だろう。 令和版「作家の値打ち」で最高の99点評価であったが、どうだろうか。

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2023/07/02

アーサー王伝説をベースにしたファンタジー小説。 ブリトン人とサクソン人が、「巨人」、を忘れさせてくれる雌竜クレイグのおかげで見かけ上平和にやってこられている国が舞台。 しかしその忘却に疑問を持ちはじめた老夫婦が、ある日息子の村を訪ねようと思い立ち旅に出、その過程で出会う戦士や騎士...

アーサー王伝説をベースにしたファンタジー小説。 ブリトン人とサクソン人が、「巨人」、を忘れさせてくれる雌竜クレイグのおかげで見かけ上平和にやってこられている国が舞台。 しかしその忘却に疑問を持ちはじめた老夫婦が、ある日息子の村を訪ねようと思い立ち旅に出、その過程で出会う戦士や騎士に巻き込まれる形で旅は思いがけず冒険に・・・。 タイトルの「巨人」、ファンタジーなので実際に巨人が出てくるのかと思っていたのだけれどもラストの方でその意味が明らかになる。なるほど。 そして冒険譚という物語と並行して走るのが、忘却の影響を受けている老夫婦の愛。 忘れたからこそ強くなった絆。そして強くなった絆のはかなさ。 「日の名残り」を読んだときにも感じた、上品で読みやすく、美しい文章に加わる独特の語り口。やっぱり好きだな。 ファンタジーはもともとそんなに食指が動かない方だったのだけれども、これは楽しめた。よかった。

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2023/06/12

6世紀頃のイングランド。横穴式の洞窟にある村々は、健忘の霧に覆われ、村人は過去の記憶が不鮮明となり、手探りのように今を生きている。 そんな設定なので、登場人物の会話も手探り、読者も霧の中で物語を見守らざるを得ない。人が人らしく生きていくためには、アイデンティティが必要である。過去...

6世紀頃のイングランド。横穴式の洞窟にある村々は、健忘の霧に覆われ、村人は過去の記憶が不鮮明となり、手探りのように今を生きている。 そんな設定なので、登場人物の会話も手探り、読者も霧の中で物語を見守らざるを得ない。人が人らしく生きていくためには、アイデンティティが必要である。過去の記憶がないということは、すなわち自我喪失状態であり、読んでいても気持ちがおぼつかなくなるのだが、ぼんやりと夫婦であるという認識のブリトン人の老夫婦は、自分たちの息子を訪ねて旅に出る。 しかし、カズオ・イシグロとは達者な書き手だ。「日の名残り」のような伝統的な英国小説をしたためたかと思うと、「私を離さないで(SF)」、「クララとお日さま(童話)」、そしてこの作品(ファンタジー)のように、ガラッとジャンルを変え、心に刺さるテーマを突きつけてくる。(ひとり映画配給会社みたいな)足を踏み入れた時はやさしげだが、どれも謎々が多く、あとくちもほろ苦い。 「忘れられた巨人」のこの老夫婦は旅の道すがら、さまざまな出来事に出くわす。全体は4部に分かれているが、各パートの主題は分かりづらい。それでも昔話を聞いているかのごとく、懐かしさを覚えながら先に進める。心理学者ユングが語る深層心理の原型、追憶の共通概念とかいうのを思い出す。 イシグロは記憶やアイデンティティを扱うのが好きだ。これは、彼が二つの祖国を持つことと、関係あるのだろうか? さて物語は、緑の騎士と戦ったことで有名なアーサー王の家臣ガウェインが登場する辺りから面白くなる。アーサー王伝説を読んでいる気分。 ただ結構、冗長。ファンタジーとして読むにはファンタジーなりの展開のテンポが足りないし、一般的な小説として読むには心理描写がモヤモヤ過ぎる。つかみどころのない会話ばかりで登場人物への感情移入すら難しい。(まあ、そもそもがモヤモヤ話なのでね) 正直、端折って読み進もうかとも思ったが、そこは我慢。ラストの二章でやっと物語の霧が晴れ、テーマがわかった。 カズオ•イシグロにはやはり東洋的思想があるのかな? 騎士ガウェインも、健忘の霧を吐く雌竜も最後が切ない。 老夫婦は、きっと一緒には島に渡れないのだろう。 この老夫婦の別れに、先立った母を追うように亡くなった父の姿が重なった。

Posted byブクログ