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忘れられた巨人 の商品レビュー

4

140件のお客様レビュー

  1. 5つ

    28

  2. 4つ

    69

  3. 3つ

    17

  4. 2つ

    7

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2023/07/16

エンタメ小説のようにぐいぐいと読ませるものではない。 それは当然としても、この世界を堪能した先に何が見えてくるのかは大事だろう。 令和版「作家の値打ち」で最高の99点評価であったが、どうだろうか。

Posted byブクログ

2023/07/02

アーサー王伝説をベースにしたファンタジー小説。 ブリトン人とサクソン人が、「巨人」、を忘れさせてくれる雌竜クレイグのおかげで見かけ上平和にやってこられている国が舞台。 しかしその忘却に疑問を持ちはじめた老夫婦が、ある日息子の村を訪ねようと思い立ち旅に出、その過程で出会う戦士や騎士...

アーサー王伝説をベースにしたファンタジー小説。 ブリトン人とサクソン人が、「巨人」、を忘れさせてくれる雌竜クレイグのおかげで見かけ上平和にやってこられている国が舞台。 しかしその忘却に疑問を持ちはじめた老夫婦が、ある日息子の村を訪ねようと思い立ち旅に出、その過程で出会う戦士や騎士に巻き込まれる形で旅は思いがけず冒険に・・・。 タイトルの「巨人」、ファンタジーなので実際に巨人が出てくるのかと思っていたのだけれどもラストの方でその意味が明らかになる。なるほど。 そして冒険譚という物語と並行して走るのが、忘却の影響を受けている老夫婦の愛。 忘れたからこそ強くなった絆。そして強くなった絆のはかなさ。 「日の名残り」を読んだときにも感じた、上品で読みやすく、美しい文章に加わる独特の語り口。やっぱり好きだな。 ファンタジーはもともとそんなに食指が動かない方だったのだけれども、これは楽しめた。よかった。

Posted byブクログ

2023/06/12

6世紀頃のイングランド。横穴式の洞窟にある村々は、健忘の霧に覆われ、村人は過去の記憶が不鮮明となり、手探りのように今を生きている。 そんな設定なので、登場人物の会話も手探り、読者も霧の中で物語を見守らざるを得ない。人が人らしく生きていくためには、アイデンティティが必要である。過去...

6世紀頃のイングランド。横穴式の洞窟にある村々は、健忘の霧に覆われ、村人は過去の記憶が不鮮明となり、手探りのように今を生きている。 そんな設定なので、登場人物の会話も手探り、読者も霧の中で物語を見守らざるを得ない。人が人らしく生きていくためには、アイデンティティが必要である。過去の記憶がないということは、すなわち自我喪失状態であり、読んでいても気持ちがおぼつかなくなるのだが、ぼんやりと夫婦であるという認識のブリトン人の老夫婦は、自分たちの息子を訪ねて旅に出る。 しかし、カズオ・イシグロとは達者な書き手だ。「日の名残り」のような伝統的な英国小説をしたためたかと思うと、「私を離さないで(SF)」、「クララとお日さま(童話)」、そしてこの作品(ファンタジー)のように、ガラッとジャンルを変え、心に刺さるテーマを突きつけてくる。(ひとり映画配給会社みたいな)足を踏み入れた時はやさしげだが、どれも謎々が多く、あとくちもほろ苦い。 「忘れられた巨人」のこの老夫婦は旅の道すがら、さまざまな出来事に出くわす。全体は4部に分かれているが、各パートの主題は分かりづらい。それでも昔話を聞いているかのごとく、懐かしさを覚えながら先に進める。心理学者ユングが語る深層心理の原型、追憶の共通概念とかいうのを思い出す。 イシグロは記憶やアイデンティティを扱うのが好きだ。これは、彼が二つの祖国を持つことと、関係あるのだろうか? さて物語は、緑の騎士と戦ったことで有名なアーサー王の家臣ガウェインが登場する辺りから面白くなる。アーサー王伝説を読んでいる気分。 ただ結構、冗長。ファンタジーとして読むにはファンタジーなりの展開のテンポが足りないし、一般的な小説として読むには心理描写がモヤモヤ過ぎる。つかみどころのない会話ばかりで登場人物への感情移入すら難しい。(まあ、そもそもがモヤモヤ話なのでね) 正直、端折って読み進もうかとも思ったが、そこは我慢。ラストの二章でやっと物語の霧が晴れ、テーマがわかった。 カズオ•イシグロにはやはり東洋的思想があるのかな? 騎士ガウェインも、健忘の霧を吐く雌竜も最後が切ない。 老夫婦は、きっと一緒には島に渡れないのだろう。 この老夫婦の別れに、先立った母を追うように亡くなった父の姿が重なった。

Posted byブクログ

2023/05/25

初めて堪能するイシグロ作品。 現代においてここまでのファンタジー小説を描けることに感動しつつ、かなりボリュームがあるので読むのに時間がかかり、何度も遡って読み返しながら進めていた。 「記憶」という漠然としたテーマを置きながらも、夫婦間の記憶、隣人との記憶、さらには国と国の記憶な...

初めて堪能するイシグロ作品。 現代においてここまでのファンタジー小説を描けることに感動しつつ、かなりボリュームがあるので読むのに時間がかかり、何度も遡って読み返しながら進めていた。 「記憶」という漠然としたテーマを置きながらも、夫婦間の記憶、隣人との記憶、さらには国と国の記憶など、記憶をさまざまなスケールに伸び縮みさせている。 憎しみや怒りの記憶は忘れるべきなのか、ただ平和な記憶だけを残すべきなのか、記憶をめぐって葛藤されていく人物たちに、自分自身を投影してしまう。 この物語の結末をどう捉えるかは、読むタイミングによって印象が変わる。けれどいつ読んでも前向きに捉えたいという気持ちはどこかある。

Posted byブクログ

2023/04/07

記憶が失われていくことは幸か不幸か。 記憶を奪う「霧」に疑問を抱き、消えゆく記憶を頼りに息子に会いにいく老夫婦の旅物語。 刺激的な展開やロマンスがあるわけではなく、物語全体にも霧がかかったように、最後まで話が見えにくい。 にもかかわらず、読後には何が正解だったのか、ラストをどう解...

記憶が失われていくことは幸か不幸か。 記憶を奪う「霧」に疑問を抱き、消えゆく記憶を頼りに息子に会いにいく老夫婦の旅物語。 刺激的な展開やロマンスがあるわけではなく、物語全体にも霧がかかったように、最後まで話が見えにくい。 にもかかわらず、読後には何が正解だったのか、ラストをどう解釈するか、とにかくこの物語について考察したくなり、作品の世界に引き込まれていたことに気がつく。海外文学を読み慣れていない人にはおすすめできないが、カズオイシグロの巧さを感じられる作品。

Posted byブクログ

2023/03/22

 続きを気にさせる感じは共通だけど、他のカズオイシグロ作品と違って心理描写が少ない作品だなと思いました。純粋に僕が理解できる部分が少なかった…  特にベアトリスが記憶を保持不能な時にはアクセルと離れ離れになるのをすごい恐れているのに、記憶保持可能になった途端、離れ離れになろうとす...

 続きを気にさせる感じは共通だけど、他のカズオイシグロ作品と違って心理描写が少ない作品だなと思いました。純粋に僕が理解できる部分が少なかった…  特にベアトリスが記憶を保持不能な時にはアクセルと離れ離れになるのをすごい恐れているのに、記憶保持可能になった途端、離れ離れになろうとするのがよく分からなかった。島を渡る行為が死を意味するのだろうけど、記憶が戻った途端に島を1人で渡ろうとするのはなんでなんだろう。

Posted byブクログ

2023/01/22

ファンタジー的な要素はあるものの、人と人との諍いや愛情とはどういうふうに成り立っているのか、ということを、ふと考えさせてくれる一冊。 ロシアのウクライナ侵攻が一年間に及んでいるいま、多くの人に読んでもらいたい作品の一つ。 ぜひ。

Posted byブクログ

2023/01/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

以前から気になっていた作家で、映画化された『日の名残り』は観たことがある。ストーリーはとても興味深い、なのに物語に入り込めなかった。なぜか。

Posted byブクログ

2023/01/09

いっぱつめの過去のことが思い出せないシーンから、「ああ、これもカズオイシグロの『過去の記憶』にまつわる話なんだ」と直感した。 そして実際にその通りだった。 これだけ同じテーマをさまざまな描き方で小説にできるの本当にすごいな。 アーサー王物語は読んだことないし、グレートブリテンの歴...

いっぱつめの過去のことが思い出せないシーンから、「ああ、これもカズオイシグロの『過去の記憶』にまつわる話なんだ」と直感した。 そして実際にその通りだった。 これだけ同じテーマをさまざまな描き方で小説にできるの本当にすごいな。 アーサー王物語は読んだことないし、グレートブリテンの歴史や民族的葛藤にも全く精通していないし、SFは好きじゃないのに、それでもぐんぐん読み進めることができたのはひとえにカズオイシグロの筆力による。 「健忘の霧が晴れてどんなことを思い出してしまっても今私があなたを愛しているこの気持ちは確かに存在していることを忘れないで」というアクセルのセリフ、 今の私は「未来がどんなふうになるか誰にも分からないしどんなふうになったとしても、今私があなたをこんなに愛している気持ちが存在することを忘れないで」 と思いながら読んだ。 次読む時はまた別の気持ちを抱くのかな。 良き小説は読み返すのも楽しみだ。 ラストシーンは、何を意味するのだろう? 結局2人は離れ離れになってしまいそうな最後を書くことで、カズオイシグロは何を言いたかったの???

Posted byブクログ

2022/12/05

最後までピンとこなかったが、読み終わると物語の風景がいつまでも心に残っている。不思議な読み応えがある作品だった。

Posted byブクログ