銀の猫 の商品レビュー
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市井人情物の器を借りて、今現在日本の社会的課題である「老人介護問題」を語る作品。この目の付け所がまずすごいなぁと思った。 ついこないだ、父親を看取った俺にとって、出会うべくして出会ったような1冊。「親父が生きている間に読めたら」と思わなくもないが、むしろこのタイミングだからこそ、冷静にこの本を読めたんだろうと思う。 ・介護を一人で抱え込むな。 ・身内がすべてを抱える必要はない、プロの手を借りるのが一番の解決方法な時もある。 ・介護を経験した人は、子供に自分の介護をさせたくない。 ・死は誰にでもやってくるもの、その生き様は様々だけど、本人も家族もその瞬間に向かって誠実に一生懸命に気持ちを固めていこう。等々 なるほどそうやな、と思える記載がたっぷり。一つ一つの掌編の出来も良く、全体のまとまりもきっちりハッピーエンドで、しかも教訓が嫌味じゃない程度に詰まっている。 朝井まかて、うならさせる1冊を今回も描き上げてきたなぁ、いや上手い上手い。 主人公の母親は許せんなぁ。不器用な生き方で済ませられるものではない。野垂れ死ねとかバチ当たれとか…そんなん思うのも良くないのだろうけど、ハッピーエンドに包み込んでしまうと、ちょっとしっくりこないなぁ。と、これは完全に趣味の問題だけど。
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朝井まかてさんの人情ものはいつだって心地好い。 江戸で年寄りの介抱を助ける「介抱人」の仕事をしているお咲の物語。 江戸時代に現代の介護士のような仕事があるとは知らなかった。 江戸の町が長寿の町で、長生きする人が多かったことにも驚きだった。 けれど江戸と平成、時代は違っても思うことは皆同じで、介抱する側もされる側も何かと大変だ。 年寄りの症は一人一人異なる。生き方が違うように老い方もまたそれぞれ。 若い頃から何かと苦労続きのお咲は気立ても良く気配りもできる女性で、そんな年寄り一人一人の気持ちに寄り添い、気遣いながらそっと手助けのできる素晴らしい介抱人。 出来れば私も将来、こんな女性に介護を頼みたい。 そしてお咲の周囲の人達の温かい繋がりにもほっとする。 温かくて清々しくてしみじみ泣ける…そんなまかてさんらしい作品だった。
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「最悪の将軍」もそうだったのだが最近のまかてさんどうもタイトルがよくない、だってあの「銀の匙」と丸被りじゃないか。 とは言っても内容の良さは安定のブランドで江戸時代の介抱人とはよく目を付けたなと思うものの忠義だけでなく孝行にも厚い綱吉の資料からのスピンオフかなとも勘ぐってみたり。...
「最悪の将軍」もそうだったのだが最近のまかてさんどうもタイトルがよくない、だってあの「銀の匙」と丸被りじゃないか。 とは言っても内容の良さは安定のブランドで江戸時代の介抱人とはよく目を付けたなと思うものの忠義だけでなく孝行にも厚い綱吉の資料からのスピンオフかなとも勘ぐってみたり。 そんな中ヒロインお咲は高田さんとこの下がり眉ほど波乱万丈でもなくごくごく普通のスーパー庶民、この控えめさが逆に個性派揃いの取り巻きを引き立たせ重苦しいテーマを感じさせない軽妙な人情噺に仕上がった。 続編もありそうな雰囲気もあるが「何事も引き際が肝心」がオチでしょうかね
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なるほどなあ。言ってしまえば“介護”の話。老い、血縁、貧困、苦労、いろんな複数要素はあるけど。お江戸を舞台に、介護をテーマにしたものははじめて読んだかもしれない。やはり浅井さんは、江戸×庶民×人情みたいなストーリーが秀逸だとおもう、じんわり胸に沁みた。 いわゆる毒親のせいで借金を...
なるほどなあ。言ってしまえば“介護”の話。老い、血縁、貧困、苦労、いろんな複数要素はあるけど。お江戸を舞台に、介護をテーマにしたものははじめて読んだかもしれない。やはり浅井さんは、江戸×庶民×人情みたいなストーリーが秀逸だとおもう、じんわり胸に沁みた。 いわゆる毒親のせいで借金を背負って離縁され、通いの女中奉公より実入りのよい(介抱人)として、その毒親を養いつつ苦労を背負って生きているお咲。義父との思い出、いつも胸にある守り猫。口入屋の鳩屋の夫婦。おなじ長屋の菊売りの庄助、痴呆の母おきん。ひょんなことからそれを助けることになるおぶん。毒親の佐和と、情夫の三光。実情に沿った介護指南書を作りたいといいだした佐分郎太。白翁と用人の大野、お松とお梅の姉妹。芸妓の染吉と母お蔦。お咲が派遣先でかかわる家うちでの“介護の話”がたんたんと短編になっているわけでなく、出会った人物もつながっていったり、お咲の胸のうちにも変化や覚悟が生まれてくる。そういう筋運びがほんと秀逸。 実際に、親を介護する立場になって、しんどく感じるときにもいちど読み直したいな。良い生き方指南が詰まっていた。たぶん若いうちはわかんない、40代以上にお勧めの1冊。
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美貌以外の取柄がなにもない母親をもつお咲は、口入屋「鳩屋」の主人五郎蔵・お徳夫婦に見守られながら、母親の借金を返すため給金のいい介抱人をしている。 年寄りの多かった江戸時代の介護事情も、現在と似たり寄ったりの感はするが、世間の人情が厚かった分、いまの世の中よりは、マシかなと思えて...
美貌以外の取柄がなにもない母親をもつお咲は、口入屋「鳩屋」の主人五郎蔵・お徳夫婦に見守られながら、母親の借金を返すため給金のいい介抱人をしている。 年寄りの多かった江戸時代の介護事情も、現在と似たり寄ったりの感はするが、世間の人情が厚かった分、いまの世の中よりは、マシかなと思えてくるのが情けない。
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江戸時代は思いの外、長寿だったのですね。そして年老いた親を子が介護するという“孝”の精神。昔は世間体や体面を大事にしてきたので本心はともかく、意地でも面倒をみないといけなかったのだろうなぁ。 そして江戸時代にも介抱人という仕事があって驚きました。この本の主人公はその介抱人を仕事に持つお咲です。彼女は所謂出戻りさんで、母親は美人で昔は妾奉公していたほどのいい女ですが家のことは何も出来ず、しょっちゅうお咲をいらいらとさせます。そして母親が舅に借りたお金の返済のため、お咲は給金の良い介抱人の仕事をすることになります。様々な事情を抱えた依頼先の介抱をするうちに、介抱人としての仕事に生きがいを感じるお咲。それに反して母親との関係はお互いに反発しあったままで…。という話。 介抱(介護)については現代にも共通の課題で、人間が老いていくのは自然なことで、いずれ誰かの手を必要とする時が来てしまうのです。その誰かが一人だけだと庄助のように追い詰められてしまうのだと思います。 お咲のように仕事でそれを請け負ってくれるは有難いことだけれど、理想は家族で看ることなのでしょうね。介抱人を雇える身分の人はいいけれど、大概は介抱のため仕事も出来ず、貧しく体力的にも精神的にもきつい生活をせざるを得ないのだという、そのやるせなさの象徴が庄助で、切なくなりました。でも、庄助にもおきんという手助けが出来たことで母親を精一杯看取ることが出来ました。お咲を通して様々な事情の介抱を考えさせられました。読んで良かったです。
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人物像も良く、展開もしっかりしています。さすが朝井さん、安定感です。 江戸の介抱人(介護者)を描いた作品。介護という時に辛く重い話題を、明るく温かく、ちょっとミステリータッチで描いたところは上手いと思います。 ただ、介護がテーマということで、星は3個。 私もすでに両親を見送り、し...
人物像も良く、展開もしっかりしています。さすが朝井さん、安定感です。 江戸の介抱人(介護者)を描いた作品。介護という時に辛く重い話題を、明るく温かく、ちょっとミステリータッチで描いたところは上手いと思います。 ただ、介護がテーマということで、星は3個。 私もすでに両親を見送り、しかも二人ともそれなりに長い闘病生活でした。その経験からも朝井さんの書かれている介護の姿はその通りだと思うのですが、逆に目新しさが無かったという事なのだと思います。
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いやいや予想外によかった! こんな切り口の時代物が出来るとは目からうろこがボロボロ落ちた。そして涙もポロポロ落とされた。星五つ です(^^;
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題名からは想像もつかない、まさかの「介護」小説だった。 『忠孝の考えが厳しい武家では、家を継いだ当主が自身で介抱に臨むのが最良。届を出せば城での勤めを休める』 武家がこうなら商家も当然同じ。 跡継ぎ息子が介護している最中、嫁は亭主に代わって商売を切り盛り。 えええ!!! そーだったの、江戸時代! 家庭内で、女が、無償で(つまり嫁だったら相続権もなく)介護をするのが当たり前、と言う考えは戦後の日本からってことなのね。 戦前の日本では、さほど裕福でない家でも女中さんを雇っていて、家庭内の介護はこの子たちがになっていた、と言う話を聞いたことがある。 介護保険ができた頃、我が家の近辺(田舎です)では介護を他の人に委ねるのは家の恥、っていうか嫁がひどいヤツ、的な考えが横行し、制度を利用する人が少なかった。 その頃この小説があったなら、自分を責めずに済んだ嫁がどれだけいただろう。 内容にビックリだったが、人物の描き方が素晴らしく、さらに当時の介護指南まで書かれていて、内容の濃い一冊である。
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朝井まかてさんの江戸市井小説。 高齢者や病人の介護専門の 女中奉公をしている25歳のお咲が主人公です。 すでに、こたろうどんがレポを書かれいて 私も読んでみたいなと思って図書館で予約して やっと読み上げた、という作品です。 お咲は3日間寝泊りをして 高齢者の介護をする「介抱人...
朝井まかてさんの江戸市井小説。 高齢者や病人の介護専門の 女中奉公をしている25歳のお咲が主人公です。 すでに、こたろうどんがレポを書かれいて 私も読んでみたいなと思って図書館で予約して やっと読み上げた、という作品です。 お咲は3日間寝泊りをして 高齢者の介護をする「介抱人」です。 お咲が仕事に行く家での家族事情、職業事情が 江戸の時代情緒を交えて温かな目線で描かれた 一話完結の連作短編集です。 一話ごとにお咲自身の家庭事情も描かれていて、 介抱先での親子関係とともに 現代でも通用する家族の問題が浮き彫りにされていました。 こんな親子、いるよね、という感じで 親近感が感じられる内容に ぐんぐん引き込まれて読んでいける作品でした。 お咲が宝物のようにしているのは、 亡き義父からいただいた小さな銀細工の香箱座りをした猫の細工物。 困ったことがあると お咲はこの銀の猫に問いかけたり、話しかけたりします。 これがタイトルになっていると思っていましたが、 お咲が住む長屋に居ついた野良猫も銀色の毛並み。 お咲と折りの悪い実母佐和との絡みシーンには 必ずといっていいほど、登場してくる銀の猫です。 このあたりの猫の意味するところも、 朝井さんの構想の中では重要な意図があったと思います。 地味だけど温かな時代小説jの人情もの。 朝井さんの境地が出来上がってきたと思える一冊でした。
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