朝が来るまでそばにいる の商品レビュー
弱ったとき、逃げたいとき、見たくないものが見えてくる。高校の廊下にうずくまる、かつての少女だったものの影。疲れた女の部屋でせっせと料理を作る黒い鳥。母が亡くなってから毎夜現れる白い手・・・。何気ない暮らしの中に不意に現れる、この世の外から来たものたち。傷ついた人間を甘く優しくゆさ...
弱ったとき、逃げたいとき、見たくないものが見えてくる。高校の廊下にうずくまる、かつての少女だったものの影。疲れた女の部屋でせっせと料理を作る黒い鳥。母が亡くなってから毎夜現れる白い手・・・。何気ない暮らしの中に不意に現れる、この世の外から来たものたち。傷ついた人間を甘く優しくゆさぶり、心の闇を広げていく――新鋭が描く、幻想から再生へと続く連作短編集。 『骨を彩る』がとてもじわりとくる良作だったので、楽しみにしていました彩瀬さんの新刊。独特の表現で目に見えないものや空気を文字にするのがとても上手い。どの短編にも共通して流れるテイストというか、読むとこの人の文章だってすぐ分かります。決して綺麗なだけのものを描かないのも特徴的かなと思う。骨よりどろどろ感が増したような気が。けれど暗い終わり方ではなくちゃんと救いがあるので読んでいて追い詰められる感じもしない。本当に不思議な読後感。日々恐怖や苦しみを抱えてもがきながらも少しずつ乗り越える主人公たちに、そっと寄り添うことで自分もまた何かから救われているのかもしれないなあ。いつか直木賞とかとりそう。
Posted by
短編6作。 心の闇が暗くて深いほど、対照的に差し込む僅かな光が美しい。 これほどに感情を言葉にのせられると、後ろ暗いわたしは慌ててしまう。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
生々しく瑞々しい血と肉の感覚。読んでいてぞっとするものもあれば、少し明るさの見える作品もあり。表題を思いながら、もしくは読み終わった後に表題を見直すと、その深さに唸ります。彩瀬さんはタイトルを付けるのが上手だなと思います。ホラーのようにも読めるし、人間の醜さや弱さをとことん書いたようにも読めて。読んでも読んでも味が染み出てくるようでした。醜さを書きつつも、そういうもんだよね、と許容されたような安心感もあって。「朝」がいったい何なのかはそれぞれ違うのでしょう。良くも悪くもそばにいる人達の思いの強さ、でした。
Posted by
すごくすごく好きな短編集。どれもゾクリ、ゾワリとなる厭な感じなのに、切なくて寂しくて苦しくて妖しくてそして甘美。 6つの短編集の中で好きだなと思ったのは ゆびのいと 眼が開くとき よるよふち かいぶつの名前 読後、どれも泣きそうになる。ともに浄化されるような、こんな言葉かけて...
すごくすごく好きな短編集。どれもゾクリ、ゾワリとなる厭な感じなのに、切なくて寂しくて苦しくて妖しくてそして甘美。 6つの短編集の中で好きだなと思ったのは ゆびのいと 眼が開くとき よるよふち かいぶつの名前 読後、どれも泣きそうになる。ともに浄化されるような、こんな言葉かけて欲しかったんだよなとか、反面やはり怖くてぞわっとしたり。 言葉の選び方、運び方がやはり綺麗。すごく好き。
Posted by
こわい、とはちょっと違うな。苦しい、かな。内側に入った空気が抜けなくて膨れ上がって、肋間筋が痛い。そういう感じだった。この人の真面目さはしんどい。わたしなんてどれだけごめんなさいか。それと帯で「最高で、悔しい」と言っている膵臓の人よ。レベルが違うと思う。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
彩瀬まるの作品でも、濃厚な湿度をまとった作品だった。 ”ゆびのいと”が怖すぎた。 ”かいぶつの名前”で、供えられたそば茶と大福に触れた瞬間にかつて食べた大福の味を思い出すような感覚だったという件は妙に納得できた。 ”眼が開くとき”に出てくるぱりぱりぐちゃぐちゃばりばりごくんと言う擬音や、かいぶつの名前というタイトルからどうしても浦沢直樹のモンスターを連想してしまう。
Posted by
前作「やがて海へと届く」がだいぶ幻想味の強い(純文学的な)作風になったと感じていたので、この作品集はどうだろうかと思ったのですが、これはどちらかというとそれまでの作品群寄りの、けれど比喩表現、作品世界に一層の深度、巧みさが引き立った作品集でした。 「ようやくできたお腹のなかの子...
前作「やがて海へと届く」がだいぶ幻想味の強い(純文学的な)作風になったと感じていたので、この作品集はどうだろうかと思ったのですが、これはどちらかというとそれまでの作品群寄りの、けれど比喩表現、作品世界に一層の深度、巧みさが引き立った作品集でした。 「ようやくできたお腹のなかの子供が…」「晴れて新婚夫婦となったけれどほどなくして新婦が…」など、導入部はいたって現実的な方なのですが、そこからの展開がとても自然に、「普通でなくなる」のが、ぞくっとすごみを感じるほどでした。文章に使われる比喩表現の洗練さ、巧みさがそれを助けているのでしょう。そしてその表される「普通でない」世界が、血と肉と骨、それらの質感を持って描かれているので、やたらと肉感的、蠱惑的なふうに感じ取れるのが特長的に感じたのでした。 そういう意味で、最後の一編はそのグロテスクさが、姿かたち、精神的、ともにリアルに想像できて差し迫ってくるようで、下手なホラーよりも恐ろしさを感じました。けれど話そのものはとても哀切なものなので…、なんというかひたすらにつらくてたまりませんでした。 どうしたらこんな表現を自在に操れるのだろう、と正直思います…。素晴らしいです。
Posted by
どろりと澱んだ暗闇の奥底から湧き上ってくるような感覚。 この世の外から来たものたち。 誰もが抱える心の闇を、甘く揺さぶり、官能的に惑わす。 ダークで、妖しくて、美しくて、怖ろしい、極上の短編集。 絡め取られないように、気をつけて。
Posted by
闇からの再生みたいなのが、テーマなんだと思うけどちょっと読むのがしんどかったかなあ。 幻想的なんだけど、どこか生々しくて怪しくてぞくりとする。 どの話にも最後は再生し、救いがあるのだけどあまり好きなタイプの作品ではなかったかも。
Posted by