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人口と日本経済 の商品レビュー

3.7

73件のお客様レビュー

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2024/07/09

少子化が叫ばれる日本の出生率は2023年に1.20まで低下した。アフリカ諸国の6.0と比べると圧倒的に低く、先進国の中でも最低レベルを推移している。一方で平均寿命は男女共に80歳を超えているから、相対的に少なくなる若年層の負担は今後暫く増加していくのは間違いない。何より寿命は誰に...

少子化が叫ばれる日本の出生率は2023年に1.20まで低下した。アフリカ諸国の6.0と比べると圧倒的に低く、先進国の中でも最低レベルを推移している。一方で平均寿命は男女共に80歳を超えているから、相対的に少なくなる若年層の負担は今後暫く増加していくのは間違いない。何より寿命は誰にでも訪れるから、出生数が減少することは将来に渡り人口が減っていく事を表している。 18世紀のイギリスの古典経済学者であるマルサスが著した「人口論」は食料生産力の増加を超える人口増加は人々を経済的貧困に陥らせる事に警鐘を鳴らし、人口抑制策の導入の必要性を説いたが、今の日本の未来はその反対側の方向へと向かっている。だが世界レベルで見れば地球上の人口は100億を近い将来超える勢いがあるし、既に食糧不足を危惧する声は大きくなって、日本でも最近昆虫食に注目が集まるような状況だ。 日本の様な人口の減少が今後何を引き起こすかについては、自然に考えつくのは経済活動の停滞に伴う、経済規模の縮小の懸念であり、昨今GDPでドイツに抜かれたことからも、それを思い浮かべる人は多いだろう(実際は円安に伴う影響が大きいだろうが)。だがドイツも出所は低迷し、日本と大きくは変わらない。違いは移民を受け入れる政策にある。移民を受け入れてまで経済拡大を望むか、人口減少による経済縮小を受け入れつつも、日本人としての道を歩み続けるのか。人それぞれ考え方の違いはあるだろうから、議論が分かれるところだ。 では経済の拡大は望めないのか。本書では過去の日本が高度成長期に労働人口の増加率を遥かに凌駕する経済成長を遂げたことに注目する。それは技術革新・イノベーションの力であり、必ずしも人口の増減と経済規模が単純比例しない事に触れる。また、その背景には人々が裕福な暮らしを望み、モノを欲しがる気持ち、所謂需要が旺盛であったことが、市場の拡大を生み、日本が世界有数の経済規模になれた事にも言及する。人間の欲は無限で、他人よりも豊かな暮らしがしたい、美しい服を着たい、美味しい物を食べたい、といった欲望が経済の拡大を引っ張る要因である事を説明する。 だが人間的な裕福が必ずしも経済規模だけで測れるかと言えばそれはノーだ。現在進行形の人口減少がこのまま続けば、勿論何もしなければ経済規模は縮小し、世界での順位は下がり続けるだろう。だがしかしそれがそのまま不幸な事だとは言い切れない。昨今量より質が問われる時代であり、更には個人の嗜好が重要な時代に入る。私にとっての幸せと他人の感じる幸せの尺度は異なる。それぞれにとっての幸福度は、国の経済規模だけでは測れない。 そうした様々な考え方と議論の中で、読者が何を考え、何を幸福・豊かさの基準とするか。我々一人一人に問いかけてくる一冊である。 また最終的にはこれからの超高齢社会や人口減少は社会が変わる節目であり、そこに新たにビジネスやイノベーションが巻き起こるチャンス・機会とも捉える事ができる。そうした意味でその時代を生きる我々の周りには凡ゆる検証機会ときっかけが溢れているという事を教えてくれる。ただひたすらに産めや増やせやで人口も生産も増加させた時代は終焉したのだから、新しい時代の新しい考え方、価値観を持つ事が重要になってくる。

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2024/03/09

日本は少子高齢化により人口が急激に減っている。働き手は減り、地方都市は消滅の危機にある。もはや日本の衰退は不可避ではないかという論調が多いが、そのようなことはない。経済成長をもたらすものはイノベーションであり、人口が減っていくからといって、衰退が避けられないというものではない。以...

日本は少子高齢化により人口が急激に減っている。働き手は減り、地方都市は消滅の危機にある。もはや日本の衰退は不可避ではないかという論調が多いが、そのようなことはない。経済成長をもたらすものはイノベーションであり、人口が減っていくからといって、衰退が避けられないというものではない。以上が、本書の骨子中の骨子だと理解した。 それでは、そもそも経済成長って必要なのか、必要だとすれば何のために必要なのか、という問いも本書は投げかけている。この問いに対しての、私なりの理解を下記したい。 経済成長をもたらすものがイノベーションであるとすれば、イノベーションのないところに経済成長は起きない。では、イノベーションが起これば、どのような良いことが起こるのか。端的で分かりやすい例は、平均寿命の伸長である。平均寿命の伸長には、多くのイノベーションが与っている。それは、例えば、新しい薬の開発であったり、新しい治療方法の開発であったり、あるいは、国民皆保険や乳児に対しての予防接種というような社会システムもイノベーションとして考えても良いかもしれない。これらのイノベーションが平均寿命の伸長という果実をもたらしたのである。経済成長が起こっているということは、どこかの分野で、このようなイノベーションが起こっているということであり、一般的にイノベーションが起これば社会を良くするものである、これが経済成長が必要な理由の一つである。 また、成長か平等か、という議論が別にある。経済成長の結果、世界の多くの国で所得格差が広がっているのではということが言われている。しかし、格差を是正するためには、やはり成長による原資が必要となる。そういった面からも経済成長は必要である。ただし、これは成長した「から」格差が是正されるという関係にはなく、それはそのための対応が必要な事項である。 たしかに、このようなことは言えるとは思うが、事はそれほど簡単ではない気もする。少子高齢化により、高齢者人口が増大したことにより、社会保障費により多くの原資が必要になっている。経済成長により、国の富が増えても、そのうちの多くの部分を、追加の社会保障費に費やさざるを得ない状態が、今の日本の状態ではないだろうか。個人から見れば、折角、給料が増えても社会保険料や税金の増加により、それがなかなか実感できない、そういう状態かと思う。「イノベーションが経済成長をもたらす。従って、必ずしも人口減少は、あまりに悲観的に考える必要はない」という本書の考えは、少し楽観的かな、とも感じる。

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2023/04/28

本書の主題を一言で言えば、経済成長は人口の伸びとは関係ない。ゆえに人口が減少するから経済が必ず縮小するとは限らず、イノベーションによって1人あたり所得が増えれば経済成長も可能である、というものです。  まず理屈としてはそうだろうな、確かに100%衰退するとは限らないだろうなとは...

本書の主題を一言で言えば、経済成長は人口の伸びとは関係ない。ゆえに人口が減少するから経済が必ず縮小するとは限らず、イノベーションによって1人あたり所得が増えれば経済成長も可能である、というものです。  まず理屈としてはそうだろうな、確かに100%衰退するとは限らないだろうなとは思いましたが、本書の説得力があったか、と言われるとそこは微妙でした。まず本書の主張の大前提が過去の経済学の知見であること。ケインズ、シュンペーター、マルサスなどの主張が織り込まれているのですが、実は足元で起こっていることはこれまでの経済学のフレームでは説明できないことかもしれないということです。本書では人口減少だけがトピックになっていますが、AIやIoTといった情報技術の発展が同時に起こっており、これらの現象はわれわれを別の次元の社会に導いているのかもしれません。つまり18世紀の産業革命が近代経済学の生みの親だとすれば、現在の情報通信革命は、今の経済学が前提としている多くの「あたりまえ」を覆し、全く異なる経済学の誕生を望んでいるのかもしれないということです。  産業革命時の英国は、国力を測るのにストックではなくフローで計測すべきだと考えましたが、これは当時画期的な発想で、それまでは国が蓄積している財貨(ストック)の量が国力を表す指標だと考えられていました。現在のわれわれはGDP統計に代表されるフローこそが国力をあらわす指標だと固く信じていますが、100年後の人類からすれば「何を馬鹿なことを」と思われるようなことなのかもしれません。そういう感覚がうっすらとあるものですから、本書のようにいわゆる伝統的な経済学者の論考だけを持ってこられても、(確たる反証はないのですが)どうしても心の底から納得できない自分がいました。

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2022/03/23

まさしく人口と経済の関係性を説いた書。 歴史的に過剰人口が問題だった事に触れ、マルサスの「人口論」やリカードの自由貿易論、ケインズの人口減少による投資・需要減少論、ビクセルの最適人口論、ミュルダールの子育て支援論をあげる。一方日本では人口減少と急速な高齢化によって社会保障・財政...

まさしく人口と経済の関係性を説いた書。 歴史的に過剰人口が問題だった事に触れ、マルサスの「人口論」やリカードの自由貿易論、ケインズの人口減少による投資・需要減少論、ビクセルの最適人口論、ミュルダールの子育て支援論をあげる。一方日本では人口減少と急速な高齢化によって社会保障・財政への負荷や地域社会の消滅(地方消滅)が指摘されている。ただ経済成長に関しては労働生産性(つまり資本蓄積と技術進歩・イノベーション)増加でどうにかなると語る。労働力供給と生産性向上、消費財の普及と人口移動による世帯増加が高度成長の源泉だったことをデータも交えて振り返り、4次産業革命でのAI普及でもイノベーションが鍵になることを述べている。 豊さの中で富裕層の出生率が低下するのはギリシャもそうらしいが、人口の原理とは裏腹に平均所得上昇と出生率低下、平均寿命の延びがセットで来た。平均寿命の話で、都市化の進展が寿命に悪影響であることや戦前日本の所得不平等→乳児死亡率(所得と相関)高→平均寿命短の関係を(寿命)ジニ係数を使って明らかにしたり、戦後日本は所得向上・医療改善・皆保険によって寿命を勝ち得たことを示した。ソ連の話はトッドと関係がありそう。最終章では経済(集団的物資代謝→贅沢によって加速・蜂の寓話)と経済成長(GDPという価値点数的指標の成長)について語る。先進国の成熟経済は需要の飽和(ロジスティクス曲線)に常に晒され、成長率低下圧力がかかっている。 筆者はシュンペーター的なプロダクトイノベーションを推す。ミルのゼロ成長論からの所得平等・定常状態幸福論には、筆者は江戸時代の栄養不足や災害対応を用いて鋭く反論する。最後に筆者は、そのような経済成長も平均寿命の延長に帰着すると主張する。経済成長がいいかどうかはもっと生きたいかという死生観と関わってくるのだろうと結論付けて終わる。 流石東大教授といった感じで文章も分かりやすくデータの繋がりもしっかりしていて読みやすかった。ただ一般向けということでやりにくさは感じた。平均寿命と所得の関係などは非常に興味深かったので詳しい本があれば読んでみたいと思う。戦前日本については戦死者や災害死の割合、そもそも日本を先進国に入れて議論していいのかという話もある。一人当たりの所得などを鑑みずに議論を展開しているのは紙幅の問題もあるだろうが、尽くされていないと感じた。題名通り日本経済と人口に絞って書いても良かったとは思う。 2021/2/6

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2022/01/23

プロダクトイノベーションの重要性。 私見: 人口比によって、イノベーションの頻度が決まると思う。そのためには、教育と多様性の確保が必要なのでは。

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2022/01/21

人口減少は大問題だが、それが経済停滞の言い訳にはならない。国内外問わず需要を創出するイノベーションと生産性向上することで、経済は人口と関係なく成長可能。 経済成長の是非まで言及されており、徹底して客観的な分析姿勢が窺える。そのため、納得感が高い良書であった。

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2021/05/08

過去の日本や欧州、アメリカの過去のデータから分析しているので内容が凝縮されている感じでした。戦前の日本は、平均寿命や寿命のジニ係数(不平等度)から見れば、大いに問題があった等、色んな意見に関してこうだったと調査結果を載せている内容は良かったと思います。 経済成長といっても吉川氏は...

過去の日本や欧州、アメリカの過去のデータから分析しているので内容が凝縮されている感じでした。戦前の日本は、平均寿命や寿命のジニ係数(不平等度)から見れば、大いに問題があった等、色んな意見に関してこうだったと調査結果を載せている内容は良かったと思います。 経済成長といっても吉川氏は何が何でも成長ではなく、成熟した先進国においてもそれぞれの経済に合った経済成長という意見なのも好感がもてましたね。

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2020/11/28

人口と経済は切っても切れない関係だと思うが、労働人口の増加と生産性の劇的な改善により、これを乗り越えるべきだというのは賛成。 具体案がないところが経済学者らしい。

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2020/10/18

人口減少が日本経済の衰退になるか。 これは、難しい問題である。と私自身も感じてきた。 この本によると、人口減少は必ずしも日本の衰退には繋がらないとのこと。 イノベーションを起こすことで、成長も可能とのことだった。 一部賛成するが、やはり人口の維持は必要な気がする。 疲弊する地方、...

人口減少が日本経済の衰退になるか。 これは、難しい問題である。と私自身も感じてきた。 この本によると、人口減少は必ずしも日本の衰退には繋がらないとのこと。 イノベーションを起こすことで、成長も可能とのことだった。 一部賛成するが、やはり人口の維持は必要な気がする。 疲弊する地方、いなくなる人口。経済の分野では必ずしも必要ない部分になるのかもしれないが、私たちは人間である以上、活気が必要だ。人間としての情が必要だ。と感じた一冊。

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2020/05/03

吉川洋 「 人口と日本経済 」経済成長と人口の関係についてのエッセイ。著者の結論は 「経済成長と人口は関係ない」「需要は必ず飽和する」「経済成長するには プロダクトイノベーションが必要」 *マルサス/人は豊かになれば子供をたくさんつくる→食料の供給は 人口増加に追いつかない→人...

吉川洋 「 人口と日本経済 」経済成長と人口の関係についてのエッセイ。著者の結論は 「経済成長と人口は関係ない」「需要は必ず飽和する」「経済成長するには プロダクトイノベーションが必要」 *マルサス/人は豊かになれば子供をたくさんつくる→食料の供給は 人口増加に追いつかない→人口は 食料不足、非婚化により抑制 *ケインズ/投資は人口などにより決まる→人口減少=投資減少=不況→失業。投資に代わり 消費が有効需要を支える必要あり→所得を貯蓄にまわす富裕層から 消費をする一般大衆へ所得配分 目からウロコだったのが *ヴィクセル/最適な人口=1人あたり福祉水準を最大にする人口 *人口知能時代の人の所得=労働所得+AI所有による所得 *GDP=1年間で作り出す価値を価格で評価したもの→人口増加により増えるものではない→豊かさの尺度としては不十分 イノベーション→先進国の経済成長→一人あたりGDPが増加

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