光炎の人(下) の商品レビュー
木内昇さんの長編小説。明治~昭和初期の技師の話。 主人公の人としてのクズっぷり。技師としては才能があるのだろうけれど、技術だけしか頭になく、人としての情のなさにどんどん気持ちが暗くなっていく。
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一つの道を究めようとしている音三郎、男なら上昇志向は当たり前だし人として、世間に認めて貰いたい、この持ってる技術を知らしめたいと望むことはもちろん理解できる。 ただ、音三郎は余りにも不器用で世渡りも上手ではなかった。 出生の秘密を知ることが、本の帯にある「衝撃のラスト」なのかとおもったら、なんという結末…。 世界史の中での大戦前夜、満州事変など知識でしか知らなかったけれど軍人でも政治家でもないひとりの男がすべての社会から人から排除されてしまうなんて… ただ自分の腕を信じていただけなのに。 満州事変、関東軍など、改めてウキペでよんでみた。歴史に名を残せなかった数多の人間が死んでいった。
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トザと利平と。 ともに、自分のなすべきこと、と、思われることに従順でまっすぐで 盲信しすぎたあげくの悲劇。 信念をもって仕事をすること、 その仕事に囚われること 近眼になりすぎて大切な大局を 見つめられなくなること 悪ではない悪の描きかたが この人はほんとにうまい 悪ではない悪は タチが悪く、 そして かなしい
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ちょうど文庫化されたタイミングで朝日新聞の文庫書評で取り上げられ(はず)興味を持つ。著者の時代物(新撰組 青嵐の〜)は読んだが、本書は明治の終わりから大正〜昭和初期の戦争に伴う産業や技術の発展を背景にした、四国の葉タバコ農家の三男が四国での職工から大阪の伸銅工場の技師、東京の官営...
ちょうど文庫化されたタイミングで朝日新聞の文庫書評で取り上げられ(はず)興味を持つ。著者の時代物(新撰組 青嵐の〜)は読んだが、本書は明治の終わりから大正〜昭和初期の戦争に伴う産業や技術の発展を背景にした、四国の葉タバコ農家の三男が四国での職工から大阪の伸銅工場の技師、東京の官営火薬工場の研究所、さらに満洲の関東軍付属の研究所と技術者としてステップアップしていきながら大きく変化する心中を描く。 上巻では、まるでNHK朝ドラ風の爽やか成長物語が、下巻へと進むにつれて世間や周囲からあえて隔絶し技師としての歪んだ成功にだけ執着してしまう音三郎の変貌ぶりが上手に描かれている。4.8 Amazonでの低評価は音三郎が嫌われてしまってるからかな。 音三郎が初めて技師として勤めた大都伸銅株式会社の年下だが大卒の先輩技師 金海一雄の言葉。音三郎が無線技師としての力量を買われて伸銅業界の大物 弓浜の導きで東京の官営軍需工場に転職する際に金海が発した。彼は無知な庶民が安全に電化製品を使うための安価なヒューズを開発し、この後な名を成すのであった。
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上下読み終わりました。だんだんと音三郎の人格も変わっていって、ラストは悲しく、暗い。 人間のいやらしい部分が上手く書かれていて、さすが木内先生だと思いました。
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次第に舞台は戦争に向けて加速していき、トザや彼を取り巻く人々らの生活も急激に変化してゆく。 トザの開発する無線も新たな活躍の場を見つけながら、更なる技術の高みを追い求める足も止まることはない。 この作品の登場人物は、皆が皆途方もなく孤独である。 ある者は、自分の知能を世に知らし...
次第に舞台は戦争に向けて加速していき、トザや彼を取り巻く人々らの生活も急激に変化してゆく。 トザの開発する無線も新たな活躍の場を見つけながら、更なる技術の高みを追い求める足も止まることはない。 この作品の登場人物は、皆が皆途方もなく孤独である。 ある者は、自分の知能を世に知らしめるべく、家族や愛情を捨て、ある者は御国の為に、或いは自身の信じる志の為に友人を捨てる。 共通しているのは、「自分はここにいるのだ」という世間に認めて欲しい気持ちで、行動を通して叫べば叫ぶほどに、虚しさと悲しさを撒き散らしていくのである。 大正から昭和にかけて生きた男達の物語だが、現代の世にも通じる内容だと感じた。 人が生きる上での幸福に関して、改めて考えさせられる作品。
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昭和初期の無線技術者の物語。悲しい結末。あまり共感できずに読み進めるのもつらかったが、こういう時代にこのような生き方もあったのだろうなとは感じた。今の時代からすると不器用だか。。。
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生まれ育った田舎にいた頃の音三郎は、大人しく純朴で、自分の好きなことをこっそり追及している若者だった。 田舎から大阪、東京と場所を移り、小さな町工場の職工から官営の軍需工場の研究員に。 小学校もまともに卒業していないのに東京帝国大学卒のインテリ達と共に仕事をしても全く引けをとらない…正に出世街道まっしぐらで夢も叶ったかに思えたのに、肝心の音三郎は現実の壁に立ち塞がれる。 上巻とは違い下巻は読み進める内に胸苦しくなってくる。 「必ず成功してやる」 彼の強気の野心が虚しい。 これが現実なんだろうか。 木内さんから人生や仕事に対する「甘さ」を指摘された気がする。 ラストの幼馴染みとの対峙は遣りきれない。 自分の技術にプライドを持った男の夢は、現代に生きる技師達に受け継がれていると信じたい。
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なんとも、そうなるかあという結末。音三郎、最後の最後まで不器用だった。彼は悪い人ではないんだ。純粋で、自分の仕事が大好きでそれを世間に認めてもらいたいと切に願っている。だから日夜、なんというか人間として大切な心すら置き去りにして研究して実験してを繰り返し年を重ねてきた。人を疑うこ...
なんとも、そうなるかあという結末。音三郎、最後の最後まで不器用だった。彼は悪い人ではないんだ。純粋で、自分の仕事が大好きでそれを世間に認めてもらいたいと切に願っている。だから日夜、なんというか人間として大切な心すら置き去りにして研究して実験してを繰り返し年を重ねてきた。人を疑うことを知らないあまりに、自ら不幸な結果を招いてしまう。でも彼はそれに気づきもしない。研究者、技術者の悲哀を見事に書ききったなあ、木内さん。素晴らしいです。音三郎、がんばったよ。本当に。時代に翻弄されてしまった無線馬鹿の物語。お見事。
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上巻で技師としての魂を悪魔に獲られた音三郎は時代の波に翻弄されながらある事件に巻き込まれて行くこととなる。 ひとりの男を通してその時々の背景を描くのが木内イズムなのだがこれだけの史実に物語を絡めるとなると必然結末は見えてしまう訳で難易度は相当に高かったと思われる。 それでも最後の...
上巻で技師としての魂を悪魔に獲られた音三郎は時代の波に翻弄されながらある事件に巻き込まれて行くこととなる。 ひとりの男を通してその時々の背景を描くのが木内イズムなのだがこれだけの史実に物語を絡めるとなると必然結末は見えてしまう訳で難易度は相当に高かったと思われる。 それでも最後のページまで捲る手をへ緩めさせないのは彼女の揺るぎない実力と言うしかない。 科学技術の進歩は諸刃の剣でありメッセージは原発事故を経た社会への警鐘であるのだろうが私の印象としてはあの割烹着女史を思い出す… 堕ち行く運命の放物線の始点を慮ることとなる問題作
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