1,800円以上の注文で送料無料

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠 の商品レビュー

4

56件のお客様レビュー

  1. 5つ

    12

  2. 4つ

    28

  3. 3つ

    6

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2024/03/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

著者がジャーナリストということもあり文章は読みやすく、内容は面白いし興味深い。 経済についての例ばかりなので投資信託へ預けるのが怖くなるくらい。 サイロエフェクトの定義も(明記されているわけではないが)整理できてよかった。思っていたよりも広い意味があり、思っているものとは別の因子も含んだ概念だった。 ただ、著者自身(人類学者)にサイロイフェクトが働いていることには気づいているのだろうか? 本文中の随所で、著者は誇らしげに社会学的な視点を何度も示すが、社会学者でなくとも、その分野で異端の考えや大きな視点を持っていれば組織のサイロに気づいている者はいる。自分もそうなので、これは断言できる。 サイロエフェクトに対する解決策を提示できるのならば社会学者が優位だが、解決編でも事例を挙げているだけのようであることを見ると、他分野の"気づいている"人と大差ないのではないかと思える。 社会学者特有のサイロ(例えば「サイロは社会学者にしか気づけない」「社会学者ならばサイロに必ず気づける」のような優越的な考え)に気づけなければ、今後落とし穴がありそうな感じを受ける。 これは著者が社会学に対して何らかのコンプレックスを持っている(;数式に対するアレルギーや研究者としてやっていけなかったかのように見える部分から)だけかもしれないが。 私はサイロエフェクトを「(専門性が先鋭化すると)水平方向の知識の行き来がなくなること」であると考えていたが、本書を読み進めていくうちに「社会的沈黙(=踊らない者に気づかない)」の重要さも理解できた。 ただし、どちらの概念も明確に認識しており、本書で知識の整理は出来たがはじめて知った概念はなかった。 私の周りでも、意図して知識を収集しなければ「水平方向への知識の伝播」はすぐに失われる。「社会的沈黙」としては多くの人が"問題(欠陥)の存在を認識していない"こととしてよくぶち当たった。この問題は学問分野が深化し良い教科書が増えた(=分類が固まった)から生じているサイロエフェクトの一種だとも思える。 本書を読むまではサイロの影響とは思っていなかったが、サイロエフェクトを「物事を分類することによって生じる、不都合(あるいは特異)な現象」と定義するなら納得がいく。 また、訳者の言葉の部分は駄文なので読む価値がない。本文の内容を要約しただけの本当に何の価値もない文章。翻訳の苦労とか、経済学用語のうんちくでも入れてくれるならいいが、アレなら半ページで謝辞でも書いておく方がよっぽどいい。訳は良かったように感じるので残念。

Posted byブクログ

2023/07/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

FTアメリカ版編集長の経歴を持つジリアン・テット氏による著作。 自身は文化人類学の経歴を持つ異色の金融ジャーナリストとして活躍されていた。 タイトルにもある「サイロ」とは、組織に縦割り文化が蔓延し、組織がまるでサイロのような構造になっている事を表している。個別最適化が極度に進みすぎ、局所的にも見れば問題ない事象でも、会社や自治体という大きな組織の枠組みから見ると、非常にリスクのある状態に陥ってしまい、ある時そのリスクが表面化して大きな問題に繋がることを「サイロ・エフェクト」と表現していると理解した。 第一章は、文化人類学が何故組織のサイロを炙り出すのに有効かを、文化人類学の歴史も交えながら解説している。今日の文化人類学の形成に大きな影響を与えた、「ピエール・ブルデュー」の半生を紹介すると共に、「インサイダー兼アウトサイダー」として観察対象の生活に溶け込み、客観的な目で「なぜそのような文化形成となるのか?」という文化人類学の考え方が、いかにサイロの炙り出しに効果的かを解説している。 第二章~第八章までは、サイロの形成が会社の発展を阻んだ事例や、逆にサイロ化することのリスクを認識し、サイロ化を防ぐあらゆる手法を取り入れた会社や病院の取り組みを解説している。ウォークマンの祖であるソニーがサイロ・エフェクトによりアップルに惨敗した事例は日本人として非常に興味深かった。惨敗は避けられたのかと言われると、多分無理であったのだろう。 終章では、これまでの事例のポイントを整理しつつ、「サイロ」は効率的な組織の運営に必要であるものの、弊害も大きい事から一人一人が「サイロ・エフェクト」を意識しながら考える事が大事であることを示唆している。 事例紹介が多く、ノウハウ的な要素は少ないが、自身の所属する組織を振り返り、「サイロ」が構築されていないか、また「サイロ・エフェクト」が起きるリスクはないだろうか、と考えるきっかけにはなる本であると思う。著者の経歴上、金融機関の話が多く、金融用語が多発するので、不慣れな人は少し読みにくさを感じるかもしれない。文化人類学の考え方を自身にインストールするには、並大抵の努力では到達できないと思うが、「こういう考え方もある」という理解ができたのは収穫だ。 正直、自らサイロを打ち破り会社全体の利益を考えて動く、というのは多くの個人・組織にとってインセンティブが働かないので、組織文化として浸透するのは簡単ではないと思われる(社長やら役員は別だが)。日本の伝統的な企業でも「縦割り打破」というスローガンの元、様々な施策が実施されているが、組織文化にまで影響を与える施策を打つのは相当難しい。なんとなくだが、人の努力に依存した施策が多く、モチベーション切れや組織改編により自然消滅するパターンが多いため、著作で紹介されていたFacebookやクリーブランド・クリニックのように、建物自体がサイロ形成を防ぐような施策の方が上手く行くのかも知れない、と思った。 個人レベルで、サイロを打ち破れる人材を目指すなら、思い切って異なる文化や業界に飛び込むのも効果的だろう。生活面でも普段交わらないような人に自分から積極的にコミュニケーションを取るよう意識してみたい。イギリスの小説家である「カズオ・イシグロ」が異文化交流として「縦の旅行」が大事と表現されていたのを思い出した。海外旅行に行って自分と似たような境遇の人と交流しても、それは「横の旅行」であり、それだけで異文化交流した気になるのは片手落ちだよ、という論説だったと記憶している。

Posted byブクログ

2023/05/07

大変示唆に富んだ内容で最後まで興味深く読めた。サイロの問題については日々悩んでいる最中であり、いくつかの重要なヒントがもらえたと思う。 高度に専門化した優秀な人材の集まりであるはずの組織が、外から見たらおかしいとすぐに分かるようなことに気付けずチャンスを逃したり、大変なリスクを...

大変示唆に富んだ内容で最後まで興味深く読めた。サイロの問題については日々悩んでいる最中であり、いくつかの重要なヒントがもらえたと思う。 高度に専門化した優秀な人材の集まりであるはずの組織が、外から見たらおかしいとすぐに分かるようなことに気付けずチャンスを逃したり、大変なリスクを抱えてしまうことをサイロエフェクトと呼ぶ。この現象を著者は人類学の観点から紐解き、インサイダー兼アウトサイダーとなることがこれを打破するきっかけとなると示してくれている。 アウトサイダーの視点を手に入れるためには、居心地の良い場所(コンフォートゾーン)から出て新しい経験を積む必要がある。しかし、ある時は家庭、ある時は自部署、ある時は日本そのものがある種のコンフォートゾーンとなり、これを実行するのはなかなかに容易いことではない。 そのような場合でも、隣の部門に興味を持って会話してみたり(あるいはそうなり易いような仕掛けを作ってみたり)、顧客視点などの違う視点で物事を見たり、自分の属する世界の分類法をひっくり返して見てみたりすることでサイロを打破するきっかけとなり得る。 とはいえ難しいのは、ただ交流の機会を設けるだけだとそれだけで終わってしまう。偶発的なステキ効果を期待するのであればプラスαでハッカソンのような何らかの工夫が必要だし、誰かにサイロを破壊してもらうのではなく、「そういう取り組みが必要だよね」というサイロ内の個々人の意識や風土も醸成されなければならなさそうだ。それが分かってはいるけど難しい部分で、でもそれを考え続けることでしか先が見えない気もする。 イノベーションは境界の曖昧なところで起きる、と言われるように、コンフォートゾーンを飛び出した先に何かが待っているかもしれない、と期待を持たせてくれる本だった。また読み直す。

Posted byブクログ

2022/11/20

専門的な知識や技術を扱う部署が、周囲に壁を作り聖域化していくことで、かえって単純ミスを引き起こしたり、効率が悪くなったり、効果が出せなくなる現象がある。筆者はこれを「サイロ化」と呼び、商品化で先行しながら音楽デバイスでアップルに完敗したソニー、保守的すぎる銀行と言われながらサブプ...

専門的な知識や技術を扱う部署が、周囲に壁を作り聖域化していくことで、かえって単純ミスを引き起こしたり、効率が悪くなったり、効果が出せなくなる現象がある。筆者はこれを「サイロ化」と呼び、商品化で先行しながら音楽デバイスでアップルに完敗したソニー、保守的すぎる銀行と言われながらサブプライムローンで破綻しかけたUBS、全米の優秀な知性を集めながら火事や救急に対応できないNY市役所など、サイロ現象の事例を解説する。一方、サイロを脱する工夫のおかげて成長した事例として、殺人事件を激減させたシカゴ市と警察の連携、フェイスブックの成長などを挙げている。解釈するに、サイロ化とはエリート化であり、その分野とか特定の条件下でしか機能しない勝手なロジック。世の中が変化すると、途端についていけなくなるわけで、これは分野業種を問わず、起こっていそう。わが職場は大丈夫だろうか。本書ではフェイスブックを成功事例としているが、機器の単著を指摘してもいる。果たして最近の成長鈍化と人員整理のニュース。なかなか面白い。

Posted byブクログ

2022/06/05

組織が専門分野に特化した機能単位に細分化することによって生まれる「サイロ・エフェクト」がもたらす弊害のメカニズムと対処法を整理した一冊。 企業や公的機関等の組織は、専門的スキルを高める必要性から、機能単位に組織を細分化する傾向があり、これ自体は組織の高度化のために不可欠である一...

組織が専門分野に特化した機能単位に細分化することによって生まれる「サイロ・エフェクト」がもたらす弊害のメカニズムと対処法を整理した一冊。 企業や公的機関等の組織は、専門的スキルを高める必要性から、機能単位に組織を細分化する傾向があり、これ自体は組織の高度化のために不可欠である一方、人々の意識が内向きになり、組織内の相互の情報流通が滞ることで、各機能単位の部分最適化が優先され、結果として組織全体としてのガバナンスが不十分となり、思わぬリスクの顕在化や機械損失に繋がることがある。 著者は、そのような事態を避けるためには組織間の垣根を柔軟に保ち、スムーズな情報の流れを保つといった組織レベルでの対策のほか、個人の意識レベルでは、人類学者のように「インサイダー兼アウトサイダー」の視点を持ち、自組織が物事を分類する考え方などの”暗黙のルール”に目を向け、その特殊性に気づくことでサイロの”境界線”を超える行動が可能になる説く。 アップルに携帯音楽端末の主役の座を奪われたソニーや、サブプライム危機で窮地に陥ったUBSといった「サイロの被害者」の事例に加えて、サイロの回避に(少なくとも部分的には)成功したフェースブックやクリーブランド・クリニックの事例は学びが多く、所謂「両利きの経営」の重要性と困難性が改めて確認できる内容となっている。

Posted byブクログ

2022/08/11

サイロ問題について整理されてて、自分が言語化不十分だったとこが見える化された感じした。日本の中小企業(B2Bな受託メイン、商流は独立系)内で起こるサイロ化は、インセンティブの問題が金融企業と同じだなと思ったり。FBの話は、採用の問題もあるので、真似して同じようなことやってもダメな...

サイロ問題について整理されてて、自分が言語化不十分だったとこが見える化された感じした。日本の中小企業(B2Bな受託メイン、商流は独立系)内で起こるサイロ化は、インセンティブの問題が金融企業と同じだなと思ったり。FBの話は、採用の問題もあるので、真似して同じようなことやってもダメな組織もあるしなー的なことも思った。会社の場合、サイロ化対策と収益は基本衝突するフォースだしな。解きたい。

Posted byブクログ

2021/07/04

サイロという言葉に、馴染みのない、私たちには、判りにくい題でありますが、様々な場所に分散しているデータを集めてみると、思いがけず、世の中が大きく変わるという話(シカゴ警察、NYFD等)には、納得です。またソニーが、如何にして、アップル、サムスンの後塵を拝することになった等(サイロ...

サイロという言葉に、馴染みのない、私たちには、判りにくい題でありますが、様々な場所に分散しているデータを集めてみると、思いがけず、世の中が大きく変わるという話(シカゴ警察、NYFD等)には、納得です。またソニーが、如何にして、アップル、サムスンの後塵を拝することになった等(サイロ化というより、蛸壺化した会社の事情等)については、やはりそうだったのね、という納得感あり。大賀さん、才能溢れた人だったが、人間性に難がある等の記述、遠慮のない外国人記者ならでは書きっぷり、良いですね。目下、如何にして、UBSがサブプライムのババをつかんだかを、読み進めております。

Posted byブクログ

2020/12/12

『サイロ・エフェクト』とは一体なにか? このタイトルからは、日本人には何のことが書いてあるのかまったく想像ができないのではないだろうか。「サイロ」とは、わかりやすく言い換えれば「専門性の壁」である。 もはや専門家と呼ばれる人間がどこかしこにも居るような現代において、何を持って...

『サイロ・エフェクト』とは一体なにか? このタイトルからは、日本人には何のことが書いてあるのかまったく想像ができないのではないだろうか。「サイロ」とは、わかりやすく言い換えれば「専門性の壁」である。 もはや専門家と呼ばれる人間がどこかしこにも居るような現代において、何を持って専門家と呼ぶのが正しいのか。 ボクは薬剤師という専門性を持って生きているが、インターネットによって高度な情報や論文すらシェアされるこの時代に、肩書きとしての薬剤師なんて果たして意味があるのだろうかと常々思う。 こう言ってはなんだが、ボクより薬の知識に詳しい一般人はごまんといるだろう。 大学に行ってから気付いたが、ボクはそれほど、薬学が好きではない。薬学よりも人文科学や数学、物理学や工学なんかの方がよっぽど面白く感じるタイプだったのだ。そんな専門家より、薬学が好きな素人の方が経験こそなくとも知識豊富でもなんら不思議ではないと思う。 しかし、まぁ、間借りなりにもそんなボクが、薬剤師として生きてきた中で専門性を突き詰めれば突き詰めるほど感じるのが「視野狭窄していく自分自身」であり、そこに危機感を感じたからこそ、こうして日々読書をするようになった。 企業において、集団において、いかに「サイロに横串を通す」かが、本書の要点になっている。これからさらなる専門性の追求や分業が進んでいけば、その先にあるのは視野狭窄であり、自己中心性であり、そして孤独だと思う。 だから今のタイミングで、この過ちに気づき、専門性の透明性を上げる、もしくは、サイロをぶっ刺すような変革が必要だとそう思う。

Posted byブクログ

2020/11/18

どこの組織でもある壁をどう打ち払うかのよき事例集。スペシャリストを否定するわけでなく、その塊同士をどうほぐすか、なぜ解す必要があるかを分かりやすく説いている。全てが成長する時代でもなく、ましてやアフターコロナの時代を考えると、ますます必要とされる思考なのではと思う。

Posted byブクログ

2020/04/11

単純化して言えば、「サイロ」は「専門化」だろうか。「細分化」と言い換えてもよいかもしれない。 人類の歴史は分業の歴史だ。我々の多くは、例えば食事をするのに農作物を育てることもなければ、動物を殺めることもない。これほど日常的に携帯電話を使っていながら、それを一から作ることもない。細...

単純化して言えば、「サイロ」は「専門化」だろうか。「細分化」と言い換えてもよいかもしれない。 人類の歴史は分業の歴史だ。我々の多くは、例えば食事をするのに農作物を育てることもなければ、動物を殺めることもない。これほど日常的に携帯電話を使っていながら、それを一から作ることもない。細分化された領域に専門特化することで、人類は社会や文化を効率的に発展させてきたのだ。 だから、筆者は「サイロ」が必要で、とりわけ複雑さを増す現代社会において、その重要性は高まるばかりとまで言い切っている。 本書がテーマとするのは、「サイロ」の負の側面である。専門化/細分化が高度に進み、物の見方や考え方(本書では「分類法」「分類システム」と表現される)が硬直化された社会や組織では、チャンスが失われるばかりか、その存在を揺るがしかねないリスクが無自覚に抱え込まれる。これは全編に渡って通底する筆者の問題意識で、第1部では「サイロ」により引き起こされた大禍が、第2部では「サイロ」を乗り越える挑戦が描かれる。 特に興味深かったのは、第2部・第6章 「フェイスブックがソニーにならなかった理由」で、「サイロ」に蝕まれて失墜したソニーを反面教師として、巨大化しても創業時のイノベーティブな風土を保とうとするフェイスブックの取り組みが描かれる。そこで画期的な試みとして登場するのは、新入社員研修での横のつながりの醸成や、人事異動といった、むしろ「サイロ」に苛まれていると見える日本の大企業で一般的に行われている施策であったことが何とも皮肉に感じられた。 サイロを打破するための方法論は終章で詳述されるが、この皮肉が起こる構造も含めて理解する上では、細かな専門を廃したクリーブランド・クリニックが描かれる第7章の一節に最も合点がいった。 「システムをカネで買ったところでサイロを破壊することはできない。システムは自ら創らなければ意味がない。新しいシステムを構築するプロセスやそれについて議論することを通じて、組織は変わっていくのだ」

Posted byブクログ