怒り(上) の商品レビュー
善良な夫婦が惨殺された殺人事件の現場には「怒り」と書かれた血文字が残されていた。容疑者の男はそれから1年、顔を変えて逃走を続けている。 物語は、3人の謎の男を軸に進む。 沖縄の離島で子供たちが親しくなったバックパッカー、ゲイの会社員が発展場で出会った不思議な男、世間に溶け込めな...
善良な夫婦が惨殺された殺人事件の現場には「怒り」と書かれた血文字が残されていた。容疑者の男はそれから1年、顔を変えて逃走を続けている。 物語は、3人の謎の男を軸に進む。 沖縄の離島で子供たちが親しくなったバックパッカー、ゲイの会社員が発展場で出会った不思議な男、世間に溶け込めない女性が愛した漁港の青年。 男と相対する人びとは、それぞれの事情を抱えながらそれぞれの小さな世界で生きていて、男への親愛と疑念を育ててゆく。 どのエピソードにも、愛しながらも信じられない悲しさがある。気付きがあって喪失がある。読み終えたあとに感じるやりきれなさは、読者に届ける怒りでしょうか。ミステリータッチではあるけれど、あくまでミステリーではなく市井の人びとが主役の人間ドラマ。繊細な機微を描きながらも一気に読ませるのは、さすがの筆力としかいえない。 近頃の吉田修一は、ますます鋭くなっていく気がする。えぐるような生々しい描写力、このひとはどこまで深く人間を見るのだろう。
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