持たざる者 の商品レビュー
日本経済新聞社 小サイズに変更 中サイズに変更 大サイズに変更 印刷 持たざる者 金原ひとみ著 日本の焦燥感 外からの視点で 2015/6/7付日本経済新聞 朝刊 金原ひとみの小説といえば、過激でエキセントリックな内容であると思い込んでいる人がいるようだが、...
日本経済新聞社 小サイズに変更 中サイズに変更 大サイズに変更 印刷 持たざる者 金原ひとみ著 日本の焦燥感 外からの視点で 2015/6/7付日本経済新聞 朝刊 金原ひとみの小説といえば、過激でエキセントリックな内容であると思い込んでいる人がいるようだが、実は一貫して冷静かつ客観的な心理描写によってその小説は編まれている。容赦なくつまびらかにされる心理は、共感しすぎて胸苦しさを覚えたのち、人間が生きるということのおかしみを帯びてくる。 本書は、今日が昨日の続きであることを信じて疑わなかった日本人に、そうではなかったことを思い知らしめた東日本大震災が軸になっている。震災は、それぞれの重さで心身にのしかかった。特に、原発事故による放射能汚染は、子育て中の家族に多大な影響をもたらしたが、主要な登場人物は皆、幼い子どもを抱えている(いた)。さらにもう一つの共通項目として、海外に在住する母親の視点がある。 実際にフランスで子どもを育てている著者が綴(つづ)る海外での子育ての日々は、リアルである。人と人との距離感、社会的なサービスの違い、民族や言語の違いに対する意識。海外生活者から今の日本を考えることで、この国の特殊性が浮き彫りになる。 たとえば、放射能汚染を避けるため、娘を連れてイギリスに移り住んだエリナは、「文化と伝統が重んじられ、日本に比べるとそこそこ世論が固まっていて、新しいもののない世界」で、過剰な社会サービスにあふれた東京での生活を振り返り、「今日本に帰ったら、私はあの国に巣くう焦燥感に体を端々から食われて消えてしまいそうな気がする」と考える。 焦燥感、という言葉から、震災直後の日本を思い出す。重苦しい空気の下、一人一人の焦燥感が刺激され、疑心暗鬼に陥っていた。四年が経過した今だから見えてくる当時の気持ちが興味深い。最初の語り手である修人が、放射能汚染から子どもを遠ざけることの意識の違いから妻と離婚するに至るのだが、目に見えない恐怖への感受性の差異であったともいえる。 修人と特別な関係を持つ千鶴は、エリナの姉である。過去の悲劇を抱えたまま、フランスを経てシンガポールでくらしている。そして、エリナとイギリスで出会う、日本に帰国することを切望していた朱里は、自宅を占拠していた義兄夫妻のニートぶりに悩まされる。朱里の、外側に現れる貞淑な主婦像と、激しい内面吐露とのギャップは衝撃的で、おかしくて、哀(かな)しい。 すべての人が自分に与えられた人生の課題に戸惑い、さまよいながらも、最もよい着地点を求めて模索する。「持たざる者」の目的語は何なのか、ずっと考えている。 (集英社・1300円) かねはら・ひとみ 83年東京都生まれ。作家。著書に『蛇にピアス』『マザーズ』など。
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読む前に久し振りの作品なのですごく期待しすぎたのが良くなかった 読み始めてから放射能の話しが出て来てガッカリ感があったけど、eriの話しで著者の作品だなぁと思って嬉しくなった eriメインの話しだったら良かったと思った
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うーん。マザーズから四年ぶりの作品とあって期待して読んだんですけどすごくがっかりでした。金原さん自身も東日本大震災で原発を恐れて岡山に移住し、その後パリで娘二人と暮らしてらっしゃるんですよね。どんな真意でそのようになってるかはわたしは存知てないけれど、金原さんの作品って私小説かな...
うーん。マザーズから四年ぶりの作品とあって期待して読んだんですけどすごくがっかりでした。金原さん自身も東日本大震災で原発を恐れて岡山に移住し、その後パリで娘二人と暮らしてらっしゃるんですよね。どんな真意でそのようになってるかはわたしは存知てないけれど、金原さんの作品って私小説かな、と思いたくなるような作品が今までも多かったから。四人の登場人物のどれもに金原さん自身の思考が入ってる気がした、読者のわたしから見たら。 Shu◆名あるデザイナーとして生計を立てていた修人は震災から被曝を恐れ妻子を西にやる計画を立て、少しずつ少しずつ精神崩壊していく。しまいには何もかも仕事も妻子も失い孤独ななか四年ぶりにシンガポールで旦那と暮らす千鶴と再会する。 Chi-zu◆真面目で完璧な人生を歩み何もかもうまくいっていた千鶴は夫の駐在先のフランスで息子を脳症で失い、それからシンガポールへわたり一時帰国した千鶴は四年前に恋に落ちかけた修人と再会し寝る。子供のくだりはかわいそうとは思ったけどイマイチピンとこなかった。けど、修人に惹かれてしまうのは分からなくもない、やものすごく分かる。 eri◆千鶴の妹で自由人。被曝を恐れてシングルで娘を連れてイギリスへ渡る。金持ちの仲良しの元夫。娘がパパと呼ぶ元彼、そして新しい若いベルギー人の彼氏。こういうふわふわとしてなんとかなる女いるよなー。生活に困らないなんとかなる系。一番感情移入できなかったうえにeriが一番著者の現状を反映させているように、読者であるわたしにはそう取れた。。 朱里◆朱里の話が一番金原さんの作風らしかったようにも思える。ロンドンに二年暮らしてた頃は苦痛で仕方なかった。一向に親しむことができない英語、慣れない環境、ママ友。やっと帰国してやっと帰れるマイホームには義兄夫婦が居座っていて、勝手に寝室使われるわ、気色悪いオタク系ポスターで埋め尽くされてるわ、娘のおもちゃは勝手に捨てられるわで日々ストレス。。。 原発とか被爆とかのために西へ、海外へ逃げるということを偏ってるとはわたしは思わないし、いろんな考えがある中で何が起こっているか分からないから逃げるという考えはいいと思うけれど、それでもなんかもやもやする話だった。どの話も。震災がらみの話は基本あまり好きじゃないのだが、中でもこれは本当にいまいちだったなぁ。何も入ってこなかった。
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3.11震災の放射能から妻子を避難させたい男。 その男からつながる人たちを取り上げた、全部で4人の話。 鬱々とした内面描写がやたらと多くて読むのがしんどかった。 途中でちょっと飽きた。
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持たざる / 持っているものやことそのものとは何を指すのか。親、子供、職、地位、お金、友人、家、性格。それら人が持っているものが突然持たなくなる、あるいは持てなくなる。人として持つべきものは何なのか、考えさせられる。
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ここ数冊の金原さんは柔らかくなったなあと個人的に思っていたけれど,今回の「持たざる者」はここ数冊の柔らかさと昔の鋭さの間に位置するような気がした. 読んでいて痛くて、そして少しだけ柔らかい. Shuを読んで金原さんだ!と脳が変換されて,章を進むにつれてこれまでの金原さんの作品を思...
ここ数冊の金原さんは柔らかくなったなあと個人的に思っていたけれど,今回の「持たざる者」はここ数冊の柔らかさと昔の鋭さの間に位置するような気がした. 読んでいて痛くて、そして少しだけ柔らかい. Shuを読んで金原さんだ!と脳が変換されて,章を進むにつれてこれまでの金原さんの作品を思い出すようなそんな一冊でした. また金原さんを好きになりました.
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大人になったなあ…と思わせられる1〜3章と、錆びない金原節が見受けられる4章。 自分の預かり知らないところで発生した衝撃波が回り回って自分を直撃したときに、どう生きていくべきなのか。とても切実だし、比較的読みやすかった。
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