革命前夜 の商品レビュー
1989年は、昭和が終わり平成が始まった年。 そして世界では民主化運動が激化し、6月に中国で天安門事件が起こり、11月にはベルリンの壁が崩壊した。 そんな激動の年の1月に、東ドイツの音大ピアノ科に留学した眞山柊史。それぞれに事情を抱えながら野心と情熱をもつ者や、天才的な才能を...
1989年は、昭和が終わり平成が始まった年。 そして世界では民主化運動が激化し、6月に中国で天安門事件が起こり、11月にはベルリンの壁が崩壊した。 そんな激動の年の1月に、東ドイツの音大ピアノ科に留学した眞山柊史。それぞれに事情を抱えながら野心と情熱をもつ者や、天才的な才能を持つ者。個性的な留学生や仲間と、ある日出会った美しく才能溢れるオルガン奏者。 理想の音を求めて音楽に没頭し、競い合い高め合って成長していく姿を描いた、清々しさオンリーの青春小説のような物語かと思いきや、時代が、1989年という年が、そうはさせてくれない。 社会主義の国からきている留学生、西側の人間、共産圏の国に生まれ育った者。読み進めていくと、それぞれの生い立ちや背景、過去が彼らの関係に影を落とし始める。 そして、思ってもみない方へとどんどん転がり出す。 これが本性か、こういう真相だったのかと思うと、次には否定される。めまぐるしく事実とされることが変わる中、その時々の彼らの心情を知りたくなり、何度もそれぞれの場面に戻って、読み返してしまう。 清々しさと痛みー。 なんて面白いんだろう、と思った。 図書館で単行本を借りて読んだのだけれど、何度も読み返したいので、手に入るうちに文庫を手に入れようと思った。
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登場人物は主に10人。ヴェンツェル、シュウ、イェンツ、クリスタ、李、ニェット、ダイメル家の4人。ダイメル家の家族はそうでもないが、それ以外の登場人物はそれぞれの個性が引き出されていて、すごく読みやすかった。シュウの目を通してベルリンの壁直前の東西ドイツの人々の思想や生活が垣間見る...
登場人物は主に10人。ヴェンツェル、シュウ、イェンツ、クリスタ、李、ニェット、ダイメル家の4人。ダイメル家の家族はそうでもないが、それ以外の登場人物はそれぞれの個性が引き出されていて、すごく読みやすかった。シュウの目を通してベルリンの壁直前の東西ドイツの人々の思想や生活が垣間見ることができた。この人のほかの作品を読みたい、とすごく思った。
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17:東ドイツの、息詰まるような状況に翻弄される日本人留学生がですね、つらい。でもめっちゃ面白いです……。音大生なんですけどスランプ中でね、さて音楽がどう彼を救うのか、あるいは救わないのかみたいな話かと想像しつつ読みましたが、当たっている部分もあるし、読みが浅すぎる部分もありまし...
17:東ドイツの、息詰まるような状況に翻弄される日本人留学生がですね、つらい。でもめっちゃ面白いです……。音大生なんですけどスランプ中でね、さて音楽がどう彼を救うのか、あるいは救わないのかみたいな話かと想像しつつ読みましたが、当たっている部分もあるし、読みが浅すぎる部分もありました。 空が晴れるような話ではないです。密告と裏切り、閉塞感の中で音楽を志した若者たちは、それぞれに弱さと才能の間でもがいていて、政治よりも改革よりも音楽を信じていたんだなと。最後のページまで神経が張りつめてるし、提示されたものがあまりに無垢であることに鳥肌。すごい。 ヴェンツェルは天才で、しかもミューズなんですよきっと。でもあまりに近いところにいるから、その才能を目の当たりにした側も深手を負う、みたいな。彼ひとりだけ立ってる場所が違う。KZのユージーンからここまで来たのかって思うと……ほんと……すごい……これが読める世の中ありがとう……。3月に文庫化とのこと、買っちゃうだろうなあ。
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冷戦時代の東西ドイツに吹き荒れた革命のうねりと、バッハの荘厳な音楽が絡まり合って、ベルリンの壁崩壊へと一気に突き進んでいく。 そこに巻き込まれた日本人の音大留学生。彼は裏切りに次ぐ裏切りの中で、歴史が変わる瞬間を目撃することになる。 東欧という地域の歴史については通り一遍のことし...
冷戦時代の東西ドイツに吹き荒れた革命のうねりと、バッハの荘厳な音楽が絡まり合って、ベルリンの壁崩壊へと一気に突き進んでいく。 そこに巻き込まれた日本人の音大留学生。彼は裏切りに次ぐ裏切りの中で、歴史が変わる瞬間を目撃することになる。 東欧という地域の歴史については通り一遍のことしか知らなかったが、日本人留学生マヤマ・シュウジの目を通して、初めて血の通った人間ドラマとして実感することができた。 全編を通して流れるオルガンの音色、暗い灰色の街並み、そこに蠢く人々の息遣いを感じることのできた作品だった。 2018/07
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国籍の異なる留学生らの、理想にもがく人物らの清々しい純粋さ 互いを牽制しつつも孤独と葛藤を共有しあえる仲というのは特別である。 1989年 昭和が終わり 天安門事件が勃発し 昭和の歌姫 美空ひばりが亡くなり ベルリンの壁が崩壊した 歴史の1ページのように感じるけど ほんの29...
国籍の異なる留学生らの、理想にもがく人物らの清々しい純粋さ 互いを牽制しつつも孤独と葛藤を共有しあえる仲というのは特別である。 1989年 昭和が終わり 天安門事件が勃発し 昭和の歌姫 美空ひばりが亡くなり ベルリンの壁が崩壊した 歴史の1ページのように感じるけど ほんの29年前の事。
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久々読み終わった後「この本に出会えさせてくれてありがとう」と思った作品。こう言うのが有るので本との出会いは面白い。 なにやら物騒な題名だなと思う物の、本屋のPOPに惹かれて手に取る。 ドイツが東西に分かれている時、日本人主人公がピアノのため東ドイツへ留学そこでの物語。 音楽つなが...
久々読み終わった後「この本に出会えさせてくれてありがとう」と思った作品。こう言うのが有るので本との出会いは面白い。 なにやら物騒な題名だなと思う物の、本屋のPOPに惹かれて手に取る。 ドイツが東西に分かれている時、日本人主人公がピアノのため東ドイツへ留学そこでの物語。 音楽つながりだからだろうか「羊と鋼の森」を思い出す。読んでいるだけなのに、良い音楽を聴いているようなすがすがしい気分にもなる。主人公は異国の地で、時代にも翻弄されながらも、自分の居場所を探す姿が胸に来る。何者でも無い感、国が違うことでの分かり合えない感じ、その中でも自分を探す姿勢、友人等人が見せる、醜さ美しさ、力強さ。 【学】 エクソダスとは、旧約聖書にある出エジプト記(モーゼのエジプト脱出の物語)。 そこから大量の国外脱出の事を言う。 【ベルリンの壁】 第二次世界大戦がドイツの無条件降伏により終わり、ポツダムでの会談で西ベルリンはアメリカ・イギリス・フランスの、東ベルリンはソ連の管理地区となった。やがてアメリカとソ連が対立。 東ドイツの人々は西ベルリンから西ドイツへ逃れ相次ぐ西側への人口流出が東ドイツに深刻な影響を及ぼしたことから、東ドイツが東西ベルリン間の通行を全て遮断し、西ベルリンの周囲を全て有刺鉄線で隔離して、後にコンクリートの壁を作った。西ベルリンを東ドイツから隔離して西ベルリンを封鎖する壁であったが、実質的には東ドイツを外界から遮断し自国の体制を守る壁であったのが「ベルリンの壁」である。 このベルリンの壁はドイツ分断の象徴であり、かつ東西冷戦の象徴でもあった。1989年秋の東ドイツ政府の不用意な発表から、その日の夜に壁の前に多くの東ベルリン市民が押しかけて国境検問所のゲートが開き、数万人の市民が西ベルリンに入った。これは「ベルリンの壁崩壊」と呼ばれている。
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優れた音楽小説は、読んでいると奏でる指が見え、その音がはっきりと聞こえてくる。だからこれは、紛れもなく”音楽小説”である。むしろミステリ風味はもっと薄くてよかったかのじゃないかと思う。 ラストは素直に鳥肌が立つ。
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『また、桜の国で』同様に東欧の戦乱と生きる希望をクラシック音楽とシンクロさせた作品。 本作は東ドイツとバッハがテーマ。 音楽学校の生徒達が個性豊かで『蜂蜜と遠雷』を髣髴とさせるところもある。
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※このレビューにはネタバレを含みます
著者の作品はお初だった。 読みやすく、丁寧に描かれた時代背景、エッヂのきいた人物造形も分かりやすく、音楽を題材としていることで手に取ってみたが、冷戦時代の東ドイツの内情や市井の暮しが生々しく描写された力作だった。 このところ、戦後70年も過ぎ、太平洋戦争~高度経済成長の時代も歴史のヒトコマと感じることが多くなったが、本作の物語がスタートする”昭和の終わった日”、1989年も、もはや歴史と思えるほど時が経ったんだと唖然とさせられた。というより、1989年の出来事は、そうとう歴史的なことだったと再認識させられる。 当時、海外のニュースとして見聞きしていたベルリンの壁の崩壊を(一応、それなりに大事件だという受け止め方はしていたつもりではあるが)、本書を読むと、やはり遠い海の向こうの出来事としか捉えてなかったんだなと思わされた。記憶に残るのは、「たった一日で」や「一夜にして」と言った、この事件を飾る修飾語の数々。ところが、本書の登場人物たちの暮らす東ベルリンの市民目線から見れば、壁の崩壊はそんな一瞬の出来事ではなく、そこに至るまでの思いや過程が何層にも折り重なり、時間をかけて高まった圧力故の結果だったということをひしひしと感じる。 バブルの喧騒を逃れ、東ドイツのドレスデンに音楽留学にきたピアニスト眞山柊史を狂言回しに、音楽大学で知り合った二人の天才ヴァイオリニストや、アジアからの留学生たちとの”音楽家”としての成長譚の様相で進む物語は、やがて冷戦下、東西ドイツという時代と国家体制の下、予想もしなかった歴史エンターテイメントとして展開していくストーリーテリングがひたすらお見事!若き音楽家たちの成長の物語と思って読みはじめると、その奥行きの大きさに驚かされることだろう。 本書の紹介に、”日本人音楽家の成長を描く歴史エンターテイメント!”などとあるが、テーマは彼の”成長”の部分にはなく、あの日に向けての日々とそれに関わる東ドイツ、東欧の人たちの運命、それが”歴史”となって刻まれていく様であることに唸らされてしまう。 お初の著者なので読後それなりにプロフィールを漁ってみる。1989年当時は高校生。歴史好き、ドイツ好き、元は少女小説を書いていて、近年一般大衆小説へ作風を切り替えた経歴の持ち主。世界史、欧州、ドイツがお好きなようで、なるほど当時の東ドイツの様子も近隣諸国との関係性も含めて上手に描かれている。 ソ連との関係が希薄な気もするが、著作の舞台も徐々に西から東へと移って来ており、ソ連時代にも興味があるようなので、今後の東への広がりに大いに期待が持てそうだ。 音楽に関しては、エレクトーン、吹奏楽の経験者。宮下奈都のように45年もピアノをやっていたということはないようだ。それ故か、作中に出てくる演奏曲については、恩田陸ばりに言葉による解説がちりばめられているが、くどすぎたり抽象的すぎたりもせず程よい。 ラフマニノフは、”怒涛のごとく連なる音符”、”何もかもうやむやにしたままの濁流が勢いよく駆け抜けていく”と評し、バッハの平均律は”どうやっても弾き手が剥き出しになってしまう”ゆえに”恐ろしい”と、自分のような素人が、今後、鑑賞する際の参考となるような記述が、陳腐といえば陳腐なのだが、程よい手引きとなりそうでありがたかった。 とはいえ、曲名にはタイトル、作者のみならず作品番号まできっちりと記載されており、制作当時の時代背景をも説明しつつの解説、曲解釈は、クラシック音楽を楽しむ醍醐味を垣間見せてくれて、そんなふうに楽曲を愉しめたらいいだろうなと羨ましく感じた。 専門外(?)のクラシック音楽の部分もしっかり取材、研究した上で、自分の得意分野であるドイツを舞台に描く歴史エンターテイメント。 「音楽に国境はないという言葉は、嘘だ。音楽程地域性、国民性が出るものはない 」 と、各国の登場人物に存分に国民性を滲ませて演じさせた展開も実に良かった。音楽家である前に、東ドイツ人であり、ハンガリー人であり、ベトナム人であり、ユダヤ人であり…。 日本人が普段なかなか持ち得ない民族としてのアイデンティティを際立たせ、歴史的な1年の中で紡ぐ交響曲は、あの壁崩壊の日に盛大なフィナーレを迎える。 その日、主人公の下宿の隣人も、あんたもそういう人だったんかい!?と正体を垣間見せるあたり、小ネタも利いて面白い。エンタメを分かっている作者だね。 ちょっと誉めすぎた。ミステリーの要素も後半深まるが、主人公の父親とドイツ人の間で交された膨大な書簡が、思わせぶりなだけで、その内容に特に触れられることなくスル―しているのが惜しかった。 でも、ま、なかなかの見っけものの作品。著者の他作品も読んで見よう。
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手を切る程、ピアノを愛している人に対して「貴方の音も素敵なのに」って思った。 同時に、私が1番がほしくてずっと2番だった頃の気持ちも思いだした。 今の自分を好きと言ってくれる人がいるけど、1位が欲しい。 自分を信じているからこそどこまでもいきたい。 傲慢かもしれないけど「私もこれが好きだしこれ(極めたかったもの)の神様も私が好き」って思ってた。 私はピアノは弾けませんが。 李さんの激しさが、見てて安心した。 ちゃんと違うぞって指摘してくれる人も好きだから。 帰る場所がない人からしたら自分はお坊ちゃんに見えるんだろうなって思った事あるわ。 眞山、良い奴なんだよ。当たり障り無く人に接する。知りあいの少女も無理には助けない。 だからこそオルガン奏者の子を天才に奪われるんだろうなとも思う。 素晴らしい人が素晴らしい人に惹かれないわけないもの。 ヴェンツェル、あと1回くらい刺されそうだな。ジョニーデップがやりそうな人。 人を愛するより才能を愛する人の方が罪深い気がする。
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