さいごの色街飛田 の商品レビュー
遊廓の名残りをとどめる、大阪・飛田。社会のあらゆる矛盾をのみ込む貪欲で多面的なこの街に、人はなぜ引き寄せられるのか!?取材と執筆に12年もの歳月をかけた筆者の執念を行間から感じ取る事の出来る一冊です。 大阪・飛田。僕がこの街の存在をはじめて知ったのは好きな作家の黒岩重吾や...
遊廓の名残りをとどめる、大阪・飛田。社会のあらゆる矛盾をのみ込む貪欲で多面的なこの街に、人はなぜ引き寄せられるのか!?取材と執筆に12年もの歳月をかけた筆者の執念を行間から感じ取る事の出来る一冊です。 大阪・飛田。僕がこの街の存在をはじめて知ったのは好きな作家の黒岩重吾や梁石日の作品に頻出し、また彼ら自身もまた西成や飛田界隈のディープで猥雑な世界にどっぷりとその身を浸したことがあるということを知ったのがきっかけでした。 その姿は個人が主催しているサイト「大阪DEEP案内」などでその断片を知ることができますが、さまざまな「事情」を抱えた人間が集まる西成・飛田界隈を写真撮影するのはさぞかし大変だろうなぁと、その努力に敬意を払いながらサイトに掲載されている写真を見ていたことを思い出します。 本書は今なお当時そのままの遊郭が160軒ほどが在りし日の雰囲気で営業していると聞いております。そこで行われていることはあまり詳しくは書きませんが、あくまでも「自由恋愛」のひとつの形として男女の「営み」を店にいる女性と行う「擬似恋愛」の場所ということにとどめます。 筆者は1955年生まれのフリーライターで、旅行ペンクラブという団体に所属し、インタビューやルポを中心に活動しているという経歴をお持ちの方でございます。本書を世に問うために12年もの長き間、まさに体当たりで組合や遊郭の経営者、実際にそこで春を鬻ぐ女性たちや『曳き子』と呼ばれる女性。 果ては西成界隈の怖い「お兄さん」にいたるまで、丁寧な取材を基に描かれており、巻末に挙げられている資料を眺めていると、『よくもまぁここまで出来たなぁ』という筆者の執念を感じました。 読み進めるうちに本書にも出てくる黒岩重吾氏の『飛田ホテル』や『西成海道ホテル』『西成山王ホテル』など以前読んだ彼の『西成モノ』と呼ばれる一連の作品群に出てきた人物や、その物語が次々と頭に浮かんでは消えました。詳細は割愛しますが、あの物語の舞台は黒岩氏が闇屋時代から西成界隈で息を潜めていた時代に見聞きした経験がモチーフになっているはずで、相当な年月がたっているはずですが、西成・釜ヶ崎地区のことを『時が止まった街』と称したことが事実であるがごとく、 「私らはイカンことしてるんやから。書かれては困るんや」 という「飛田新地料理組合」の組長の言葉に象徴されるように内々の『掟』を守り、広告も打たず、HPも立ち上げずにひっそりと営業を続けているというエピソードからもうかがえました。 そして、流れ流れてここにたどり着く女性たちもそれぞれに『事情』を抱えていて、その中でも最たるものがやはり、『貧困の連鎖』『負の連鎖』で、後半のほうに出てくる筆者とブログを介して知り合った料亭の女将の 「そりゃ、風俗という選択をしない人生を送るほうが、女性としては幸せなんだと思いますよ。でも、何らかの事情でやむを得ず風俗の世界に飛び込んだのやったら、(風俗の仕事を)ポジティブにとらえて、頑張って1円でもたくさん儲けるほうがいいに決まってますやんか」 僕は似たような話を歌舞伎町界隈のことを書いた本の中で読んだことがある気がします。それは現在でも場所と形を変えてそういう問題が横たわっているという証左なのでしょう。 個人的な考えで春を売ったり買ったりすると言うことの是非を云々するつもりはありません。ただ、飛田をはじめとする多くの『歓楽街』がその『魔力』ゆえに多くの人をひきつけるということもまた事実であり、このような遊郭や料亭が現在でも残っているというのも、ある意味では貴重なもので、そのありのままの姿を切り取っているという意味でも、またかけることとかけないことのぎりぎりを歩みつつ、『掟』の中で生きる人たちの生々しいまでの『息遣い』を記録したという意味で、本書は貴重であると僕は考えます。 ※追記 本書は2015年1月28日、新潮社より『さいごの色街 飛田 (新潮文庫)』として文庫化されました。
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飛田の歴史と文化を知ることができる。 異様な雰囲気を放つ最後の色街としての飛田。 そこで暮らす人々のエピソード。 筆者自身が長い時間をかけてインタビューを繰り返したため、非常に価値のある知識を得ることができる。
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昔、仕事で飛田を車で通り抜けたことあります。店からおばちゃんが手招きして出てきて、店の中には、ピンクのライト浴びたお姉さんが座ってます、ここは何だろう、20代女子にはわかりませんでした。 ジェンダーレス社会でも、この手の本は、女性作家と男性作家では違ってくるのだろうな、男性目線の...
昔、仕事で飛田を車で通り抜けたことあります。店からおばちゃんが手招きして出てきて、店の中には、ピンクのライト浴びたお姉さんが座ってます、ここは何だろう、20代女子にはわかりませんでした。 ジェンダーレス社会でも、この手の本は、女性作家と男性作家では違ってくるのだろうな、男性目線の本も読んでみたい。
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後半の女の子や店主へのインタビューが面白い。 過去は家の借金のかたになった女の子が、今は男かギャンブルで失敗した女の子が借金におわれて、飛田に入ってくる。それを店主、闇金、男客が搾取するという構造だということだ。 みんな自分を飾りたがる。女の子は嘘の過去を話をして、店主は自分は女...
後半の女の子や店主へのインタビューが面白い。 過去は家の借金のかたになった女の子が、今は男かギャンブルで失敗した女の子が借金におわれて、飛田に入ってくる。それを店主、闇金、男客が搾取するという構造だということだ。 みんな自分を飾りたがる。女の子は嘘の過去を話をして、店主は自分は女の子を育てる仏だといい、男客は粋に情緒を楽しんでいるのだという。 陰鬱な気持ちになる。 しかし一方で、本当にそんなに暗い話ばかりなんだろうかとも思う。実態にはさまざまな事情があるのじゃないかと思う。著者に飛田は裏社会で闇であってほしいという願望が透けて見える。そしてそこから美談的なものを抽出したがっているように見える。ステレオタイプな視点は終始鼻についた。
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某アニメに遊郭の話が出てきたことから、歴史的背景をこの国に住む限り知っておかなければならないな、と直感的に思って読みました。 とても丁寧な取材をされている作者さんです。 必読。
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成毛真「面白い本」で知って読んだら期待通り面白かった。 著者が何かの会合で初めて飛田を訪れたのが遊廓建築をそのまま使った料理屋で、その「百年も前にタイムスリップしたような、映画のセットの様な街の光景に度肝を抜かれ」建物内部の「天井、襖に金や赤が施されたおどろおどろしい世界に、えも...
成毛真「面白い本」で知って読んだら期待通り面白かった。 著者が何かの会合で初めて飛田を訪れたのが遊廓建築をそのまま使った料理屋で、その「百年も前にタイムスリップしたような、映画のセットの様な街の光景に度肝を抜かれ」建物内部の「天井、襖に金や赤が施されたおどろおどろしい世界に、えも言われぬ淫靡さを感じ」、以来「怖いもの見たさ」でちょくちょく訪れ取材する様になったとか。 2000〜2011年の取材に基づく単行本では、この「色街(にいちゃん、にいちゃん、と手招きするおばちゃん、上がり框に座った女の子のいる店に男達が吸い込まれていく、そんな店が160軒連なる街)」は、出来てから100年、基本的には何も変わってない、というのがここで暮らす人々の声だった。女の子達は家の経済的困窮救済の為の犠牲である事、1958年に売春防止法が施行された後も何も変わってない事、等々。 しかしその後2014年迄の取材に基づく文庫版後書きには、単行本内で「(女の子を)躾けるというより、調教やね」「洗脳していく」と言っていたまゆみママが、「今はもうそういう時代ではない…きちっとした常識のある文章が書け」お金を稼ぐという確個たる目的を持って借金うんぬんではなく自分の意思で来る、身体が資本とエステや骨盤マッサージにも行くプロ意識のある女の子が来ている、と発言している点が、100年変わらなかった飛田新地でこの数年で起こっている大きな変化と感じ興味深い。
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怖いもの見たさで行ってみたいと思ったけど、あくまでも自分は傍観者でいられると信じているからだと思う。でもここに書かれた景色はどこまで残っているんだろう。
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飛田で生きる人達の情念のようなものを感じた。 終盤に出てきた女性経営者の人が話していた「女の子を育てる」という内容が心に残った。
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「吉原で生きる」が面白かったので、西の色街についても知りたくなり本書を図書館で借りました。 本書はフリーライターの井上理津子さんが2000年から2011年までの間に経営者、働く女性たち、客、警察、ヤクザへのインタビューを通して、飛田という人間の性むき出しの街を活写したルポルタージ...
「吉原で生きる」が面白かったので、西の色街についても知りたくなり本書を図書館で借りました。 本書はフリーライターの井上理津子さんが2000年から2011年までの間に経営者、働く女性たち、客、警察、ヤクザへのインタビューを通して、飛田という人間の性むき出しの街を活写したルポルタージュの力作です。 飛田新地は概ね400メートル四方。その中に160軒ほどの「料亭」が並びます。料亭には女優のようにきれいなホステスが上がりこまちに座っていて、曳き手おばさんが「兄ちゃん遊んでいってや」と呼び込み。 「この『遊び』とは料亭の中でホステスさんとお茶やビールを飲むこと。お客が案内される部屋はホステスさんの個室。その中で偶然にもホステスさんとお客が『恋愛』に陥る。恋愛は個人の自由。恋愛がセックスに発展することもあるが、それは決して売春ではない。だから、支払う料金も」「ビールやジュースや菓子の料金である」 この偶発的な恋愛はソープランドの屁理屈と大差ありませんが、料金体系はだいぶ違うようです。値段は20分15,000円、30分20,000円。女性の取り分は50%、経営者が40%、遣手婆さんが10%とのことです。 本書が描くのは①飛田の歴史②経営者の生態③女性のそれぞれの事情④売春防止法への対応⑤飛田町内会の活動。 色街だけあって取材対象が非常に閉鎖的。著者は飛田に何回も通い、経営者と仲良くなったり、抱き付きスリのような危ない目に遭ったり、取材希望の貼り紙を出したり、ホステスの採用試験を友人に受けさせたりと肉弾的取材を試みます。会話の殆どは大阪弁であり、非常にどぎついルポルタージュになっています。 飛田で働く多くの女性は借金持ち。人気のあるホステスは、なるべく長く店に縛り付けておきたいと思うのが経営者。まゆ美ママという経営者は「この借金が終わるまでに、宝石、ブランドの服などを買わせ、海外旅行をさせ、夢と希望を持たせ、この店にいるからこそ自分があると思うように洗脳していく。借金が減っていくとホスト遊びを覚えさせる。それも安いホストクラブではなく座るだけで3万、4万の高級店。お気に入りのホストを指名し、ボトルを入れ、一晩で何十万ものお金を使わせて」借金がなかなか減らないように工夫したようです。怖い話です。 また、「料亭」の経営者は夫婦であることが多く、中の切り盛りをしている奥さんは 「心労、過労が激しく、飛田の奥さんのほとんど早死しやんねん。だいたい奥さんが先に逝く。その後旦那さんはだいたい店の女の子と再婚する」。 結局、飛田という街はホステスであれ、経営者であれ、女性が苦労する街であることは間違いないようです。 ルポルタージュのお手本のような本で、面白くは読めましたが、少なくとも飛田に行ってみたいと思わせる本ではありません。飛田で働く人間の醜さみたいなものを垣間見たような気がしました。 他の飛田に関する本は読んだことがないので、何とも言えませんが、この本の資料的価値は高いと思います。興味あれば、お読みください。ただ、結局のところ、この世で一番大切なのはお金です。
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どのような形態で成り立っているのかが少しわかった。中にいる人達の声が記載されており非常に貴重な文献だと思った。
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