ストーナー の商品レビュー
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わたしはわたしだ。 至極控えめで、しかし圧倒的な、愛。 自分への弛まぬ愛があったのだと死を前にして実感できたことがどれほど幸せなことか。言葉にするとどこか陳腐に感じてしまうが、私は彼のことを少年の頃から見てきたのだ。特筆すべき才能があるわけではない物静かな少年が、怯えながらも決断を下し、惹かれ呑まれ、翻弄されながら生きた。私はそれを傍でずっと見てきたのだ。誇らしさを感じながらも自分の厚かましさを覚えていた唯一の自著が、明るい夏の午後、ベッドに横たわるその手から落ちるその瞬間まで。 その最期を看取ったとき。 自分のことを軽々に評価などするべきではないのだと思った。 この肉体を手放す前には、 思想を手元で確かめられる間は、 ひとときの自己評価にある種甘えるべきではないのだ。 全てを知ってなお、わたしはわたしなのだと悟ったストーナーの最期の顔が忘れられない。
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面白かったけどこれを「平凡な人生」といっていいのかは疑問。ストーナーの人生はかなり大きな決断の連続であったという点においてだいぶ波乱万丈だったのでは??(こんな考えにいたるようにするのが著者の思惑なのかも)
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荻原魚雷さんがこの小説について、希望の仕事に就いた、結婚した、子を持った、「その先」がしっかりと書かれている点が良いと評価していたけど、とにかくリアルで悲しい。 同僚ローマックスの職場での執拗な嫌がらせも嫌な気持ちがするんだけど、そこまでではない。妻イーディスの家庭内での猛攻撃が...
荻原魚雷さんがこの小説について、希望の仕事に就いた、結婚した、子を持った、「その先」がしっかりと書かれている点が良いと評価していたけど、とにかくリアルで悲しい。 同僚ローマックスの職場での執拗な嫌がらせも嫌な気持ちがするんだけど、そこまでではない。妻イーディスの家庭内での猛攻撃がとにかく辛い。結局、2冊目の書籍の執筆計画も潰え、一人娘とのコンタクトも阻まれて、娘も精神的に追い詰められて、しかもイーディス自身もその自覚なく、誰とも心を通わすことなく、切実にこれらの言動をしており、この上なく孤独な人生を送っていて本当に辛い。 もちろん、主人公ストーナーに非がないわけではない。でも他にやりようがあったかというと、それも難しい。何も成し遂げない人生に意味があるかという中年期の問いの直後に不倫に走る当たりも、辛い。 まだ読むのが早すぎたか、この小説を美しいと素直に思えない気持ちがある。
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農場出身の田舎者が大学の先生になって一生を終える話。大きな成功もなく、ただ淡々と物語が進んでいくところが、現実味があって良い。 読み終わって悲しさでいっぱいになったけど、人生ってそういうものなんだろうな。 とても美しい話だった。
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心が穏やかになる読書時間だった。ストーナーの人生が淡々と、でも熱をもって進んでいく感じが、温かさと健やかさをもたらしてくれた。
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★5つでも足りない。 間違いなく2023年に読んだ小説の中でもトップクラスの作品。 ストーナーという一人の男の生涯。 派手さはなく、苦しさや寂しさの方が多かったのではないか。 多くの場面で、常に何かに手を伸ばし続けている男を感じた。手に入りそうで手に入らない。何かを求め渇望し続け...
★5つでも足りない。 間違いなく2023年に読んだ小説の中でもトップクラスの作品。 ストーナーという一人の男の生涯。 派手さはなく、苦しさや寂しさの方が多かったのではないか。 多くの場面で、常に何かに手を伸ばし続けている男を感じた。手に入りそうで手に入らない。何かを求め渇望し続けている姿。 そういうものなのかも知れない。
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よかった。 特に劇的なことが起こるわけでもない、多分平凡な男ストーナーの一生。 不思議と味わい深く、読んでいてとても面白かった。 それはおそらくディテールが細かいからで、自分とは関係のない人の関係のない人生でも、繊細微妙な感情が手に取るように描かれていたらそれはとてもリアリティを...
よかった。 特に劇的なことが起こるわけでもない、多分平凡な男ストーナーの一生。 不思議と味わい深く、読んでいてとても面白かった。 それはおそらくディテールが細かいからで、自分とは関係のない人の関係のない人生でも、繊細微妙な感情が手に取るように描かれていたらそれはとてもリアリティを持って立ち上がる。 『東京の生活史』とか『大阪の生活史』に通じるものがある気がする。普通の人の普通の暮らしや人生に思いを馳せた時の感慨というか。 それと、夫婦関係がここまでうまくいかないまま死んでいくさまが小説で描かれることは少ない気がした。 小説におけるうまくいかない夫婦関係は、大抵離婚したり何かが起こって修復に至ったりする気がする。 でも世の中の仲のよくない夫婦は、不和やすれ違いを抱えたまま人生を続けて、そのまま終わっていくのがほとんどなんじゃないかなと思った。まさにストーナーのように。 人生のままならなさと切なさ。
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挫折本 P50まで 農家生まれの主人公が大学で農学をまなぶ 授業の中で進路変更し大学講師になる。 やがて戦争がはじまり、友人を戦場に送りだす。終戦へ。
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美しさとは何か、なぜ、それを感じたのか。 ここにあったのは、共感性。人間として直面する壁とそれを乗り越えるための努力。それでも起きてしまうと過ちや後悔。これらはワンセットで誰にでも起こる事。これが起きた時に、どう乗り越えるかで、人生が多様化していく。器用に生きるか不器用に生きる...
美しさとは何か、なぜ、それを感じたのか。 ここにあったのは、共感性。人間として直面する壁とそれを乗り越えるための努力。それでも起きてしまうと過ちや後悔。これらはワンセットで誰にでも起こる事。これが起きた時に、どう乗り越えるかで、人生が多様化していく。器用に生きるか不器用に生きるか。不器用というのは、他人との関係性に対する自己調整機能が弱い事。譲れない思想がある場合も不器用になる。 器用に他人に合わせる人生には、憧れない。自我を感じないし、そもそも物語がない。真面目に一生懸命である事の美しさはあるのかも知れないが、そのドラマは抑揚なき複製品だ。 ストーナーという、ファーマーの息子として生まれた男の一生。静謐ながらも、その生き様には静かなドラマがあり、多くの共感がある。派手なイベントや緩急つけて読ませるエンタメ小説ではない、純文学。考えさせられる美しさがあった。
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生きるうえで、避けられない悲しみや辛さが、こんなにもまっすぐ書かれているのに、文章の美しさにひきこまれてしまって、スイスイ読んでしまう。 主人公のストーナーは特別な人間ではない。 世界に貢献したり、誰かを生涯幸せにしたり、そうした素晴らしいことはできないまま、生きて、死んでいく。 しかし、彼の忍耐力や、内面に抱える葛藤、ふとした瞬間に人生の美しい面にふれたときの喜びは、読んでいる私にとてつもない感動を与える。 それは彼の人生の表面をなぞるだけでは得られない感動である。 小説という形で、人の内奥に深く迫れるメディアだからこそ得られる感動だと思う。 一方で、現実の世界の人々もまた、彼と同じように表面には顕れない思いを抱えているということに、気付かされて、そこにもまた心を強く揺さぶられた。 私たちは他者の表面しか見ることができない。 きっとストーナーのことも、現実世界で出会ったら、アルコール中毒に苦しむ娘も、生育過程で傷を負って不安定な妻も救うことができず、自分は若い女性と浮気をしたどうしょうもない奴と思っていたんじゃないだろうか。 しかし、ストーナーの内面をダイレクトに受け取りながら、人生を共に生き切ったあとで、そんなふうにはとても言えない。 彼には数多くの悲しみと苦しみがあり、葛藤があり、そんな中で、ほとんど誰にもその気持ちを理解されることなく、人生を孤独に生きていた。 現実世界に生きる人たちも同じように、他者に理解できない苦しみを抱えたまま孤独に生きている。 そのことに思い至ると、どんな他者をも軽んじることはできない、と強く思い知らされる。 思いやり、と簡単に口にするし、他人の気持ちを慮って行動しよう、とスローガンは巷に溢れている。 私たちは、そう思うあまり、他者の気持ちは推し量れるもの、と思い上がっているのではないだろうか? どれだけ親しく近しい人であっても、他者の心を垣間見ることはできない。 理解できない他者であるからこそ、1人1人が抱える宇宙のような無限の広がりを、敬い、尊重できるようになりたい、と強く思った。
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