丹生都比売 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
短編集 『月と潮騒』 ごく短い、冷蔵庫のお話。梨木さんのイメージとちょっと違うな、と思いつつ、でも読み終わると梨木さんの紡ぐ世界だなと。 『トウネンの耳』 これもごく短いお話で、梨木さん鳥が好きだからね、と思いながら読んでいる間に終わってしまう。この本の中ではあまり印象に残っていない。 『カコの話』 ようやくこの短編集の流れに慣れてきたのか、大好きな家守奇譚あたりに雰囲気が寄ってきたからか、この話あたりから引き込まれ始める。過去は人魚の姿をしていたりするのだ。 『本棚にならぶ』 部分の欠損。独特で、印象には残っている。抽象的すぎてちょっとなー。 『旅行鞄のなかから』 これも独特。ずっと対話調で、記憶の旅とでもいうのか。 『コート』 最後の重ねられたコートの光景が鮮烈に目に浮かび、悲しく美しいエピソード。前の2作品と比較して非常にわかりいやすいのがまた好ましい。良い配置。 『夏の朝』 これだけで単行本1冊成立するくらいの読み応えがある。 夏ちゃんに寄り添う守護霊の視線がどこまでも温かくて、それがこの話を包み込んでいる。優しく悲しい気持ちになる。 『丹生都比売』 表題作だけこの本の中では一番の長編。過去に単行本として出版されたこともあるそうで、その時は書き足した部分を削って本来の形に戻されたとのこと。 草壁皇子のひ弱なイメージが、梨木さんの美しい古代風の語りで、繊細で優しく、良い方向に引き出されている。 水銀の禍々しさが幻想的に描写されるが、その裏に貫かれているのは母子の壮絶な物語。
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奇譚とか異聞とかいうとやたら観念の公房戦wを繰り広げるのが昨今の流行のようになってしまっているがそんななかシンプルな言葉を紡いで肌触りの良い上質なファンタジーを仕立てることの出来る作家のひとりが梨木さんだと思う。 今回も老いの侘しみや生の寂しみを時を超え多面的な視点で捉えた九つの...
奇譚とか異聞とかいうとやたら観念の公房戦wを繰り広げるのが昨今の流行のようになってしまっているがそんななかシンプルな言葉を紡いで肌触りの良い上質なファンタジーを仕立てることの出来る作家のひとりが梨木さんだと思う。 今回も老いの侘しみや生の寂しみを時を超え多面的な視点で捉えた九つの物語、アイデンティティである鳥や植物も散りばめられて梨木ワールドに彩りを添えている。 表題作「丹生都比売」も史実の論議を外して読むならば母と子の「個」を見詰めたしっとりとした趣きで読み応えあり。 単行本もあるようなのでそちらも読んでみたい
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独特の世界。 短編集だったのでめまぐるしかった。 特に、タイトルの『丹生都比売』はあたしにはちょっと……だったなぁ。
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「丹生都比売」のすきとおるような文体を読んで、宮沢賢治を思い出しました。 「夏の朝」もなつかしい気持ちになり、じんとするお話でした。
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梨木香歩さんの短編集。 どの作品も、いつもの生活から少し目を外したところにあるかもしれない、不思議な世界が描かれていて素敵だった。 BGMを止めて、静かな空間でじっくり読みたい本。
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梨木さんの小説はいつも植物の描写、風景の描写が秀逸だと思う。 日常を非日常が侵食しているようなストーリーの多いこの短編集でもそれは健在で、読んでいて霧にけぶる朝の雑木林を散歩しているような気分になった。 私はどちらかと言えば「夏の朝」や「コート」のような現実に近いところで展開する...
梨木さんの小説はいつも植物の描写、風景の描写が秀逸だと思う。 日常を非日常が侵食しているようなストーリーの多いこの短編集でもそれは健在で、読んでいて霧にけぶる朝の雑木林を散歩しているような気分になった。 私はどちらかと言えば「夏の朝」や「コート」のような現実に近いところで展開する話の方が好みだったけれど、「沼地のある森を抜けて」とかが好きな人は全編楽しめると思う。
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短編集でした。 草壁皇子が主役の長編小説と思っていたので、ちょっとびっくり。 しかも、少し川上弘美っぽい不思議系の話。 それはそれで好きなのだけど、思っていたのとはちょっと違うので慣れるまで少し時間がかかりました。 でも、「コート」「夏の朝」辺りから、しみじみといいなあと。 ...
短編集でした。 草壁皇子が主役の長編小説と思っていたので、ちょっとびっくり。 しかも、少し川上弘美っぽい不思議系の話。 それはそれで好きなのだけど、思っていたのとはちょっと違うので慣れるまで少し時間がかかりました。 でも、「コート」「夏の朝」辺りから、しみじみといいなあと。 慈しみという言葉が自然と思い起こされる。 で、「丹生都比売」 飛鳥時代、奈良時代は結構権力争いに負けて命を落とす皇子がたくさんいたけど、草壁皇子は圧倒的な後ろ盾をもって皇太子になったのに、天皇にならないで亡くなってしまった。 病弱だった草壁皇子の少年時代を書いたお話。 悲劇の皇子と言えば有間皇子や大津皇子が有名だけど、草壁皇子の悲劇はそれとは違う。 母親の過剰ともいえる期待を一身に受けながら、期待に応えることができない。 そんな自分を申し訳なく思う。 現在の子どもたちと同じ思いを抱える皇子。 “ひとはみな、それぞれの生の寂しみを引き受けて生きていく、という芯を持つ蔓なのだろうと思う。” 持統天皇(草壁皇子のお母さん)視点も入った、長編も読んでみたい。
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人と人の周りにあるものとが、柔らかく不思議にとけてゆく、神話のような短編集。 目に見えないものの豊かさを感じることができ、おだやかな気持ちになります。 特に表題作「丹生都比売」は秀逸。 おごそかな装丁もいいです。
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初期の梨木さんの短編集を集めたもの。 ここからすでに梨木さん独特の雰囲気は始まっていて、全てが繋がっているような感じがした。 すっと物語に引き込まれていって何かに包まれているような感じ。 ハードカバーの装丁が似合っているけど、文庫化することはないのだろうか。
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長野まゆみさんのささみみささまめのような不思議な話の短編集。 潮騒の月が好きだけど、最後のオチが月に呼ばれた後に飛び降りるみたいなのを想像してしまう。 屋上だからかな。 丹生都比売はああ、梨木さんだ。この流れは…と唸ってしまった。 欲望のために弟、姉、果ては自分の息子まで殺した女...
長野まゆみさんのささみみささまめのような不思議な話の短編集。 潮騒の月が好きだけど、最後のオチが月に呼ばれた後に飛び降りるみたいなのを想像してしまう。 屋上だからかな。 丹生都比売はああ、梨木さんだ。この流れは…と唸ってしまった。 欲望のために弟、姉、果ては自分の息子まで殺した女。 あの勾玉をみて獣のように泣いたのは後悔なのか罪悪感なのか。 息子として愛してたはずなのに、自分の欲望には勝てなかったのか
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