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闇の中の男 の商品レビュー

3.8

31件のお客様レビュー

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  2. 4つ

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2024/05/05

目が覚めるとそこには二つに分断された米国があった。 ひょっとしたら有り得たかもしれない米国分断記、これは凄い。内戦中の米国が舞台だが人々の会話に焦点が当てられ、どこまでも混沌としていく。 自分の読解力の無さ故に全て理解出来なかったが、当時よりも今の時代を言い当てていたように見える...

目が覚めるとそこには二つに分断された米国があった。 ひょっとしたら有り得たかもしれない米国分断記、これは凄い。内戦中の米国が舞台だが人々の会話に焦点が当てられ、どこまでも混沌としていく。 自分の読解力の無さ故に全て理解出来なかったが、当時よりも今の時代を言い当てていたように見える。

Posted byブクログ

2023/08/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 ベタな作家の本を読めてないことはたくさんあり、そういうのをたまに読みたくなる。装丁が渋くて読んでみたら、やはりポール・オースターなのでしっかりオモシロかった。  元物書きの老人が夜眠ることができない中、思い出したくない過去や考えたくないことを振り切るために物語を創作するという設定からしてオモシロい。寝る前に限らず嫌な過去などが唐突に頭に去来して何とも言えない気持ちになることは往々にしてあると思う。それを乗り越える行動が物語の創作なんだ!という驚きがあった。  老人の創作した物語と老人、娘、孫娘の現実の話がクロスオーバーしつつ描かれていく。前者については一種のエンタメ小説になっていた。アメリカ国内で内戦が起こるパラレルワールドへ飛ばされた男の話でSF的な展開が好きだったし、メタ構造で創作している著者をブッ飛ばさないといけないアイロニーもいい。以下引用。 *私自身を物語に入れることで、物語は現実になる。さもなければ私も現実ではなくなる。私の想像力のもうひとつの産物にすぎなくなる。*  ただ個人的に好きだったのは後者の現実パート。三世代で娘、孫娘ともにパートナーが不在で3人暮らしという設定がとても新鮮で、彼らのコミュニケーションの様を読んでいるだけで癒された。ハイライトは老人と孫娘の会話だろう。前半の映画にまつわる議論、特に『東京物語』から見る近代化と親子関係という話はとても興味深かった。また後半、老人が亡き妻との関係を孫娘からの質問に回答していくシーンは結婚生活の酸いも甘いも含まれており思わず”That’s life.”とでも言いたくなるような内容だった。これとかグッときた。 *歳をとるにつれて、問題も減じていくように思えたんだ。でも三十五、三十八、四十、あのころはなんだか、自分の人生が本当に自分のものじゃない気がしていたんだ。自分が真に自分の中で生きてこなかったような、自分が一度も現実だったことがないような。現実ではないがゆえに、自分が他人に影響を及ぼす影響もわかっていなかった。自分が引き起こしうる傷も、私を愛してくれる人たちに自分が与えうる痛みもわからなかった。*  創作された物語だけでなく戦争が大きなテーマの作品になっている。孫娘のパートナーがイラク戦争に志願し悲惨な結末を迎えるところの描写は辛かった…その姿をしっかりと眼に焼き付けて闇の中に置き去りにしないという考え方にシビれた。あとがきを翻訳を務めた柴田元幸が書いており、そこでアメリカにおける911と^物語をめぐる話がありそちらも興味深かった。他の代表的な作品を全然読んでないことに気づいたのでグイグイ読んでいきたい。

Posted byブクログ

2023/08/04

『写字室の旅』との対応は、現実と虚構の混合、交錯か。 何が現実で、何が虚構か。 あり得たかも知れない現実。私たちは絶え間ない分岐のたった一つの枝にいるに過ぎない。 圧倒的な悲しさによって呑み込まれた虚無。 物語があるだけに、その断絶は堪える。 他人は結局のところ、分から...

『写字室の旅』との対応は、現実と虚構の混合、交錯か。 何が現実で、何が虚構か。 あり得たかも知れない現実。私たちは絶え間ない分岐のたった一つの枝にいるに過ぎない。 圧倒的な悲しさによって呑み込まれた虚無。 物語があるだけに、その断絶は堪える。 他人は結局のところ、分からないのに、解釈し続けてしまう自分がいる。 戦争にロマンやドラマはない。 その点でオースターにしては珍しく、本作はアクチュアルだったな。

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2022/08/28

軽い本を読んでいると軽い本が読みたくなるし、ポール・オースターはじっくりと落ち着いて読みたいので、まあ、その時期になったということですね

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2022/04/01

ポール・オースターの美徳でもあり弱点でもあるだろう、どこからか滲み出てくるコミカルなタッチに惹かれてこのほら話(いい意味で、です)を読むことができた。彼の歴史改変の手腕は実に軽やかで、「もしこうだったらよかった」と実存まで賭けて妄想を巡らせるスティーヴ・エリクソン的なスタイルでは...

ポール・オースターの美徳でもあり弱点でもあるだろう、どこからか滲み出てくるコミカルなタッチに惹かれてこのほら話(いい意味で、です)を読むことができた。彼の歴史改変の手腕は実に軽やかで、「もしこうだったらよかった」と実存まで賭けて妄想を巡らせるスティーヴ・エリクソン的なスタイルではなくむしろ「こんなことも思いついちゃいました」とレゴブロックを組むように奇想を盛り込んでいく作風を感じる。その分ポップで読みやすく、またあとに尾を引くものがないとも言えるのでこれは好みの問題だろう。この陽気さは一筋縄ではいかない!

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2021/08/07

『闇の中の男の、終わりなきパラレルワールド』 妻を失った祖父と、恋人を戦争で亡くした孫娘の、眠れない夜を、回想と創作世界とが交錯しながら描かれる、なんとも不思議な作品。創作世界の主人公が現実の世界に戻るために現実世界の作者を殺しにくる、なんて設定からしてさすがオースター!

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2021/07/03

ポールオースター得意の物語in物語。 物語の終わりは突如。 現実との絡みがないわけではないが、あまりピンとこない。  孫に語る自分のこと。 孫に聞く孫のこと。 自分の想いを打ち明けられる家族って素敵だよね。

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2020/08/27

最後に希望を感じた図書だった。眠れない老人が頭の中で物語を作り出す。眠れない老人は娘、孫娘と一緒に暮らしており、3人とも身近な人を亡くしている。その3人の物語と並行して、老人が頭の中で作られる物語も進んでいく。老人が作る物語は、9月11日、アメリカ貿易センターのテロが起こらなかっ...

最後に希望を感じた図書だった。眠れない老人が頭の中で物語を作り出す。眠れない老人は娘、孫娘と一緒に暮らしており、3人とも身近な人を亡くしている。その3人の物語と並行して、老人が頭の中で作られる物語も進んでいく。老人が作る物語は、9月11日、アメリカ貿易センターのテロが起こらなかった世界へ迷い込んだ男の話だった。つらい現実もあるけど、それでも世界は転がっていく…

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2020/08/02

娘を迎えに駅まで行った時、ちょっと早く着いたので駅前の図書館に立ち寄る。予約本もなく図書館に行くのはほんと久しぶりだ。 あまり長居しないように気を使いつつ、書架をうろついたところ、ポール・オースターを発見。「この人の本、昔図書館に通っていた頃よく読んだなぁ」と懐かしくなり借りた。...

娘を迎えに駅まで行った時、ちょっと早く着いたので駅前の図書館に立ち寄る。予約本もなく図書館に行くのはほんと久しぶりだ。 あまり長居しないように気を使いつつ、書架をうろついたところ、ポール・オースターを発見。「この人の本、昔図書館に通っていた頃よく読んだなぁ」と懐かしくなり借りた。 2001年9月の同時多発テロが起きない世界、そこでは代わりにアメリカ内戦が起きているー という内容の作中作(主人公の妄想)と現実が交互に描かれ絡み合っていく。 日本語版の発売は2014年で、この本は今回初読。 相変わらず幻想的で暗い。暗闇の中で懐中電灯で照らしながら読んでいる気分になる。 とは言え、柴田元幸さんの訳ということもあり読みやすい。ただ、僕の場合、引っ掛からなすぎてするっと行きすぎて、「何書いてあったっけ?」となってしまい何ページか戻って確認する、ということがよくあるのだが…笑 アメリカが911で背負った苦しさを描いているが、エンディングでは傷つきながらも乗り越えていく強さと希望が感じられ、気づいたら夜が明け朝になってたかのような読後感。 けったいな世界は転がっていく!

Posted byブクログ

2020/07/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2014年に表紙のデザインに一目惚れして買った本を積読していて今更読了。話は入子構造となっており、それがだんだんと微睡のように混ざっていく形。ツインタワービルの件がどれだけ絶望させて疲弊させたのかが伝わる暗くて疲れてて老いを感じさせてハァ〜となるような文体だった。大人の老いと慢性的な絶望と疲れは年々ひどくなっているので、部屋の隅に置いて熟成させたのが、かえってよかったかもしれない。緩慢な文章をしっとり呑んでいたので、最後にタイタス青年の悲劇でガツンッて頭を殴られたように終わるのがよかった。

Posted byブクログ