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闇の中の男 の商品レビュー

3.8

31件のお客様レビュー

  1. 5つ

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  2. 4つ

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  3. 3つ

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2014/10/16

勿論、この作品の白眉は「主人公オーガスト・ブリルの紡ぐ、ジョルダーノ・ブルーノ的多次元世界としてのメタ話中話」ではなくて「孫娘カーチャへ亡き妻ソーニャとの日々を語る眠れない未明」だとう思う。殊に、孫娘の誕生を機に二度目の同居をソーニャが決意する下りは伴侶持ちには感動的ですらある☆...

勿論、この作品の白眉は「主人公オーガスト・ブリルの紡ぐ、ジョルダーノ・ブルーノ的多次元世界としてのメタ話中話」ではなくて「孫娘カーチャへ亡き妻ソーニャとの日々を語る眠れない未明」だとう思う。殊に、孫娘の誕生を機に二度目の同居をソーニャが決意する下りは伴侶持ちには感動的ですらある☆でも個人的には、話中話の主人公、手品師ブリック・オーエンとアルゼンチン妻フローラの話はスピンオフしてほしい。

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2014/08/18

ある文筆家が想像する物語と、その文筆家の人生の物語が不思議に交錯する小説。 想像の物語は途中で途切れてしまうが奇妙な味わいが残る。 悲しみの覆われた家族がゆっくりと再生の糸口を探っている様子がせつない。 不可思議なエピソードを集めた本を出版しているポールオースターらしく、不思議...

ある文筆家が想像する物語と、その文筆家の人生の物語が不思議に交錯する小説。 想像の物語は途中で途切れてしまうが奇妙な味わいが残る。 悲しみの覆われた家族がゆっくりと再生の糸口を探っている様子がせつない。 不可思議なエピソードを集めた本を出版しているポールオースターらしく、不思議な物語が作中にも登場して興味深かった。

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2014/08/18

老いたからこそ、書ける作品なのか。前作の「写字室の旅」のように、作者が登場する作中作をとった、メタ的な実験作になっている。老いた作者を登場させることが、今のオースターのリアルなのだろう。ただ、作品自体は枯れておらず、作中作は911が起きていない一方、ブッシュがニューヨークを独立さ...

老いたからこそ、書ける作品なのか。前作の「写字室の旅」のように、作者が登場する作中作をとった、メタ的な実験作になっている。老いた作者を登場させることが、今のオースターのリアルなのだろう。ただ、作品自体は枯れておらず、作中作は911が起きていない一方、ブッシュがニューヨークを独立させた内乱状態にあるアメリカとなっており、また現実世界でもイラクへの派兵の傷跡があり、明快に怒っている作品だ。 「このけったいな世界が転がっていく」このキーワードが、どうしょうなもない世界でもなんとか生きていこうとする姿を表している。

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2014/08/07

ある老人が、深夜の真っ暗闇の自室で物語を夢想するお話です。 老人の家には、娘と孫娘も住んでいます。それぞれが大切なパートナーを失くし、孤独を抱え、夜眠れずに苦しんでいます。眠れない同居人の気配をお互いに感じながら夜が明けていくのをじっと堪えています。 このお話は構成が凝ってい...

ある老人が、深夜の真っ暗闇の自室で物語を夢想するお話です。 老人の家には、娘と孫娘も住んでいます。それぞれが大切なパートナーを失くし、孤独を抱え、夜眠れずに苦しんでいます。眠れない同居人の気配をお互いに感じながら夜が明けていくのをじっと堪えています。 このお話は構成が凝っています。老人の回想シーンと夢想シーンが交錯しながら物語が展開していきます。 失った人を思い出しては、呆然と立ちすくんだり自分を責めたりして苦しんでいます。それでも前を向かなければならないと気づいている彼らの姿が、読む人を切なくさせます。気づいていることに気づきたくない、と言えばいいのでしょうか。 大切なパートナーに置いてけぼりにされても、息をしているからには、心臓が動いているからには、生きていかなければいけないのです。 苦しいけれど、生きていくには、自分で自分を立ち直らせるしかないのです。

Posted byブクログ

2014/08/03

オースター「闇の中の男」http://www.shinchosha.co.jp/book/521717/ 読んだ。身近な人の死に深く傷ついている家族が慈しみ合い再生に苦しむ。孫の元恋人がテロ組織に惨殺されたYouTube映像を頭から追い出すために、毎夜頭の中で物語を作る主人公と...

オースター「闇の中の男」http://www.shinchosha.co.jp/book/521717/ 読んだ。身近な人の死に深く傷ついている家族が慈しみ合い再生に苦しむ。孫の元恋人がテロ組織に惨殺されたYouTube映像を頭から追い出すために、毎夜頭の中で物語を作る主人公と自宅で映画を見続ける孫(つづく 読後すぐは、あれオースターどうしたと思った、盛り込みすぎじゃないかと。でも本の帯(911のないもうひとつのアメリカ)に惑わされたんだな。出版社は反省して欲しい笑、全然違うでしょ。重大事件や事故について大きなことを語るのではなく、一家族という最小単位で描いたすばらしい小説(つづく 米大統領選でのフロリダ州票の盗獲、911に続くイラク攻撃というブッシュ政権の一連の行動は米国知識層だけでなく他国の人たちの良心をも傷つけた。厄災に見舞われすぎのこの家族は世界中の傷ついた人たちの象徴。眠れぬ夜に孫が祖父の過去話を聞く後半は設定の妙。親子なら生々しすぎる(おわり

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2014/07/17

随分久しぶりにポール・オースターを読む。話の組み立て方が相変わらず凝っている。物事の中で物語が展開するお馴染みのパターン。しかもそれは単なる入れ子の構造ではなく、物語が進むにつれ輪郭が曖昧になり入れ子の中身が渾然一体となってゆく。さすがにオースターらしい。途中までわくわくとした気...

随分久しぶりにポール・オースターを読む。話の組み立て方が相変わらず凝っている。物事の中で物語が展開するお馴染みのパターン。しかもそれは単なる入れ子の構造ではなく、物語が進むにつれ輪郭が曖昧になり入れ子の中身が渾然一体となってゆく。さすがにオースターらしい。途中までわくわくとした気分で高揚しながら頁を繰っている自分を意識する。 しかし、途中から雰囲気が変わる。徐々に作中の人物に語らせる言葉に意図的な刺々しさを感じ始める。違和感が押し寄せる。剥き出しの感情、それも決して幸せな気分ではない。怒り。打ち降ろしようのない振り上げた拳。いらいらとした感情が登場人物の背後に蠢く。 どろどろとした感情を小説に持ち込まないで欲しいとか、ポール・オースターらしくないとか言って拒絶するつもりはない。しかし、この焦燥感と怒りの感情は双方向の遣り取りを生み出さない。一方的に言葉を発するものから受けとるものへ作用する。そして、それを受け止め損ねた読み手を置き去りにする。むしろその峻別を意図しているのか。そう勘ぐる程に言葉が鋭い。 もちろん、これまでのオースターの作品とてニューヨーカー的リベラリズムが基調となっていたし、政治的な色で言えば青を志向していることは明らかであったけれど、個人的な主張を読み手に迫るようなことはなかったと思う。恐らく違和感の元はそんなところにある。オースターが揶揄する人物が「お前の旗を見せろ!」と迫ったことと同じことを、主旨は違うとはいえ迫つている。その矛先の鋭さが、ことの良し悪し以前に拒む気持ちを駆り立てる。 中盤までの複線化した物語は、結局何処へも辿り着かない。それはオースターの小説によくある二疋の蛇が互いの尾を食らって徐々にその輪を小さくしていく展開と見えるのに。その先に待ち構える空白を巧みに描いて見せてくれるのがオースターの魅力であると思うのだが、この本の中に仕組まれた二重三重のからくりは、まるでメビウスの環のように思わず魅せられてしまう程であるのに、途中で打ち捨てられたままとなる。そんな消化不良も手伝って久しぶりのオースターにやや呆然とした気持ちになる。 作家自身の心の闇。9.11以降のニューヨーカーのPSTD。どうしてもそんなようなことを考えてしまうけれど、何かを力ずくで取り除こうとすれば、それは新たな心の闇を生む。為すべきことは、ひょっとしたら沈黙なのかも知れない。口を禁んでいれば、少なくとも誰かを傷つけることはない。消極的な自殺願望。そんな思いの狭間で、オースターは答えを保留する。その態度に唯一救いを見る。

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2014/07/10

ポール・オースターの作品は、だいたい読んでいるけれど、かなり珍しい作品のように感じた。たいていの彼の作品は、ストーリーが激しくかつ滑らかに展開するその流れに身を任せていれば、自然と読み終わってしまう、そうしたリーダビリティの高さがあった。一方、今回は「9.11がなかった世界」を、...

ポール・オースターの作品は、だいたい読んでいるけれど、かなり珍しい作品のように感じた。たいていの彼の作品は、ストーリーが激しくかつ滑らかに展開するその流れに身を任せていれば、自然と読み終わってしまう、そうしたリーダビリティの高さがあった。一方、今回は「9.11がなかった世界」を、メタ小説的に2つの世界が交錯するという文学的技法を駆使しつつ描く一種の思考実験のような装いがあり、スムーズには読ませない。 ただし、だから面白くない、ということは全くなく、むしろ、ゆっくりと読み進めるうちに、次第とその文学世界にはまっていく、そんな作品だった。 9.11という災厄を1人の作家として真摯に受け入れ、感動的な「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」にような作品を生み出したからこそある作品という点で、オースターの作品を語る際に、重要なターニングポイントとなる作品のように思う。

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2014/06/26

夢の中で語られる男があっさり死んでしまって、えっ…、ってなった。 伝えたいことはあるんとはおもうんだけど、小説としてはうーん。

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2014/06/17

ストーリーinストーリーの展開がオースターらしく、読み応えあり。闇の中から発せられる生きるということへのメッセージに心打たれます。傑作。

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2014/06/12

片足が効かない不眠症の老人が、寝付けない闇の中、現実と向き合わないために自分の頭の中で物語を作る。 物語は、想像と自分の経験から形作られていくから、細部の端々に老人の半生がフラッシュバックする。 老人は、戦争を語りたがっている。 読み進めながら、老人の家族の事情がわかってくる。...

片足が効かない不眠症の老人が、寝付けない闇の中、現実と向き合わないために自分の頭の中で物語を作る。 物語は、想像と自分の経験から形作られていくから、細部の端々に老人の半生がフラッシュバックする。 老人は、戦争を語りたがっている。 読み進めながら、老人の家族の事情がわかってくる。 だんだん老人の頭の中以外の物語も見えてくる。 降って湧いた災害ではなく、圧倒的な暴力だった9.11。 向き合って戦う、実際的な手段とは別の。 人が折り合うための言葉、物語を探る小説。 いきなりポンと答え、じゃなくて。 物語を作る人は、過程を語る中にメッセージを込める場合もあるんだ、ということを自分に納得させていないと楽しめない類の小説です。 すごく良い小説です。

Posted byブクログ