ファイナルガール の商品レビュー
藤野可織さんの恋愛小説集、と聞いて、ちょっと意外ではあった。読んでみて、やはり一筋縄ではいかない「恋愛」小説ばかりだった。 小説、特に「純文学」とカテゴライズされる類のそれにおいて重要なものが二つあって、それは小説全体に漂う「空気感」と、小説の行く先を決定付ける「瞬間」の二つな...
藤野可織さんの恋愛小説集、と聞いて、ちょっと意外ではあった。読んでみて、やはり一筋縄ではいかない「恋愛」小説ばかりだった。 小説、特に「純文学」とカテゴライズされる類のそれにおいて重要なものが二つあって、それは小説全体に漂う「空気感」と、小説の行く先を決定付ける「瞬間」の二つなのだと私は思う。このどちらか(またはどちらも)がちゃんと書かれている小説は面白いし、面白い小説にはちゃんとそれが書かれているのだと私は思う。 収録されている7編はどれも、現実が幻想に切り替わる瞬間が滑らかであり劇的だった。 たとえば深海魚のことを考えた瞬間に、部屋の電気を点けた瞬間に、玄関のチャイムが鳴った瞬間に、見慣れたはずの現実が突然姿を変えてしまうようなそういう瞬間が、一瞬の隙をついて襲い掛かってくる。それでいて「まあそういうものだから」と、その世界の歪みをするりと呑み込ませてしまう不思議な説得力がある。けれどやはり歪みは歪みであり、この世ならざるものを呑み込めば体が違和を唱えるのは必然であり、読み終えたときには体の奥に、妙なしこりのようなものが残るのだ。
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