里山資本主義 の商品レビュー
藻谷氏ほどではないですが、日本全国の地域を訪問させてもらって、「里山資本主義」の観点では中国・四国地方がもっとも進んでいると自分自身も感じています。過疎高齢化がもっとも進行し、47都道府県を挙げていっても最後の方に固まるような地域で何が起こっているのか、もっと多くの人に知ってもら...
藻谷氏ほどではないですが、日本全国の地域を訪問させてもらって、「里山資本主義」の観点では中国・四国地方がもっとも進んでいると自分自身も感じています。過疎高齢化がもっとも進行し、47都道府県を挙げていっても最後の方に固まるような地域で何が起こっているのか、もっと多くの人に知ってもらいたいです。 良く言われるのが、「そんなんで暮らしていけるのか?」ということです。「暮らす」という表現には「金を稼いで生活していけるのか?」という意味が含まれています。このことに関しては、藻谷氏も述べているように二項対立の問題ではないと考えています。金を稼ぐ換金できる仕事の割合と、地に足をつけて食べ物やエネルギーを生産する割合のバランスの問題です。いまの社会システムのメインフレームであるマネー資本主義のサブシステムとして、里山資本主義による安心を加えていけば良いのだと思います。 自分自身が割と観察力に優れていて、物事の要点を洞察する癖がある(反面、飽きっぽくて持久力がない)せいか、農業・林業・水産業・古民家再生・炭焼き・鳥獣解体、、ありとあらゆる体験をさせてもらって自給自足レベルならば簡単にできてしまうことも理解できました。そこから換金できるような商品をつくるのが非常に難易度が高いわけで、野菜でも木材でも自分が手をかけたものはとりあえず愛おしい、という実感をいろんな人に持ってほしいですね。 そして、自分の役割としていかにそのハードルを下げていくかを設計して、都市部の閉塞感に包まれている方々に体験してもらうかをコーディネートしていくかを考えています。都会か田舎か、という選択を迫るのではなくて、すでに科学技術の進展による利便性と先人たちの積み上げてきた暮らしのバランスをそれぞれがどこで折り合いをつけていくのか、そういった機会を提供することが自分の仕事なのです。
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テレビや新聞、そしてネットでも、「景気がよくなってほしい」、「景気が社会を牽引するんだ」という論調ばかりが目立つ。確かに、経済は社会の基盤だし、何らかの経済システムがなければ社会も成り立たないだろう。だけど、お金のモノサシばかりで測っている今の資本主義って、どうなんだろうか? そ...
テレビや新聞、そしてネットでも、「景気がよくなってほしい」、「景気が社会を牽引するんだ」という論調ばかりが目立つ。確かに、経済は社会の基盤だし、何らかの経済システムがなければ社会も成り立たないだろう。だけど、お金のモノサシばかりで測っている今の資本主義って、どうなんだろうか? そう誰もがアタマの片隅では考えているのではないか。 本書は『デフレの正体』の藻谷浩介さんと、NHK広島取材班の共著になっている。副題は、「日本経済は安心の原理で動く」とある。マネー資本主義に問題を提起する一冊だ。 マネー資本主義の前提は、「経済の成長」である。人は誰しも、昨日よりは今日、今日よりは明日、少しでも生活を含めてよくなることを望むものだ。もちろん、それはボク自身だってそうだし、そこに異論はない。だけど、「経済の成長」をGDPだけで計るのか、お金のモノサシだけで計るのか。そこに大きな落とし穴がある。 マネー資本主義に染まりきってしまうと、自分の存在価値は稼いだ金銭の額で決まると思い込む。それどころか、他人の価値までもその稼ぎで判断し始める。お金は何かを買うための手段であって、持ち手の価値を計るモノサシではない。人は誰かに「あなたはかけがえのない人だ」と言ってもらいたいのであり、「何かと交換することや比べることもできない、あなただけの価値を持っている人なんだ」と、認めてもらいたいだけなのだ。 同志社大学教授の浜矩子さんは、「グローバル時代は、強いものしか生き残れない時代だという考え方自体が誤解だ」といった。「われわれはグローバルジャングルに生きているけど、ジャングルの中には強いものしかいないのではない。百獣の王のライオンもいれば、小動物、草木、はてはバクテリアまでいる。強いものは強いものなりに、弱いものは弱いものなりに多様な個性と機能を持ち寄って生態系を支える。これがグローバル時代なのです」と。 藻谷さんは、今日、日本人が享受している経済的な繁栄への執着こそが、日本人の不安の大元だろうとみる。高度経済成長により、お金で何でも変えるようになり、生活も豊かになった。一方で、自然だとか人間関係だとか、そういう金銭換算できないものは置き去りにされた。そういう社会を作り上げてしまった。だから、経済成長が生活を豊かにしたのだと信じている。そこへの執着が、裏を返すと経済成長が停滞することで、日本人が不安を抱える。これが、現状の日本だろうと。だけど、藻谷さんは「日本経済衰退説」は、「みんながそう言っているんだから、そうなんだろう」という以外にハッキリした根拠がない、一種の集団幻想なのだと見ている。 藻谷さんの結論は明確だ。日本で「デフレ」といわれているものの正体は、不動産、車、家電、安価な食品など、主たる顧客層が減り行く現役世代であるような商品の供給過剰を、機械化・自動化されたシステムによる低価格大量生産に慣れきった企業が止められないことによって生じた、「ミクロ経済学上の値崩れ」であると言い切る。その解決は、それぞれの企業が合理的に採算を追求し、需給バランスがまだ崩れていない、コストを価格転嫁できる分野を開拓してシフトしていくことでしか図れない。先進工業国であるドイツや北欧の大企業も、同じような道を進んでいる。要するに、企業による飽和市場からの撤退と、新市場の開拓しか、デフレ脱却はできないという、ごくごく当たり前のことだ。 内需型産業も、同じようにコストを価格転嫁できるだけのブランド力を持つことに注力し、できない分野からは撤退してその市場は輸入品に任せる。ブランド力を持つことができれば、人件費水準をあげていけば、日本経済を維持できるだろうという。そして、経済が循環であるとするなら、高齢富裕者から、女性や若者にお金を回すことが、現実的に考えた「デフレ脱却」の手段だろう。 「少子高齢化」の解析も面白い。「少子高齢化」と一言でくくってしまうが、「少子化」と「高齢化」はまったく別の問題である。藻谷さんは、「少子化」は 日本人と日本企業が、マネー資本主義の未来に対して抱いている漠然とした不安・不信が形として表にでてしまったものではないか。「未来を信じられないこと」が原因で、子孫を残すことを躊躇った、一種の「自傷行為」ではないかと。ボクは、ここまでは思わないけど、「未来を信じられないこと」が経済と関係しているとは思う。未来を信じるからこそ、その未来に向かって成長するというモノサシで計るべきなのだ。
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「マネー資本主義に依存しすぎない、もうひとつのサブシステムを構築する」という目標は非常に興味深いというか、必要だろうと思う。 ただ著者の前作「デフレの正体」のインパクトが強すぎたので今回はさほど印象に残っていないという感じ。
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世界経済の最先端は、これまで辺鄙な田舎と蔑まれてきた里山にあるようです。 中国山地の山間、岡山県真庭市の銘建工業は木質バイオマス発電で、自社で使う全ての電力を賄っています。それだけでなく、ペレットを1kg20円ちょっとで販売、顧客は全国に広がり、一部は韓国にも輸出されています。も...
世界経済の最先端は、これまで辺鄙な田舎と蔑まれてきた里山にあるようです。 中国山地の山間、岡山県真庭市の銘建工業は木質バイオマス発電で、自社で使う全ての電力を賄っています。それだけでなく、ペレットを1kg20円ちょっとで販売、顧客は全国に広がり、一部は韓国にも輸出されています。もちろん、お膝元の真庭市内では一般家庭の暖房やボイラー燃料として急速な広がりを見せています。行政も「バイオマス政策課」を創設して後押ししています。 高齢化率が40%近くにもなる広島県最北部の庄原市に住む和田芳治さん。近所の人が所有していた裏山の一部、1ヘクタールを9万円で買い取りました。山の木を燃料にしたエコストーブで暖房や煮炊きの調理に使います。原価ゼロ円の暮らしを追求し、そうした暮らしを広める活動をしているといいます。 大手電力会社を退職して山口県南東部、瀬戸内海に浮かぶ周防大島でジャムづくりをしているのは松嶋匡史さん。フランスのおしゃれなカフェを連想させる建物で、地元で取れた果物を使ってジャムを手作りして島外からお客さんを呼び込んでいます。地元の果物はこれまで1kg10円で買い叩かれていましたが、松嶋さんは100円で買っているそうです。 本書にはこのほかにも、「里山」で奮闘する人たちを大勢取り上げています。中には、世界中から視察が絶えない事例もあります。何より目を見張るのは、その誰もが生活を楽しんでいること。本書で取り上げられる里山は、確かに高齢化が進み、都会のような便利さとは程遠いですが、希望に満ち溢れています。もちろん、里山暮らしゆえの困難はあるでしょうが、豊かな暮らしがそこにはあります。 タイトルにもなっている「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決する前提で構築された「マネー資本主義」に異を唱え、何かの問題でお金が滞っても、水と食料と燃料が手に入る仕組みのことです。バブル期までなら一笑に付されていた考え方かもしれません。しかし、東日本大震災が起きて、状況は一変しました。 とはいえ、本書は江戸時代以前の農村のような自給自足の暮らしに現代人の生活を戻せなどと言う極端なことを唱えているわけではありません。「マネー資本主義」の経済システムの横に、「里山資本主義」によるサブシステムを再構築しようと主張しています。その一部は都会でも実践可能です。よく農村と都会を対立する概念として捉える議論がありますが、その意味で本書は一線を画しています。 地方に住む人には勇気を与えるでしょう。私も我が国が本書が主張する方向に舵を切ればと念願してやみません。一ファンの内田樹さんも、方々で同様の主張を展開しており(本書でも言及されています)、個人的には意を強くしたところです。 心強いのは今、まだ一部ではありますが、有能な若者が地方志向を強めている現実があることです。私より上の世代は、温度差はありますが、経済至上主義に囚われ、それ以外に豊かさを享受する仕組みにはなかなか想像が及ばないのですが、一部の若者はその軛を逃れ、自由に発想します。 里山から始まる未来が、本当に楽しみです。
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今のマネー資本主義の世の中の物差しでしか見てこれなかった自分に、新しい視座をもたらしてくれた、里山資本主義。非電化工房主宰、那須在住藤村靖之氏の主張の中国地方版というべき取り組み、とも受け取った。個人的には、子育ても並行しているなか、自分のあり方も含め、何を次世代に伝えていけば良...
今のマネー資本主義の世の中の物差しでしか見てこれなかった自分に、新しい視座をもたらしてくれた、里山資本主義。非電化工房主宰、那須在住藤村靖之氏の主張の中国地方版というべき取り組み、とも受け取った。個人的には、子育ても並行しているなか、自分のあり方も含め、何を次世代に伝えていけば良いかを模索していたのだが、霧が晴れてきた思いである。グローバル人材たるべく世界に目を向けよう!など背伸びした主張もいいが、身の回りのものの真の価値を見出だしそれを起点に助け合いながら楽しく暮らしていこう!という地に足のついた考え方の実践の方が肩肘張らず良いと感じた。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
里山の再生を経済的な側面から検証した経済論。内田樹、平川克美などが唱えている均衡縮小経済下における相互補助が可能なコミュニティづくりと同様の内容だが、具体的に実際の産業ベースでその可能性を紹介している。中国山地においては製材業をバイオマス発電とリンクすることで復活させ、オーストリアのギュッシングではやはり木質バイオマス発電によるコジェネレーションを実現して最貧村から企業が電力を求めてやってくるほどの成功を収めた(ちなみにオーストリアの1人あたり GDPが日本より上位だとは知らなかった)。こうした事例をみると日本の過疎地にもまだまだ可能性は残されているように思う。しかし自分自身を振り返ってみると、東京の自宅はもちろん、実家に戻っても中途半端な市街地に過ぎず、いわゆる「手を付けていなかった自然」という可能性が皆無なので、どこか新しい土地を見つけなくてはこうしたことが出来ない。なかなかハードルが高いなぁと感じつつ、こうした流れは無視できないようになってきている。
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デフレの正体の著者が書いた本で、日本の林業、農業の再生とスローライフの融合により新しい価値観を持った生き方を提唱しており、すごく面白かった。里山に住んで人生をエンジョイしたいと思う一冊
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20130825 これからの日本の進むべき方向を示唆する内容。昔に戻るのでは無くて先に進む事。どの世代でも出来る事から始められるのがポイント。待っていてはダメ。行動しよう。と、いう気になる本。
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南の島に行った時に良く見るメンテナンスできない高級車を持て余す姿、錆でぼろぼろになった鉄でできた家屋。方や椰子の木などで自ら作った高床式の清潔な家。中途半端に資本主義経済に巻き込まれたところは、非常に貧しくなっているように見える矛盾が不思議でした。これは極端か。故郷の田舎の寂れた...
南の島に行った時に良く見るメンテナンスできない高級車を持て余す姿、錆でぼろぼろになった鉄でできた家屋。方や椰子の木などで自ら作った高床式の清潔な家。中途半端に資本主義経済に巻き込まれたところは、非常に貧しくなっているように見える矛盾が不思議でした。これは極端か。故郷の田舎の寂れた姿や地方のやるせない感じ。自然は豊か、人もいるのに、何故? この本を読んで少し紐解けてきたような気がします。また、これからのやることのヒントにつながる思いです。 矛盾を噴出させながらもグローバルで進行するマネー資本主義はまだまだ変わりそうもありません。そんな中でも、矛盾に巻き込まれて幸せを失うことの無いようにするための考え方が、エネルギー、自給食料、コミュニティーを中心に書かれています。直近ではすぐに置き換えることはできなくとも、サブシステムだったりバックアップといった補完する仕組みとしてつくるといった考え方もしっくりきます。 首都圏だけではなく、地方に生きる自分のような人間にも大いにヒントになる良書。いろいろアイデアを出してみよう!
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興味深い様々な人々の営みが紹介され、面白い内容だった。藻谷氏と取材班が、日本の中に見出した人々の価値観の変化の潮流は、未来の日本において大河になるのだろうか。読みながらずっとその疑問が頭を去らなかった。おそらく私が彼らが提示した価値観を受け入れ難く感じているからなのだろう。
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