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一四一七年、その一冊がすべてを変えた の商品レビュー

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2024/08/04

歴史・世界史好きには最高の1冊になりうる、ピューリッツァー賞作品(ノンフィクション)。題名の「その1冊」とは紀元前1世紀頃のルクレティウスによる哲学叙事詩「物の本質について」、そして1417年にそれを再発見したのはイタリアの公証人だった教皇庁の秘書、ポッジョ。この発見がルネサンス...

歴史・世界史好きには最高の1冊になりうる、ピューリッツァー賞作品(ノンフィクション)。題名の「その1冊」とは紀元前1世紀頃のルクレティウスによる哲学叙事詩「物の本質について」、そして1417年にそれを再発見したのはイタリアの公証人だった教皇庁の秘書、ポッジョ。この発見がルネサンスや啓蒙思想家、多数の科学者に多大な影響を与えて現代を形作っていったという壮大な物語。それなりの世界史知識があってもこの2人の名前を聞いたことがある人はいまい。ルクレティウスの本についてはエピクロス哲学の教義に基づいており、原子論を唱え(デモクリトスの考えの基になった)、死後の世界はないとし、宗教(当時は多神教)による禁欲や苦行を否定し、幸福を追求すべし、とする古代ギリシア時代ですでにこのような考えがあったことを驚かせる内容である。 古代ギリシア・ローマ哲学のルネサンス期による再発見はイベリア半島を中心とするイスラム世界を通じてだと思っていたが、本書によるとペトラルカを始めとした人文主義者が修道院の図書館から発掘してきた大昔の筆写本がきっかけと読み取れる。そしてポッジョはブックハンターとして、イタリア以外、とくにドイツやスイスの辺境地に新たな発見を求めて修道院の蔵書を目指す。これは古代遺跡の発掘に匹敵するようなロマンを感じさせる冒険だ。ストバイオス(4世紀)という文芸編集者が古代世界の作品を集めた1430の引用文のうち、1115文の引用元は消失しているという。今となっては知ることのできない作品がまだまだたくさんあることを示唆していて惜しまれる。 時代はルターの宗教改革のちょうど100年前の時代で、すでに教皇の権力は世俗の王に取って代わりつつあったが、聖職者の堕落や腐敗は公然の事実となっており、恐ろしい異端審問が横行する中世のイメージとは裏腹に、身内が内情を暴露することについては寛大だったとは驚きだ。3人の対立教皇による分裂を終息させるためのコンスタンツ公会議はフス火刑の図付きで世界史でも習うが、ポッジョがドイツに行くきっかけにもなっていて詳細が紹介されている。 「物の本質について」はその後ラテン語を読める知識人の間で広まっていくが、影響を受けた人物としては、芸術部門ではボッティチェリやダ・ヴィンチが挙げられている。それ以外にはマキャベリ、トマス・モア、ジョルダーノ・ブルーノ、アメリゴ・ヴェスプッチ、モンテーニュ、チャールズ・ダーウィンの祖父、アインシュタイン…といった具合。(フランシス・ベーコン、トマス・ホッブズも)そしてニュートンも原子論とキリスト教の両立を試みた1人。アメリカ独立宣言に、政府の使命が「幸福の追求」を支援することでもあると記載させたトマス・ジェファーソンの例も紹介されている。ブルーノと同時代人でトマス・ハリオットなる人物が、望遠鏡を建設して太陽黒点を観測し、惑星の衛星を観察し、惑星の楕円軌道を仮説した人物だったと未発表論文から発見されたとのことだが、この興味深い人物については別の機会に…

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2023/02/27

ルクレティウス『物の本質』の再発見者ポッジョの生涯は、それを見つけるだけの潜在力はあったが、それを擁護し、広めるほどの信を抱いていたわけではないことが、当時の歴史的背景も含めて、詳しく述べられている。がっかりはしたが、パラダイムに抗するということがいかに困難かを思い知る。

Posted byブクログ

2022/03/05

千数百年すっかり忘却されていたエピクロス主義の紹介者ルクレティウスと、ブックハンターとしてのポッジョ(1380〜1459)との遭遇がテーマ(解説より) トマス•ジェファーソンの独立宣言の中で、政府の使命として、「幸福の追求」を支援すること、を挙げているのは、ルクレティウスの影響...

千数百年すっかり忘却されていたエピクロス主義の紹介者ルクレティウスと、ブックハンターとしてのポッジョ(1380〜1459)との遭遇がテーマ(解説より) トマス•ジェファーソンの独立宣言の中で、政府の使命として、「幸福の追求」を支援すること、を挙げているのは、ルクレティウスの影響らしい。 数多ある予言のなかには、たまたま当たるものもあるのと同様に、数多ある学説のなかには、後世のものからすると、『こんな現代的な学説が当時からあったなんて』と思えることもあるだろう。難解な詩を読み解く時点でどうしても現代的な解釈をしているのではないか?と思わないでもない。 という点を割り引いても、以下の内容はルネッサンス的を飛び超えて現代的だなあ、と思った。原子論、無神論、進化論、量子力学、これで紀元前一世紀か。。 P231 ルクレティウスが投げかけた難題を構成する簡単なリスト 万物は目に見えない粒子でできている。 物質の基本となる粒子は永遠である。 基本となる粒子の数は無限であるが、形や大きさには制限がある。 全ての粒子は無限の真空の中で動いている。 宇宙には創造者も設計者もいない。 万物は逸脱の結果として生まれる。 逸脱は自由意志の源である。 自然は絶えず実験をくりかえしている。 宇宙は人間のために、あるいは人間を中心に創造されたのではない。 人間は唯一無二の特別な存在ではない。 人間社会は平和で豊かな黄金時代に始まったのではなく、生き残りをかけた原始の戦いの中で始まった。 霊魂は滅びる。 死後の世界は存在しない。 われわれにとって死は何ものでもない。 組織化された宗教はすべて迷信的な妄想である。 宗教はつねに残酷である。 天使も、あくまも、幽霊も存在しない。 人生の最高の目標は、喜びを高め、苦しみを現ずることである。 喜びにとって最大の障害は苦しみではなく、妄想である。 物の本質を理解することは、深い驚きを生み出す。

Posted byブクログ

2022/02/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

1417年に再発見されたルクレティウスの『物の本質について』で、宇宙は神々の助けなしに動いているという説で、後世に大きな影響を与える。でもね、この本がなくても、同じようなことを考える人はいたのではないか。

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2022/01/15

1417年、ローマ教皇の元秘書ポッジョ・ブラッチョリーニは、ドイツの修道院で忘れ去られた一冊の本を見つける。それはローマ時代の詩人ルクレティウスが古代ギリシャの哲学者エピクロスの思想を元に書き上げた詩、『物の本質について』だった。中世キリスト教が歪めて伝えた快楽主義の本当の意味と...

1417年、ローマ教皇の元秘書ポッジョ・ブラッチョリーニは、ドイツの修道院で忘れ去られた一冊の本を見つける。それはローマ時代の詩人ルクレティウスが古代ギリシャの哲学者エピクロスの思想を元に書き上げた詩、『物の本質について』だった。中世キリスト教が歪めて伝えた快楽主義の本当の意味と唯物論的世界観をうたったその詩によって、ルネサンス到来の下敷きができあがったのだった。その後も啓蒙主義の科学者たちからアメリカ独立宣言まで、西洋思想に静かに影響を与え続けた一篇の詩の再発見をめぐるノンフィクション。 ちょっとハードル高く感じる思想史の本なのだが、母親の思い出からはじめるグリーンブラットの巧みな導入と興味を惹きつける軽妙な語り口で、中世の〈ブックハンター〉ポッジョの旅にスッと同行することができる。 序盤でポッジョのいる15世紀初頭を少し覗くと、一旦ルクレティウスの生きたローマ時代に遡り、ヘレニズム期のアレクサンドリアに視点を移す。ここが面白い!要は多神教時代からキリスト教時代への過渡期なのだが、教養豊かで論理的なのは多神教徒のほうであり、キリスト教徒は論理でやり返すことができないため、教養のほうを否定しようと自ら無知であることを選んだのだと語られる。特に、生の快楽を追求するエピキュリアンへの解釈がどんどん歪んでいき、その反対側へ進もうとするうちに苦行や鞭打ちが過激化し"笑い"が否定されていく中世カトリシズムについての説明は、ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』をわかりやすく噛み砕いてくれているようだった。 そして再び修道院で眠っていたルクレティウスを蘇らせた中世人ポッジョの物語に戻るのだが、この人が秘書として仕えた教皇ヨハネス23世という男のキャラが強烈すぎる。本名はバルダッサレ・コッサ。離島を牛耳る海賊一族の出身で兄弟は死刑宣告を受けたこともあるようなワルなのだが、彼自身は大学時代から「教皇になる」と宣言し、実現させた。教皇庁の汚職の煮こごりみたいなこの教皇の正当性を問うためにドイツで公会議が開かれ、ポッジョはそれに同行。だがコッサは自分に不利な状況だと見るや公会議から逃亡し、ポッジョは雇用主を失ったが、そのままドイツでブックハントをすることにした。元々古代への憧憬が強かったポッジョのカトリシズムに対する失望が最大限膨らんだタイミングで、近代思想の礎になるような一冊の本をそうと知らずに見つけだし筆写した運命のドラマは本書の読ませどころである。 だがポッジョ自身、思想的にルクレティウスおよびエピクロスを支持していたわけではないらしい。『物の本質について』が説いた原子論はあまりにも無神論的で(ルクレティウスは神の存在は否定しなかったが人間社会への関与は否定した)、詩としては賛美できても思想に立ち入るのは危険だった。このような矛盾は後世も続き、『物の本質について』を英訳したピューリタンのルーシー・ハッチンソンは、全訳しながらもルクレティウスの思想は忌々しいと書いているという。ちょっと紫式部みたいなエピソード。 それでもルクレティウスは読まれ続け、ジョルダーノ・ブルーノの無限宇宙論やモンテーニュの快楽的自然主義、ガリレオやニュートンにまで彼の詩が伝えたエピクロスの思想が響いている。後世への多大なる影響を語るグリーンブラットの口ぶりはとても熱く、現代でもまだ誤解されている〈エピキュリアン〉の真の復興を願う気持ちがひしひしと伝わってきた。彼自身が「死を恐れる必要はない」というルクレティウスの言葉によって母の呪縛から解き放たれ、救われたからなのだろう。

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2021/10/04

15世紀イタリアの人文主義者ポッジョ・ブラッチョリーニによる古代ローマの詩人ルクレティウスによる「物の本質について」の発見とその影響。 一見興味を惹かれないテーマかと思いきや、初期ルネサンス人文主義の展開に大きな影響と、特に最後の一言に感動。 周辺史として面白い。

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2021/12/26

図書館で見かけタイトルに惹かれて読んだが予想以上にすばらしかった。文句なしの☆5つ。1417年にイタリアのブックハンターが紀元前1世紀のローマ時代の詩人ルクレティウスの『物の本質について』の写本を発見した話。  キリスト教によって否定され続けたエピクロス主義と原子論が1000年経...

図書館で見かけタイトルに惹かれて読んだが予想以上にすばらしかった。文句なしの☆5つ。1417年にイタリアのブックハンターが紀元前1世紀のローマ時代の詩人ルクレティウスの『物の本質について』の写本を発見した話。  キリスト教によって否定され続けたエピクロス主義と原子論が1000年経ってひっくり返すのが痛快。1000年後にひっくり返す例って他にあるかね。  どの部分も読みやすいし読んでいて楽しいが、特に最後の第10章「逸脱」と11章「死後の世界」が良かった。なぜキリスト教が原子論に過剰に反発したか。それは神の摂理と死後の世界は譲れない信仰だったから。原子論では、万物は目に見えない粒子でできている→人間は特別な存在ではない→霊魂も物質なので死んだら滅びる、だったから。弾圧にもかかわらず原子論が徐々に世界を変えていく様子が描かれている。登場するのは「ユートピア」のトマス・モア、異端者として火刑になったブルーノ、地動説のコペルニクス、物理学者ガリレオ・ガリレイ、「エセー」のモンテーニュ、そして最後はアメリカ独立宣言のトマス・ジェファーソン。関連が分かって今後の読書の参考になる。やっぱ科学への影響が大きい。変化は全く劇的でないけど、1417年から数百年かけて徐々に、しかし確実に世界の見方をひっくり返してて壮大。  原題のThe Swerve(逸脱)では内容がわかりにくいので邦題「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」で良かった。巻末解説でルクレティウスの1冊だけが変えたわけではないとケチをつけられているが、そんなの当たり前なので気にしなくて良いと思う。

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2021/02/11

前から読みたいな、読まなきゃと思っていた本。でもちょっと自分が勘違いしていた。活版印刷の機械でも作った話かと勘違いしていたら、ブックハンターが紀元前のギリシアの詩人の本を見つけてきた話だった。2012年にピューリッツア賞を取った本作だが、何かもう少し世界を変えた感が書かれているか...

前から読みたいな、読まなきゃと思っていた本。でもちょっと自分が勘違いしていた。活版印刷の機械でも作った話かと勘違いしていたら、ブックハンターが紀元前のギリシアの詩人の本を見つけてきた話だった。2012年にピューリッツア賞を取った本作だが、何かもう少し世界を変えた感が書かれているかと思ったがそうでもなかった。ただ、内容は興味深い。勉強になる。キリスト教も定着していくまでは多神教を遅い文化を破壊していく。不寛容な宗教だったんだな。本を焼くことの野蛮さが改めて伝わって来た。異端審問にも驚いた。特に時代背景としてカトリックがプロテスタントと別れる最中にこうした哲学が再度浮上してくる事のインパクトが大きかったとの事。そういう補助線を引いてくれるのは分かりやすい。カトリックはこの後といっても最近だがガリレオや色んな人に謝っているのは潔い。しかし色々科学が進めば進むほど未知な部分というかそれでも人間には分からない神秘的な所がある事が神様の存在を信じざるを得ない状況も作っているというところにまた色々思うところもある。しかし原子のアイデアがこんなにも昔からあってそれがルネサンス時代に再度発見されて、世界に大きな影響を与えるというストーリーは素晴らしいと感じた。

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2020/01/02

ルクティウスの「物の本質について」を巡る歴史ノンフィクション。一冊の本に書かれた哲学的な詩が、その後のルネサンスへ影響を与えた。この本の入手に至る経緯とその後について紹介した本で、ピューリッツアー賞を受けた。ただ訳文が難しくやや理解しにくかった。本に辿り着くまでの時代背景や人物描...

ルクティウスの「物の本質について」を巡る歴史ノンフィクション。一冊の本に書かれた哲学的な詩が、その後のルネサンスへ影響を与えた。この本の入手に至る経緯とその後について紹介した本で、ピューリッツアー賞を受けた。ただ訳文が難しくやや理解しにくかった。本に辿り着くまでの時代背景や人物描写がくどい感じもした。正直、期待したほどではなかったけれど、この時代に現代にも通用する物事の本質を考えていた人がいたことを知って、人間というものは昔からあまり変わらないものだと感じた。

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2019/03/10

現代人は基本的にはエピクロス主義だろう。 気づいてないだけで。 人は原子の集まりからできてる。死後の世界なんて存在しない。死んだら無だろう。 去年、ブルーノを知って、その本を読んで驚いた。 そのあと、たまたま本屋で手に取ったのがルクレティウスで、ブルーノの元ネタがここにあると知...

現代人は基本的にはエピクロス主義だろう。 気づいてないだけで。 人は原子の集まりからできてる。死後の世界なんて存在しない。死んだら無だろう。 去年、ブルーノを知って、その本を読んで驚いた。 そのあと、たまたま本屋で手に取ったのがルクレティウスで、ブルーノの元ネタがここにあると知った。その間には1600年くらいの時間の隔たりがあるのに、どうしてこんなに遠いんだろう、と思った。そこからエピクロスや、デモクリトスへと学んだ。 しかし、原子論を楽しむにはやはりルクレティウスが現在、手に入るもので最良だろう。 「中世の覚醒」では、アリストテレスの再発見が、信仰の中世に理性を持ち込み、その調和の失敗を経て信仰と理性の分離が進んだことが描かれている。 イスラムを経て再輸入、という形であったアリストテレス再発見に対して、更に数百年の後、今度は修道院に伝わっていたルクレティウスがどのように世界を変えていったか、という、もうひとつの古代再発見ストーリーを描いている。 中世の覚醒ほど綿密な本ではないけれども、原子論の需要、無限の宇宙の需要から歴史をみていくのにはとても興味がある。 ジェファーソンなんかにつなげなくてよくて、むしろハッブルとかにつないで欲しいんだけど、そこはシェイクスピア研究家が作者だからか。 ハッブルにてエピクロスが証明される瞬間、銀河が相対化される瞬間、までを、本にしてみたいなーと思う。 そして、個人的に惹かれてるブルーノがやっぱりめちゃくちゃかっこいい。 ブルーノ!

Posted byブクログ