江神二郎の洞察 の商品レビュー
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『瑠璃荘事件』 望月が下宿するアパートで起きた盗難事件。プロレス同好会のスター門倉の持つ伝統のノートの盗難。事件当時アパートにいた望月に疑いの目が向けられる。下宿人・下浦が変えたトイレの電球で図られる事件が起きた時間の秘密。 『ハードロック・ラバーズ・オンリー』 アリスが見つけたハードロックをかける喫茶店で出会った少女。彼女の忘れていったハンカチを渡そうと持ち歩くアリス。人ごみの中で彼女に声をかけるが無視される。彼女の抱える秘密。 『やけた線路の上の死体』 線路上で発見された会社社長・桑佐氏の死体。事件の直前に桑佐氏を訪ねた2人の人物。桑佐氏の甥である田切、元部下で彼を逆恨みする池尻。織田の実家で過ごす推理小説研究会のメンバーの捜査。綺麗な紙で自宅に残された遺書の秘密。 『桜川のオフィーリア』 元推理小説研究会に所属していた石黒が江神に持ち込んだ事件。友人の持ち物から発見したかつて死んだ少女・宮野青葉の死の直後の写真。生きた青葉の写真と死んだ青葉の写真。青葉の両親が入信していた新興宗教団体の秘密。友人が青葉を殺害した可能性を恐れる石黒。 『四分間では短すぎる』 江神宅での集まりに参加するために駅で切符を購入するアリスが聞いた電話中の男の言葉。「四分間では短すぎる」。「九マイルは遠すぎる」を連想し推理を披露しあう推理小説研究会のメンバー。 『開かずの間の怪』 織田の下宿しているアパートの大家の親戚が経営していた病院が倒産し幽霊が現れるという噂が流れていた。その噂の真相を確かめるために病院の跡地に泊りこむメンバー。途中腹痛のために帰宅した織田。アリス、望月が目撃した男の子の幽霊。 『二十世紀的誘拐』 望月、織田の所属するゼミの坂巻教授宅で呑んだ日、教授を訪ねてきた弟の聡。盗み出された教授の叔父が書いた絵画。身代金1000円の要求。身代金受け渡しのために京都タワーにやってきた推理小説研究会のメンバー。 『除夜を歩く』 大晦日の夜。望月が書いた推理小説の犯人を推理するアリス。事件の真相をしる江神の話。 『蕩尽に関する一考察』 アリスと同じクラスのマリア。彼女がミステリ好きと知り勧誘するメンバー達。本をただで配る古本屋の謎。
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その人の落とした『虚無への供物』が、英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった。 大学に入学した1988年4月、アリスは、江神二郎との偶然の出会いからEMCに入部する。 江神、望月、織田とおなじみの面々が遭遇した奇妙な出来事の数々。 「瑠璃荘事件」「ハードロック・ラバー...
その人の落とした『虚無への供物』が、英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった。 大学に入学した1988年4月、アリスは、江神二郎との偶然の出会いからEMCに入部する。 江神、望月、織田とおなじみの面々が遭遇した奇妙な出来事の数々。 「瑠璃荘事件」「ハードロック・ラバーズ・オンリー」「やけた線路の上の死体」「桜川のオフィーリア」「四分間では短すぎる」「開かずの間の怪」「二十世紀的誘拐」「除夜を歩く」「蕩尽に関する一考察」の9編収録。 アリス入学・入部からマリア入部までの1年が描かれた、学生アリスの短編集。 合間で、夏に遭遇した『月光ゲーム』のことがちらりちらりと出てくるので、思わず読み返したくなってしまいました。 長編よりも、彼らの普段の生活がより多く描かれていて、とても楽しかった。 ミス研の人たちって、いつもこんな感じでこねくり回してたりするのかなぁ。 特に「除夜」。 作者と読者、両方の思考回路を読み取れ、有栖川さんのミステリ観も垣間見え、一番のお気に入り。 あと「瑠璃荘」の「うちにくるか?」は、何気に名セリフですね。 同じく名探偵の名を冠した作品、ということで比べてしまうのですが、『火村英生に捧げる犯罪』よりもこちらの作品に軍配をあげちゃう。 なんだか久しぶりに、本格が好きでいいんだ、って勇気をもらえた気分。 やっぱいいなぁ、江神部長。でもこれを読んで、ますます謎は深まるばかり。 そして早くも次が読みたい気分。 でもそうすると完結しちゃうから、まだ先でもいい・・・。
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アリスが英都大に入学した1988年4月から翌年の春までの期間。9つの短編集。どれも楽しいけれど、「開かずの間の怪」がいちばん笑えて大好きだ!!雑誌などでほとんどの短編は読んだことがあったけれど、一冊にまとまったのは本当に嬉しいな♪ 書き下ろしの「除夜を歩く」も良かった。 好きなこ...
アリスが英都大に入学した1988年4月から翌年の春までの期間。9つの短編集。どれも楽しいけれど、「開かずの間の怪」がいちばん笑えて大好きだ!!雑誌などでほとんどの短編は読んだことがあったけれど、一冊にまとまったのは本当に嬉しいな♪ 書き下ろしの「除夜を歩く」も良かった。 好きなことについて友人や仲間と集い語り尽くす…という学生らしい日常がなんだか眩しくて懐かしい。 長編読んでいても全然気にしていなかったのだけれど、今回いくつかの短編で昭和最後の年1988年を意識させられる記述があって、これって物語の背景として結構大事なことなんだなと改めて思った。今や身近に無いことを想像できないようなインターネットや携帯電話がまだ一般的ではなかった時代の学生を描いているという点で。 それから、帯の文を読んで、アリスを女の子と勘違いする人、多いのではないだろうか…と(笑)
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待望の! エガアリシリーズ短編集。 アンソロジーとかに収録されたヤツの再録もあって、再読も幾つかあったのだけれど、それでもこうして時系列で並べて読むと、彼らの成長物語っぽくて味わい深い。 ああ、あの長編と長編の間で、アリスたちはこうやって悩み苦しんでたのねーと。 ふと気づいたの...
待望の! エガアリシリーズ短編集。 アンソロジーとかに収録されたヤツの再録もあって、再読も幾つかあったのだけれど、それでもこうして時系列で並べて読むと、彼らの成長物語っぽくて味わい深い。 ああ、あの長編と長編の間で、アリスたちはこうやって悩み苦しんでたのねーと。 ふと気づいたのだが、ヒムアリに女性が介入してくるとなんかムカっとするのだが、エガアリでは全然平気なんだな。ってか、マリアちゃん大好きなんですけど。 なんでだろw アリス先生を2冊連続読みしたら、すっごくミステリ成分が充電された気がします。幸せだー♪
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江神二郎シリーズ初!短編集。加筆によって時系列の連作短編集に生まれ変わりました。読んだものも読み逃したものも、EMCの皆がどやどやとああだこうだ推論を交わしている様がなんて嬉しいことか。「四分間では短すぎる 」は特にたまらない。 書き下ろし「除夜を歩く」で江神さんは本格の様式美を...
江神二郎シリーズ初!短編集。加筆によって時系列の連作短編集に生まれ変わりました。読んだものも読み逃したものも、EMCの皆がどやどやとああだこうだ推論を交わしている様がなんて嬉しいことか。「四分間では短すぎる 」は特にたまらない。 書き下ろし「除夜を歩く」で江神さんは本格の様式美を愛しながらも、それすらも、幻だと言う。そしてそれこそを素晴らしく人間的だと言う。けれどこの短編の終わりには「ハードロック・ラバーズ・オンリー」のいわば【正解】が描かれている。この短編集内で「四分間」以外ではひとつだけ【正解】のなかった謎に。それなら作者のスタンスをここに読んでもいいんではないかな。 そして東京創元社ありがとう!ありがとう!何度でも言うありがとう!まとめて読めて幸せでした。
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待ちに待った、江神シリーズの新作で、シリーズ初の短編集。 すでに長編を4本も読んでいる読者にとっては、 お馴染み過ぎるキャラクターたちだが、 各キャラクターたちの出会いのシーンや、 (しょーもない)ピンチなど、意外な一面が垣間見れる、 ファンにとっては嬉しい内容だった。 短編...
待ちに待った、江神シリーズの新作で、シリーズ初の短編集。 すでに長編を4本も読んでいる読者にとっては、 お馴染み過ぎるキャラクターたちだが、 各キャラクターたちの出会いのシーンや、 (しょーもない)ピンチなど、意外な一面が垣間見れる、 ファンにとっては嬉しい内容だった。 短編とはいえミステリのレベルは決して低くないが、 長編とはいえ事件の規模は比較的小さめで、 北村薫系のミステリに近い。 ハードな読み味のミステリは、次作の長編に期待したい。
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学生アリスシリーズ短編集。 アリス入学~マリア登場までが時系列に並べられています。入学の春から様々な出来事を経てまた春へ。 シリーズ読者にとってはこれはあの出来事だな、と思わせる個所が多いですし、長編ではあまり見られないおなじみの登場人物達の学生生活が描かれておりとても楽しい1冊...
学生アリスシリーズ短編集。 アリス入学~マリア登場までが時系列に並べられています。入学の春から様々な出来事を経てまた春へ。 シリーズ読者にとってはこれはあの出来事だな、と思わせる個所が多いですし、長編ではあまり見られないおなじみの登場人物達の学生生活が描かれておりとても楽しい1冊でした。 【瑠璃荘事件】アリスが入学し、EMCの面々と知り合って間もない頃の出来事。 モチの下宿先でノートの盗難事件が発生。状況からモチが犯人と疑われたことから、EMCメンバー総出で興味半分、モチの濡れ衣を晴らそうとします。 事件自体が些細なので緊迫感はないのですが、推理クイズのような状況はとてもおもしろい。 話の締め方もとても上手いです。江神さんの推理の穴と指摘された事に対して、アリスが言う「信じる」って言葉が確かに新鮮な響き。事件を通して距離が縮まったみんなも微笑ましいです。 【ハードロック・ラバーズ・オンリー】事件が起こるわけでもなく、冴えわたる推理が披露されるわけでもなく、しかも事の真相もはっきりしない出来事。 しかし、江神さんの一言によってがらりと風景が変わり、その結果切なくも暖かい思いが胸をよぎります。話の構成も余韻もきれいな1編です。 【焼けた線路の上の死体】著者のデビュー短編。鉄道のちょっとした小ネタ。アリバイトリックは雑学ネタですが、遺書からの推理は盲点でした。夏の暑く爽やかな描写は気持ちいい。 【桜川のオフィーリア】死体の写真はいつ撮られたのか?ハウダニットとして提示された謎への回答がホワイダニットになっているのがおもしろい。EMCのみんなはすぐ事の真相を察したようですが、わたしは真相を聞いてもピンときませんでした。にしても耽美でロマンティックな感じがします。 【四分間では短すぎる】EMCによる「九マイルは遠すぎる」ゲーム。アリスがふと聞いた言葉とその時の状況から推理を試みます。 江神さんの家に集まったEMCのメンバーが一室でぺちゃくちゃと喋りまくって、物語がどんどん展開していくのはとても楽しかったです。こんな知的なゲームやってみたい。 広がりに広がった推理の着地点と、そこからのひっくり返しがまた爽快でした。 作中で松本清張の「点と線」についての議論があります(ネタバレしてます)。これはとても興味深かったです。 【開かずの間の怪】廃病院で肝試し。この消失トリックはおもしろくて好きです。モチがかわいい。 【二十世紀的誘拐】この犯人はなんだかお洒落で好きです。大仰なタイトルなのでものすごいトリックがあるかと期待してしまいました。二十世紀はどういう時代だったのか。う~ん、そういうことか。二十一世紀はどんな時代になるんでしょう。 【徐夜を歩く】江神さんとアリスが二人で年越し。その年最後の京都での夜の雰囲気がとても素敵です。伝統的で静かな除夜を歩く江神さんとアリスの会話もとても深い。モチの犯人当ての小説を中心にしてミステリーの、更には人の心の奥深くまで潜っていくような神秘的な会話でした。 江神さんとアリスの会話とは対照的にモチの小説がおもしろ楽しい軽さがあって良いです。 【蕩尽に関する一考察】湯水の如くお金を使う男の目的とは?マリア登場です。まだちょっとぎこちないみんながかわいい。 アリスを受け止め、江神さんという探偵に希望を見出してのEMC参加という経緯が、このあとの事を思うと感慨深い。 シリーズの長編だと、矢吹山での事件の後でもEMCのメンバーはあっけらかんとしているようですが、今作ではみんな傷つき悩み、なんとか乗り越えようとしている姿が描かれており切なくなりました。 こうした経緯を見ると、孤島パズルの後のマリアやほかのメンバーにより気持ちが入ります。
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シリーズ初の短編集。 9編収録。 EMCが好きだ。 ほとんどは、読んでいたのですが、読みたかった「やけた線路の上の死体」と書き下ろしの「除夜を歩く」が読めて嬉しい。 本作はアリスとEMCの出会いからあの夏の事件を挟み、マリアが加わるまでの話です。 「瑠璃荘事件」のアリスと江神さ...
シリーズ初の短編集。 9編収録。 EMCが好きだ。 ほとんどは、読んでいたのですが、読みたかった「やけた線路の上の死体」と書き下ろしの「除夜を歩く」が読めて嬉しい。 本作はアリスとEMCの出会いからあの夏の事件を挟み、マリアが加わるまでの話です。 「瑠璃荘事件」のアリスと江神さんの出会いのシーンは、何度読んでもニヤニヤする。 『うちにくるか?』この一言にやられます。 このシリーズの長編は、重い、というかせつない。(その分面白いし読み応えも十分!)けれど、短編は読んでて楽しいミステリです。 購入後何度読んだ事か。「除夜を歩く」が特に好き。「四分間では短すぎる」もかなり好き。笑えて、考えて、もっとミステリが好きになる一冊です。
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「うちにくるか?」 そう誘ってくれた江神さんとの出会い。 アリス、英都大学推理小説研究会入部から一年の瑞々しいキャンパスライフ。 大晦日のミステリ談義を描く、書き下ろし「除夜を歩く」ほか全九編収録。 「瑠璃荘事件」 さりげない言葉の見落としがキーとなる作品。 カイジの利根川かよと。 アリス入部の一編。 「ハードロック・ラバーズ・オンリー」 これは掌編ですね。ネタも簡単。 「やけた線路の上の死体」 ちょっとした不自然な点から真相を探り当てる。 トリック自体はだいたい予想通りだったが、些細な描写には納得のところ。 「桜川のオフィーリア」 〈灯台下暗し〉というか、距離が近すぎると気づけないことも多々あるのだろう。 〈生き顔〉と〈死に顔〉。果たして彼らの目に映る彼女の顔は今も変わらないのだろう。 「四分間では短すぎる」 有栖が遭遇した奇妙な電話。 『四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です』 これだけの言葉から、推論はどこまでたどり着けるのか? してやられた有栖。頭脳集団の底力。 「開かずの間の怪」 推理小説研究会が廃墟となった病院で遭遇する怪事件。 ラストはホラーなおとしどころ。 「二十世紀的誘拐」 美学と文学の講釈はなかなかのもの。 二十世紀はコピーの時代だった。 「除夜を歩く」 大晦日の夜に、望月の作った短編に取り組むアリス。 傍らには部長・江神が。ミステリ談義に除夜の鐘。 これまでの七編の後日談なども書かれた唯一の書き下ろし。 「蕩尽に関する一考察」 蕩尽――財産などを使い果たすこと。 古本屋の親爺の蕩尽に隠されていた真実とは。 お金の使い道として、捨て鉢になった人間の行動として、 また描かれている環境からわりと真相としては予測できた。 マリア入部の一編。 ミステリ:☆☆☆ ストーリー:☆☆☆☆ 人物:☆☆☆☆☆ 読みやすさ:☆☆☆☆☆
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アリスが感受性豊かな設定だから、ロマンティストな私はきっといつも感情移入して切なくなったりしつつ、面白く読むんだろう。 火村はほんとうはアリスに負けないくらいに感受性豊かな男だけどそれを抑えてるから物語も表面上は理知的になる。 でも江神は学生ということもあり、無論アリスも大学生で...
アリスが感受性豊かな設定だから、ロマンティストな私はきっといつも感情移入して切なくなったりしつつ、面白く読むんだろう。 火村はほんとうはアリスに負けないくらいに感受性豊かな男だけどそれを抑えてるから物語も表面上は理知的になる。 でも江神は学生ということもあり、無論アリスも大学生で、加えて織田・望月・有馬という絶妙な味を醸し出してるサークル仲間がいて、 感受性豊かな部分がそのまま描かれていて、そこがいいんだと思う。 どちらかを必ず選べと言われたら私は火村派なんだけど、江神シリーズもいつも素晴らしいと思うのだ。 学生モノとか青春モノとか嫌いな私が言うんだから、間違いないよ/笑 この短編集も、とてもいい。
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