きみはいい子 の商品レビュー
【サンタさんの来ない家】 『一枚のTシャツだって、一本の鉛筆だって、この子のためにだれかが用意してくれた。そのひとたちの思いが、この子たちひとりひとりにつまっている。 そのだれかは、昨日はこの子たちにごはんを食べさせ、風呂に入れ、ふとんで寝かせ、今朝は朝ごはんを食べさせ、髪をくく...
【サンタさんの来ない家】 『一枚のTシャツだって、一本の鉛筆だって、この子のためにだれかが用意してくれた。そのひとたちの思いが、この子たちひとりひとりにつまっている。 そのだれかは、昨日はこの子たちにごはんを食べさせ、風呂に入れ、ふとんで寝かせ、今朝は朝ごはんを食べさせ、髪をくくったりなでつけたりして、ランドセルをしょわせ、学校に送り出してくれたのだ。 そんなあたりまえのことに、ぼくはやっと気づいた。』 『たしかに、こどもは親をえらべない。住むところも、通う学校もえらべない。偶然によせあつめられて、ここにいる。ここで、揚げパンを食べている。 だからこそ。 みんな、こどもなりに、ここで、ふんばっているんだ。 ぼくは揚げパンをかじりながら、泣きそうになるのを、必死でこらえていた。』 【べっぴんさん】 『あたしもそうだった。 たたかれるようなわるいことは、なんにもしていないのに。 今になってわかる。 そのときはあたしも、あたしは世界で一番わるい子だと思っていた。』 『冬はいい。寒いから着込んで、肌の露出が少なくなる。たたいた跡も、けった跡も、おして家具にぶつけた跡も、積み木を投げつけた跡も、みんなあたたかい服がかくしてくれる。着せれば着せるほど、いいママになれる。』 『なんであんなことしたのよ。なんであたしを怒らせたのよ。なんであんなことして、あたしにたたかせたのよ。あたしは、いいママでいたかったのに。たたかせたのは、あんた。みんなあんたのせいなんだから。』 『あたしもそうだった。なにもかもがくりかえされる。 はじめからなにもしなければ、きっと、こんな気持にならなくてすむのに。 こどもを、生なければよかったのに。 そう。ママは、生まれなければよかったのに。 あたしなんか。』 『わらっている。でもその笑顔をいつ貼りつけたのか、あたしにはわかっていた。あたしもついさっき、扉の前で貼りつけたばかりだったから。』 『「たばこでしょ。おんなじ。」 はなちゃんママは、知っていた。そのときの痛みを。消えない親の怒りの跡を。自分の体に刻まれたそのしるしを見るたびに、自分は、親に嫌われている、世界で一番わるい子だと思い知る。いくつになっても消えない、世界で一番わるい子のしるし。』 【うそつき】 『ぼくは知っている。 たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの一生を支えてくれる。どんなに不幸なことがあったとしても、その記憶が自分を救ってくれる。 雨に振りこめられた家の中。 このひとときの記憶が、いつか、優介とだいちゃんを救ってくれますように。 ぼくは祈った。』 【こんにちは、さようなら】 「ね、ひろや。しあわせってなんだっけ。しあわせは?」 「しあわせは、晩ごはんを食べておふろに入ってふとんに入っておかあさんにおやすみを言ってもらうときの気持です。」 『たしかに、それほど仕合わせなことがあるだろうか。 たたかれたって、おとうさんに捨てられたって、おかあさんに殺されそうになったって、この子は仕合わせの意味をよくわかっている。』
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毎朝おいらは娘っ子を抱き上げる。そして幸せの重さを噛みしめる。嫌がる歳になるまで続けるつもりだ。作中で「ハグが足りない」と登場人物が言う。すごく共感。ハグすると、ちょっぴり心がホコッとする。暗闇の中もがく子ども、声のない声で助けを求めている子どもがいれば、近くに行ってそっとハグし...
毎朝おいらは娘っ子を抱き上げる。そして幸せの重さを噛みしめる。嫌がる歳になるまで続けるつもりだ。作中で「ハグが足りない」と登場人物が言う。すごく共感。ハグすると、ちょっぴり心がホコッとする。暗闇の中もがく子ども、声のない声で助けを求めている子どもがいれば、近くに行ってそっとハグしてあげたい。雨の中、誰かの為にドアを叩ける大人でもありたい。絵空事かもしれないが、この本にはそんな気持ちにさせてくれる力がある。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
目次 ・サンタさんの来ない家 ・べっぴんさん ・うそつき ・こんにちは、さようなら ・うばすて山 虐待を受ける子ども、虐待をしてしまう親。 どちらの視点からも書かれている。 とても丁寧に。 親に殴られてても、自分を責めて親を求める心。 かわいいはずの子どもを殴らずにはいられない親。 自分を虐待した親が認知症になったら。 障害を持った子供と二人で生きていかなければならなくなったら。 誰もが人には言えないいろんな事情があって、思い通りにならないものを抱えて、それでも日常を生きていかなければならなくて。 この作品のようにきれいに納まらないことの方が、きっと世の中には多いと思う。 痛くて、苦しくて、震えがおきる。 それでも、小さな希望はどこかにあると信じたい。 2年連続で学級崩壊を起こしてしまった小学校教師のぼくは、子どもたちに宿題を出す。 「家族に抱きしめてもらってください」 劇的に何かが変わるわけではないが、家族に抱きしめてもらうことで、自分も、友達も、かけがえのない人間だと一瞬気づくことができる。 抱きしめてもらえなかった神田さんを、ぼくは抱きしめる。 「神田さんは、悪い子じゃないよ」 “たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても幸せなひとときがあった記憶が、それからの一生を支えてくれる。どんなに不幸なことがあったとしても、その記憶が自分を救ってくれる。” 祈りのような、小説。
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ちょっとしたこと、そこにあるSOSを見逃すことは良くあること。 良くあることだからこそ、手を伸ばせることは勇気がいって、ヒーロー。 みんないい子。
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子ども虐待の話。 最初の2つ目くらいまでの話は 読んでいても辛くて辛くて・・・ 救いようのない話に、いったい作者は何が言いたいのかと。。。 しかし、読み進めるうち 物語の先に、かすかなかすかな希望の灯が見えて来るのです。 たとえ親が愛してくれなくても その子の手をそっと握ってく...
子ども虐待の話。 最初の2つ目くらいまでの話は 読んでいても辛くて辛くて・・・ 救いようのない話に、いったい作者は何が言いたいのかと。。。 しかし、読み進めるうち 物語の先に、かすかなかすかな希望の灯が見えて来るのです。 たとえ親が愛してくれなくても その子の手をそっと握ってくれる人がいれば・・・ 自分は悪い子だと思い込んでいる子に 『きみはいい子なんだよ』と笑顔でささやいてくれる人がいれば・・・ きっとその子は生きていける。 だからこそ大人は もっと周りの子どもたちに目と心を注いであげなくてはいけないんだと改めて思いました。 第28回坪田譲治文学賞受賞作品。 いい本です。
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たぶん、現実はこんなに簡単に救われることは無いんだと思う。救いは簡単にはもたらされない。だから皆、苦しむし連鎖から逃れられない。けど、こうだったらいいのに、と願ってやまない。虐待と言葉で呼ぶと一瞬だけど、傷ついたと感じることは、親から受けた傷は、本当に人によって違い、癒え方も本当...
たぶん、現実はこんなに簡単に救われることは無いんだと思う。救いは簡単にはもたらされない。だから皆、苦しむし連鎖から逃れられない。けど、こうだったらいいのに、と願ってやまない。虐待と言葉で呼ぶと一瞬だけど、傷ついたと感じることは、親から受けた傷は、本当に人によって違い、癒え方も本当に人それぞれ。だからこそ苦しい。
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どの話も悲しいけれど希望があって良かった。 私も親を嫌いでもいい、って言葉に救われたな。 親に多くを求めていたことに気づけた。
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うまくいかない親子たち。実体験者やいままさに渦中のひとにはこんな甘いものではないと言われるかもしれないが。 でも読む価値はあると思う。
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どれも傷ましい話で、虐待された子ども、またはしている親の視点から語られるので、読んでいて辛くなる。しかし、どれも最後にほんの小さい希望を残す。誰かの関心や、楽しい記憶が生きていくには必要なのだと教えられる気持ちだった。 とくに最後の「うばすて山」は刺さった。いつでも親の愛情を求め...
どれも傷ましい話で、虐待された子ども、またはしている親の視点から語られるので、読んでいて辛くなる。しかし、どれも最後にほんの小さい希望を残す。誰かの関心や、楽しい記憶が生きていくには必要なのだと教えられる気持ちだった。 とくに最後の「うばすて山」は刺さった。いつでも親の愛情を求めていた子どもがどんなふうに時を過ごしていくのか、考えるほどに胸が痛くなる。当たり前のあたたかなやり取りを、羨ましがる心理が切ない。
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かつて子どもだった自分、今母親な自分。どちらに身を置いても目を反らせない現実がいっぱい詰まった一冊。読んで痛いのは身に覚えがあるから。読んでホッとするのはいつだって希望の光を信じたいから。今この時代だから身に染みる言葉の集合体かもしれない。
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