街場の読書論 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
【私の本棚】p22 小説を読むというのは(哲学でも同じかもしれないけれど)、別の時代の、別の国の、年齢も性別も宗教も言語も美意識も価値観も違う、別の人間の内側に入り込んで、その人の身体と意識を通じて、未知の世界を経験することだと私は思っている。 私の場合はとくに「未知の人の身体を通じて」世界を経験することに深い愉悦を感じる。 【ジュンク堂と沈黙交易】p81 インターネットでお買い物というのは「沈黙交易」の今日的な甦りであるという仮説。 【非人情三人男】p96 「苦しんだり、怒ったり、騒いだり、泣いたりは人の世につきものだ。余も三十年の間それをし通して、飽々した。余が欲するのはそんな世間的の人情を鼓舞するようなものではない。俗念を放棄して、しばらくでも塵界を離れた心持ちになれる詩である」(夏目漱石『草枕』) 【マルクスを読む】p105 「労働者が骨身を削って働けば働くほど、彼が自分の向こうがわにつくりだす疎遠な対象的世界がそれだけ強大になり、彼自身つまり彼の内的世界はいっそう貧しくなり、彼に属するものがいっそう乏しくなる」(カール・マルクス『経哲草稿』301頁)というのは単なるレトリックではない。 【歩哨的資質について】p177 私たちの世界は「存在しないもの」に囲繞されている。 宇宙の起源を私たちは知らないし、宇宙の果てに何があるのか(というより「何がないか」)も知らない。時の始まりを知らず、時の終わりを知らない。 【140字の修辞学】p375 長く書いて、かつ飽きさせないためには、螺旋状に「内側に切り込む」ような思考とエクリチュールが必要である。 【補稿 「世界の最後」に読む物語】p401 私たちは文学を通じて、今の自分と違う身体のうちに入り込み、こことは違う世界で、こことは違う空気を吸い、想像を絶した快楽を享受し、想像を絶した苦痛に耐える。今いるこの世界から抜け出し、他者たちのうちに入り込む。その経験がもたらす解放感と快楽ゆえに人類は文学を必要としているのである。
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気になって数えてみたら、内田樹はこれで14冊目みたいです。これだけ読めば僕も「タツラー」を名乗ってもいいでしょうか? 街場シリーズ『読書論』ですが、読書にとどまらず教育・文体・母語・情報・エネルギー・ネット社会・死など、さまざまな分野について語ってくださっています。 情報システム...
気になって数えてみたら、内田樹はこれで14冊目みたいです。これだけ読めば僕も「タツラー」を名乗ってもいいでしょうか? 街場シリーズ『読書論』ですが、読書にとどまらず教育・文体・母語・情報・エネルギー・ネット社会・死など、さまざまな分野について語ってくださっています。 情報システムがIBMモデルからアップルモデルに変わる過程で「情報」は「商品」ではなくなったという話には目からうろこでした。そこからエネルギー問題まで持って行っちゃっうんだからタツラーはやめられない。 例によってブログコンピ本なので読んだことのある文章は少なからずあるのですが、なかでも『学ぶ力』という文章は大のお気に入りになりました。いつか中学2年生の担任になったら、生徒に読ませようと思います。
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http://www.ohtabooks.com/publish/2012/04/12193738.html
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いつもユーモア(毒舌)に溢れた著者です。入試問題で引用される上位2位とのことも、メッセージ性から頷けます。10代のころにオーラがあった早熟な少年たちが「じぶんがどれほど賢く有能なのか」をショウオフすることに知的リソースを投じ、ある日気がつくと狷介で孤独な中年男になっているという一...
いつもユーモア(毒舌)に溢れた著者です。入試問題で引用される上位2位とのことも、メッセージ性から頷けます。10代のころにオーラがあった早熟な少年たちが「じぶんがどれほど賢く有能なのか」をショウオフすることに知的リソースを投じ、ある日気がつくと狷介で孤独な中年男になっているという一文には苦笑いです。また朝日ジャーナルの熱心な購読者の意識として読んでいるという無言のメッセージを発信するためだったということもその通りです。!「国家の品格」というベストセラーがいかに品格がない本であるか!本来的に外部評価が品格を決めるはずであるのに、自ら主張するという夜郎自大ぶりを批評する主張にも全く賛成でした。まことに痛快な本です。著者がユダヤ文化論の専門とは今回初めて知りましたが、なるほど旧約聖書の引用が多いはずでした。
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1文芸棚 軽快な語りである。本読書が著者との対話であるというなら、慣れてきた、文体、構成、話の進め方など。取り扱いの本は、軽い内容ではないと思うのだが、分かりやすく、扱っている技がある。 2人文棚 じんぶん、ちんぷん、長い文でさっぱり分からず。 3内田棚 自画自賛でも、おもしろい...
1文芸棚 軽快な語りである。本読書が著者との対話であるというなら、慣れてきた、文体、構成、話の進め方など。取り扱いの本は、軽い内容ではないと思うのだが、分かりやすく、扱っている技がある。 2人文棚 じんぶん、ちんぷん、長い文でさっぱり分からず。 3内田棚 自画自賛でも、おもしろい、読んでいない著作が多かった。 4教育棚 歌わざる英雄は何故、教育なのだろう。教えるものなのか?誰かがいわなければ分からないのだろうが、学生向けで分かる教育なのか? 運がいい、という表現がとても気に入った。 学ぶ力中学2年生が対象なのか。まさに好対象な時期ともいえる。これが大学に入ると込み入ってしまうのは何故だろう。 6著作権不明 グーグル、クラウドとネットが発達してきた以上、著作権を保護することは難しい。著者の利用可の考えは、とても好きである。また、中国の著作権に対しての指摘も最もである。擬似著作権についての話は知らなかったこと。「戦敗加算」なるものが敗戦国にいたとは驚きである。アメちゃんの考え方はフェアではない。 ブライアン・ウィルソンの気鬱は心を打つものがあった。
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内田先生の本も脅威の15冊め。こんなに1人の人を読んだことはない。それだけ読ませる。おもしろがせる。前半は内田先生の切り込まれた書評や本に対する思い入れのあるエピソードが多くて、これも読んでみたいなとか、こんな本があるんだーと、ページ進めるのがワクワクしてたんだけど、後半はいつも...
内田先生の本も脅威の15冊め。こんなに1人の人を読んだことはない。それだけ読ませる。おもしろがせる。前半は内田先生の切り込まれた書評や本に対する思い入れのあるエピソードが多くて、これも読んでみたいなとか、こんな本があるんだーと、ページ進めるのがワクワクしてたんだけど、後半はいつも通りのブログのコンピ本になってたので、実際半分で良かったんじゃないかな。
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本書を私の後に手に取る人にこれがどんな本だったのかと問われれば、「面白く読める」「マルクスに対しての見方が変わる」「そもそも知らない読んだことがない本がまだまだあることに気付かされる」などとバラバラでまとまりがなく、ざっくりとした言葉を宛てることしかできないでしょう。 その問いに...
本書を私の後に手に取る人にこれがどんな本だったのかと問われれば、「面白く読める」「マルクスに対しての見方が変わる」「そもそも知らない読んだことがない本がまだまだあることに気付かされる」などとバラバラでまとまりがなく、ざっくりとした言葉を宛てることしかできないでしょう。 その問いに対して明かな回答ができない代わりに、本書を読んでからの感想を伝えることができるとすれば、僕は内田氏の「聞いて欲しい」「伝えたい」という気持ちを心地よい言葉でテキスト化できる才能を羨ましく思う、と答えます。
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内田樹の読書に関するブログエッセイ集。前半部分は書評、後半は読書環境をめぐる時評、言語論など。 子供の英語熱に関する著者の意見に共感した。最近、幼い子供に英語を習わせることが流行っているが、言葉はあくまで自分の考えを発信する手段である。自国語も満足に話せない子供に、外国語を先に覚...
内田樹の読書に関するブログエッセイ集。前半部分は書評、後半は読書環境をめぐる時評、言語論など。 子供の英語熱に関する著者の意見に共感した。最近、幼い子供に英語を習わせることが流行っているが、言葉はあくまで自分の考えを発信する手段である。自国語も満足に話せない子供に、外国語を先に覚えさせることがあってはいけない。自然にネイティブとして自国語を自由に操れるようにしておかないと、自分の考えを発信するのに苦労することになる。実際、バイリンガルの中には、どちらが自国語なのか判らなくなる人もいるらしい。まず自国語を学ぶことが必須で、外国語はその後でも良いという。 でもこういう意見を書くと、英語にコンプレックスがある人の考え方と取られるかも。
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内田氏の本は、言葉が難しくて、分かりにくい部分もあるのですが、おもしろいので読んでしまいます。 内田氏が接してきた本を引用しながら、氏の解釈を提示。 「メッセージの最も重要なことは、宛先が存在すること」という部分は心に留めて、これからは文章を書いていきたいと思いました。
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とても示唆にとんだ本だと思う。 ひっかかる言葉がいくつもあって、これからあと数カ月のちにどの言葉がひっかかっているかそれはまだわからない… というわけで、とりあえず目についた箇所を箇条書きに。 ・「おのれの女性性とうまくなじむことができずにいる少女」の魅力 ・言語は内側に割れる...
とても示唆にとんだ本だと思う。 ひっかかる言葉がいくつもあって、これからあと数カ月のちにどの言葉がひっかかっているかそれはまだわからない… というわけで、とりあえず目についた箇所を箇条書きに。 ・「おのれの女性性とうまくなじむことができずにいる少女」の魅力 ・言語は内側に割れることによって、無限の愉悦と力を生み出す ・『「悪」と戦う』と『晩年』の冒頭部の相似 ・「自分の賢さ」をショウオフするよりも、「自分の愚かさ」の成り立ちを公開することの有益性 ・映画は「観る」ものではなく、その中を「生きる」もの。映画、音楽は浴びるように。「read」と「scan」というふたつの読み。 ・科学的知性は突き詰めれば宗教的になる。私たちは「私たちを超えるもの」を仮定することによってしか成長することができない。 ・脳の機能は「出力」を基準にして、そのパフォーマンスが変化する。 ・「はさみを渡す」というゲームについて。 ・知性の切れ味と愛について ・引き受けてのない憎悪より「バカヤロー」のほうがマシ ・境界をひく人間=やせ我慢の人=隣人愛 ・「共同体の若いメンバーたちを市民的に成熟させること」 ・物書きは「ニッチ・ビジネス」 ・「学びたいのです。先生、教えてください」 ・ブライアン・ウィルソンの著作権について(泣きそうになった) ・「自分がその言葉を発しなければ、他に言ってくれる人がいない言葉」だけが発信するに値する言葉である ・「私の言葉は果たして他者に届くだろうか?」 ・メタ・メッセージについて ・エリクチュールと生き方はセットになっている ・「私が語るこの言葉は『ぜひあなたには理解してもらいたい』という気持ちを込めて語られる ・真に「古典」という名に値する書物とは、「それが書かれるまで、そのようなものを読みたいと思っている読者がいなかった書物」のことである。「まだ存在しないニーズ」を創り出すこと。 ちっとも「まとめ」にはなっていない。 言葉について…エリクチュールやメタ・メッセージ、それから宛名の話はとてもひっかかったのだけれど、これはたぶん「街場の文体論」に引き継がれるのかな。リーダブルな文章というのは「ぜひあなたに理解してもらいたい」と伝わってくる文章というのが、あぁ、まさになあと。 それから知性を刀にたとえたところは勢いにのって書かれた感じがして、きちんとはわからないんだけど、名文だと思うな。 この本を読んだことで、「知識がついた!」というよりは、もっと素朴な効用があったように思います。それは何かというと… ・もっと謙虚を心がけようと思った ・無知を自覚し、「教えてください」と素直に言えるように ・ぐるぐると愛について考える ・文章を書くうえで、「孤立」をいとわないこと。そのうえで、「私の言葉は届くだろうか」という配慮を怠らないこと。 つくづく「当り前のことを当たり前にやる」というのがいかに大事かということを教えてもらったような気がします。
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