ピダハン の商品レビュー
評判は聞いていたけど、ほんとに面白い! ピダハンとは、ブラジルのアマゾンに暮らす狩猟採集民族のひとつ。著者は、もともとは聖書をピダハン語に訳すというミッションを負ってアメリカから派遣された伝道師かつ言語学者で、70年代末から30年以上にわたって、彼らと付き合い続けてきた。文化人類...
評判は聞いていたけど、ほんとに面白い! ピダハンとは、ブラジルのアマゾンに暮らす狩猟採集民族のひとつ。著者は、もともとは聖書をピダハン語に訳すというミッションを負ってアメリカから派遣された伝道師かつ言語学者で、70年代末から30年以上にわたって、彼らと付き合い続けてきた。文化人類学者がアマゾンの部族について書いたものはいろいろあるけれど、言語学者の目から見たピダハンのユニークさは、実に魅力的だ。 たとえば、ピダハン語で使われる音は、母音が3つ、子音も男性で8つ、女性で7つだけ。これにさまざまな音調や歌、ハミングをくみあわせてコミュニケーションをとる。「1,2,3…」という数の概念、「右」「左」の概念もない。入れ子構造の構文もないという、きわめてシンプルな言語なのだ。 しかも、シンプルなのは言語だけではない。彼らは、基本的に自分が直接体験したことしか言語化しないため、親族関係を示す語に「祖父」はあっても「曾祖父」はない。創世神話すらなく、祖先や神のための儀式も行わない。まさに言語学の、いや「人間」という存在に関するこれまでの常識をくつがえしてしまうような人々なのである。 このシンプルな言語・生活・文化は、ピダハンが「低い」レベルにとどまっていることを意味しているのだろうか?著者自身、最初は、ピダハンが複雑な儀式や文化様式をもたないことに失望し、もっと「興味深い」部族のところに派遣されればよかったのにと思ったことを告白している。だが著者によれば、彼らのシンプルな生活様式は、アマゾンの環境と完全に合致しているのだ。ピダハンたちは食糧を貯めこまず、複雑な道具も必要としないかわり、よく働き、夜も害獣がいるのでぐっすりとは眠りこまない。それで必要十分な生活ができている。つまり、この人々は、現代の高度文明に達する能力がなかったのではなく、あえてそうしようとはしなかったのだ。 たしかにピダハンの社会に創造や個性、進化は欠けているかもしれないが、「しかしもし自分の人生を脅かすものが何もなくて、自分の属する社会の人々がみんな満足しているのなら、変化を望む必要があるだろうか。これ以上、どこをどうよくすればいいのか。しかも外の世界から来る人たちが全員、自分たちより神経をとがらせ、人生に満足していない様子だとすれば。」 実際、彼らはもっともよく笑い、よくおしゃべりし、人生に満足している人々だと著者はいう。彼らの存在は、私たちのあり方こそがもっとも優れており普遍的だという思いあがりを心地よく打ちのめして、異なる生のありかたに想像力をひらかせてくれるだろう。 しかし、ピダハンがこのように魅力的な人々として私たちに紹介されたのは、ひとえに、先入観や価値判断によって自分を閉ざさず、異なる人々から謙虚に学ぶ態度を備えたこの著者の曇りなき眼差しのおかげだ。ピダハンとその言葉を知るにつれ、聖書をピダハン語に翻訳するという任務の不可能性に気づかされた著者は、ついにキリスト教の信仰を捨て、家族も崩壊することになったと告白している。自分の物差しを捨て、他者の目で世界を見て、自分を変えることのできるこの著者の勇気に、深く力づけられる。
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ピダハン語には母音が三つ、子音は七つ(女性)か八つ(男性)しかない。声調言語である。アフリカのドラム言語のように、通常とは別のコミュニケーションツールがある。口笛語り・ハミング語り・音楽語り・叫び語り。色名や数詞を持たない。動詞に接尾辞が十六もあり、伝聞・観察・推論を区別する。 ...
ピダハン語には母音が三つ、子音は七つ(女性)か八つ(男性)しかない。声調言語である。アフリカのドラム言語のように、通常とは別のコミュニケーションツールがある。口笛語り・ハミング語り・音楽語り・叫び語り。色名や数詞を持たない。動詞に接尾辞が十六もあり、伝聞・観察・推論を区別する。 なんという言語だろう。このような言語で生きるとき、世界はどんなものとして経験されるのか、想像がつかない。 著者によれば、言語学は人類学に属すべきものだという。「言語を回転させる機構にすぎない文法よりも、世界各地のそれぞれの文化に根差した意味と、文化による発話の制限とが重要視される」ほうが望ましい、と。 しかし、世界の言語の大半はチョムスキーの普遍文法理論にほぼあてはまるようで(これは著者も認めている)、そこからはみ出すのは、いまや辺境に孤立している少数民族の言語くらいしかないらしい。どうやら、グローバリズムはヒトが言語を獲得してからすぐに働きだし、いまや言語レベルでは終結寸前ということらしい。ピダハン語の使用者は現在四百人程度だという。
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満たされていること。どんなことに満たされていると笑顔になれるのだろう? 明日はどんな顔をして、どんな気持ちを胸に、ドアを開け放って一歩を踏み出すのだろう? 読み終え、しばらく経た後、記憶に残った欠片は、ピダハンの生き方に惹かれてしまう、確かな輝きを放つ。 創世記を持たず、ただ自分達が見て聞いたもの、実像を結ぶものしか信じない。文化が言語に及ぼし変わっていくのは必然ではないのか?それならば、生き方も変わっていくはずだと思うけど、ほんとうにそうなのか? アマゾンに生きるピダハンが持つものは、微々たるものかもしれないけど、日本に生きる自分にないものが、とても大きなものがある。現実をしっかりとした心で捉えざるを得ない、大きな幸せがきっとある。
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アマゾンの少数民族ピダハンの地へ宣教と言語学研究のために行った宣教師(かつ研究者)の記。 言語学としても新しい発見があり有意義なようだが、何しろピダハンの人々が興味深い。彼らは現在のみを生きていて、実際に見たものだけを信じ、自分のことは自分で守るという生き方をしている。夜ぐっすり眠るということはなく、夜中に漁に出かけたり、踊ったりする。いつも笑っている。「死」は「死」として受け入れる。子どももある程度成長すれば大人と同等に扱う。etc. そして著者は自分の信仰を捨てる。 ピダハンは神という絶対なるものも、正義も神聖も罪もない世界で生きていて、著者はそれに魅せられたのだ。 ピダハンの生き方は他の生物、獣や鳥や虫や魚などと同じ様に単純で美しい。今を生きる、それこそが”命”を謳歌する術だと思う。それこそが本当の”神”に祝福された生き方だと思う。 江戸時代に日本に訪れた宣教師たちが、日本について記しているものに、「日本の人々は幸せそうだ」という記述があるようだが、かつては日本もピダハンに通じるものがあったのかもしれない。 ピダハンについてはNHKで昨年末に放送があったようだ。それについてブログに書いている方がいて、そちらによると(http://aoiyugure.blog62.fc2.com/blog-entry-1212.html)、ピダハンの村は変わってしまったそうだ。家や施設が建てられ、電気や水道も通い、学校ではポルトガル語を教えていると。 そうすれば、彼らの美しい生き方も変わってしまうだろう。 体験記としても面白く読みやすい。図書館で借りて読んだのだが、購入しようかなと思う。
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言語学、文化人類学いずれの領域でも驚くような報告。アマゾンの支流域マイシ川に暮らす人口400人あまりの先住民族ピダハンの人々は、狩猟採集のみを生活の糧として暮らしている。彼らに比べれば、ヤノマミでさえも文明との接点は多いと思える。ピダハンの言語には、挨拶言葉も、数の概念も、右左の...
言語学、文化人類学いずれの領域でも驚くような報告。アマゾンの支流域マイシ川に暮らす人口400人あまりの先住民族ピダハンの人々は、狩猟採集のみを生活の糧として暮らしている。彼らに比べれば、ヤノマミでさえも文明との接点は多いと思える。ピダハンの言語には、挨拶言葉も、数の概念も、右左の概念も、色を表す言葉もない。音素は、わずかに11。高低の声調はある。例えば、「おやすみ」の挨拶の代りには「眠るなよ。ヘビがいるから」と告げる。ワニ、ピラニア、電気ウナギ、アナコンダ、ジャガー、マラリア―これが彼らの住む環境だ。
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アマゾンの民族誌は片っ端から読んでいるが これは出色。 言語学者が30年にわたるフィールドワークで狩猟民族のエスノロジーに迫った本である。 例えは人類史を語るとき 遺跡や遺物で古代文明をしる。住居跡や祭壇跡で当時の生き様を推し測る。 しかしてその前は 全く分からない。動物と同じかと言われる。しかし人類史ではその時間の方が文明化された時間より長いののである。 この本はそんな 人類の本来の姿をつたえてくれる。もちろピダハンと私たちの祖先がおなじ考えたという保証はどこにもない。 だが、目の前の現象にのみ意義を認め常に現在をいきるというピダハンの姿は現在の我々の生き方に対して疑問を投げかける。 未来のエネルギー保障のために故郷を原子力で汚染するなどまさに滑稽である。 人類にとって根源的なことは何か 何が大切かを教えてくれる本。 文章構造が単純で、関係節を持たないビダハンが おしゃべりで かつ笑顔というのも、文明化された私たちをあざ笑うかのような出来事である。 人生で最も衝撃を受けた本。
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アマゾン川の奥深くに暮らすピダハン族は数や方角、色の概念がなく、神や神話の存在も認めない。 アメリカ人である著者は、そんな彼らにキリスト教の教えを広めるために、30年もの長期に渡る聞き取り調査を行い、聖書を現地の言葉に翻訳するという地道で困難な作業に悪戦苦闘する。 次第にピダハン...
アマゾン川の奥深くに暮らすピダハン族は数や方角、色の概念がなく、神や神話の存在も認めない。 アメリカ人である著者は、そんな彼らにキリスト教の教えを広めるために、30年もの長期に渡る聞き取り調査を行い、聖書を現地の言葉に翻訳するという地道で困難な作業に悪戦苦闘する。 次第にピダハン世界に翻弄され、厚い信仰心も揺らいでいく姿がなんとも痛快。 多くの言葉をもたない極めてシンプルな会話や、外部の脅威や圧力に全く動じない確立されたアイデンティティと共同体のネットワークの強さに、現代社会に生きる人間の弱さや臆病さに打ちのめされた。
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イエスの教えを伝道すべく彼の地に赴いた著者が、ピダハン族の圧倒的な人生観をまのあたりにし、ついには無神論者となってしまう、という奮闘記。 言語学的な側面から語られているため取っ付きにくいかと思ったけれど、読み進めるにつれてどんどん引き込まれた。 ピダハン語は同じ言葉でもアクセン...
イエスの教えを伝道すべく彼の地に赴いた著者が、ピダハン族の圧倒的な人生観をまのあたりにし、ついには無神論者となってしまう、という奮闘記。 言語学的な側面から語られているため取っ付きにくいかと思ったけれど、読み進めるにつれてどんどん引き込まれた。 ピダハン語は同じ言葉でもアクセントで意味が違ったり、鼻歌のようなものでも意味が通じたりするらしく、著者は理解に苦労していたようだが、読んでいて「日本語だってそうじゃん?」と。保守的で内輪社会という点で日本文化と通じるところがあるのか。 読んでいる最中は天真爛漫なピダハンのみんながいつもそばで笑っているような気がして、読み終える頃には寂しい気持ちでいっぱいだった。
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著者がアマゾンでピダハンと共に生活した日々はとても興味深く読めたが、本題の言語学についてのくだりになると、ちょっと専門的すぎて難しかった。 以前、ブータンが幸せな国であると報道されたが、ピダハンの人々の方がよほど幸せであるように感じられてならない。
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直接経験の原則に従うなら、 読書の楽しさを味わうことが出来ないなと思ってみたり。 言語学についてのアカデミックなお話は、 予備知識のない素人にも、おぉと思わせてみたり。 キリスト教伝道師を無神論者に変えてみたり。 以前読んだ「ヤノマミ」を思い出してみたり。 Amazon って戸別...
直接経験の原則に従うなら、 読書の楽しさを味わうことが出来ないなと思ってみたり。 言語学についてのアカデミックなお話は、 予備知識のない素人にも、おぉと思わせてみたり。 キリスト教伝道師を無神論者に変えてみたり。 以前読んだ「ヤノマミ」を思い出してみたり。 Amazon って戸別宅配をやっているだけじゃないんだな。
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