暗い夜、星を数えて の商品レビュー
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「わからないのよ。みんな、自分の身に降りかからないと、わからないのよ」 気侭なひとり旅の道中、福島県いわき市 常磐線車内で被災した女性作家の目から見た3・11の記録。 被災して4日目、家族にメールで遺書を書きかける。 無事、千葉の自宅へ帰り着き、目の前にあったはずの恐怖を忘れかける。 そして彼女は、違う立場で、復興の手助けにと福島を訪れる。 津波でめちゃくちゃになった家屋の掃除をしながら、「家」という「人生を肯定する記憶」にどんどん手を入れていく。 買い置きされた食材や食器や書き置きの手紙など、きれいなものもどんどん捨てる。 そのお礼に、出荷制限のかかっていないタマネギをもらう。 それは原発三十キロ圏内のタマネギ。 善意しか無いそのタマネギを、彼女は食べることができない。 そしてまた数カ月あき、彼女は3.11当時お世話になった人たちと再会。 県外で福島ナンバーの車を停めていると、見ず知らずの人にいきなり「毒を撒き散らすな!帰れ!」と罵声をあびせられたり、「汚染車」と落書きされたりするというエピソードを聞く。 タマネギを食べなかった自分と、彼らの何が違うのだろうか。 善意のタマネギを差し出されたら、私はどうするだろう。 彼女の言葉はまぎれもない、関東圏に住む人間の真実だと思った。 本書を引用すると 「死ぬことそのものや津波への恐怖よりも『家族に会えず、見知らぬ場所で一人で死ぬこと』が怖い。」 これも真実だ。 死ぬことも津波も原発の影響も、結局、身を持って体験していない自分には差し迫る実感がない。 でも、あのとき帰れなかった不安、地震が起きた時の家族の安否を気遣う気持ちは体験しているし、覚えている。 そういう気持ちを被災者の人はずっとずっと継続して持っている。 3.11はまるで何も終わっていない。
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