第六ポンプ の商品レビュー
ねじまき少女を先に読んでがっかりしていたので、こちらはあまり買う気がしなかったのだけど、SFマガジンに載っている短編が割と面白いのと、知人が推していたので購入。 実際、収録作のどれも面白く読めた。がっかりしていたねじまき少女の元となった短編も、短編なら全然よかった。 倫理がこの作...
ねじまき少女を先に読んでがっかりしていたので、こちらはあまり買う気がしなかったのだけど、SFマガジンに載っている短編が割と面白いのと、知人が推していたので購入。 実際、収録作のどれも面白く読めた。がっかりしていたねじまき少女の元となった短編も、短編なら全然よかった。 倫理がこの作家の根源らしく、それが短編の長さだと寓話という話としての様式にぴったしはまっているから、かなと。そこが長編になると倫理的な面のみで引っ張るのが難しくなるのかなーというか、繰り返しが説教くさくなりすぎるんだと思う。
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同著者の「ねじまき少女」がそれほどでもなかったので、ずっと手を出していませんでした。でも、この短編集はスゴイ! 石油資源も枯渇し、遺伝子改造された穀物由来のエネルギーに頼る世界は、遺伝子改造された害虫(ニッポン・ジーンハック・ゾウムシ等)に悩まされる。食品には得たいの知れない大...
同著者の「ねじまき少女」がそれほどでもなかったので、ずっと手を出していませんでした。でも、この短編集はスゴイ! 石油資源も枯渇し、遺伝子改造された穀物由来のエネルギーに頼る世界は、遺伝子改造された害虫(ニッポン・ジーンハック・ゾウムシ等)に悩まされる。食品には得たいの知れない大量の添加物が含まれ・・・現代の悩みや、対策をあと少し進めた先に現れてくるさらに悩ましい世界を描きます。 舞台も、ハイテク汚濁化した中国やバンコク、二酸化炭素対策で植物を増やしジャングル化したアメリカなどで、悪化した環境の影響を受け、そこに暮らす人々も正常ではいられません。 努力はしているのだけれど、それが引き金になって悪くなっていく世界・・・現代の恐ろしいデフォルメ。 バチガルピやるなぁ。傑作です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
様々なSFの世界がつまった短編集 ほとんどSFを読んだことがないのでSFというと宇宙や機械といった近未来的なものを想像していたのですが、 この本にでてくる世界は砂漠や水の枯渇した近未来など自然がテーマにされているような話が多く予想外で面白かったです。 以下短編ごとの感想 ■ポケットのなかの法(ダルマ)…活建築(フォチェンズー)という「生きた建築物」がはびこる世界。乞食の少年ワン・ジュンが拾ったデータキューブのなかにはとある宗教の最高権力者の記憶が入っていて…長編の冒頭部分で終わったようなぶつ切り感があるもののこれが長編になったらどうなるんだろうとわくわくしました。自ら成長し続ける建築物が気持ち悪くて良いです。 ■フルーテッド・ガールズ…このタイトルを見て、身体にフルートを埋め込まれた女の子の話かと思ったらもっと非道でした。 ■砂と灰の人々…科学の力によって不老不死になった人間が普通の犬を飼う話。この本の中で一番行きたくない世界はこれだなと思いました。人類全員が不老不死になったらこんな感性になってしまうのかなと考えさせられる話。 ■パショ…砂漠の世界。昔ながらの因習を重んじる祖父と文化的な町で位の高い仕事に就いた孫。どの短編にもいえることですが「鉤ナイフ」や「クアラン」のような造語が世界観の雰囲気を作っていて惹かれます。 ■カロリーマン…『ねじまき少女』と同じ世界の話。『ねじまき少女』を読んでもいまいち遺伝子リッパーの意味が分かってなかったのですが、この話でなんとなく理解しました。珍しく希望が見える終わり方。 ■タマリスク・ハンター…水が枯渇した近未来の中西部。水を吸い上げてしまう「タマリスク」という植物を狩る職業をする主人公。環境問題をテーマにしているだけあってなんとなく暗示的な終わり方。 ■ポップ隊…不老を手に入れた変わりに子供を産むことが法律で禁止された未来。バチガルピの描く世界は不老とか不死とかを手に入れるとその反動も大きくて不老不死がまったく魅力的にみえないところがすごいです。女の「子供の目を通して新鮮な世界を見たい」という言葉が重い。 ■イエローカードマン…『ねじまき少女』のホク・センのモデルになったと思われる(というかまんま)チャンの物語。カロリーマンと同じく『ねじまき少女』と同じ世界でカロリーマンよりも『ねじまき少女』に近い世界です。「上」と「下」が一瞬で覆る最底辺の世界でずぶとく生きる老人チャンは悪人ではないけど善人でもないし、遅刻した時なけなしの金でリキシャを使うか、とっておきのスーツを汗だくにして走るかで真剣に悩むような人間。見てる方はチャンの苦悩や葛藤が辛くて「もう死んでもいいんじゃないかな…」と思うけどなんとなく死んでほしくない、不思議な魅力のあるキャラでした。治安も悪いしどう考えても富裕層にはなれなさそうだけど、この世界にだったら行ってみたいなあと思うのもチャンのようなタフな人間の話を読んだからかなと思います。 ■やわらかく…この話で唯一?SFではなく現代の世界の話。だけどやっぱりグロい ■第六ポンプ…近未来のアメリカと痴呆化の進んだ人間。現代の人が見たら大概の人がそんなこともわからないの?!と思うようなことを平気でするようになった大人と、かろうじて自分たちと同じ感覚を持つ主人公のギャップが見ていて可哀そうでした。トログ化によって人間が作ったものが人間には制御できなくなるというのはかなりありえそうで怖いです。
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説明的でない文章。それでも、だからこそ伝わる重厚なダークな世界観。 それでも希望(のようなもの)を発見できる作品群になっている。 短編も良かったけど、長編でじっくりと世界観を味わいたい。
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短編集。 1、ポケットのなかのダルマ‥電脳の中にいるダライ・ラマ 2、フルーテッド・ガールズ‥肉体を改造された双子の逆襲 3、砂と灰の人々‥再生する人間と犬 4、パショ‥宗教 5、カロリーマン‥「ねじまき少女」の世界 6、タマリスク・ハンター‥水の支配 7、ポップ隊‥永遠の若さ ...
短編集。 1、ポケットのなかのダルマ‥電脳の中にいるダライ・ラマ 2、フルーテッド・ガールズ‥肉体を改造された双子の逆襲 3、砂と灰の人々‥再生する人間と犬 4、パショ‥宗教 5、カロリーマン‥「ねじまき少女」の世界 6、タマリスク・ハンター‥水の支配 7、ポップ隊‥永遠の若さ 8、イエローカードマン‥「ねじまき少女」の世界 9、やわらかく‥殺した妻とお風呂に入る 10、第六ポンプ‥人間がどんどん痴呆化してくる 始めは興味深かった世界観も最後にはいささか鼻についてくるが、それでも新しい(住みたいとは思わないが)世界だ。
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『ねじまき少女』につながる世界観の話も良かったけど(「イエローカードマン」の主人公は『ねじまき少女』の登場人物ともろかぶり)、一番人に勧めたくなったのは…ラストが嫌すぎるけど「砂と灰の人々」。とくに犬派の方には、読後のやるせなさを分かちあってほしいものです。
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「ねじまき少女」の世界に繋がる「カロリーマン」と「イエローカードマン」が面白い。このページ数で10個も短編が詰め込んであり、前記2作以外は殆ど背景となる設定が違う、しかもそれが説明的でなく不自然ではないのが凄い。またこの人の長編が読みたいなぁ~。「ねじまき少女」もそうだったけど表...
「ねじまき少女」の世界に繋がる「カロリーマン」と「イエローカードマン」が面白い。このページ数で10個も短編が詰め込んであり、前記2作以外は殆ど背景となる設定が違う、しかもそれが説明的でなく不自然ではないのが凄い。またこの人の長編が読みたいなぁ~。「ねじまき少女」もそうだったけど表紙がいいね!
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※このレビューにはネタバレを含みます
『ポケットのなかの法』 活建築が進み貧富の差で住む場所が区別される成都。田舎の村から生活を逃れ流れて来たワン・ジュン。スラムで見かけた男のサングラスを奪おうと後をつけるが・・・。殺害され男。謎のチベット人にある人物に渡すように言われたキューブ。あらわれない人物。キューブの中身を解析中に襲撃してきた男たち。ダライ・ラマとチベットをめぐる陰謀。 『フルーテッド・ガールズ』 領主たちが領地を納める近未来。ベラリ夫人により生きた楽器された少女リディア。リディア、ニアの姉妹での演奏で自分の地位を高めようと考えるベラリ。ベラリに反抗したスティーブン。自由に生きる世界にあこがれるリディアの行動。
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ポケットのなかの法(ダルマ) フルーテッド・ガールズ 砂と灰の人々 パショ カロリーマン タマリスク・ハンター ポップ隊 イエローカードマン やわらかく 第六ポンプ 「ねじまき少女」のバチガルピ短編集。
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内容もさることながら、まずは〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の装丁の心地良さに惹かれて読んだと云っても過言ではない。手塗りという小口塗装のわずかなムラだとか、全体を覆う柔らかなビニールの質感だとか、日頃、文庫だろうとハードカバーだろうと、表紙を外して読む派ではあるが、今回ばかりは...
内容もさることながら、まずは〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の装丁の心地良さに惹かれて読んだと云っても過言ではない。手塗りという小口塗装のわずかなムラだとか、全体を覆う柔らかなビニールの質感だとか、日頃、文庫だろうとハードカバーだろうと、表紙を外して読む派ではあるが、今回ばかりは質感を楽しみながら読んでみた。 デビュー作『ポケットのなかの法(ダルマ)』のデータメモリーに込められたアイディアや、『フルーテッド・ガールズ』のフェティッシュな世界観。現実の(そしてどこででも起こりうる)問題と地平を同じくする『パショ』等、冒頭から独特な面白さで畳み掛ける。 なかでも気に入ったのは、『砂と灰の人々』『カロリーマン』『ポップ隊』そしてタイトルロールの『第六ポンプ』かな。 人類以外の生態系が壊滅した世界で戦う兵士たちが、ミッション中に絶滅したはずの犬を捕獲したことで始まる犬との暮らし(というのか?)を描いた『砂と灰の人々』。とにかく世界観が異様。砂から栄養分を摂取する人類は、汚染環境に適した新しい生命体のようで、登場人物たちがそこいらの砂をスナック感覚で掴んで食べるのも異様だし、休暇で訪れたハワイの砂浜には汚染されつくした重油まみれの黒い波が押し寄せ、そこでバカンスを楽しむという情景も異様。そんな異様づくしの世界で、前時代の生き残り(犬)との齟齬をアイロニカルな視点で描く。なんというか、いろいろな示唆を含んだ印象深い一篇。 「ねじまき少女」と同じく、ゼンマイが全てのエネルギーになった世界観で描かれる『カロリーマン』は、やはりその独創的なアイディアに尽きますね。後書きにある訳者の説明が簡単明瞭なので少し引用すると、鉱物資源が枯渇し、穀物と筋肉がエネルギー源となった世界で、市場を支配するのが高カロリー穀物を独占しているのが、石油メジャーに代わる「穀物メジャー」。 要するにこの高カロリー穀物を飼料として、遺伝子操作で生まれた家畜の力(筋肉)を使ってゼンマイを巻く。そのゼンマイを動力源とした世界。有り体に云うとこんな感じ。もうこれだけでいくらでも物語が出来そうな、そんな屈強な設定だなあと。「ねじまき少女」も読まねばなあと。 不老不死が確立され、今いる人間だけで生きていくべく出産育児が違法となった世の中を描く『ポップ隊』もまた、『砂と灰の人々』同様に歪な人間観を描く物語。異常な世界に芽生える母性(違法者)を狩るポップ隊に所属する主人公の揺れ動く気持ちが、異常な世界に幾ばくかの光明をもたらすかのよう。そしてタイトルロールの『第六ポンプ』もまた、過去の叡智を喰らい尽くしたどん詰まりの人類を描いた傑作。 現代社会への警鐘をテーマとする物語が大半を占める本作。地続きゆえの不穏さに暗澹たる思いが募るが、どんなに歪んだ世界になっても人間は生きているんだろうなあ…という諦観めいた感情もおぼえる。けして楽しい物語ではないが、斬新かつ独創のアイディアに刮目しつつ、きたる時代に戦きつつ読むべし。
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