動的平衡(2) の商品レビュー
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生物は遺伝子によって決定されているかをテーマに、ドーキンスのミームや大腸菌による遺伝子工学、DNA修復系を中心に意外にフレキシブルなんだと結論付ける。 芸術・物理・化学ととにかく幅広くレンジで記述される作者の守備範囲の広さで読書を楽しませてくれる。
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まえがきがとっつきにくかったので、本編どうしたものか、と思いつつ読み進めていったら、いやいや、何のことはない「フクオカ博士節」が炸裂しているではありませんか。今まで「エントロピー」ってあんまりよくわかってなかったのですが、ようやく理解の糸口がつかめた感じ。そう、常に博士の語り口はわかりやすい。エピジェネティックスも興味深かったし、9章の「木をみて森を見ず」は博士の真骨頂では。
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生命は、壊される前に自ら壊して更新することによって、時間による劣化(つまり、エントロピーの増大)を免れている。小は細胞内の物質交換や細胞自体の更新から、大は個体そのものの再生産(死と誕生)によって。もしかすると「種」さえもこうした流れの一部なのかもしれない。 それなのに、科学者...
生命は、壊される前に自ら壊して更新することによって、時間による劣化(つまり、エントロピーの増大)を免れている。小は細胞内の物質交換や細胞自体の更新から、大は個体そのものの再生産(死と誕生)によって。もしかすると「種」さえもこうした流れの一部なのかもしれない。 それなのに、科学者は生物の正体を解明するためにこの流れを止めようとする。福岡は言う。 「生命を構成している要素が、絶え間のない消長、交換、変化を遂げているはずの細胞。その細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく。そのとき見えるものは何だろうか」 「細胞」を「業務」に置換すれば、これはまさしく我々システム屋がやっていることと同じだと気付く。 生きた業務がシステム上に構築できないといって、嘆いてはいけないのである。システムとは、あらかじめそのように運命づけられているのであって、我々には他の手段が与えられていないのだ。 構造化もオブジェクト指向も、結局のところは「細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく」ための方法論でしかない。 我々にできることは、できるだけ新鮮な(死んだばかりの)細胞を手に入れて、できるだけ正確に薄く切り、できるだけ仔細に観察して、深く考察することだけなのだから、来年も頑張ってその道に邁進しようと思う。 ところで、アジャイルってどうなんだろう? 2011/12/29 記
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副題には「生命は自由になれるのか」とある。生物はどこまで遺伝子DNAの束縛から自由であるかというのが大きなテーマ。かつて、ドーキンスの『利己的な遺伝子』が一世を風靡し、生物は遺伝子の乗り物にすぎないと言われた時期もあった。しかし、機械論的・還元主義的進化論から脱出する糸口がエピ...
副題には「生命は自由になれるのか」とある。生物はどこまで遺伝子DNAの束縛から自由であるかというのが大きなテーマ。かつて、ドーキンスの『利己的な遺伝子』が一世を風靡し、生物は遺伝子の乗り物にすぎないと言われた時期もあった。しかし、機械論的・還元主義的進化論から脱出する糸口がエピジェネティックスという分野により切り開かれつつあるという。一般的な遺伝(ジェネティックス)から離れて(エピ)生じる遺伝の研究である。ヒトとサルの遺伝子は2%しか違わないのに、なぜ両者では大きな違いが生じるのか。遺伝子のスイッチのオン・オフの制御が大きく関係していることは確かだろう。ここから、ヒトはサルのネオテニー(幼形成熟)として進化したのではないかという魅力的な仮説も生まれる。 生命は絶えず変化しながらバランスを保っているという動的平衡の概念から、さらに一歩踏み出し、生命の多様性・柔軟性・可変性へと言及しており、「生命はこんなにも自由だ」という生命賛歌となっている。
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前作に引き続き、本当に素晴らしい。 科学の難しい話しを、実に明快な文学的表現で描いており、スラスラと読み進む事ができた。 生命を動的平衡と考えてしまうと、そこが最終地点となって、考える事を放棄することに繋がると批判する人がいる。しかし、多くの人が楽しいと感じて読む本には、共感性の...
前作に引き続き、本当に素晴らしい。 科学の難しい話しを、実に明快な文学的表現で描いており、スラスラと読み進む事ができた。 生命を動的平衡と考えてしまうと、そこが最終地点となって、考える事を放棄することに繋がると批判する人がいる。しかし、多くの人が楽しいと感じて読む本には、共感性の高い真理が潜んでいるのだと感じた。万物は流転するし、行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にはあらず、なのだ。ヘラクレイトスや鴨長明が、直観的哲学で唱えた言葉を、科学的アプローチで読ませてくれる良書だった。
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遺伝子以外の何かが生命を作っている、かもしれない。時間軸を意識しなければならない。全体としては、著者のいつもの主張で、自分の中の動的平衡を想像しながら、少しおかしな気持ちになれる本です。 印象に残ったのは、9章の「木を見て森を見ず」。CO2や放射線で騒いでいる世の中に対して、細胞...
遺伝子以外の何かが生命を作っている、かもしれない。時間軸を意識しなければならない。全体としては、著者のいつもの主張で、自分の中の動的平衡を想像しながら、少しおかしな気持ちになれる本です。 印象に残ったのは、9章の「木を見て森を見ず」。CO2や放射線で騒いでいる世の中に対して、細胞と同じで、全体は見えなくても、お隣にヒントがあるかもよ、というお話。そうなのか。そうなのかも。
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私のように遺伝子とか生命現象については全くの素人にはとても楽しく読める本。 福岡先生の絵画や音楽に対する造詣の深さにも感銘。 衝撃的だったのは、「この世に因果関係は存在しない」という項目でした。サイエンティストがこんな風に言い切っていいの?と思ったのですが。後から、先生は昨年...
私のように遺伝子とか生命現象については全くの素人にはとても楽しく読める本。 福岡先生の絵画や音楽に対する造詣の深さにも感銘。 衝撃的だったのは、「この世に因果関係は存在しない」という項目でした。サイエンティストがこんな風に言い切っていいの?と思ったのですが。後から、先生は昨年人文系の教授に転身されていることを知り、なるほどねぇ、と思った次第。 http://podcast.jfn.co.jp/poddata/susume/susume_vol307.mp3 兎に角、せっせと良質の水を摂りつつ、出来るだけ必須アミノ酸のひとつであるロイシンを口にして、適度な運動を心がけ、健康な毎日を過ごすことに心がけるか・・・。
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この人の考え方は、一貫しているし、とても面白いと思う けれど、なんだか物足りなく感じてしまったのは、何故だろうか。 動的平衡の続編だしねー、仕方ないのかもしれないけれど。 エピジェネティックスという考え方はとても興味深かったです 遺伝子がどのようなタイミングで活性化され...
この人の考え方は、一貫しているし、とても面白いと思う けれど、なんだか物足りなく感じてしまったのは、何故だろうか。 動的平衡の続編だしねー、仕方ないのかもしれないけれど。 エピジェネティックスという考え方はとても興味深かったです 遺伝子がどのようなタイミングで活性化されるかで、ヒトとチンパンジーが違うかもしれないだなんて、(勿論遺伝子にも差異はありますが)、想像するだけで面白い! チンパンジーのネオテニーがヒトだって、なんだか魅力的よね 福岡伸一の本は、生命の不思議について様々な想像を私たちにさせてくれることがとても面白いと思います それから、マイケル・クライトンの、アンドロメダ病原体、を読んでみたいなと。 これはメモです笑
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過去に読んだいくつかの福岡氏の他著との重複が多く、特に前半はまとまりに欠ける印象が否めず、やや不満が残る。既に読んだ内容をさわり程度に書かれているだけに見えるからだろうか。 あまりに簡素な感じがしたので、細かいコラムのようなものをつなぎ合わせた本なのかと後付けを確認したが、それほ...
過去に読んだいくつかの福岡氏の他著との重複が多く、特に前半はまとまりに欠ける印象が否めず、やや不満が残る。既に読んだ内容をさわり程度に書かれているだけに見えるからだろうか。 あまりに簡素な感じがしたので、細かいコラムのようなものをつなぎ合わせた本なのかと後付けを確認したが、それほど細切れに書かれたものでもないらしい。 ついこの前読んだ「センスオブワンダーを探して」と重なる部分が非常に多かったので尚更かな~。伸一少年が博物館へ発見した虫を見せに行く話とか、フェルメールの話とか、ネオテニーの話とか…。 重複しつつもところどころ心に留めておきたい言葉なども見つけたし、後半8章9章あたりは興味を引く内容もあったが、う~ん、物足りない。 似たような本を書きすぎ??読みすぎ?? 追記。 一年以上前に買ったきり読んでいなかった「働かないアリに意義がある」という長谷川英祐氏の本と、スティーブン・グールドの「ワンダフル・ライフ」(こちらは5年以上も積読…)が紹介されていた。そうだった、まだ読んでなかったっけ、と思い出した。読もう。
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『生物と無生物のあいだ』で、生命現象を特徴づけるのはドーキンスが提唱した自己複製だけでなく、たえず合成と分解を繰り返しつつ一定の恒常性を保つあり方、すなわち動的平衡にあるのではないかと主張した著者が、エピジェネティクスという新しい生命観に注目し解説している。同じ遺伝子を持ってい...
『生物と無生物のあいだ』で、生命現象を特徴づけるのはドーキンスが提唱した自己複製だけでなく、たえず合成と分解を繰り返しつつ一定の恒常性を保つあり方、すなわち動的平衡にあるのではないかと主張した著者が、エピジェネティクスという新しい生命観に注目し解説している。同じ遺伝子を持っていたとしても、遺伝子の動くタイミングや順番、ボリュームが異なるからこそ多様性が生まれるのではないかということだ。確かに、遺伝子の突然変異だけではカンブリア紀の爆発的な生命の横溢とその多様性は説明しにくい。楽譜は同じでも演奏家が出す音の強弱でまったく異なる曲のように聞こえるように、遺伝子の発露のタイミング、強弱で多様性が生まれるという仮設はそれなりに説得力があるように思った。
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