卵をめぐる祖父の戦争 の商品レビュー
いや、面白かった。 ナチ包囲下の飢餓の街で1ダースの卵の調達を命じられるという夢想的な設定。しかし、その探索途中で出会う戦争の断片は極めてリアルで残酷。その中での主人公レフと相方コーリャの掛け合いは妙にユーモラス。そうした相反する要素が見事に混じり合わせた作品です。 そしてラスト...
いや、面白かった。 ナチ包囲下の飢餓の街で1ダースの卵の調達を命じられるという夢想的な設定。しかし、その探索途中で出会う戦争の断片は極めてリアルで残酷。その中での主人公レフと相方コーリャの掛け合いは妙にユーモラス。そうした相反する要素が見事に混じり合わせた作品です。 そしてラスト。 戦争の無意味さと、生きる事の希望を見事に描き出し、非常に気持ちの良い読後感です。 著者のベニオフさんは、むしろ映画の脚本を中心に活動しているようですが、そのせいか場面場面が非常に視覚的で、そのまま映画になりそうです(もっとも残酷過ぎて映せないシーンもありますが)。 『25時』も良い作品でしたし、もう少し小説の方にも力を入れて頂きたいものです。 ちなみに原題は“City of thieves”。直訳すれば「盗人の街」でしょうか。それを『卵をめぐる祖父の戦争』としたのも上手いと思います。
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饒舌なだけではなく、 大した勇気も持ち合わせてるとしか思えないコーリャのおかげで、 歴史的な事実だけではない世界を感じられました。 戦争の正義や道徳はその立ち位置で変わってしまい、 生と死殺す事と殺される事、 それを一時でも忘れさせてくれるものは 想像力や空想やユーモアなのかもし...
饒舌なだけではなく、 大した勇気も持ち合わせてるとしか思えないコーリャのおかげで、 歴史的な事実だけではない世界を感じられました。 戦争の正義や道徳はその立ち位置で変わってしまい、 生と死殺す事と殺される事、 それを一時でも忘れさせてくれるものは 想像力や空想やユーモアなのかもしれないなあ。 戦争の重たい事実を突きつけられてしまうのに、 強引に笑いの世界に連れ戻される、 史実と小さなファンタジーで紡がれた「若者達の友情と冒険」 の素敵な物語でした。
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第二次世界大戦中、ナチス包囲下のレニングラードを舞台にした、少年の忘れられない数日間。 戦争という状況下で【卵1ダースを探せ】という冒険をする展開がおもしろいです。 動物も雑草も消え、人肉を食べる者がでてくるほど誰もが餓えている中で、卵1ダースというのはもはや幻の食材。 期間内...
第二次世界大戦中、ナチス包囲下のレニングラードを舞台にした、少年の忘れられない数日間。 戦争という状況下で【卵1ダースを探せ】という冒険をする展開がおもしろいです。 動物も雑草も消え、人肉を食べる者がでてくるほど誰もが餓えている中で、卵1ダースというのはもはや幻の食材。 期間内に見つけられなければ死しかなく、戦いや飢餓が溢れている惨状の中、たった2人の平凡な少年達の道中は危険で残酷。 しかしこの重苦しい状況を、対照的な二人の少年が漫才のような掛け合いで和らげてくれています。 若さゆえに自分の力を試したい、誇示したいとやる気に満ち溢れていると同時に、臆病でコンプレックスを持った17才の等身大の少年であるレフ。 お調子者で自由人、常にしゃべっており内容の大半が下ネタの謎の美青年コーリャ。 コーリャの予測不可能の言動に振り回され、レフがぶつぶつと文句を言っている道中が戦争という状況でありながらおもしろおかしいです。 残酷な状況をユーモアたっぷりに描いているのが、読みやすくもあり深くもあります。 展開は分かりやすく、こういう話になるだろうという王道を行った感じはしますが、決して退屈せずに一気に読めました。 お下品なばかばかしさと、戦時下の緊迫した過酷な状況のギャップが良いです。 ロシアの冷たい空気をすぐそこに感じるような描写も迫力でした。
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「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を...
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を始めることになるが、飢餓のさなか、一体どこに卵が?逆境に抗って逞しく生きる若者達の友情と冒険を描く、傑作長篇(「BOOK」データベースより) うーん、なんというか、下ネタ大好き小学生が大きくなったような男と、それに振り回されるタイプの男の珍道中、みたくなっている気が・・・。 そーいうタイプの男子を冷たく見ていたクラスメイトの女子的視線で見ると、イマイチ感動もできず。 ラストも読めちゃうしな~。 レニングラード包囲戦を、一風変わった使い方をしている点は面白かったです。 戦争って馬鹿馬鹿しさの極致だよね、というメッセージは伝わりました。
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あっけらかんとしつつ、とてもしんみりする。突飛な話に見えて、レニングラードはこんなものだったんだろうと納得できるようでもある。
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だいぶ面白かった。第二次世界大戦中のレニングラードを舞台に繰り広げられるハチャメチャだけど静かで、残酷だけどなんか優しい、本当に不思議な小説。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
タイトルに惹かれた。 対独戦争中のソ連を描いた作品。国民は飢餓に苦しみ、売春・殺人は横行。くわえてカニバリズムまで描かれる。 しかし、作者はこの酸鼻を極めた戦争描写を、軽妙な会話とジョークでくるりと包み込み、ただの戦争小説には終わらせない。この筆力はさすが。 特にコーリャの存在は物語にいい味を出している。女好きで自信過剰でおしゃべりだけど、どこか憎めない愛すべきキャラクターだ。また、そんなコーリャと対照的な17歳の主人公「わし」の心理描写も細やかで感情移入してしまう。 ハラハラドキドキさせるストーリーと愛すべきキャラクターに出会える青春小説。いささか下品な会話に目をつむれば、ぜひ周りの人にお勧めしたい秀作であった。
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