メモリー・ウォール の商品レビュー
2011年のクレストはいっそう豊かで、『オスカー・ワオ』や『ソーラー』、シュリンクもあった。この中篇集にはそういった華とは別種のしかし絶大な魅力がある。理系の知識と文系の表現。乾いた文体、映像的な、息を飲ませるうつくしい情景。人物に彼方から寄り添うドーアの愛情。読後も静かにおだや...
2011年のクレストはいっそう豊かで、『オスカー・ワオ』や『ソーラー』、シュリンクもあった。この中篇集にはそういった華とは別種のしかし絶大な魅力がある。理系の知識と文系の表現。乾いた文体、映像的な、息を飲ませるうつくしい情景。人物に彼方から寄り添うドーアの愛情。読後も静かにおだやかに残りつづける、時と記憶をめぐる物語。圧倒的。年間ベスト級。
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記憶を巡る6編。「メモリー・ウォール」「生殖せよ、発生せよ」「非武装地帯」「113号村」「ネムナス川」「来世」。 表題作は、記憶を特殊な装置で脳から取り出し、カートリッジに保存している…という設定で、ちょっと「わたしを離さないで」を連想させるような静謐な近未来。 「生殖せよ、...
記憶を巡る6編。「メモリー・ウォール」「生殖せよ、発生せよ」「非武装地帯」「113号村」「ネムナス川」「来世」。 表題作は、記憶を特殊な装置で脳から取り出し、カートリッジに保存している…という設定で、ちょっと「わたしを離さないで」を連想させるような静謐な近未来。 「生殖せよ、発生せよ」の夫婦は、不妊治療に取り組んでいる。何度も失敗しているので疲弊しているはずなのだけれど、そのせっせと実験に取り組んでいるようなさまが、悲壮さを軽々と飛び越え、時に滑稽さにまで及んで、私はこれが一番気に入った。 「来世」は、ナチス政権下から逃れた少女の頃の記憶と現在との混濁が、さながら万華鏡のように美しくさえ感じられる。 女性的と言ってもいいような、静かで淡々とした語り口。
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