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メモリー・ウォール の商品レビュー

4.1

42件のお客様レビュー

  1. 5つ

    11

  2. 4つ

    20

  3. 3つ

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2019/02/23

6篇を収めた作品集。 表題作は、記憶の断片をカートリッジに記録するという設定と、場面を細片化しカットバック的に繋いでいく手法とが見事に結び付いている。たかだか数十年しか保持されない人間の記憶と、何万年という時を経て遺された化石との鮮やかな対置。 心に深く残るのは「来世」。1930...

6篇を収めた作品集。 表題作は、記憶の断片をカートリッジに記録するという設定と、場面を細片化しカットバック的に繋いでいく手法とが見事に結び付いている。たかだか数十年しか保持されない人間の記憶と、何万年という時を経て遺された化石との鮮やかな対置。 心に深く残るのは「来世」。1930年代ドイツのユダヤ人街の孤児院に暮らした、今はアメリカに住む老女。人生の終幕が近付く中で彼女は、孤児院での他の少女達と過ごした記憶へと立ち返っていく。刻々と閉塞していくドイツの記憶は胸が苦しくなるが、人生の最期に記憶の中の少女達と再会を果たせて、哀しさ辛さだけではない、記憶は彼女を救いもしたのだと感じ入った。

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2019/02/06

記憶に纏わる短編集。 「すべての見えない光」に 続くアンソニー・ドーア2作品目を読む。 静謐な語り口、心を豊かにする言葉の ひとつひとつが哀しみを帯びて沁みていく。 誰かが傍らに寄り添い、 誰かが美しい言葉を伝えてくれた、 それだけの記憶でも、 人はその記憶を糧に安らかに 生き続...

記憶に纏わる短編集。 「すべての見えない光」に 続くアンソニー・ドーア2作品目を読む。 静謐な語り口、心を豊かにする言葉の ひとつひとつが哀しみを帯びて沁みていく。 誰かが傍らに寄り添い、 誰かが美しい言葉を伝えてくれた、 それだけの記憶でも、 人はその記憶を糧に安らかに 生き続けていくことが出来るのか。 それが他人の記憶でも。

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2018/05/20

表題作は1つの映画になりそうなほどストーリーが濃かった。『すべての見えない光』が謎の宝石だったように、この作品も化石が全体のキーになって登場人物たちをつなげ読者を導いている。 アンソニー・ドーアはこういうおとぎ話の雰囲気があるところが好きだと思っている。あるいは藤井光さんが好きな...

表題作は1つの映画になりそうなほどストーリーが濃かった。『すべての見えない光』が謎の宝石だったように、この作品も化石が全体のキーになって登場人物たちをつなげ読者を導いている。 アンソニー・ドーアはこういうおとぎ話の雰囲気があるところが好きだと思っている。あるいは藤井光さんが好きなだけでは、というのもありうる。

Posted byブクログ

2017/10/01

目次 ・メモリー・ウォール ・生殖せよ、発生せよ ・非武装地帯 ・一一三号村 ・ネムナス川 ・来世 『生殖せよ、発生せよ』だけは少し毛色が違うが、基本的には記憶、思い出を軸にして紡がれる物語。 老いて記憶が失われていくのは、自分自身を失っていくことなのか。 脳内にある記憶をカ...

目次 ・メモリー・ウォール ・生殖せよ、発生せよ ・非武装地帯 ・一一三号村 ・ネムナス川 ・来世 『生殖せよ、発生せよ』だけは少し毛色が違うが、基本的には記憶、思い出を軸にして紡がれる物語。 老いて記憶が失われていくのは、自分自身を失っていくことなのか。 脳内にある記憶をカートリッジに残し、繰り返し見ることによって記憶力の低下を防ぐことができる世界。 しかし、自分の心が動くことのない記憶を何度見ても、それはしょせん他人の記憶と同じなのではないだろうか。 表題作にはそんな世界で、金持ち女性の思い出を盗み見、金もうけの手段に使われる少年が出てくる。 彼は徐々にその記憶の世界に魅せられていき、その足跡をたどるようになるのだが、そうなるともう、その記憶は彼のものといっていいのではないか。 記憶の持主アルマにとって、その記憶は単なる彼女の人生の記録であり、ルヴォこそが正しく記憶として受け取ったのではないか。 記憶が過去の自分なら、記憶を失うことは自分を喪失することなのか。 失ったものは無になるのか。 好きなのは「ネムナス川」 両親を次々に病気で失った少女が、リトアニアに住む祖父に引き取られる話。 「私は大丈夫」という少女は、至極慎重に周囲を確認し、近所に住む認知症のサボおばあちゃんとのつきあいによって少しずつ現実とのかかわり方を取り戻していく。 娘を喪い、これまでにも多くのものを失い続けてきたおじいさんと少女の気持ちのすれ違いが、サボおばあさんの死をきっかけに変わっていく。溶けあうように分かり合える。 “わたしに悲しみかたなんて教えないでほしい。幽霊はいつかは消えていなくなる、映画のように、向こうが透けて見える手でさよならと手を振りながらいなくなるなんて言わないでほしい。消えてなくなるものはたくさんあるけれど、こういう幽霊は消えはしないし、こういう心の痛みは消えはしない。” 今はあっという間に過去になる。 次々にあらわれる今は次々と過去になる。 “川はけっして止まらない。あなたがどこにいても、忘れていても、眠っていても、嘆いていても、死にかけていても―川は変わらず流れつづける。” 養護施設で育った癲癇持ちのユダヤ人少女エスターについて書かれた「来世」次々に周囲から親しい人たち(ユダヤ人)がいなくなり、最後に残った12人の少女にもついにゲットーへの移動命令が下りるが、なぜかエスターだけが医師の手によりイギリスへ送られ、アメリカ人の夫婦の養女として暮らすことになる。 年を経るごとに鮮明に思い出される、かつての仲間たち。 年を経るごとに薄くなっていく自分自身の人生の実感。 “子ども時代はあちこちに埋められている。埋められた子ども時代は、一生ずっと、その人が戻ってきて掘りだしてくれるのを待っている。” だけど、掘りだしてくれるのは自分じゃなくてもいいのではないか、と思った。 自分の子どもが、孫が、それを掘りだしてくれたって構わない。 たとえ自分が埋めたことを忘れたままだとしても。 そして、全くの通りすがりの人が掘りだしてくれることだってあるかもしれない。 そうやって記憶は繋がれていくものなのではないかしら。

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2017/07/11

壁一面に保管されているのは、家の主である老女の記憶。 日々消えゆく老女自身の記憶が取出され、カートリッジに保管されている。人の頭に取り付けられたポートから読み取り可能な記憶は、だれとでも共有できる。 記憶がその人となりを作っているとすれば、他人の記憶を追体験していくと、人と人の境...

壁一面に保管されているのは、家の主である老女の記憶。 日々消えゆく老女自身の記憶が取出され、カートリッジに保管されている。人の頭に取り付けられたポートから読み取り可能な記憶は、だれとでも共有できる。 記憶がその人となりを作っているとすれば、他人の記憶を追体験していくと、人と人の境界はどう理解すれば良いのだろう。 老女が亡夫と出会ったころからの記憶を盗み見るのは、貧しさ故に記憶読み取りポートを選択の余地なく埋め込まれた弱い立ち場の男。読み取った記憶はボスに報告しなければならない。大金につながる恐竜化石の記憶があるはずと、毎晩記憶を盗み取りに屋敷に入り込む。記憶は見つかり、恐竜化石は大金につながる。しかし男の金の使い方に、心の境界が滲みだす。やりきれなさが少し混じっているが、これもハッピーエンドなんだろうか。 短編集の本書は、表題作のほかは玉石混交といった印象(好き嫌いの問題ですが)。

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2017/06/26

記憶、時間軸、科学、独特な筆致、など、ドーアの世界に惹き込まれ中。 個人的には表題作と来世が良かった。 ただデビュー作に比べるとバラつきがあるような気もした。

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2017/04/26

どれも素晴らしい作品やし、構成も素晴らしいと思うけれども、なにかが足りない。 短編が苦手なだけかもやけど。

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2017/03/29

ドーアの長編「すべての見えない光」を読んでこちらの短編集も続けて読んだけれど、 「すべての~」よりもこちらの方が100倍好きだ。 特に好きなのは表題作と、最後に収録されている「来世」。 それぞれの人がそれぞれ大切にしまっている”記憶”とか”思い出”を掘り下げていく切ない話。 どの...

ドーアの長編「すべての見えない光」を読んでこちらの短編集も続けて読んだけれど、 「すべての~」よりもこちらの方が100倍好きだ。 特に好きなのは表題作と、最後に収録されている「来世」。 それぞれの人がそれぞれ大切にしまっている”記憶”とか”思い出”を掘り下げていく切ない話。 どの話も短さのなかにいろんな含みがあって、やっぱり短編が好きだ。

Posted byブクログ

2017/02/19
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

悲しい話ばかり、でもとても美しい。すっかり作者のファンになってしまいました。「メモリー・ウォール」では、記憶を失った老女の記憶に大きな秘密が隠されていてそれを見つけようとする少年の行動に不安を抱いたが、クライマックスは明るい希望がほの見えた。「来世」のナチの強制収容所送りを免れた頻繁に癲癇を繰り返す少女が老女になり、少女の頃を思い出す場面は切なく悲しい。

Posted byブクログ

2016/08/17

記憶にまつわる6つの短編。ダムに沈んでしまう中国の寒村の種屋の話「113号村」が好き。 自然の風景や生活感を描くのが巧妙だから、悲しい話が多いのにどこか優しい。同じ理由で映像的だから読んでいて想像が膨らむ。いい本だわー。

Posted byブクログ