モダンタイムス(下) の商品レビュー
「そういうことになっている」「そういうシステムなんだ」 そういう雰囲気や流れは普段の生活でもなんとなく感じている。そして、わかりやすい「悪役」や「首謀者」というのは現実には存在しないのだ。伊坂さんが小説の中で繰り広げる国家論は非常にわかりやすいし、すっと腑に落ちるものがある。 日...
「そういうことになっている」「そういうシステムなんだ」 そういう雰囲気や流れは普段の生活でもなんとなく感じている。そして、わかりやすい「悪役」や「首謀者」というのは現実には存在しないのだ。伊坂さんが小説の中で繰り広げる国家論は非常にわかりやすいし、すっと腑に落ちるものがある。 日頃新聞やテレビなどで見かける「国や大企業悪玉論」についてなにか違和感を持っていた。現実世界でそんなに単純な善悪二元論や、勧善懲悪が存在するとは思えなかったからだ。 人はみな社会の歯車にすぎず、作業は細分化されて目に見えなくなっている。みなそれぞれ誠実に自分の仕事をこなしているだけなのに、いつのまにか大事故が起きたり不祥事が発生したりする。しかしその責任を追求していくといつの間にか対象が立ち消えになってしまうのだ。 そういう社会に対する漠然とした胡散臭さを、伊坂作品は明確に形にする。 単行本の時は「超能力」に対する比重がわりと大きくて、そこがこの話をよりいっそう非現実的なものにしていたと思うが、今回はその超能力すらも、人の認識のあやふやさを浮き彫りにする良い材料になっていた。 そして、最終的に明かされる事件の真相を書きなおしたことにより、中盤の安藤商会でのやりとりがすっきりしたし、さらなる無力感をも醸しだしていたと思う。 いやほんとに、けっこう現実の社会も真相はこんなもんじゃないのかな、と思ってしまう。 同時に執筆されていた「ゴールデンスランバー」も、世の中の仕組みって結局はこんなもんなんじゃないかと思わされるところがある。なぜ青柳が選ばれたのかについてはさほど深い意味があるわけではないが(おそらく適当な人材だといったところだろう)、青柳の置かれた状況そのものは、ある特定の人物にとって出現する必要のある状況だったということなのだ。 このあたりは、ネットでよく見かけるさまざまな「陰謀論」と構造が似ている。 ラストの渡辺の選択は、決して積極的な方法ではないけれども、しかし一つの方法であることは確かで、畢竟敵が確定できない戦いに勝つことなど誰にもできないのだ。 ゴールデンスランバーでは青柳は元の顔を捨てて徹底して逃げる。渡辺は関係を断ち切ることで生き延びようとしている。そうやって、勝たないけれども負けない生き方で生きていくというのもひとつの方法である。 それにしても、最後まで謎だったのは、渡辺の妻佳代子である。いったい彼女は何者なんだろう。やたら強いし、変なコネクションは持っているし、異常なまでのヤキモチやきである。なぜあそこまで執拗に夫の浮気を疑うのだろう。あの不可解ぶりは、もしかして作者の女性観が反映されているのだろうか。理屈が通じなくて、やたら強くて、でも可愛くて、みたいな。 あんなに嫉妬心の強い妻なのに嫌いにならない渡辺も不思議だった。 勇気を彼女に預けてしまったからなのかもしれない。
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魔王でしっくりきていなかったものが、本作でかなりすっきりする。合間の会話のやり取りが絶妙。 妻のキャラも最高。
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巻末の著者あとがきおよび酒井の解説は、本作の成立の経緯や内容について詳しく述べているのだが、正直なところ、真価がどこらへんにあるのか、僕にはちょっとわからなかった。 心覚えとして書きとめておくならば、、「システム」についての議論は、村上の「ノルウェイの森」でのワタナベと先輩カッ...
巻末の著者あとがきおよび酒井の解説は、本作の成立の経緯や内容について詳しく述べているのだが、正直なところ、真価がどこらへんにあるのか、僕にはちょっとわからなかった。 心覚えとして書きとめておくならば、、「システム」についての議論は、村上の「ノルウェイの森」でのワタナベと先輩カップルの会話を想起させる。
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結局主人公の奥さんが何者かは不明なまま。強すぎかつ怖すぎ。 世の中はそうなっているのだ。 10/20,21 の札幌往復の飛行機の中で一気に読んだ。 10/14 17:00 Amazonから予約品が届く
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2011/10/14 Amazonより届く。 2023/11/9〜11/13 魔王の続編でゴールデンスランバーの兄弟作?である本作品。コメディの枠を借りた、伊坂さんの国家、政治への痛烈な風刺であった。
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