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犯罪 の商品レビュー

3.9

242件のお客様レビュー

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2015/12/16

フランス映画の名匠、ブレッソンの映画を見たような後味。 印象としてはとっても即物的でハードボイルド。 とっても悲惨な人々の、悲惨な運命を描き、全てを紡ぐ言葉は「犯罪」。 作為的なドラマチックな救いはほとんどない。 ドイツの小説です。とっても評判になっているそうですね。さもありな...

フランス映画の名匠、ブレッソンの映画を見たような後味。 印象としてはとっても即物的でハードボイルド。 とっても悲惨な人々の、悲惨な運命を描き、全てを紡ぐ言葉は「犯罪」。 作為的なドラマチックな救いはほとんどない。 ドイツの小説です。とっても評判になっているそうですね。さもありなん。 作者は実際に弁護士さんのようですが、この短編も全て、弁護士の「私」が自分の関わった事件について淡々と語る、というスタイル。 語り部がそういうかたちで立ち位置がしっかりしているので、無理が無い印象。 弁護士にしてみれば、犯罪と犯罪にまつわる人間模様は、毎日関わる日常茶飯事ですね。 だから、ドライに淡々と語れる。の、だけど、語り部自身は貧困や悲惨や犯罪の対岸。安全圏に居る訳です。なので、小説世界としては悲惨になりすぎずに済んでいます。 そういう仕掛けの上に、描かれる一つ一つの話が、まあ、なんというか「ザ・人間模様」と言いますか。 どれもそれなりに辛い人生なんですが、語り口の旨さで、地に足着いて読めます。 そしてそこには、欧州、ドイツに現在横たわっている、移民問題が浮かび上がりつつ。 日本でも変わらない格差や貧困や不寛容といった風景もあれば、 奇妙な運命や奇跡のような希望があったりします。 語り口の上手さが、なんだろう。なんだかドストエフスキーな、とでもいうべきか。 微妙に乾ききったユーモア、翻訳もの独特の言い回しも上手くこなれていて。 衝動買いにしては、衝撃的に面白かった一冊。 以下、個人的な備忘録。 #################### ●フェーナー氏 長年実直な開業医だった男。悪妻に悩まされ続けて、生真面目であるがゆえに、老いてからある日、妻を殺害。自首した。 ●タナタ氏の茶碗 不良の少年たちが、大富豪の家に窃盗に入る。有名な茶碗を価値を知らず盗んだ。 だがその大富豪の手回しなのか、窃盗関係者が次々に怪死。 恐れた少年たちは盗品を返品して、なんとか事なきを得る。 ●チェロ 厳格で粗野な大富豪の家で育った、姉と弟。 家から出て、常にふたりで暮らしたが、弟が大事故で意識理性を含めて障害者になってしまう。 性欲剥き出しで姉に襲い掛かる弟に手を焼く姉。 姉は弟を殺害し、自首した。 ●ハリネズミ 移民の一家。家族は皆、犯罪者。 そこで生まれ育った末っ子の男子は、異色の優等生。 家族に知らせずに別に家を持って、ITも駆使して、もう一つの人生を送る。 彼の「もう一つの人生」は、家族のだれも知らない。 兄の一人が犯した犯罪の裁判で、機知を発揮して家族を救う。 ●幸運 戦災に巻き込まれた若い女性。輪姦され、全てを失い、国を捨て、ドイツに。 生きていくために売春をしていた。 そして路上で出会った若者と同棲を始める。 しかし、ホテルで客が突然死。 誤解と誤解が重なって罪に問われることになる。 ●サマータイム 中東からの難民の若者。犯罪に手を染めて生きている。 そこそこ羽振りが良くなり、愛し合う恋人も出来た。 だが、たちの悪い借金にはまり、命の危機に。 恋人の女性は、仕方なく大物実業家の愛人になる。嫉妬深い彼には隠している。 密会の後、その女性が死体で発見される。 家族も地位もある実業家が殺人罪に問われるが…。 ●正当防衛 街のチンピラを、正当防衛で瞬時に殺害した、身元不明の男性。 どうやっても正当防衛で無罪になってしまい、放免。 どうやら、「プロ」だったらしい。 ●緑 田舎。資産家の名家の息子が、ある種の異常になってしまう。 羊の目をくりだしたり、羊を殺したり。 他の人に見えない、「色」「数字」が見えると…。 知り合いの若い女性が失踪し、彼が殺したのかと疑われ… ●棘 博物館の守衛。 会社のミスで、同じ博物館で何十年も勤務することに。 博物館を隅から隅まで熟知した彼は、やがてとある銅像に惚れこんでしまう。 そして退職の間際に、その像を叩き壊してしまう。 ●愛情 恐ろしい一篇。人肉を食べる、という変質者の話。 恋人と過ごしていた穏やかな日に、彼女に切りつけてしまった若者。 どうやら、「愛しくて、食べたくなった」らしい…。 ●エチオピアの男 「残酷なメルヘンそのもの」な、不幸な生い立ちを歩んだ孤児の男。 軽犯罪の末に海外に脱出し、アフリカで死にかけたところを、エチオピアのとある集落の人々に助けられる。 その集落で、村の人の為に働き出した男は、そこで家族を作り幸せになる。 だが、帰国したドイツで罪に問われ、投獄され、最後にアフリカに戻るために強盗を働く…。 珍しく最後がハッピーエンド。オオトリにふさわしい、グっと来る一篇。

Posted byブクログ

2015/11/01

ドイツのいろいろな事件のケースを章ごとに書かれているので、短編のように読めた。 どのケースも、「極悪の悪い犯罪」と言うのではなく、「訳ありの犯罪」であって、章を読み終わった後の読後感は結構さっぱり。 ドイツの検察がアメリカやイギリスとは違うからか、加害者と被害者の中立の立場をとる...

ドイツのいろいろな事件のケースを章ごとに書かれているので、短編のように読めた。 どのケースも、「極悪の悪い犯罪」と言うのではなく、「訳ありの犯罪」であって、章を読み終わった後の読後感は結構さっぱり。 ドイツの検察がアメリカやイギリスとは違うからか、加害者と被害者の中立の立場をとるので、裁判がnasty になることがあまり無いからなのかな。 最後の『エチオピアの男』で心が温まった。 この著者のお祖父さんは、ナチ党の青少年の最高指導者だったという変わった家柄と言うのにも驚いた。

Posted byブクログ

2015/10/31

すごい、作家を、読み逃していた!! 行間の読ませ方がとてもクレバー。それをさもなんでもないように、当然のようにやってのけている恐ろしさが、読んでいる間中ひそひそじわじわ頁から立ち上って自分を取り囲んでいるようだった。こわ。

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2015/09/06

ドイツ語という言語の性質なのか?翻訳されたものの限界なのか?私の読解力不足なのか?「~した。」「~した。」「~した。」という語尾の連続でちょっとうんざり気味。文章・文体の美しさは感じられないと思ってしまった。(それが著者の狙い?)それでもそれぞれの短編の結末まで気になって一気読み...

ドイツ語という言語の性質なのか?翻訳されたものの限界なのか?私の読解力不足なのか?「~した。」「~した。」「~した。」という語尾の連続でちょっとうんざり気味。文章・文体の美しさは感じられないと思ってしまった。(それが著者の狙い?)それでもそれぞれの短編の結末まで気になって一気読み。そして、改めて振り返ると人というものと罪と罰というものの現実・限界を感じることができた。っていうのが本音。翻訳の評判も悪いみたいで消化不良な感じが残る。

Posted byブクログ

2015/09/05

 なんとも怖い話でした。何が怖いって、誰でもちょっとしたズレで犯罪者になりうるのだなということ。それも、自分は絶対ないとは言い切れないということ。  この小説にでてくる登場人物たちも、必ずしも犯罪者になりうる者たちばかりではなかった。本当にちょっとしたズレで犯罪を犯すことになった...

 なんとも怖い話でした。何が怖いって、誰でもちょっとしたズレで犯罪者になりうるのだなということ。それも、自分は絶対ないとは言い切れないということ。  この小説にでてくる登場人物たちも、必ずしも犯罪者になりうる者たちばかりではなかった。本当にちょっとしたズレで犯罪を犯すことになったりする人がほとんど。  著者は弁護士であり、彼が担当したであろう事件を小説にしているようだ。物語はあくまでも淡々と語られ、それでも人間の心理が痛いほど伝わってくる。  テレビ等で事件を見るたび、その悪質な犯罪者を憎むことはあれ、なかなかその背景や事情を理解しようとは思わないが、そうしたことにもきちんと向き合わなければならない弁護士等の仕事は大変だと思うし、また、大切なことだと思った。

Posted byブクログ

2015/05/22

図書館で。著者の来歴もすごい。事実は小説より奇なり、というから勿論そのまま文章にした訳ではないだろうけれども色々参考にした事件があったのかな、なんて思いました。そしてタナタ氏(というか雇った人)怖い。 それにしてもドイツも貧富の差がずいぶん開いてそうですね。そして移民の問題もあ...

図書館で。著者の来歴もすごい。事実は小説より奇なり、というから勿論そのまま文章にした訳ではないだろうけれども色々参考にした事件があったのかな、なんて思いました。そしてタナタ氏(というか雇った人)怖い。 それにしてもドイツも貧富の差がずいぶん開いてそうですね。そして移民の問題もあるし国内落ち着いていないのかな、なんて印象を受けました。そっくり6人(5人?)アラブ兄弟ののらりくらりとしたやり取りは面白かった。欧米だったらアジア系もその手が使えそう。 面白かったです。 フェーナー氏  神に誓うとか約束とかドイツ人らしい義理堅さだな、と思いました。 タナタ氏の茶盌 取りあえずギャングに割られなくて良かった。 チェロ  悲しい姉弟の話。音大行っておけばよかったねえ。 ハリネズミ 賢い末っ子が兄貴を救う。痛快。 幸運  きちんとした仕事に就けると良いね。 サマータイム まあ殺してはいないけど褒められた行為ではない。うん。 正当防衛  こういう人が日常に居るのかと思うと怖い。襲ったギャングも留置された人も。 緑  可哀想な羊。 棘  彫刻の足に刺さったとげ 愛情  これは親が悪い気がするけど。未然に防げただろう犯罪を… エチオピアの男  最後、お金を出し合ってエチオピアへの旅費を出してあげよう、というのが良かったな。罪と罰って難しい。気持ちの良いお話。

Posted byブクログ

2015/05/07

ドイツで起こった犯罪事件を元に(?)した短編小説。 小説というよりは、どちらかというと犯罪のバイオグラフィー的な雰囲気が強いものの、面白かった。 かなりエグイ描写も多々あるものの、サクサク読めました。 翻訳ものを読んだのは久々だけど、これはアタリでした!

Posted byブクログ

2019/10/15

いずれも犯罪者を語る11作からなる短編集。犯罪とは一口に言え罪も犯した経緯も人も千差万別。柔らかな語り口からは犯罪とは無縁でいられなかった者への憐憫が滲み出るかのよう。サイコっぽい表紙と表題だけど優しく軽いです

Posted byブクログ

2015/04/07

犯罪に至る、いろいろな形を見て取りました。淡々と語られていて、どれにも様々ないきさつがあります。短編で、読みやすかったです。しかし、殺人が出てくるところはどれも猟奇的。日本の作品ではなかなか見ない描写です。

Posted byブクログ

2015/03/01

本の内容はタイトルが表している。 恐ろしい事件を記した連作短編集であるが、愛しく、哀しく、時にはユーモラスでもある。 すべての事件は1人の弁護士を通じて淡々と語られ、異様な物語を際立たせる簡潔な文体はカフカやチェーホフを連想した。 これらが実際に弁護士であった著者の実体験や見聞き...

本の内容はタイトルが表している。 恐ろしい事件を記した連作短編集であるが、愛しく、哀しく、時にはユーモラスでもある。 すべての事件は1人の弁護士を通じて淡々と語られ、異様な物語を際立たせる簡潔な文体はカフカやチェーホフを連想した。 これらが実際に弁護士であった著者の実体験や見聞きした実話をもとにしたものであるというのだから、事実は小説よりも奇なり、を実感する。 ドライな文章は硬質とも取れるが、読みにくさはなく、1篇読めば、このドキュメンタリー的フィクションの世界に魅せられることだろう。

Posted byブクログ