心はあなたのもとに の商品レビュー
作者お得意のバブリーな小説かと思ったが、読んでいく内に西崎と香奈子がずっと続けばいいと願うようになっていた。
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なんか、村上龍の小説とは思えないぐらいに毒々しさやエグ味が薄まっている感じで、誰か、文体を模倣したゴーストライターが書いたのか?と思えてしまったほど。 前作の「歌うクジラ」までは村上龍ワールドが色濃く残っていたので、その後作風を変えたのか、それとも試しにピュアな恋愛小説を書いてみ...
なんか、村上龍の小説とは思えないぐらいに毒々しさやエグ味が薄まっている感じで、誰か、文体を模倣したゴーストライターが書いたのか?と思えてしまったほど。 前作の「歌うクジラ」までは村上龍ワールドが色濃く残っていたので、その後作風を変えたのか、それとも試しにピュアな恋愛小説を書いてみようとした実験作なのか。 情報量の多さは相変わらずなのだけれど、それが一部のニッチ層にわかればいいという排他的な雰囲気がなくなって、誰にでも共感出来る要素を入れて、万人向けになっている感じがする。「こち亀」のように、ライトな方向に変化を遂げているのは、時代の流れに合わせて文調も変えているのかもしれない。 主人公の中年男のライフスタイルとか、徹底的なまでに合理主義的なものの考え方というのは、ある種、男の憧れともいえるような理想型なんだろうと思う。さすがに極端すぎるだろうとも思う性格だけれど、基本的にまともで繊細な神経の持ち主で、そこは好感がもてた。 その愛人である香奈子については、「こんなメールを受け取ったら、げんなりするだろう」と思うようなメールやセリフばっかりで、全然共感できなかった。 完全に愛人との関係にフォーカスがあたっていて、家族や奥さんの話しがほぼまったく出てこなかったところといい、男目線で書かれた、都合の良い小説だと思った。恋愛小説としては全然魅力を感じなかったけれど、西崎という主人公の物の考え方や生き方はとても面白いと思った。 子犬を撫でながら蝶の羽をむしり取る子どもがいるが、優しさは残酷さと裏表の関係にある。優しさは、他人に親切なことでもソフトに接することでもなくて、他人への関与の度合いに優先順位をつけることだからだ。(p.223) 金銭がショートするという不安や恐怖は、急激に傾くシーソーのように精神を不安定にする。金銭で幸福や信頼は買えないが、経済的困窮は不幸に直結している。(p.293) あなたはお父さんが道楽者だって言うけど、児童心理学的に言うとね、父親の役目は、子どもたちにね、自分の世界は自分でエクスパンドできるってことを教えることなのよ。自分がいる場所や世界ね、それに人間関係も、閉じられていなくて、拡げることができるって、言葉じゃなくて、行動とか態度で伝えることなんだけど、そのあtめにはあまり家にいなくて、社会的規範から自由なのが、実は理想なんだよね。もちろん犯罪者じゃだめよ。その辺が微妙だからむずかしいんだけどさ。楽しくてしょうがないって仕事を持っていることが大事。それで家にずっといて家庭のことに口出しなんかするのは最悪。適当がいいの。適度にふまじめでないとダメなの。社会的規範をしっかり守るのは、息苦しくて、子どもにとっては世界が閉じられたも同然なの。わたしがこんなことを言うのも変だけど、お父さんはあなたに本当に大切なことを教えたのよ。自分の世界は自分で拡げることができるってことを、言葉じゃなくて態度と行動で教えたの。そんなことを話す母は、とても幸福そうに見えた。わたしと久しぶりに食事しているからではない。子どもの父親としてではなく男として好きな夫と暮らしているからだと思った。(p.526)
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文章は確かに巧い。 最後までさらりと読ませてくれた。 でも、内容がね・・・。 金持ちの勘違い男が 風俗嬢を好きになって付き合うのだけれど(不倫)複数の女性とも関係を持ち続けることに何ら違和感を持たないどころか、当然だと思っている。 風俗嬢は体の不調から銀座のホステスに転進するが、...
文章は確かに巧い。 最後までさらりと読ませてくれた。 でも、内容がね・・・。 金持ちの勘違い男が 風俗嬢を好きになって付き合うのだけれど(不倫)複数の女性とも関係を持ち続けることに何ら違和感を持たないどころか、当然だと思っている。 風俗嬢は体の不調から銀座のホステスに転進するが、生活費はすべて男にせびっている。 二人の関係性がそもそも 違和感だらけで全く別世界の話、という感じ。 自暴自棄的な生活としか思えない。もう少し堅実な生き方をすればまた違った未来が開けていたのではないか? メールの最後にとってつけたような言葉がそのままタイトルになるとは思いもしなかった。(何かひねりがあるのだと思っていたから) 作中にやたらと母親や父親との関係について意味深な言い回しをしている部分があって、ケンジには何かトラウマみたいなことがあるのだろうか?とか思っていたけれど、それももやもやしたままだったし、 最後までなんのどんでん返しもなく、想像通りの結末に、読み終えたときは脱力感が残った。 主人公の男は最後までエゴイストだった。 でも、世の男性はケンジのような人生を送りたいと思っているんだろうな。 相手の気持ちを真剣に読み取ろうという気持ちはとても大切だと思うけれど、ケンジのように、かけひきして相手の反応を見る、という恋愛のやり方には、反感を覚える。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
風俗嬢と金持ちの投資家との関係を携帯メールでのやりとりを交えながら綴った小説。 生きるとはなんなのか、愛することとはなんなのか考えさせられました。
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金持ちの男の世界を書いたら、この人はスゴいですよね。自分にはほど遠い世界を垣間見れるのがいいですなあ。不倫をするには、財力だけでなく、冷静な判断力(色々なことをコストという軸で数値化して)が不可欠だと。平和な家庭を維持するのは、結果的にはコストが安いそうです。
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文章からたちのぼる空気。まさしく龍さんの小説だ。そんな風に思える本だった。西崎の他者に対する的確だなと思える洞察の緻密さ。推論を導き出す論理や思考経路に独特な色を感じる。そして、それらは、カンブリア宮殿、もしくは、古くはRyu's Barで、とつとつとした口調で語る村上...
文章からたちのぼる空気。まさしく龍さんの小説だ。そんな風に思える本だった。西崎の他者に対する的確だなと思える洞察の緻密さ。推論を導き出す論理や思考経路に独特な色を感じる。そして、それらは、カンブリア宮殿、もしくは、古くはRyu's Barで、とつとつとした口調で語る村上龍と重なるものだ。淡い夢だった、管理栄養士の道を具体的に力強く香奈子に指し示し背中を押して手を携えたことはよかったのか悪かったのか。ケンジがグルグルと逡巡していたけれど。ケンジほどスーパーで親切な男はいまい。香奈子の可憐さはぴか一だ。二人の関係性の変化とその後の戸惑いや恐れの心理の描写も仔細で刺激的であった。
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新作は、期待してしまう。 読み応え充分。 1型糖尿病に関する理解も深まった。 感情的にやや冷めた主人公の目線と、死と戦い希望も見出しながら生きようとする女性の儚さが交錯して、独特の雰囲気を醸し出す。
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中年男の願望の表れのような主人公の男、西条には辟易することもあったが、村上龍の、感情の描写の巧みさには驚いた。そして、かなり調査して執筆したのだろうな、と思った。糖尿病I種というものが存在するというのもこの本に出会って初めて知った。
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主人公が同年代なので、ある部分では共感を持って読むことができました。1型糖尿病の現実も良く理解することが出来ました。 不倫とか、そういう背景は別にして、一緒に「いる」ことの意味を考えさせられた気がします。
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説教臭かったり、似たような話が続いたりするのだけれど、 それでも読ませてしまうパワー。 いろんなエッセンスが詰まっております。 きっとそのうちシンプルにまとめたエッセーが出る気がする・・・!
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