心はあなたのもとに の商品レビュー
震災前に書かれ、震災後に出た長編小説。メディアに登場しビジネスに対し発言する著者(村上龍)とビジネス的理想を実現しようと奮闘する主人公(西崎健児)を反復させるような話。に、あまり世間に認知されない病気(1型糖尿病)と人間的理想(ヒロインが挑戦したある資格←ネタバレ回避)を実現しよ...
震災前に書かれ、震災後に出た長編小説。メディアに登場しビジネスに対し発言する著者(村上龍)とビジネス的理想を実現しようと奮闘する主人公(西崎健児)を反復させるような話。に、あまり世間に認知されない病気(1型糖尿病)と人間的理想(ヒロインが挑戦したある資格←ネタバレ回避)を実現しようとするヒロイン(サクラ)をプラスした作品。 ほんとに合わし方が足し算然(盛っただけ)としているため、それらの要素が要素を補完しあってるという感じがしない。 が、それによって生まれた「イビツさ」が心に残る憎らしい作品でもある。
Posted by
面白かった。いやいや、毎度のことながら、村上龍が本気で書いたら、面白くならざるをえない。とても、出だしから切なくて切なくて、それでも、面白かった。抜群の小説。(12/6/30)
Posted by
村上龍が、これほどの”純”恋愛を書くとは思ってもいなかった。 最初のページをめくりながら、そういえば直近で読んだ著者の作品はなんだったっけ、とふと考えた。 それがずいぶん昔のような気がしたのは、きっと個々最近、JMMを含めてエッセイばかり読んでいたせいもあるかもしれない。...
村上龍が、これほどの”純”恋愛を書くとは思ってもいなかった。 最初のページをめくりながら、そういえば直近で読んだ著者の作品はなんだったっけ、とふと考えた。 それがずいぶん昔のような気がしたのは、きっと個々最近、JMMを含めてエッセイばかり読んでいたせいもあるかもしれない。 『半島を出よ』を読んだのはもう数ヶ月前のことになるが、あの規格外の暴力性と、日本の社会に対するダガーナイフのような攻撃性は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。 そして、社会を支配しているのは「暴力」と「経済」だと示されていた。その主張は著者のエッセイにも常々出てくるし、ニュースに目を通せばかなりの説得力があるし、きっと真実なんだろう。 『心はあなたのもとに』には、支配する暴力というのは「病」というある種の宿命的なものにパラフレーズされている。主人公の職業から、経済の支配性には触れるが、多くは語られない。”優先すべきは、まずは仕事だ”という風な台詞から、さらりとその重大性を告げているが、この物語の中ではそれは前提であってモチーフではない。 この小説を大きく支配しているのは、「感情」だ。 感情というのはやっかいなもので、正確にそれを掴むことはできない。大抵の場合、まわりの誰かと比べて相対的に自覚している。 しかし、この世界を(少なくとも人間社会を)支配しているその「感情」は間違いなく絶対的なものだ。 絶対的なものを誰かに伝えるのは、とてもエネルギーがいる。単語には限界がある。「嬉しい」と「悲しい」の間には感情のグラデーションがあり、それは状況によって絶えず変化するからだ。 物語というのは、きっと、そのグラデーションを美しく、かつ正確に表現できるコンテンツなんだと思う。忘れていた悲しくも美しい映像を頭の片隅から引っ張りだし、泣いてしまいそうにされたのは恋愛小説では初めてかもしれない。 それにしても著者にしては珍しい純愛小説。展開の仕方といい登場人物の関係性といい、読みながら『ノルウェイの森』を思い浮かべた。自分はやっぱり龍派なんだな、と思った作品でした。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
村上龍作品を初めて手に取った。 1型糖尿病患者の香奈子と出会った西崎健児の話。 普段は元気そうな香奈子からは病気にかかっていることは感じさせない明るい雰囲気で、話しても誤解されるなど大変な病気であると思った。 病状が収まることを待ちつつ、香奈子が望んでいた管理栄養士になるために西崎が学費を払い学校に通い始めるところは良かった。 互いが相手のことを思いつつも、ずっと一緒にいられることは期限があると思うことができた。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
自分のなかの漠然とした感情、を村上龍はくっきりとした言葉で言い表してくれる。 この作家を読むたびに得る感想。 ビジネスシーンでは下手なビジネス書よりも啓蒙に満ちる一方で、人を思うこまやかな感情の移ろいをどちらといえば淡々と描く。 身の回りにかつて存在していた鬼籍に入った人たちへの思いが、ラストの主人公の独白により生々しく蘇った。 文字を追うという行為を通して、確かに、この物語の登場人物たちと同じ時間を生きたのだと感じる。
Posted by
経済的自立が結果的に他人を幸せにするという龍さんの信条がある。でも経済的自立は健康という大前提があって成り立つもので、健康を維持できないひとと接するとき、上記の信条に葛藤が生まれる。 これまで読んだ龍さんの小説と異質な感覚を覚えた。どう違うのかというと、「率直に優しい」小説だ...
経済的自立が結果的に他人を幸せにするという龍さんの信条がある。でも経済的自立は健康という大前提があって成り立つもので、健康を維持できないひとと接するとき、上記の信条に葛藤が生まれる。 これまで読んだ龍さんの小説と異質な感覚を覚えた。どう違うのかというと、「率直に優しい」小説だった。 一般的に理解不能で、異質なマイノリティーの言葉を村上龍は翻訳する。その側面から読むと龍さんの小説は常に、マイノリティーに寄り添っていて、優しい。でもそこには経済学や児童心理学や分子生物学を巧みに織り込んで、優しさよりもエッジの方が際立つ。 でも本書は率直な優しさを覚える小説だった。龍さんが、龍さん自身の持つ心の脆さや苦しみを、ストレートに文章化した小説で、僕はそこに優しさを覚えた。
Posted by
I'll always be with you, always. 刊行当初、途中まで読んで辞めてしまった。時間ができたので今一度手に取ってみたが、ただただ読んでよかったと思える1冊。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
内容(「BOOK」データベースより) どんなに愛していても、ずっと一緒にいることはできない。だから、心は…投資組合を経営する「わたし」が出逢った、風俗嬢サクラ。彼女とのメール交換から、すべてが始まった―。 →1型糖尿病(自己免疫性疾患。患者はインスリンを常に携帯し、毎日自分で注射しなくてはならない。糖尿病性昏睡等,さまざまな合併症を引き起こし、最悪の場合死に至ることがある)という病気を、初めて知った。 糖尿病と聞くと、自身の不摂生が原因と思いがちだったけれど、世の中にはこんなどうしようもない病気が存在するんだ。。
Posted by
村上龍さんの小説の中ではとても読みやすい。 人を思いやるキモチ、自分勝手なキモチがいきかう恋愛小説。 その心理描写、打算的な計算をしつつ対応する主人公の心情がリアルに感じます。恋人の体調の変化や自分の忙しさで、対応を誤ったり、逆に楽しい貴重な時間となる。 人にはいろんな感情がある...
村上龍さんの小説の中ではとても読みやすい。 人を思いやるキモチ、自分勝手なキモチがいきかう恋愛小説。 その心理描写、打算的な計算をしつつ対応する主人公の心情がリアルに感じます。恋人の体調の変化や自分の忙しさで、対応を誤ったり、逆に楽しい貴重な時間となる。 人にはいろんな感情があるが、どうしてそう感じるかは、わからないもの、その心理描写がたまらなく鋭い。 もと風俗勤めであったり、大金持ちであったり、不倫であったり、シチュエーションが自分と大きくかけ離れているのが、村上龍っぽいといったら、そうっぽいか。 最初に結末をもってくること。家族との関わりが希薄なのが残念だった。
Posted by
Ⅰ型糖尿病を抱えた水商売の女性と投資ファンドを運営する実業家の既婚男性の2年間の愛の軌跡をたどる物語。実業家のビジネスの話が、かなり細かく書きこまれていて、とてもリアルな印象がする。 大なり小なり似たような難病を抱えた人を身近な持っている人にとっては、かなり重いお話になるかもしれ...
Ⅰ型糖尿病を抱えた水商売の女性と投資ファンドを運営する実業家の既婚男性の2年間の愛の軌跡をたどる物語。実業家のビジネスの話が、かなり細かく書きこまれていて、とてもリアルな印象がする。 大なり小なり似たような難病を抱えた人を身近な持っている人にとっては、かなり重いお話になるかもしれない。オトナの男女の不倫話ではあるんだけど、渡辺淳一のその手の小説のようなHな物語ではないので、そっちの期待はしないこと。村上龍の作品の中でも、あとに残る名作といえるんではないだろうか。
Posted by