時が滲む朝 の商品レビュー
祖国への思い
あとがきにあるように、本書は、著者楊逸の実体験を書き起こした本でもあります。 この後、著者が手がけた『獅子頭-シーズトォ』を先に読んでいたので、本書の主人公とダブって見えました。男性ですが、どこか自主性に欠けるというか、懦弱な一面があるところが嫌な気がした。 ただ、後半は、著...
あとがきにあるように、本書は、著者楊逸の実体験を書き起こした本でもあります。 この後、著者が手がけた『獅子頭-シーズトォ』を先に読んでいたので、本書の主人公とダブって見えました。男性ですが、どこか自主性に欠けるというか、懦弱な一面があるところが嫌な気がした。 ただ、後半は、著者自身ふっきれたのか、あまり主人公の性格的マイナス面に影響されず、ラストを迎えます。 本書で呟く主人公の最後のセリフに、思わず噎んでしまいました。納得のセリフでした。それを見るためだけに読む価値もあるくらいです。
聖熟女☆ミ
いつの世も時代に振り回されるのは、名も無き一般人。権力者や著名人は名前が残っても、最大の被害者達は歴史の表舞台に立つことは無い。それでも、一人一人が時代を生きている。 学食の料理番や飲み屋の店主やタクシー運転手は日々を生きてゆかねばならない。家族を食べさせなければならない。学生...
いつの世も時代に振り回されるのは、名も無き一般人。権力者や著名人は名前が残っても、最大の被害者達は歴史の表舞台に立つことは無い。それでも、一人一人が時代を生きている。 学食の料理番や飲み屋の店主やタクシー運転手は日々を生きてゆかねばならない。家族を食べさせなければならない。学生達のエネルギーに熱くなる何かを感じ、運動を応援することはあっても運動が下火になれば日々の生活に戻る。 まだ何者でもない、何者にもなれる可能性を秘める学生達は、学生であること自体をエネルギーの源として運動に参加する。しかし、正しいと思う"何か"や理想的な"何か"は流動的で現実味が無い。掲げる"何か"の主語が大きければ大きいほど、訳が分からなくなる。 そうした熱を持った学生だった主人公が、家族を持って祖国を離れて生きるようになり、日々食っていけること、家族を食わしていけることが最も大事なことであると気付くことで、浮かされた熱が引いていき、"何か"とは、この今生きる自分と家族が無事に生活を営めるということにおさまり穏やかな幕引き。 尾崎豊は世代ではないが、読みながらI LOVE YOUを聞いた時、比喩ではなく涙が出た。名作や名曲は時代に関係なく人の心の"何か"を打つ。
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中国の近代をさっと小説内で学べる。 民主化がなにか分かっていないのに民主化運動にのめり込んでいた、というあたりは学生運動あるあるなんだろうなぁ、、、。 足を踏み外したのが学生運動そのものではなく、飲み屋でのケンカってあたりもリアル。 面白かったけど、歴代の芥川賞に比べるととて...
中国の近代をさっと小説内で学べる。 民主化がなにか分かっていないのに民主化運動にのめり込んでいた、というあたりは学生運動あるあるなんだろうなぁ、、、。 足を踏み外したのが学生運動そのものではなく、飲み屋でのケンカってあたりもリアル。 面白かったけど、歴代の芥川賞に比べるととてもシンプル。この題材を等身大で書ける希少さに賞が出た感じかしら。
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日本に亡命、在住し芥川賞を獲得した中国生まれの著者による1989年の天安門事件を背景とした青春物語。地方都市の大学1年で主人公の梁浩遠と親友・謝志強は若手のキラキラ輝く甘凌洲教授の指導のもと、愛国心に燃えて民主化運動に参加した。白英露という積極的な女子学生にも出会う。しかし、民主...
日本に亡命、在住し芥川賞を獲得した中国生まれの著者による1989年の天安門事件を背景とした青春物語。地方都市の大学1年で主人公の梁浩遠と親友・謝志強は若手のキラキラ輝く甘凌洲教授の指導のもと、愛国心に燃えて民主化運動に参加した。白英露という積極的な女子学生にも出会う。しかし、民主化の期待は裏切られ、予想外に弾圧され、失意のうちに大学を去る。そして主人公は日本へ。中国に残る家族や友人志強と離れ、甘教授や英露は消息不明に。しかし海外亡命した人たちの行き先が分かるというネットワークの凄さに驚き。亡命先のフランスから日本を訪れる甘教授や英露との再会、そして中国へ向かう飛行機を見送るラストは爽やか!テレサテンや尾崎豊の音楽に衝撃的に出会う浩遠と志強たちは当時の中国の若者たちの姿そのものだと思った。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
図書館。天安門事件の際に北京から離れた大学(秦都の秦漢大学)で民主化運動に参加していた農村出身の2人の学生のお話。最後の方は片割れである浩遠は日本で生活し、日本で香港返還への反対活動に参加する。その際の浩遠含む、登場人物たちの思惑や行動の違いに、自分の今の生活や思考を重ねて読み進めた。 靡靡之音(ミーミージーイン)という中国語、初めて知った。テレサテンのCDを、久しぶりに聴きたくなった。湖畔に集まって勉強する様子は、学生時代に見た光景を思い出した。 丁度この1週間で、11/24にウルムチ市で発生した高層住宅災を発端に、11/25、ウルムチ市でゼロコロナ政策に対する大規模な抗議行動が発生したと報道された。25-27日にかけて北京と上海でもデモが起きたようだし、27日(日)には新宿駅地下でも在日中国人らによる50人規模の抗議活動があったとのこと。もとは火災の追悼のための集会だったそう。ただ、実際には共産党下野、習近平下野との演説や、ゼロコロナ政策や習近平に反対するプラカードもあったとの報道。批判や意見があることについて講義やデモすることは、大切なことだと思う。ただ、どうかどうか、平和的な方法で歩み寄れますようにと願う。 p72-73の、天安門広場で浩遠らがデモに参加した後の、秦都への帰路の列車中の表現が気に入ったのでフレーズ欄にメモ。2022/11/28
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天安門事件前後のお話。自分も生きていた時代の歴史なので、登場人物や時代背景を自らの若いころと照らし合わせながら読むことができた。作者の母語が日本語ではないということだが、不自然さはなく、情景を思い浮かべることができた。中国の歴史に興味がないと読みにくいかも。
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読書開始日:2021年10月5日 読書終了日:2021年10月7日 所感 読みやすく、かつ面白く、好きな作品。 大学生活とその後の生活で大きく2つに分かれる。 学生運動や中国の政治について無知な自分にとって、勉強になることばかりであった。 学生時代を思い返すと、「血より濃いもので...
読書開始日:2021年10月5日 読書終了日:2021年10月7日 所感 読みやすく、かつ面白く、好きな作品。 大学生活とその後の生活で大きく2つに分かれる。 学生運動や中国の政治について無知な自分にとって、勉強になることばかりであった。 学生時代を思い返すと、「血より濃いもので、まるで火を噴く油」のような想いが湧き上がる経験はなんどかしたことがある。 危うい野生の感情。 そこに大義が交わることで、自分の思想を過信し大きな事件を引き起こした。 自分も熱中したことが収まる範疇だっただけで、主人公と同じ大義をもったらおなじ行動をしていたかもしれない。 主人公が日本に移ってからも面白い。 主人公も、主人公のまわりにもずっとつきまとうのはいつだって、国への愛か、手に届く範囲への愛か、その是非。 このバランスをうまく取れる人はおよそいないと思う。 ラストシーンに、主人公のこれまでことへの折り合いがこれでもかと詰め込まれている。 かなり好きな作品。 たまの表現がかなりかっこいい。 好きな文をひとつ。 この拝観社会に生きる人間には理解できない狼の孤独 根拠地 苦労によって刻まれた目尻の皺一本一本に、洗い落とせないほど黒ずんで溜まった時の色 怒髪天を衝く 有人が増えるとまた新しい世界もひとつ増えていく 労働改造 愛やら何やらの、腐敗した資本主義の情調に危うく腐食される 胸に沸いているのが、血より濃いもので、まるで火を噴く油 でも好きになる権利くらいあるよ 目には野生が光った 秒を数え、狭い窓から漏れる光で時間を憶測してすごす日々である。 刃物の様な隙間風をつまみに 苦渋ばかり舐めてきた浩遠は、初めて心の底からほんのりとした甘みを味わうことができた 梅はなんにも言わずにっこりとかよわそうにわらった 餃子をお腹にいれたければ、まずその不満を出さないことには爆発してしまう。 ビザ日本優遇 革命家は孤独 お腹いっぱいに食べさせるってことは大変なことだ 土地を失って支援金や寄付金などで生きる詩人には閃きも、何も生まれない この拝観社会に生きる人間には理解できない狼の孤独 妻と息子も顧みることができない、そんな人が国を愛せるだろうか。 じゃ、たっくんのふるさとは日本だね もう帰りましょうか。
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浩遠と親友の志強は、希望に満ち学問に打ち込んでいた大学生活から民主化運動にのめり込んでいき、傷害罪で退学処分となる。 夢見ていた未来とは違う道を模索しながら生きていく日々が描かれている。 エネルギーを持て余した若者が熱に浮かされて突っ走ってしまったようで、せつない。 彼らを突き動...
浩遠と親友の志強は、希望に満ち学問に打ち込んでいた大学生活から民主化運動にのめり込んでいき、傷害罪で退学処分となる。 夢見ていた未来とは違う道を模索しながら生きていく日々が描かれている。 エネルギーを持て余した若者が熱に浮かされて突っ走ってしまったようで、せつない。 彼らを突き動かした「祖国への愛」に危ういものを感じてしまう。 民主化運動からうまく抜け出した者もいる中で、挫折を引きずり、民主化運動の夢を持ち続けて生きる浩遠の苦悩が伝わる。 浩遠が家庭を持ち守るべきものができた時と、学生時代の熱に浮かされていた時との対比が、大人になっていく重さとして伝わってくる。 その時々の心情を朝の情景の美しさの中に描かれている。
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どこか物悲しい。 よくわからないまま熱量がどんどんあがって集団で盛り上がり、ピークをすぎてもその熱量をどこか維持する主人公と社会全体の熱量が別の方向に向かっていく中で、それとなく取り残されていく悲哀とでもいった感じか。。 著者ご本人の体験も深く関係するようで、一番あとがきが印象...
どこか物悲しい。 よくわからないまま熱量がどんどんあがって集団で盛り上がり、ピークをすぎてもその熱量をどこか維持する主人公と社会全体の熱量が別の方向に向かっていく中で、それとなく取り残されていく悲哀とでもいった感じか。。 著者ご本人の体験も深く関係するようで、一番あとがきが印象的でもあった。
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一人の青年が民主化運動に燃え、通常の人生設計からドロップアウトし、転がって日本で暮らし、未だ心に政治的炎は燃えているがそれなりに生活していく話。 主人公の気持ちにするすると寄り添える文章で、読んでいて一緒に時代を生きた気になった。 芥川賞受賞作。面白かった。
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