流跡 の商品レビュー
流れるように語り手から場面、時代までもが移り変わる風変わりな小説。温度を感じられない無機質な文体。100ページちょっとの短めの作品ではあるが、もっと分厚い作品を読んだ時のような達成感というか、読んだなあという気持ちになった。 そして、朝吹真理子さんの文章は綺麗。日本語の美しさと単...
流れるように語り手から場面、時代までもが移り変わる風変わりな小説。温度を感じられない無機質な文体。100ページちょっとの短めの作品ではあるが、もっと分厚い作品を読んだ時のような達成感というか、読んだなあという気持ちになった。 そして、朝吹真理子さんの文章は綺麗。日本語の美しさと単語のリズムを感じながら読む読書時間は嗜好のひと時だった。 独創性や先進性を評価するドゥマゴ文学賞らしい作品であると感じた。独創性が作品からあふれるようで、これは朝吹真理子さんにしか書けない作品だと思う。美しい文体とリズミカルな文章、そしてタイトルの通り流れるような作品展開、これらの要素が合わさったからこそ、この作品が小説として成り立つのであろうと考える。
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『TIMELESS』がよかったのでデビュー作を。これは物語というか、思考の移ろいをつかまえて紡いだ文章の繋がりなのかなと。小説は自由だなと思った。 過去の記憶や思考が現在と入り混じるのはデビュー作からずっとテーマとして描かれているのだな。
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文字がよめない。 本が読めない。 いったい どうなっているのだろうか。 いっこうに 言葉が 咀嚼 できないままだ。 いつの間にか、川に流されている。 いつの間にか 踊っている。 いつの間にか 家族がいて 子供がいて、 子供の発音がおくれていることで 妻が心配し、激怒する。 子供は...
文字がよめない。 本が読めない。 いったい どうなっているのだろうか。 いっこうに 言葉が 咀嚼 できないままだ。 いつの間にか、川に流されている。 いつの間にか 踊っている。 いつの間にか 家族がいて 子供がいて、 子供の発音がおくれていることで 妻が心配し、激怒する。 子供は アンパンマンしか言わない。 煙になったオトコの骨は頑丈だった。 そして、いつの間にか オンナになって 港にいた。 点滅する青い字が 何かを語りかけているようだが、 その意味さえわからず どこに行くのだろうか。 確かに、流れている。 私の外ではなく 私の中に。
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最後の3ページ。途中で読むの止めなくて良かった。 先日の「きことわ」読んでて楽しかったので初の書籍となるこの本をさっそく読みました。 なるほどきことわが芥川賞受賞なのだな、という完成度に対して、荒削りというか、こちらの作品の方が好きなように書いている、という感じがしましたね。...
最後の3ページ。途中で読むの止めなくて良かった。 先日の「きことわ」読んでて楽しかったので初の書籍となるこの本をさっそく読みました。 なるほどきことわが芥川賞受賞なのだな、という完成度に対して、荒削りというか、こちらの作品の方が好きなように書いている、という感じがしましたね。 同年代を生きてきた人とは思えない。文字のチョイスがぶっ飛び過ぎてて、何をさす言葉なのかがわからないなあ、置いてかれるなあという気持ちがします。 そして設定も漠としたもので、途中かなりのボリュームを割いて描かれる男のエピソードがね。去年車谷長吉やそれこそ芥川賞同時受賞の西村賢太読んじゃうと、どうも薄くて弱い。 読むのやめようかなあと思いつつ全部で100ページだし、と思い読んでいくと最後の3ページで世界が躍動しますね。 まるで前衛的な映像作家の短編動画を見ているかのように白い紙の上で文字がうねり、流れていきそこには流跡のみが残る。 なるほど流跡だ。 当作でドゥマゴ文学書受賞というのは納得なのであります。そして選者の堀江敏幸さんの先見性は的を射ていた、というわけですね。 さて他の作品を、と思うとないのか!びっくり。 待ちますかね。気長に。
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読むことついて語ることで始まった小説は、最後は書くことについてで終わるわけだけど、その間に展開される物語はとても難解だけど、明確な形みたいなものを避けていっている感覚があって、最初と最後の語りを象徴しているような気がしたなぁ・・・!やっぱり朝吹さん好き!
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本日読了。 文字がほどけ、 糸水となり流れ出す、 感情だとか情景だとか欲望だとか観念だとか気候だとか音だとか、 言葉に表すことのできるあらゆるものたちの文字が。 誰でもない、 男ですら、 女ですら、 私ですらない透明な者が、 その流れに身をゆだね、 上から下に、 下から上に、...
本日読了。 文字がほどけ、 糸水となり流れ出す、 感情だとか情景だとか欲望だとか観念だとか気候だとか音だとか、 言葉に表すことのできるあらゆるものたちの文字が。 誰でもない、 男ですら、 女ですら、 私ですらない透明な者が、 その流れに身をゆだね、 上から下に、 下から上に、 ただただ、 たゆたう。 その「流跡」をなぞり、 浮かび上がった(もしくは沈み込んだ)ものたちを、 再び言葉に戻し、 編み上げた物語。 それは、 紙片とインクでできた奥付のある本で始まり、 パソコンのモニター上で終わる(実際には終わらないが)。 文学の衰退、 ましてや死が、 ただの幻でしかないことを、 静静と謳う。
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朝吹氏の、ことばに対する誠意のようなものがうかがえる作品だと感じた。 デビュー作には作家の全てが詰まっている、という話はよくある。『きことわ』で朝吹氏を知り、その後『流跡』を読んだ私は、まさにその通りだと思った。 個人的には、『きことわ』よりもことばの流れが朴訥としていて好感...
朝吹氏の、ことばに対する誠意のようなものがうかがえる作品だと感じた。 デビュー作には作家の全てが詰まっている、という話はよくある。『きことわ』で朝吹氏を知り、その後『流跡』を読んだ私は、まさにその通りだと思った。 個人的には、『きことわ』よりもことばの流れが朴訥としていて好感が持てる。 ただ、小説としての物語内容までもがどこかへ流れていってしまうのではないだろうか、と感じさせられる危うさもある。常に動き続け、小説の枠外へはみ出てしまいたいと願う物語世界がそこにある。 置き去りにされた枠組みと、枠組みから流れ去った世界。その生々しい流跡が確かに感じられる作品だと思った。
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朝吹真理子「流跡」読了。言葉は綺麗だが、とらえどころがないというかつかみどころがないというか・・。 =====第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を最年少で受賞した大型新人の鮮烈なデビュー作。
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本当に美しい、リズム感があり、流れるような心地よい文章である。秘密はひらがなの多用にあると思う。「実人生というのが幻のようにゆらいでいるのか、幻が実人生のようにゆらいでいるのか」(P87)、「書くことがひとたびも終わらない。ふたたびひとやひとでないもののものおもいやひしめきの微温がつらつらつづきはじめる。文字がとどまることをさけ、書き終わることから逃げてゆく。ひたすら押し流れてゆこうとする。はみだしてゆく。しかしどこへー。」(小説最後の4行)そして筋そのものも、流れるように変化していくように思われる。そうでありながら余韻が残る。なんとも不思議な魅力を湛えた小説である。
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言葉をひとつ、またひとつ、紡いだ文字の連なりの意味は求めず、ただ身を任せたゆたうように流れゆく。理解しようと読むというよりも、脳内に流れ来る感覚を咀嚼せず有りのまま受け入れる。流れるように、けれども時に静謐な美しい言葉の佇まいにハッと立ち止まり、見惚れる。存在する言葉の心許なさと...
言葉をひとつ、またひとつ、紡いだ文字の連なりの意味は求めず、ただ身を任せたゆたうように流れゆく。理解しようと読むというよりも、脳内に流れ来る感覚を咀嚼せず有りのまま受け入れる。流れるように、けれども時に静謐な美しい言葉の佇まいにハッと立ち止まり、見惚れる。存在する言葉の心許なさと不確かさ。目で追い、脳内に流し込み、体内に留めようにもはらはらと落ちてゆく文字の欠片。四方に拡散し留まらぬ文字の流跡。此処にたゆたうことの何と豊潤で幸福なひととき。(2011年1月読了)
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