渚にて 人類最後の日 の商品レビュー
ネヴィル・シュート(1899~1960年)は、英ロンドンで生まれ、オックスフォード大学卒業後、航空工学者として働く傍ら、小説を執筆し、生涯で24冊の作品を出版した。 その作品は、自らのキャリア・体験に基づいた、航空業界、ヨット、戦争などをテーマとしたものが多く、代表作と言われる、...
ネヴィル・シュート(1899~1960年)は、英ロンドンで生まれ、オックスフォード大学卒業後、航空工学者として働く傍ら、小説を執筆し、生涯で24冊の作品を出版した。 その作品は、自らのキャリア・体験に基づいた、航空業界、ヨット、戦争などをテーマとしたものが多く、代表作と言われる、近未来を扱った『渚にて』(原題『On the Beach』)(1957年)は、特異な作品である。 私はよく本を読む方だが、ノンフィクション系の本が多く、SFや近未来を扱った小説では、『1984年』、『すばらしい新世界』、『華氏451度』、『2001年宇宙の旅』、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、『星を継ぐもの』、『日本沈没』、『復活の日』等、超有名作しか読んだことはないのだが、本作品については、以前より気になっており、今般読んでみた。 読み終えて、まず感じたのは、小松左京の『復活の日』(1964年)との類似性(と違い)である。読後にネットで調べたところ、やはり『復活の日』は本作品を下敷きにしているとのことだが(本書の帯にも小松左京がコメントを書いている)、決定的に異なる結末を用意しながらも、両者のメッセージは同じものである。 そのメッセージとは、世界を敵味方なく滅亡させる核兵器や生物兵器(『復活の日』での滅亡のきっかけは、兵器として研究開発されていたウイルス)の愚かさであるが、近年の、ロシアのウクライナ侵攻や、ハマスのイスラエル攻撃とイスラエルのガザ侵攻に伴う中東の緊張感の高まり、北朝鮮の核兵器開発、中国の軍事力強大化等を見ると、そのリスク・脅威は全く変わっていないと思われる。第二次世界大戦後に作られた「世界終末時計」は、アメリカと(当時)ソ連が水爆実験に成功した1953年に「2分前」まで進んだ後、東西冷戦の終結等により1991年には「17分前」まで戻されたが、その後再び針は進み、2024年現在「1分30秒前」を指しているという。 更に、半世紀前と異なる点として、気候問題や環境問題、食料問題等、中長期的な観点から、人類の滅亡に繋がり得るリスクが増大していることがある。敷衍するならば、AIの進化や遺伝子工学の進歩も、人類(いわゆるホモ・サピエンス)を人類で無くしてしまうリスクを孕んでいると言えるだろう。「世界終末時計」も、現在では、そのファクターとして、(核)戦争だけでなく、気候変動や新型コロナ感染症蔓延を織り込んでいるのだ。 本作品では、人類の滅亡に直面した人々が、パニックに陥ることなく、それまでと変わらない日々を愉しみ、(穏やかに)最期を迎えることが、強く印象に残るのだが、それはおそらく、「破滅に直面してなお人には守るべきものがある。人は気高い存在であるべきなのだ。」という著者のもう一つのメッセージなのだ。(解説で小説家の鏡明もそう書いている) 様々な意味で未来への分岐点にいる今、改めて読む意味のある名作といえよう。 (2024年4月了)
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うーんと。 古典的名作SFの一つだと理解はしていた。 核戦争で北半球が壊滅したのち、その、死の灰がじわじわと南半球も覆い尽くし、豪州に最後に残った人類にも、最後の時が迫る。 米国原潜が生きてるのだが。 なんにせよ、ただ、救いもなく死へ向かう。 それだけ。 なんじゃそりゃ。...
うーんと。 古典的名作SFの一つだと理解はしていた。 核戦争で北半球が壊滅したのち、その、死の灰がじわじわと南半球も覆い尽くし、豪州に最後に残った人類にも、最後の時が迫る。 米国原潜が生きてるのだが。 なんにせよ、ただ、救いもなく死へ向かう。 それだけ。 なんじゃそりゃ。 描かれた時期とか時代背景とか考えれば、色々とあったんだろうが、今読めば、それだけ。 何かと古い。 古き良き人々が、それぞれどうやって最期を迎えるかだけがドラマ。 まあ、この時期、人類が死滅するとすれば核しかないよね、みたいな雰囲気は感じるが、小松左京の方が数段上だと思ったなあ。 あと、新訳らしいが、会話の最後がやたら「ね」なので、うざったらしかった。
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読みたいと思いつつ後回しにしてた一冊。 評判通り素晴らしい小説でした。カテゴリ的にはSF小説に分類されてると思いますが、率直に言ってもったいないですね。 SFというだけで敬遠されることも多いでしょう。この本は普遍的で大切なメッセージが込められているので、もっと広く受け入れられるような土台があればいいですね。 中学生あたりの英語の教科書に載っててもいいんじゃないかと感じました。 当時としてはかなり身近なテーマだったとは思うんですが、今読むとちょっと違和感を覚える部分もあります。現代の我々ではどうやっても感じ取れない空気感もあるでしょう。 それでも「人はどのように生きてどのように死ぬか」というテーマはズシリと重くのしかかってきます。 この本の主だった登場人物たちはある意味で最高の死に方を迎えられました。そこにいたるまでの各々の心情の変化の描写が秀逸です。 誰かしらに感情移入できるような配慮もなされています。私は科学士官でレースオタクのオズボーンが一番響きました。 モイラは最初ちょっと当時の女性像っぽい印象があってあまり好ましくなかったんですが、最終的に一番魅力のある人物になっていました。お酒好きなのも嫌悪感があったんですが、あれは伏線でもあったんでしょうかね。 罰当たりな行動に出る人や嘆き苦しみながら死んでいった人の描写が一切なかったのは意図的なんでしょうね。 最終的に誰も南極を目指さなかったのか少し疑問に感じましたが、時代的なものもあるのかもしれませんね。
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初シュート。人類滅亡もの。WW3の核使用に伴い、北半球から放射能汚染による死滅が始まる——徐々に死にゆく過程が泣かせます…こういう読後感の翻訳ものは個人的に珍しいなぁと。昨日までは何でもなかったのに、ある日突然襲われる放射能の恐怖。死が近づくにつれ、今まで表に出てこなかった人間性...
初シュート。人類滅亡もの。WW3の核使用に伴い、北半球から放射能汚染による死滅が始まる——徐々に死にゆく過程が泣かせます…こういう読後感の翻訳ものは個人的に珍しいなぁと。昨日までは何でもなかったのに、ある日突然襲われる放射能の恐怖。死が近づくにつれ、今まで表に出てこなかった人間性が顕著になり、大変興味深いです。現代に生きるすべての人が読むべき作品だ。星四つ半。
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人類存続の希望をめぐる海洋冒険小説、かと思って読み始めたら、なんか日常(ぜんぜん日常ではないのがだんだんわかるものの)パートが長いな...→完全にそっちがメインの話で好みだった。 絶対に全員死んでいる何ヶ月後かに咲く花を植える、これから伸びる枝の話をする、就職のための習い事を始める、 絶対に全員死んでいる故郷の街を見て「あの店が看板を出しっぱなしなんて珍しいな」と言って、後に船を捨ててそこまで泳いでいく、 絶対に全員死んでいる家族へのお土産を必死に探して、それから最後には家族のいる国へ帰る。 地続き、海を挟んでいるけど船に乗る人にとっては此処から続いているところに、ありありと思い浮かべられる今まで通りの街並み、家並みのままの、死者の国がある。 そういう話がずっと続いていて、極限状態の人間の醜さ!みたいのはほとんどなく、受け入れられないことが愚かだという話でもなく、 (まだ赤ん坊の娘を、苦しませることなく薬で死なせてやらなければならないのに、それを妻が考えようとしない、現実を見てない、と腹を立てる夫のシーンがあったけど、 それを現実として捉えたら残りの数十日を生きていくことができないから今は考えない、というのも毎日娘に接してる妻にとっては現実的な対処だろうなと思った)、 目減りしていく残り時間の中で、足掻くことも不可能で、やりたいことを良識の範囲でやったりなるべく穏やかでいることを考えたりして、 何の希望もなく人類は終わるんだけど、登場人物たちは奪いあったり憎みあったりしない最後を迎える、という、思ってたのと全然違う・思ってたより好きな話だった。 何十年前の小説なので、いろんな描写に今の感覚では引っかかるところが当然あるし、解説にあったように、現在の通信技術や世界情勢だとこんな「ほのぼの」した終わりは絶対無理だとも思うんだけど、それでも静かで穏やかな、終末に向き合ったり見なかったりする日々の話で、すごく意外で良かった。
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いやー名作。ドローンとかあったらもっと探索できるのにーと思ってたらこれ1957年の作品だった。 ひしひしと迫る終末、読んでて息苦しい。それでいて清いという不思議な感覚。 モイラいい子だった。みんな正しい。
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読み終わった後にしばらく落ち込んでしまった。 何年か前にこの原作と知らず映画で観たような気がすけれど、2012かエンドオブザワールドかどうかは思い出せない。 今の日常がいかに希望に溢れて幸せなのか改めて思い、家族を大切にせねばと心に密かに誓う。 物語の最後の方は読むのが辛かっ...
読み終わった後にしばらく落ち込んでしまった。 何年か前にこの原作と知らず映画で観たような気がすけれど、2012かエンドオブザワールドかどうかは思い出せない。 今の日常がいかに希望に溢れて幸せなのか改めて思い、家族を大切にせねばと心に密かに誓う。 物語の最後の方は読むのが辛かった。半年前とかはまだ本当にそうなるのかと半信半疑だったのが一週間、明日、数時間後とかなってきて、いよいよ現実逃避出来ないとわかってくる描写が読んでて辛い。家族や大切な人との間でも覚悟の意識や死期のズレもあってきつい。 でも読んで良かった。
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登場人物が少ないので誰が誰と惑わなくて済む。 ソ連が出てくることから昔に書かれたものだとはわかる。 今は核戦争の脅威が高まってるけれど、この話は核戦争のあとの話。 死ぬまでもがき苦しむ風でなく、きれいに自決するのが最後なのであっさり終わっている。 世界中がこのように自決したから全体の印象も綺麗なままになったということか
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核戦争後の地球、北半球では既に1700発にも上る核兵器とその放射能によって人類は全滅したと思われ、南半球こそ被害は少なかったものの、放射能は赤道を超えて徐々に汚染の範囲を広げてきている…。 人類滅亡前日譚という、絶望を伴った暗いテーマの小説。ずいぶん昔、多分中学生の時に抄訳を読んだ記憶があるのだが、その時はずいぶん怖いディストピア小説のイメージを持った。放射能障害の描写が「はだしのゲン」のそれを彷彿させて読むのがツラかったことを思い出していた。 だが、これは解説で鏡明も書いているのだが、大人となった今読むと、この本はそこまで暗い小説には思えず、むしろ人生の生き方のお手本を示されたような感想を抱いた。 あと数か月で自分たちは確実に死ぬ、と分かっていても、日々の仕事や暮らしをできるだけ変わらず行い、不安や焦燥を持ちつつも、その気持ちを抑え込むだけではなく、その気持ちとともに人間らしく生きていく姿勢。 この小説で描かれている登場人物たちの生き様を読んで、自分の日々を反省する。 このレビューを書いている今、まさにコロナ禍、不安や不自由はたくさんあるが、その不安や不自由に必要以上にグラグラと揺さぶられていないか? 自分ではどうしようもない現実に右往左往して、自分のできることを行わなず、コロナを言い訳にしてその怠惰を観ようとしていないのではないか? この時期に読めて良かった。こんな今でもやるべきことをやり、やりたいことを追いかけて自分はきちんと生きていきたいのだと、再認識できた。
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北半球の人類を死滅させた放射能が刻々と迫る中、恐慌や暴動とは離れた観点で、物語はゆっくりと進行する。 一縷の望みをかけて出航した原子力潜水艦、そこからどういった驚愕の展開を見せてくれるのか、これから何が待っているのかと期待していたのですが、これはかなり良い意味で裏切られました。 ...
北半球の人類を死滅させた放射能が刻々と迫る中、恐慌や暴動とは離れた観点で、物語はゆっくりと進行する。 一縷の望みをかけて出航した原子力潜水艦、そこからどういった驚愕の展開を見せてくれるのか、これから何が待っているのかと期待していたのですが、これはかなり良い意味で裏切られました。 ゆっくりと静かに終わりへ向かう、その恐ろしくもどこか清々しいような物語を、「渚にて」と表した訳者さんのセンスに脱帽です。
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