渚にて 人類最後の日 の商品レビュー
ネヴィル・シュート「渚にて 人類最後の日」読了。核戦争が勃発し放射能の脅威に晒される人類。汚染が南下する中迫る終焉に対して生き残った人々は意外なほど静的である事が印象に残った。死期が明確になる時人はどのような行動をするのかそれを著者なりの解釈で綴ったのが本作の根幹なのだと思った。
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文庫版の裏表紙に書かれている本書の紹介文は下記の通りだ。 【引用】 第三次世界大戦が勃発、放射能に覆われた北半球の諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国原潜”スコーピオン”は汚染帯を避けオーストラリアに退避してきた。ここはまだ無事だった。だが放射性物質は確実に南下している。そんななか合衆国から断片的なモールス信号が届く。生存者がいるのだろうか?一縷の望みを胸に”スコーピオン”は出航する。迫真の名作。 【引用終わり】 上記のような紹介文を読んだら、誰でも、モールス信号の謎に興味を持つというか、それがこの小説の本筋だと思ってしまうはずだ。ミステリー仕立てのSF、最後に意外な結末が待っているのではないか、と。ところが、実際に読み始めてみると、物語の展開は、ドラマチックではなく、かなりゆっくり。登場人物が多い小説ではないが、その登場人物の生活ぶりや、登場人物同士の関係性を示すエピソードを、かなりゆっくり、じっくり、ページ数を使いながら描いていくのである。私は創元SF文庫版を読んでいるが、本書は文庫本で解説まで含めると470ページを超える分厚い本だ。ドラマチックなミステリー仕立てのSF小説に、なぜ、こんなにページ数が必要なのだろうか、なぜ、こんなにストーリー展開がゆっくりなのだろうか、と疑問に思いながら読み進めた。 ところが、途中から、これはそういうミステリー仕立てのSFという種類の小説ではないということが分かってくる。副題が「人類最後の日」であるが、人類最後の日に向けて、登場人物たちが、また人間が、どのように最後の時を過ごすのかということがテーマであろうことが分かってくる。だから、一人一人の人生を詳しく描いておく必要があったのだ。それが実際に分かるのは、全体の半分くらいを読み進んでから。それまでは、ストーリー展開のゆっくりさ加減に退屈を感じていたのであるが、それに気がついてからは、一気に読んでしまう面白さであった。 この小説を読んだ人は、同じ状況が起こった時に、すなわち、自分を含めた人間全員が、数日からせいぜい数週間の間に亡くなってしまうことが分かったら、「自分ならどうするだろうか?自分ならどのように最後の時を過ごすだろうか?」と考えるはずだ。この小説の登場人物たちは、家族を中心に、自分の愛する人のために最後の時間を過ごす。私が受け取った本書のメッセージは、大事なことは人を愛すること、ということだった。
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時はただ過ぎるというのを切に感じる一冊です 読後に後悔も喜びもなく自身に落とし込むのみなのを感じます とてもすてきな一冊でした
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淡々と迎える最後の日について。あらすじではアメリカに生存者が?という部分が書かれていたので、そこがメインのものかと思いましたが、そうではなく緩やかに、しかし確かに訪れる最後の日を各人が迎える話でした。パニックに追われるのではなく、こういう終わりを迎えられるならある意味救いだなと思...
淡々と迎える最後の日について。あらすじではアメリカに生存者が?という部分が書かれていたので、そこがメインのものかと思いましたが、そうではなく緩やかに、しかし確かに訪れる最後の日を各人が迎える話でした。パニックに追われるのではなく、こういう終わりを迎えられるならある意味救いだなと思った。タワーズ艦長とモイラの関係も好きだったし、最初に私が泣かないとはどうして思ったのだろう?という言い分に胸を打たれた。 読んでいる間中、自分は誰と一緒にいたいかと考えていたけど、やっぱり家族とだし、何も変わらないように本を読んだり、お日様を浴びたいと思った。そして症状が出てから、やっぱり薬を飲むんだろうと思う。ずーんとくる、不思議な作品だった。
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核爆弾の多く使われた第三次世界大戦後の世界を舞台とする、とても静かで穏やかな小説でした。人間の世界の終わりを前にした人々の行動が描かれ、それがこの小説を単なる近未来SFではないものとしていると思います。 故郷の家族の元に帰ることを願う潜水艦の艦長、家族を支える潜水艦連絡士官と現実逃避しようとする妻、逆に徐々に現実を受け入れていく艦長のガールフレンドとレースで優勝することが夢な親戚の科学士官、自分の仕事を投げ出す人々と最後の願いを叶えようとする人々。 そうして人類が世界の終わりを迎えていく中で「世界は残っていく」という言葉が重いです。とても素晴らしいお話でした。
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核戦争後に、人類が最後の日を迎えるまでの生活を描いた話。 核戦争というワードを除けば、ただの日常を描いた小説。 しかし、そんな中にも迫る放射能と闘う人間の葛藤があって面白い。私も、最後の日がいつと分かっていてもいつもの日常が送れるだろうか…
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時折挟まれる、ゆっくりだが確実に迫ってくる滅びの描写がよい。 そして、滅亡を受け入れつつも残りの人生を精一杯生きようとする人々の様子もよく書かれていた。 そこが少し冗長に感じる部分でもあったが。
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逃れられない終末に向かう人々の強さに胸を打たれる。自分がこの状況に立ったとき、果たして同じような強さを持てるだろうかと考えさせられた。 終末の美学と言うのは軽率かもしれないけれど、この世界とこの世界に生きた人たちはただただ美しく感じた。
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世界がゆっくりと終わっていく。打開策も超展開もなく、ただ終わっていく。それだけの話なのに、なぜか心を掴まれた。映画を観ているかのように、ひとつひとつのシーンがありありと目に浮かんできた。
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まあ古典かな、という感じ。「1984年」を読んだ時と同じパターンで、同ジャンルのより新しい作品を先に読んでしまうと古典の方が物足りなく感じてしまう。展開が全体的にのんびり&平和すぎる感じがする。女性の描き方とか、戦争の原因が中ソ対立とかいうのも時代がかってるし。 特に新しい展開に結び付くわけでもない潜水艦任務の描写が全体の半分を占めているというかなりのんびりした展開。 また、ほとんどの人が最後まで普通の日常生活を送っており、さすがに最後の方では仕事を辞めたり自動車レースで死んだりという人もいるがそれも数週間前~数日前とか相当ギリギリ。露悪的なパニック描写を求めているわけではないが、皆もう少し怖がったり葛藤したりしないんだろうか…と物足りなさを感じてしまった。 まあその辺の描き方は、最後まで理性的に過ごしたいという作者の理想を反映していたんだろうな。あるいは現実に直面できない人間の愚かさというつもりで描いたのかな?
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