10万年の世界経済史(上) の商品レビュー
産業革命以前はマルサスが唱えた通りの社会で、長期的な生活水準に変化はなく、人口増加率も技術の進歩も小さかった。一方で、個人が経済的成功を収める能力や性質は高まっていたという内容。 産業革命の要因を1800年直前のイギリスにおける制度的、経済的な変化に求める試みは、ことごとく失敗...
産業革命以前はマルサスが唱えた通りの社会で、長期的な生活水準に変化はなく、人口増加率も技術の進歩も小さかった。一方で、個人が経済的成功を収める能力や性質は高まっていたという内容。 産業革命の要因を1800年直前のイギリスにおける制度的、経済的な変化に求める試みは、ことごとく失敗している。経済成長の制度的前提条件は、イギリスなどの国々では1200年までにすべて整っていた。 イギリスで産業革命が始まったのは、石炭産業や植民地、宗教改革、啓蒙運動などではなく、社会が安定し、人口の伸び率が低く、経済的成功をおさめた富裕層の子供の出生率が著しく高かったことを背景に、中産階級的な価値観の浸透が進んだため。中国や日本の社会も勤勉、忍耐、実直、合理性、好奇心、勉学などが重んじられる中産階級的な価値観の体現へ向かっていたが、上流階級の出生率がさほど高くはなかったため、子供たちが大挙して社会階層の梯子を下るような現象は起こらなかった。 1800年以前のマルサス的経済では、物質的生活水準が上昇すれば社会の出生率は増大し、死亡率は減少する。人口が増加すると物質的生活水準は下落すると仮定すると、一人当たりの所得は、長期的には出生率と死亡率が等しくなる最低生存費水準に向かう。技術水準が上昇すると短期的には所得が増大するが、それによって死亡率が下がり、出生率が上昇するため、人口が増え、所得は最低生存費水準に戻ってしまう。 技術の進歩率は、所得に占める地代の割合に人口増加率を掛けたもので計算できる。この計算式から推定した技術進歩率は、西暦1000年までが0.001~0.01%、西暦1250年~1750年までが0.02から0.045%だった。産業革命直前までの1750年間を通じた技術進歩率は、合計で24%だった。 マルサス的経済の時代にも社会の基本的な特質は変化していた。 1800年までに利子率が現在の水準に近くまで下落し、労働時間も現在の水準まで増加した。読み書きや計算能力が一般に広まり、個人間の暴力が減少した。浪費的、衝動的、暴力的で余暇が好まれた社会から、倹約や用心深さ、話し合い、勤労などが尊ばれる社会へ変化し、中産階級化が進んだ。 現在の狩猟採集・移動農耕民に関する報告では、時間選好率や個人間暴力の発生率が高く、労働量が少ないことが強調されている。新石器革命後のアメリカ大陸では、忍耐力があり、将来の消費量が増えることを期待して待つことができる人、長時間の労働を好む人、生産利益を得るための収穫高や、それに必要な生産要素の量を計算できる人が経済的成功を収めるようになった。中世以降のイングランドでは、資産を蓄えた人や技術を身につけた人、読み書きを学んだ人など、当時の経済制度の下で成功を収めるタイプの人々が世代ごとに増えていった。産業革命へつながる農耕社会の道のりの中で、人間は近代的な経済界への適用性を生物学的に高めていったと考えられる。
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イングランドをメインとして現代社会がなぜ形成されたのかを論じている ほとんどがデータの紹介で、わかりやすい結論がまとまっていないためかなり読みづらい マルサスの罠の社会(人口増加と賃金増加はどちらかしか成り立たない)が長く続いて、一人当たりの所得が増えない社会いたことはわかった...
イングランドをメインとして現代社会がなぜ形成されたのかを論じている ほとんどがデータの紹介で、わかりやすい結論がまとまっていないためかなり読みづらい マルサスの罠の社会(人口増加と賃金増加はどちらかしか成り立たない)が長く続いて、一人当たりの所得が増えない社会いたことはわかったけど、データの比較が多すぎて難しい
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説をいろいろならべて述べていて、結論がなかなか出ないのでわかりづらい。 産業革命以前のマルサス的経済の時代、産業革命はなぜイギリスで起こったか、なぜ現代の世界では国家間で経済格差があるのか、とかいろいろわかる。 銃・病原菌・鉄とかに連なる話でもある。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
・なぜ産業革命は起こったか →安定した社会と知識人が増えたことで必然的に発生したと著者は主張 ・なぜイギリス以外で産業革命が起きなかったか →上流階級の出生率が高かったから。日本や中国の上流階級は余裕があったのに出生率はそこまで高くなかった ・その他 →産業革命前後では上流階級よりも労働者層のほうが富が増えた ・マルサス経済 →産業革命以前に当てはまった経済理論 →人口は非連続で増えるが食物は線形でしか増えない →なので人口が増えすぎると貧困や疫病や戦争をもたらすと説いた ・幸福度について みんなの収入が上がっても豊かになっても幸福度は上がらない 人間は身近な人間との相対評価でしか幸福を感じられない ・その他 あくまで著者の意見ではある
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一般的な人々が抱いている経済や文明社会の歴史についての理解に一石を投じたいとの意図が作者にはあったかもしれない。 経済学に全く携わってこなかった者としてはマルサス的経済の考え方や、産業革命に至る原因の推定などの考察は面白い内容だと思った。 データや統計から読み取る内容は、経験的...
一般的な人々が抱いている経済や文明社会の歴史についての理解に一石を投じたいとの意図が作者にはあったかもしれない。 経済学に全く携わってこなかった者としてはマルサス的経済の考え方や、産業革命に至る原因の推定などの考察は面白い内容だと思った。 データや統計から読み取る内容は、経験的な勘による認識と背反するケースが多いと感じさせる内容もある。 中世〜前近代社会は意外にも社会階層の流動性が高かったのは事実だとしても、淘汰圧によって「生物的に」人々の性質が変化したという主張は、脳科学の分野では否定されている研究もあり、今後この点についての結論が出るかもしれない。
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概要: 産業革命までずっと人口の変動はマルサスの罠に支配されていた; 産業革命は優秀な社会の上位層が(長男以外が家業を継げないために)中位・下位の職につくことによって起こった 感想: 人口の推移がマルサスの罠を脱したのは、乳幼児死亡率の低下が主な原因だと思う。たくさん子供が亡くな...
概要: 産業革命までずっと人口の変動はマルサスの罠に支配されていた; 産業革命は優秀な社会の上位層が(長男以外が家業を継げないために)中位・下位の職につくことによって起こった 感想: 人口の推移がマルサスの罠を脱したのは、乳幼児死亡率の低下が主な原因だと思う。たくさん子供が亡くなるから産めるだけ産まないと、という意識から2人産めばだいたい生き残るだろうという、という意識に変わってきているのでは。
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タイトルから見て人類の経済史10万年がかなり細かく知れるのかと思い読んでみたが、この本の主旨では人類の経済は1800年までの9万9千8百年間はすべて「マルサス経済」であり、その後の200年間は「産業革命以降の経済」というザクッと2種類しかないということである。そしてこの上巻ではそ...
タイトルから見て人類の経済史10万年がかなり細かく知れるのかと思い読んでみたが、この本の主旨では人類の経済は1800年までの9万9千8百年間はすべて「マルサス経済」であり、その後の200年間は「産業革命以降の経済」というザクッと2種類しかないということである。そしてこの上巻ではその9万9千8百年間分の経済史であるマルサス経済の詳細について、歴史的なデータが充実しているイギリスや中国、日本、ローマ、エジプトなどの地域を比較しながら莫大な論考に基づいて分析を行っている。 とどのつまり、マルサス的経済とは、経済活動の生産性なり付加価値が増して富が庶民にもたらされても、それが庶民の生活水準の向上にはつながらず、人口増に反映されてやがてその増した富も人口増によって平準化され、次の富の向上のタイミングまで逓減していく経済システム(法則?)ということらしい。これが人類が経済なるものを生きていくうえでのシステムとして組み込んで以降つい最近まで起きていたことで、これが産業革命によって、人口増と富の向上(庶民の所得水準の向上)とが同時に訪れるという次元が根本的に変化することになる。この産業革命はなぜにして起こり、どうしてマルサス的経済に陥らず、人類の経済が飛翔したのかについては、下巻で大いに論じられることになるらしい。
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人口減る→食糧余る→生活水準上がる→出生率上がる→人口増える→食糧足りなくなる→死亡率上がる→人口減る (以下ループ) 産業革命までの人類はずっとこのループから抜け出せなかった。これがマルサスの罠。 過去の記録を調べてみると、戦争や飢餓や伝染病が発生しても一時的に人口が減るだ...
人口減る→食糧余る→生活水準上がる→出生率上がる→人口増える→食糧足りなくなる→死亡率上がる→人口減る (以下ループ) 産業革命までの人類はずっとこのループから抜け出せなかった。これがマルサスの罠。 過去の記録を調べてみると、戦争や飢餓や伝染病が発生しても一時的に人口が減るだけですぐ元に戻ってるっぽい。むしろ物資が余ることで暮らしは良くなってただろうという皮肉な話。 中世の頃に書かれた遺書の記録から、 「金持ちほど子や孫が多い」 「能力の無い貧乏人は生物として淘汰されてきた」 と結論づけている。そりゃそうなんだろうけど、なかなか辛い現実。
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産業革命前と後を中心とした経済状況について論じた本。 経済学史ではなく経済史で一国などではなく広範囲にわたって考察するのはめずらしい。 技術の進歩が人口増で帳消しになる「マルサスの罠」の状態が長く続いた理由。産業革命以降の所得格差の大きな拡大、大いなる分岐はなぜ起きたのかについ...
産業革命前と後を中心とした経済状況について論じた本。 経済学史ではなく経済史で一国などではなく広範囲にわたって考察するのはめずらしい。 技術の進歩が人口増で帳消しになる「マルサスの罠」の状態が長く続いた理由。産業革命以降の所得格差の大きな拡大、大いなる分岐はなぜ起きたのかについて広範囲のデータを下に考察しています。 興味深いのは当時の経済状況の上がり下がりは人口が問題、良い状態が続くと人口が増え経済状況は悪くなり、疫病などで人口が大きく減ると一人当たりの取り分が増え経済状況が良くなっていたということ。 よく物語で描かれるような一部の支配者が搾取の限りをつくし、人々の向上心をなえさせている といった世界観は大きく覆される本でした。
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下巻まで眺めたが、「大いなる分岐」がなぜ起きたのか、なぜ貧困国は豊かにならないのか、どのような条件がそろうとマルサスの罠を抜け、人口を増やしつつ一人あたりの富を増やせるのか、それでも豊かな社会では人口が減少していくのはなぜか、などについて結論がなかった。 追記: 問題提起の書...
下巻まで眺めたが、「大いなる分岐」がなぜ起きたのか、なぜ貧困国は豊かにならないのか、どのような条件がそろうとマルサスの罠を抜け、人口を増やしつつ一人あたりの富を増やせるのか、それでも豊かな社会では人口が減少していくのはなぜか、などについて結論がなかった。 追記: 問題提起の書なので、これはこれであり。 訳者の方々の苦労は、けれど確実に新しい時代を開いていると思う。 多くの人に読まれてほしい。そして、グローバル・エコノミー・ヒストリーの研究がもっと深まっていくことに期待する。 星の数を変えました。 追記2: 冒頭のグラフがこの本のすべてだが、あのグラフは意図的な間違い。あらゆる国と地域の平均をとって「人類は急激に豊かになっている」とする意図は、「だから貧しい国は自己責任だ」という主張、そしてマルサス主義の敷衍につながる。 大体原題が「援助よさらば」なのだから、推して知るべし。池田某とかが喜んで取り上げているのを見てもよく分かる。 「大分岐」という学術上の大発見を、ネオリベの主張の強化につなげるという、いつもの、経済学者の半分のろくでもない連中のたわごと。 ☆ゼロで十分。 こんな本はゴミ箱に放り込んで、ロバート・c・アレンの「なぜ豊かな国と貧しい国は生まれたのか」を読むべきだろう。
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