空ばかり見ていた の商品レビュー
彼の本にはいつも静かなBGMが流れている。 現実のような作り話のような。 不思議だけど、共感できる登場人物たちが織り成すストーリーの数々。 つながっているのか?それぞれが違う話なのか?という雰囲気で進む。 彼が見ているこの世界は、どうやら、優しさとユーモアで溢れているようだ。
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※このレビューにはネタバレを含みます
目次 ・七つの鋏 ・彼女の冬の読書 ・星はみな流れてしまった ・モンローが泊まった部屋 ・海の床屋 ・アルフレッド ・ローストチキン・ダイアリー ・ワニが泣く夜 ・水平線を集める男 ・永き水曜日の休息 ・草原の向こうの神様 ・リトル・ファンファーレ 流しの床屋・ホクトが登場することだけが共通点の連作短編集かと思ったら、最後の最後にきれいに着地してくれました。 緻密に構成された物語の順番。 それは時系列ということではなく、語られる内容が。 最初の方の話は、手を伸ばせば届きそうなくらいの身近な話。 少しずつ物理的な距離、精神的な距離、世界観の距離を感じながら、最後にひゅんと収束する。 森博嗣と吉田篤弘、そして時折小川洋子には、文章を読んでいると内容に関係なく数学を感じることがある。 計算されつくした切り取り方の美しさ。 詩って数学だよなあ。 もし若い時に『彼女の冬の読書』を読んでいたら、仕事を辞めていたかもしれない。 一年に9か月だけ働いて、冬は読書しかしない。 こころから憧れる生活スタイルだけど、年を取って知ってしまう。 日々のあれこれって、決してまとめてやっつけてしまうことはできないのだ。 「美しさが、しばしば悲しみと共にあるのはなぜか。(中略)美しさはいつまでも永遠であってほしいが、悲しみには終わりが必要になる」 それから、海外に住む親の看病のため、年末年始のひと月不在の妻の留守を守る夫の話である『ローストチキン・ダイアリー』も好き。 娘のために、アドベントカレンダー代わりに紅茶のティーバッグの中に毎日一つの仕掛けをして行った妻。 翻訳家の夫は家事のスキルが多分それほど高くはないけれど、頑張って娘に寂しい思いをさせないようにしている。 だけどクリスマスにはチキンを焼かねばならないのか…それってなぜかタコ糸が必要なんだよね…とちょっと気が重くなったころ、ヒントのような何かがティーバッグから出てくるのだ。 こういうのって、心に余裕がないと作れない。 だって、彼女のその仕掛けは、いつも夫や娘の心に必要なものを間違いのないタイミングで現れるから。 離れていても、心は繋がっているんだなあって。 妻は生きているんだけれど、父と子のちょっと不器用な毎日が、マンガ「Papa told me』を髣髴させる。
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ホクトさんを中心に回っている話、そんな感じがしました。 話の構成が面白かったです。 ビール瓶の蓋を王冠に喩えて集める話を読んで、ぼくなつを思い出しました。
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2021 #7 繋がっていないようで繋がっている 繋がっているようで繋がっていない 吉田篤弘さんの作品はいつもあとがきが無いのかな あとがきを書かない理由がありそう 気になるところで切るのも 読み手に想像させる意思を感じる 目次の言葉のチョイスがとても好き 「彼女の冬の読書」の...
2021 #7 繋がっていないようで繋がっている 繋がっているようで繋がっていない 吉田篤弘さんの作品はいつもあとがきが無いのかな あとがきを書かない理由がありそう 気になるところで切るのも 読み手に想像させる意思を感じる 目次の言葉のチョイスがとても好き 「彼女の冬の読書」の目次を見て手に取ったけど このお話が一番好きだった 読んでいて静かで優しい印象を受けた 他の作品も読んでみたいな ---メモ--- P42 彼女は稼いだお金のほとんどを、毛布と本に使ってしまう。 P43 「本さえ読めれば、あとのことはどうでもいいの」その信条を守るため、彼女は冬のあいだの三ヶ月間、まったく働かないと宣言するまでになった。今年でもう四度目か。寓話の中の賢いアリのように、春から秋までふたつのバイトを掛け持ちして蓄え、秋の終わりに好きなだけ本を買い込んで、自称「冬眠」状態にもぐりこむ。「眠るわけじゃないから、冬読というべきだけど」充ち足りた様子で本と毛布とに囲まれ、化粧っ気のない顔で思いきりあくびをしている彼女を見ていると、つくづく自分は無計画でつまらないキリギリスでしかなく、明日のことすら考えないまま怠惰な日々を送っていると急に反省したりする。 P51 フタをあけに行くたび、かならず毛布の海を漂流する本たちをひょいと眺め、頭に残ったタイトルを帰り道の古本屋の光の中で手帳になぐり書いておく。 P92 いつだったか、姉からモンローのモノクロのポートレートを使った絵葉書が送られてきたことがあった。「泣いてばかりよ」と、たったひとことだけ書かれた葉書の裏に、眉をひそめ、いまにも泣き出しそうな表情のモンローが暗闇を背にして立っていた。わたしはその返信に、天使が涙を拭いている古い銅版画があしらわれた葉書を選び、「わたしもよ」と、それだけ書いて冷たいポストに投函したのを思い出す。部屋の中でもマフラーをするくらい寒い冬のことだった。 P290 「美しさが、しばしば悲しみと共にあるのはなぜか。私はずいぶんそれを考えてきたが、またしても私は答えを出せそうにない。美しさはいつでも永遠であってほしいが、悲しみには終わりが必要になる」 P296 「何かになるのではなくて、その何かが自分の中に満ちてくるのを待てばいい」
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ホクトと呼ばれる床屋が出てくるのは共通だけど、物語の中の人物だったりもする。 「ローストチキン・ダイアリー」「永き水曜日の休息」がお気に入り。 他人視点の『不思議な床屋さん』の話より実在しそうなホクトさん視点の話のほうが好き。
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放浪の床屋、ホクトをめぐる短編集。 「つむじ風食堂の夜」が好きなので、古本屋のデニーロの親方がちょっと出てきたのは嬉しかった。月舟町シリーズよりもファンタジー色が強くて、漠然とした話が多い。でも、この懐かしくて暖かくて切ないような、独特の雰囲気は好きだ。 「切った方も切られた方...
放浪の床屋、ホクトをめぐる短編集。 「つむじ風食堂の夜」が好きなので、古本屋のデニーロの親方がちょっと出てきたのは嬉しかった。月舟町シリーズよりもファンタジー色が強くて、漠然とした話が多い。でも、この懐かしくて暖かくて切ないような、独特の雰囲気は好きだ。 「切った方も切られた方も、どこかしら気分が晴れ晴れとするように思わんですか?」 髪を切る、という行為が、何か象徴しているんだろうな。
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放浪の床屋「ホクト」をめぐる 12の連作短編集。 「いろんな人の髪を切ってみたい」と旅に出たホクト。 柔らかな時間が流れる、ちょっと不思議で ちょっと癒されるお話たち。
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旅のことを思う時、ワクワクと寂しさが同居する。 終わりがあるから旅なわけで、ずっと旅を続けるって悲しいことなんじゃないかと思う。 時にとどまり、時に放浪し、出会って別れて。 忘れて、思い出して、自分の居場所はどこなんだろう。
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エッセイのような小説、そんな感じがします。吉田篤弘ワールド。ほんわかしたムードです。好きな人は好きと思いますw。波長が合わない人もいるかも・・・。私は嫌いではないです!「空ばかり見ていた」、2006.1発行、連作短編12話。店を持たない理髪師、放浪する床屋、ホクトさん(くん)をは...
エッセイのような小説、そんな感じがします。吉田篤弘ワールド。ほんわかしたムードです。好きな人は好きと思いますw。波長が合わない人もいるかも・・・。私は嫌いではないです!「空ばかり見ていた」、2006.1発行、連作短編12話。店を持たない理髪師、放浪する床屋、ホクトさん(くん)をはじめ、さなざまな人物が登場、不思議な世界を醸し出しています。
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