顔のない裸体たち の商品レビュー
「本当の姿」をめぐる物語、かと。 平野啓一郎氏が「分人」という言葉を言い始めたのはいつだろう? →『ドーン』からだと思われる。 http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/ を参照。 ルポライターと心理学者を兼ねたような書き方は、気味が悪くてよい...
「本当の姿」をめぐる物語、かと。 平野啓一郎氏が「分人」という言葉を言い始めたのはいつだろう? →『ドーン』からだと思われる。 http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/ を参照。 ルポライターと心理学者を兼ねたような書き方は、気味が悪くてよい。 「現実の社会と接するのが、面であり、外側であるならば、モザイクのこちら側は裏であり、内側である。そうした発想で、ネットの世界は、常に簡単に内面化してしまう。」(p.13,14)
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平野さんの現代社会の現象を分析的に考察していくやり方が、ノンフィクションの文体と見事にマッチしていた。 ネットという匿名のメディアと、 出会い系という虚構の中で造られた自己イメージ。 虚構の世界で解放されるむき出しの欲望。 そのリアリティはさすが。 現代社会の中で、自分の中に、...
平野さんの現代社会の現象を分析的に考察していくやり方が、ノンフィクションの文体と見事にマッチしていた。 ネットという匿名のメディアと、 出会い系という虚構の中で造られた自己イメージ。 虚構の世界で解放されるむき出しの欲望。 そのリアリティはさすが。 現代社会の中で、自分の中に、自分以外のキャラクターが名前を与えられることによって形成されていく様子は、DAWNにも続いていくテーマ。 匿名性の中で、自分でも自覚しないうちに自分以外のキャラクターが構築されていく、しかしそれが実社会の自己と同一化してしまう恐怖は、性的な問題だけではなく、秋葉原の通り魔事件にも通じる。 官能小説みたいな露骨な表現がちりばめられ、電車で開くことには躊躇を覚える。 まぁ電車でよんだけど。
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芥川賞作家・平野啓一郎氏によるネット社会をテーマにした文学作品。特にネット人類達の秘められた性生活にスポットが当てられており、中々の意欲作である。 作家本人の公式サイトの作品解説によれば、「人格が漂流するネット空間を舞台に、顰蹙の中でしか生きられない男女の特異な性意識と暴力衝動...
芥川賞作家・平野啓一郎氏によるネット社会をテーマにした文学作品。特にネット人類達の秘められた性生活にスポットが当てられており、中々の意欲作である。 作家本人の公式サイトの作品解説によれば、「人格が漂流するネット空間を舞台に、顰蹙の中でしか生きられない男女の特異な性意識と暴力衝動に迫る衝撃作!」とある。意表を突く言葉遣いに驚かされるが、所謂「変態」「淫靡」「猥褻」等々の実存的内実を、作家なりに表現しなおしたものと捉えれば納得がいく。 物語は平凡な中学教師の「ミッキー(吉田希美子)」と、こちらも風采の上がらない公務員の「ミッチー(片原盈)」の男女2名が主人公となる。出会い系サイトを通して知り合った2人はたがが外れたように淫靡な世界へと突き進む。ネット空間というメディアのフィルターを通した、変態ストーリーを軸に展開されていくのだ。愛無き憎悪の変態プレイとでも云おうか。もっとありていに云えば、投稿雑誌、投稿サイト等に繰り広げられる露出趣味の性的プレイに嵌まり込んでいくという訳である。 表題の「顔のない裸体たち」というのは、モザイク処理で顔を消された写真を指している。デジカメの普及とともに、投稿サイト、投稿雑誌の類にはそうした「顔のない裸体たち」が氾濫するようにもなった。これもまた若手作家のラディカルな思いが篭った、意表を突いたネーミングだと云えるだろう。そしてそれがまた、現代社会の隠された相貌を抉り出すことにもつながっている。 ネット社会という匿名性の殻の中で演じられる変態プレイは、決してリアルと訣別した行為ではあり得ずにエスカレートしつつ、滑稽な現実とショートしていく。風俗を素材として取り上げながら風俗小説に終わらせない為に、作家は様々な仕掛けを施している。風俗を描写するのではなく、それを掻き毟っていこうとする意思の表れだと捉えることも可能である。 作品中には妙に分析的な作家の言葉が顔を出し、ところどころでストーリーの邪魔をしていくのだ。それはある意味の才気を噴出させているのだが、あまりスマートではなく、万人を納得させるものとは云い難い。幼稚さもあれば偏見も感じ取れる。ただし、実験的に様々なスタイルを取り入れようとしている姿勢には感嘆させられるものがある。決して読後感は良くはないのだが、稀有な読書体験であることを、実感したのだ。
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インターネットでみんなと物語を共有したいと願う男が 「嘘の世界」を相手に戦いを挑みます 出会い系サイトで知り合った女は大迷惑をこうむります しかし、彼と似たようなプロフィールの持ち主がみんなそうなるわけじゃないでしょう なぜ彼だけがそんな過激な思想を持つに到ったのか? いったい...
インターネットでみんなと物語を共有したいと願う男が 「嘘の世界」を相手に戦いを挑みます 出会い系サイトで知り合った女は大迷惑をこうむります しかし、彼と似たようなプロフィールの持ち主がみんなそうなるわけじゃないでしょう なぜ彼だけがそんな過激な思想を持つに到ったのか? いったい何が、「現実に向けて本心をさらけだせ」と命じたのか? 「決壊」の時も思ったことですが、その辺をぼかしすぎというか はっきりさせないのは、小説としてちょっとずるいと思う それだったらいっそ、男のほうのプロフィール描写なんて全部はぶいてもよかった
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アホか!!電車の中で読みづらいわっ!!(でも読んじゃう) 私は文学部の卒業なのだが、その当時ある研究室の紹介を担当した女子学生曰く、「あれはいったいなんだったのだろう?」と考える学問が、総じて文学なのだという。その紹介文は、「その中で私たちの研究室は珍しく現在進行形のものを取...
アホか!!電車の中で読みづらいわっ!!(でも読んじゃう) 私は文学部の卒業なのだが、その当時ある研究室の紹介を担当した女子学生曰く、「あれはいったいなんだったのだろう?」と考える学問が、総じて文学なのだという。その紹介文は、「その中で私たちの研究室は珍しく現在進行形のものを取り扱っています」という論旨だったのだが、なるほど文学というのは過去を振り返る性質が非常に強い学問だと思う。 だとすれば、この「顔のない裸体たち」という作品は、なかなか特異な作品なのかもしれない。この作品は、ほぼ現在進行的な事象を取り扱っていると言っていい。出会い系サイトで出会った男女が引き起こした事件を描き、文章中にはネット用語や顔文字も登場する。登場人物の造形はかなり硬文学的だが、筋立て自体はまるでゴシップ誌やワイドショーのような卑近さを感じる。性描写はちょっとやり過ぎなんじゃないかと思うほどである。こんな話は、本屋の片隅にそっと陳列されるエロ文庫レーベル以外はなかなか取り上げにくい。 それゆえ、同様の文学作品に慣れていない読者たちからは、ともすると強い反発も受けやすいだろうと思うが、文学でいまの時代に食らいついた、という意味で、私は評価したいと思う。 まあ、余談ですが、 「それは乳房以上に乳房であった。」 電車の中で噴いてもた。
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初平野啓一郎。 ネットの出会い系で知り合った男女が自らの性行為をネットで公開し、最終的に破綻をむかえるまでの顛末が寓話的につづられています。 顔のない裸体、という便利グッズを手に入れたら、結局はその顔まで真剣に欲しくなってしまったという男の、その弱さ。なんともいえません。 ...
初平野啓一郎。 ネットの出会い系で知り合った男女が自らの性行為をネットで公開し、最終的に破綻をむかえるまでの顛末が寓話的につづられています。 顔のない裸体、という便利グッズを手に入れたら、結局はその顔まで真剣に欲しくなってしまったという男の、その弱さ。なんともいえません。 いっぽうで、女の人のほうには、顔のない裸体、というのをあくまでゲームだと割りきっている節がある気がする。 平野さんの語り口は寓話的で、なんだか昔語りのようでとても面白いです。いまこの時代を語っているのにね。その突き放した語り口にものすごく小説家としての才能(←この言葉は正直使いたくないですが…)を感じました。やはりすごい人ですね。また読みます。 「服を着た女は、嘘をつく全裸である」 こわいですね。
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2009/9/8(〜p194終) 平野啓一郎氏の作品。 この方の名前は「決壊」という作品で耳にした事がある。 「決壊」はまだ読んだことがないので近々読んでみたいと思う。
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エロい。官能小説を読んでいるかのようなリアル描写。 性欲は凶暴な本能なのだ。 ただ、普通他人には見えないから生活ができるのかな〜
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〈服を着た女は、いわば嘘をつく全裸だった〉〈他者の住む日常という世界を、…裸体から守っているものこそが衣服〉。露出という通路で繋がる日常の〈平凡〉な姿と〈本当〉の姿。想像力を要求しない露悪的な語りに萎えるばかりだ。
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最近では「決壊」で話題の平野さんですが…正直、私は以前のような、海外文学の香りがする作品が好きでした。強い問題意識をもち、すばらしい論理力や分析力をもってアプローチされていると思うのですが、「あなたがそれをやってしまうんですか」という感じもします。うまくいえないけど、なんだかもっ...
最近では「決壊」で話題の平野さんですが…正直、私は以前のような、海外文学の香りがする作品が好きでした。強い問題意識をもち、すばらしい論理力や分析力をもってアプローチされていると思うのですが、「あなたがそれをやってしまうんですか」という感じもします。うまくいえないけど、なんだかもったいないです…。
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