ともしびをかかげて(下) の商品レビュー
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ローマン・ブリテン四部作を読んできて、一番面白かった。。児童文学でありながら、ご都合主義に終わらない、しっかりと人の生を描き、そこでの挫折や苦悩や葛藤を描ききるそのバランスが本当に良い。一方で、符牒が繋がるシーンは鉄板で胸が熱くなる。あの家族が笑っていた幸福そのもののような時代の言葉が蘇るとき、もう二度と戻らない時間に身を切られるような痛さもある。 「ベンタから山まではたっぷり三百二十キロはある、からな」(上、p.224) 「スモモの木の下のテラスの階段のことを覚えているかどうかきいてごらんそこでおれたちが話あったことを覚えているかどうか、たずねるのだ。オデッセウスが帰ってきた時のことをな。こういってくれーおれがおまえの口をかりて話しているようにいうのだぞ。『ごらん、肩にイルカの入墨があるじゃないか。おれは長いあいだ行方不明になってたおまえの兄きだぜ。』」(下、p.216) そうアクイラが言ったとき、 「でも、わたし、こういうかもしれなくてよ。『よそのおかた、だれでも肩に入墨をすることはできますからね。』って。わたしなら、入墨よりも、そのお鼻のかたちですぐみわけられるわよ。にいさんがどんなに長く留守にしたって。」(上、p.21) がアクイラにもフラビアの心の中にも浮かぶだろう。そうしてそのとき「じぶんではどうしてそうなったかわからないふしぎな方法で、アクイラは失ったフラビアをふたたびとりかえしたのだ」(下、p.238)ことを強く感じるだろう。人生の中で、こうして時を超えて行ったり来たりすることができるということが、温かくもあり、なんともいえない不思議な気持ちが去来する。一言「良かった」とまとめられないことこそが人生であり、澱もあり美しい光もあるのが人生であるということを感じさせてくれるように思えた。 あとぐっときたのは、ブリーハンが好きだったのですが、彼がメダカとアクイラに言った「むすこである、ってことはいったいどういうことなんだい?それにむすこをもつ、ってのはどういうことなんだい?」と答えを待たずに去っていた姿が(下、p.134)、「おれは妹をもたん。だがもしもっていたら、二十年たってもそんなに妹思いでありたいよ。」(下、p.234)といったアルトスの姿が重なる。人生には、持ちたくても伴侶を持てないことも、子どもを持てないこともあるだろうし、その他得たいと思った仕事や栄誉や、健康や人間関係など諸々諦めたことが人にはあると思う。自分が持ちたい・なりたいと思った姿を諦め、自分の心と折り合いをつけながら、それでもそれを持った友を受け入れ、責めず・許すことの人間の温かさというものを感じずにはいられなかった。 それからタイトルの回収はやっぱりぐっと、、きました、、 …「われわれはいま、夕日のまえに立っているようにわしには思われるのだ。」ちょっと間をおいてユージーニアスはいった。「そのうち夜がわれわれをおおいつくすだろう。しかしかならず朝はくる。朝はいつでも闇からあらわれる。太陽の沈むのをみた人々にとっては、そうは思われんかもしれんがね。われわれは『ともしび』をかかげる者だ。なあ友だちよ。われわれは何か燃えるものをかかげて、暗闇と風のなかに光をもたらす者なのだ。」アクイラはだまった。それから奇妙なことばをつぶやいた。「暗闇のむこうにいる人びとは、われわれのことを記憶していてくれるものでしょうかね。」…「おまえさんだの、わしだの、あの連中だのは、すっかり忘れられてしまうさ。たとえあとにくる連中がわれわれのしたことを受け継ぎ、そのなかで生き、死んでいってもな。」(下、p.235-6) 一点だけ言うのならば、私が女だからか、もう大人だからか、フラビアに対する複雑な思いはわかりきらないところもありましたが笑。(対アクイラで笑)
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ブリテンの王子アンブロシウスの部下となるアクイラ。 サクソン軍との戦いに挑むことになる。 ネスを妻とし愛の無いまま結婚生活を送る二人だが、 ネスがアクイラと離れて息子のフラビアンと共に逃げることを是とできない姿に 妹のフラビアの姿が重なったところにはっとした。 アクイラはここでやっと妹の気持ちが理解できて、彼女を許せたのではないだろうか。 ブリトン側が勝利した後、サクソン兵として戦いに出ていたフラビアの息子マルに出会うアクイラが 彼を助け、マルもまた伯父の好意を最終的には受け入れる。 託した指輪が送り返されてきた時にはほっとした。 伝言もフラビアに届けられたことだろう。 このことをアンブロシウスに告白するシーンも心に残る。 下巻の上橋菜穂子先生の『運命の本』という文章も素敵だ。 このシリーズの主人公には必ず『諦めることを受け入れる』という転換期がある。 諦めずに頑張る、というのではなく、諦めてそこを乗り越えるというところに 運命をどう受け入れ生きていくのか、人間の姿が見えてくると思う。
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最初から一貫して流れるもの。どんな時代でも大切なこと。 家族、友人、信頼出来る人、住んでるところ(家から国まで) ローズマリ サトクリフの文章、内容はとても魅力的。、 描写は簡潔だけれど、そこここに自然の草木・鳥の鳴き声も聞こえ、風さえも感じます。 登場人物にも それぞれ人...
最初から一貫して流れるもの。どんな時代でも大切なこと。 家族、友人、信頼出来る人、住んでるところ(家から国まで) ローズマリ サトクリフの文章、内容はとても魅力的。、 描写は簡潔だけれど、そこここに自然の草木・鳥の鳴き声も聞こえ、風さえも感じます。 登場人物にも それぞれ人間らしさが描かれている。 主人公 アクイラ(イルカ)、妹フラビア、妻ネス、息子フラビアン(メダカ)、 ニンニアス修道士、ブリテンの王子アンブロシウス、敵サクソン王ヘンゲストでさえも・・・。 読み始めた時に、主人公アクイラが、「第九軍団のワシ」のアクイラと同じ名前なので不思議に思っていたら、「著者のことば」で、その子孫だとわかって納得。 これまで知らなかった古代のイギリスの話は、とても面白かった。 5/10 上を読み終わったので急いで予約 5/12 借りる。5/19 読み始める。6/28 読み終わる。 内容 : 山中にたてこもるブリテンの王子アンブロシウスのもとに集い、来るべき闘いにそなえるアクイラたち。 勢いを増す「海のオオカミ」ことサクソン軍との死闘の末、アクイラは何を手に入れたのか。 著者 : ローズマリ サトクリフ 1920〜92年。イギリスの児童文学作家・小説家。「ともしびをかかげて」で1959年カーネギー賞受賞。 他の著書に「第九軍団のワシ」「銀の枝」など。
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上・下巻あわせた感想。ローマン・ブリテン4部作の3作目。 2~5世紀、ブリテン島の南部・中部はローマ帝国の属州だった。衰退したローマ帝国が撤退した後のブリテン島が舞台。複雑な立場に置かれながら、誓いを守るために命の限り生き続けようとするアクイラ。 5世紀に生きたアクイラが、妹...
上・下巻あわせた感想。ローマン・ブリテン4部作の3作目。 2~5世紀、ブリテン島の南部・中部はローマ帝国の属州だった。衰退したローマ帝国が撤退した後のブリテン島が舞台。複雑な立場に置かれながら、誓いを守るために命の限り生き続けようとするアクイラ。 5世紀に生きたアクイラが、妹を思ってとった行動のために命をかけようとしている。現代においては、肉親を命をかけてまでは守る気のない人が結構いる。命をかけて生きることを忘れると、命を長らえることにしがみつくのだろうか… 誇りを持って生きること、命をかけて生きることの潔さを、5世紀に生きた主人公から学んだ。
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奴隷から解き放たれ、ブリテン復興を目指す軍に身を投じたアクイラの長い人生を描くこの巻では、妻となる女性との出会いとすれ違い、息子の誕生など様々な人生のイベントを迎えながら、サクソン軍との死闘を繰り広げる。中でも妻以上の愛を傾ける妹フラビアの血を引く者との出会いには驚かされ、そこか...
奴隷から解き放たれ、ブリテン復興を目指す軍に身を投じたアクイラの長い人生を描くこの巻では、妻となる女性との出会いとすれ違い、息子の誕生など様々な人生のイベントを迎えながら、サクソン軍との死闘を繰り広げる。中でも妻以上の愛を傾ける妹フラビアの血を引く者との出会いには驚かされ、そこから向かう結末に安堵した。全4部作の3部目だそうで、機会があったら他の作品も読みたい。
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奴隷としての使役から逃れ、軍人として仕えるべき人を見出したアクイラ。物語は佳境へと進みます。 この話は速読しちゃだめです。 児童文学とはいえ、古い訳だし、人称、代名詞が文脈の中で多少とらえづらいと感じるところもあるし(ノリはないし)で、ホントじっくり読まざるを得ませぬ。 しかし...
奴隷としての使役から逃れ、軍人として仕えるべき人を見出したアクイラ。物語は佳境へと進みます。 この話は速読しちゃだめです。 児童文学とはいえ、古い訳だし、人称、代名詞が文脈の中で多少とらえづらいと感じるところもあるし(ノリはないし)で、ホントじっくり読まざるを得ませぬ。 しかし、それゆえ気づく情景描写の妙! これを味わってしまうと、ストーリーテリング中心のラノベがかなり物足りなくなってしまうかも! また、なんと解説が上橋菜穂子。 そこで彼女が語るのを読むと『守り人』が面白かったわけについて、すとんと腑に落ちるものがあり。 息子たちが「パーシー・ジャクソン」シリーズにはまっており、そちらをぱらぱらとめくったものの、あまり食指は動かないもんな。
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最後は一気に別れと戦いが進む。主人公と子供との葛藤、さらには、敵の妻になった妹の子供との出会い。様々な試練に心が灰色になるようなところも耐えていきていく主人公に感銘を受ける。
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風景描写がすごいんです 上橋さんの言葉を借りると 北国のうす青い空にチドリが鳴く声を聞き、 夕暮れには蜜色の光が 漆喰のはがれかけた壁に たゆたうのを見るだろう …という感じです 見えました それは、戦いの場面にも劇的に描写されていて …でも、美化しちゃいけないよーと ツッコ...
風景描写がすごいんです 上橋さんの言葉を借りると 北国のうす青い空にチドリが鳴く声を聞き、 夕暮れには蜜色の光が 漆喰のはがれかけた壁に たゆたうのを見るだろう …という感じです 見えました それは、戦いの場面にも劇的に描写されていて …でも、美化しちゃいけないよーと ツッコミを入れたくなってしまいました(ーー;) フラビアが出てくるシーンは少ないのだけど 印象がずっと続く感じです 美しい過去と一緒に ネスの意志が強そうなところに好感が持てました
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上巻に比べると波瀾万丈な展開は幾分か減りましたが、主人公アクイラがいろんな事柄に悩み、葛藤する姿が見られ、その点において非常に興味深く読むことが出来ました。 特に、ボーティマーが殺害され、彼に従っていた氏族がアンブロシウスの元を離れて行くときの、彼らと同じ氏族出身である妻ネスとの会話の場面。政略結婚に似たドライな二人の関係が、この場面で大分印象が変わったのと同時に、サクソン人に奪われた妹フラビアがネスと重なり、いろんな思いが渦巻くこの複雑な場面が最も印象的。 そして、フラビアの息子マルとの邂逅と解放、そのことをアンブロシウスに告白する際の息子フラビアンの行動なども強く記憶に残っています。 本シリーズの第1作目「第九軍団のワシ」も、ローマ人とブリテン人のコンビという複雑な関係はありましたが、本作はそれ以上に複雑な人間相関があり、単純なブリテン人vsサクソン人の戦争、というお話で終わっていないところがすばらしいと思います。児童文学にカテゴライズされていますが、自身が家族を持つ年代の人が読んでも格別な感銘を受ける作品なのではないでしょうか。
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何度目かの再読。暗黒時代のはじまりに、闇の中でともしびをかかげてブリテンを守ろうとあがく人々の物語。時を渡るイルカの指輪のクロニクルでもあり、サトクリフ版アーサー王クロニクルでもある。 この本の後に続く「夜明けの風」を読み終えた時、「ともしびをかかげて」から「落日の剣」、そして「夜明けの風」へとつながるタイトルが、ブリテンの暗黒時代とそこからの復興を象徴することに気付いて心が震えた。(原題でThe Lantern Bearers・Sword at Sunset・Dawn Wind)これだけの時間の流れを魔法のように再現してくれるサトクリフに感謝。 ローマ帝国の地方軍団十人隊長アクイラの人生を主軸に、各民族の合従連衡の歴史を描いているが、アクイラの人生は(多分その時代の多くのブリトン人と同様に)非常に辛いものとなっている。これが児童文学であるとは信じがたいくらい。 (しかし「訳者のことば」によると「すぐれたイギリスの児童文学作品に与えられるカーネギー賞の選考委員会は、毎年のようにサトクリフの作品に注目していましたが」と書いてあるので児童文学で間違いない。) 父と子の心の壁についてはもしかしたら何か感じるものがあるかもしれないが、フラビアとネスの心情を理解するのは子どもには難しいだろうと思う。大人になっている私ですら完全に理解できてはいない。 しかし理解できないから読む意味がないわけではなく、ある日シナプスがつながって意味が分かる日のために、子ども達にはじゃんじゃんサトクリフを読んでもらいたいものだと思う。 最初に読んだ時はハードカバーだったが、今回は岩波少年文庫版。下巻末尾にある著者のことば、訳者(猪熊葉子さん)のことば、上橋菜穂子さんによる解説の全部で涙腺がゆるんだ。本当に、こんなに力強い物語を読むことができて幸せ。岩波書店さんありがとう。
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