光の指で触れよ の商品レビュー
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光の指で触れよ 「すばらしい新世界」の続編となる物語で、読売新聞に連載されたものです。 主人公の林太郎は風力発電機を設計するエンジニア。「すばらしい新世界」での、”ヒマラヤの奥地の村に自ら設計した小型の風力発電機を持って設置に行ったが、土地の精霊に気に入られて帰れなくなった所を息子の森介に助けに来てもらう”という物語がこの続編の下敷きになっています。 林太郎とアユミさん、息子の森介にまだ幼い娘のキノコ、この強い絆で結ばれていて順風満帆だった家族は、林太郎と同僚の美緒との恋がきっかけとなって、ばらばらになっていきます。この物語の主題はこの家族の再生。副題として、エネルギー問題、家族のあり方とコミュニティ、持続可能な暮らし、恋愛といったところでしょうか。 500ページ以上と長編である割に、簡単に読めてしまうのは新聞連載を意識した成果と思いますが、物語的に結構行き当たりばったりで結末も予定調和的なのは新聞連載の副作用かと思います。 物語はさておき、竹蔵の昔から興味を持っている風力発電に加えて、ヨーロッパのコミュニティ、自給自足とパーマカルチャーと興味をそそられる考え方が多く含まれていました。池澤氏とはエンジニア的な思考や世代など竹蔵と依って立つものが同じ部分があるので、考え方が近いのかなあ?と思っています。早速少しお勉強してみようと思います。 竹蔵にも、林太郎のように人生の後半をデザインし直す時期が来ているのかもしれません。 竹蔵
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もし人生で3冊の本をと言われたら、迷わず選ぶ一冊。家庭のある人との恋、コミュニティ、パーマカルチャー、シュタイナー教育。何度でも、読み返したい。
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家族とはなんだろうか。 夫、林太郎の浮気に娘のキノコと日本を飛び出したアユミは、とりあえず知人の家に落ち着くが、コミュニティの存在を知り、そこで、生活し、考える。 そこは、みんなが「心の目標」を探しながら共同生活をおくっていた。アユミはそこで、いろいろな物を知り、吸収して...
家族とはなんだろうか。 夫、林太郎の浮気に娘のキノコと日本を飛び出したアユミは、とりあえず知人の家に落ち着くが、コミュニティの存在を知り、そこで、生活し、考える。 そこは、みんなが「心の目標」を探しながら共同生活をおくっていた。アユミはそこで、いろいろな物を知り、吸収していく。 もう一人の子供、森介は寮のある高校にいて、家にはいなかったが、父にも会い、母にも会いに行って、結果としてみんなをつなげていく。 林太郎は、このことがきっかけで様々な出会いを経験し、会社をやめることを決意する。 コミューン、エコロジー、シュタイナー、氣、…など、70年代に「これからの世界」を模索する中で、現れてきたコトやモノが違う形で整理されて戻ってきたような印象がある。 家族とは何か、という問いは、これから、私たちはどういう生活を望んでいるのか、それをどう実現していくのか、という問いかけにつながっていく。 それは悪いものではない。
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久しぶりの池澤作品。読み始めてからこれには前作というべきものがあるらしいと知ったが、本作は本作で独立して読める。夫婦と2人の子供からなる理想的に思えた家庭が、ある事情からばらばらになり、夫と妻はそれぞれに自らの人生の後半を考える。夫の恋愛を知った妻が幼い娘を連れて家を出て(息子は...
久しぶりの池澤作品。読み始めてからこれには前作というべきものがあるらしいと知ったが、本作は本作で独立して読める。夫婦と2人の子供からなる理想的に思えた家庭が、ある事情からばらばらになり、夫と妻はそれぞれに自らの人生の後半を考える。夫の恋愛を知った妻が幼い娘を連れて家を出て(息子はすでに高校生であり自らの意思で寮生活をしている)連絡を絶つ、というのはそれほどおかしいことか、とか、息子とそのガールフレンド共にリアリティがあまりない気がするとか、妻の気持ちの動き方とか、違和感を感じる部分はいくつかあるものの、物語としてはなかなかおもしろかった。特に、金銭をできるだけ介在させず、家族より緩く束ねられた共同生活の場所としてのヨーロッパのコミュニティの描写が興味深かった。日本でも同じようなことを目指す人々はいるんだろうけど、確立されているわけではない(と思う。)本作が書かれたのは震災前だけど、まさに今の日本での生活の在り方の一つを提起しているようにも感じた。
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図書館で拝借 池澤夏樹さんの著作が好きで読み進めている。 彼の、自然、人物のこころに対する描写と、何年後かの世界を切り取ったかのような世界観が好きだ。 『素晴らしき新世界』の続編である本作は、夫、妻、息子、娘の4人の家族がいったんばらばらになるところから始まる。夫は妻と別の女と恋に落ち、妻は出て行く。夫の恋愛事件をきっかけに、妻は自分の人生を、ヨーロッパのコミューンで見つめ直す。夫は岩手の山の中やヒマラヤの奥地で、見つめ直す。そして、農業(業、というかパーマカルチャー的な農)をするところで再び落ち着く、という流れ。 いまの自分にタイムリーな内容だったので、印象に残る読書となった。 カバー写真は、盲目のカメラマン ユジェン・バフチャルが撮った、草原で走り回る少女の印象的な写真。
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池澤夏樹「光の指で触れよ」読んだ、すばらしい!http://tinyurl.com/3nuflej 家族/生活のありかた、社会生活、教育、経済活動の多様性と日本のこれからについて池澤夏樹が思想を提示する。多様性や差異をそのまま受けとめるには、社会も本人も成熟して強くないと(つづく...
池澤夏樹「光の指で触れよ」読んだ、すばらしい!http://tinyurl.com/3nuflej 家族/生活のありかた、社会生活、教育、経済活動の多様性と日本のこれからについて池澤夏樹が思想を提示する。多様性や差異をそのまま受けとめるには、社会も本人も成熟して強くないと(つづく 自分を肯定するにも確信するにも強さと柔軟さが必要だし。アユミは前に進み続け、林太郎は停滞する。明日子は「絶対の何か」を探求する。最後のアユミの心の変容とだめ押しの夢の部分に泣いてしまった。ど、動揺して…笑。嵐のエピソードにニックホーンビィのHow to be goodを思い出す。 アユミが接触するスピリチュアルな世界に拒絶反応を示す人は多いかも。わたしもそのもの自体はあまり好きではないけど、ここではあくまでも池澤夏樹の思想を説明するためのツールとして読んだ。池澤夏樹が震災以降無言なのは、彼が昔からもう充分に提示し続けてきているからなんだな。(おわり
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カバー写真に惹かれて手に取った。 4人家族を中心に、個々の立場から浮かび上がった問題の核心に迫る展開。心の内は、もちろん家族一人ひとりのフィルターを通るから共感出来ない所があってもおかしくないのに、『あ、分かる気がする。』などと思ったりする。 『子は、かすがいではない?』 『そうよ。子供のために親の心を枉(ま)げてはいけないの』 上記は、作中に出てくる夫婦の会話。 ワタシには子供はいないし結婚もしたコトがない(笑)けど、同感だと印象に残ったシーン。 つながり・絆・家族・自然との対話・生きるということ。近頃何かと語られるコトの多いテーマだけれど、自分がいかに見過ごしてきたかってのを気付かされチョット身震い。(^^;) ちなみに初刊は2008年だが、2005年~2006年に新聞紙面にて連載された小説なんだそうだ。 カバー写真、解説によると全盲の方が撮影されたとか。。。うーっ、また身震い。(*^^*)
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2011.9.12〜9.25 すばらしき新世界の続編。たまたま図書館で手に取っただけなのだが、とても今の私に意味のある本だった。
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「すばらしい新世界」の続編だった。 結婚生活と家族のありかた、教育、社会生活/共同体、経済活動と自給自足など多方面での多様性について、日本社会との対比で語られる。 多様性をそのまま受け止めること(受け容れるとは別、受け容れてもいいけど)ができるためには、社会も個人も成熟して強く...
「すばらしい新世界」の続編だった。 結婚生活と家族のありかた、教育、社会生活/共同体、経済活動と自給自足など多方面での多様性について、日本社会との対比で語られる。 多様性をそのまま受け止めること(受け容れるとは別、受け容れてもいいけど)ができるためには、社会も個人も成熟して強くないと。そして自分を肯定するにも強さが必要。 アユミが接触するスピリチュアルな部分は、あくまでも多様性を提示し池澤夏樹の思想を説明するためのツールとして読んだ。レイキとか瞑想とか信仰/精神的つながりによるコミュニティとか、この部分に拒絶反応を示す人もいるだろうな。 アユミは前に進みつづけ、林太郎は停滞する。明日子は「絶対のなにか」を探求する。 最後のアユミの心の変容とだめ押しの夢の部分に泣いてしまった。 嵐の中で家族のつながりに思いを至らせるエピソードはニックホーンビィのHow to be goodにもあったっけな。 林太郎の浮気の部分はショックだった。これを今読まされるとは。今はまだわたしは動揺しているけど、でもだめなものはだめだ。人は恋をする、とあって確かにそのとおりだけど、林太郎のは恋ではない。全部のトリガは美緒だし林太郎はお膳立てされた状況に乗っかっただけだ。浮気の決着さえ美緒がきっかけだし。状況に流されて家庭を壊して始末も自分でつけられない。人は恋をするとか男と女は引き合うとか恋愛事件とか、言葉はきれいでも(そしてすごくよくわかるけど)、それは浮気であり不倫であり、だめなものはだめ。 それにしても、どうしてこの本がまさに今わたしの前にやってきたのか全然わからない。 書架の前に立って新刊でもないこの本が目に入り、タイトルに惹かれて手に取り表紙写真を見て読むことを決めたジャケ買い本で、内容は一切知らなかったんだけど。 偶然の神さまってほんとにいるんだなあ、というのと、神さまはなんでも見ているんだなあ、というのと。 読んでよかった。わたしはこのまま行っていい、と、のんびり行け、と言われた気持ちになった。でもまだかなり動揺している。 表紙写真がとにかくすばらしい。写真家は全盲のユジュンバフチャル。「盲目の写真家」という語義的にすでに矛盾している事態に混乱している。
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分厚かったけど、するするするーと読めて、すごくおもしろかった。なによりも予言のような内容にびっくり。震災ではなく、大雪で一時的に停電になった地方の話なんだけど、コンビニにモノがなくなって店員が電卓でお釣りの計算してるところとかまるで同じで。これまでの消費や経済のありかたを問うよう...
分厚かったけど、するするするーと読めて、すごくおもしろかった。なによりも予言のような内容にびっくり。震災ではなく、大雪で一時的に停電になった地方の話なんだけど、コンビニにモノがなくなって店員が電卓でお釣りの計算してるところとかまるで同じで。これまでの消費や経済のありかたを問うような内容だけど、暗かったり押しつけがましかったりするところはなくて、淡々としていて、現代的で、すごく読みやすい。海外のコミュニティや農業などの話もわかりやすく、おもしろくて。スピリチュアルな部分もあるんだけど、わたしは気にならず、むしろかなり興味深かったかも。「変容のゲーム」とかおもしろかった。すべて拒否反応を起こさせないところは、池澤夏樹さんの筆致だからかなと。あと、女の人を書くのも上手かなと。それにしても、消費、については、本当に考えさせられてしまう。結局、経済をまわすための情報にあおられて、次から次へとモノをほしくなってキリがない。この本に出てくるコミュニティでの暮らしみたいに、自給自足の静かな生活をするようになればいいんだろうか? でも、じゃあ、そうしたら、文化とか芸術みたいなことってどうなるのかなーとも。本も映画も芝居も美術もファッションも、なくても生活には困らないけど。本だって、情報が入ってくるから、これも読みたいあれも読みたい本買いたいってなるわけで。順序逆になってしまったけど前作にあたる「すばらしい新世界」も読むつもり。
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